生徒会長になる女とその右腕になるかもしれない男子生徒のお話   作:バロックス(駄犬

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蓮華「伝説って?」
ミギー「ああ!!」


ミギーと蓮華と時々伝説

 弥勒蓮華。 

 誰しもが認める象頭中学一年の顔。

 委員長の中の委員長。

 我尊大不変也、弥勒思う故に弥勒也。 

 

 

 もはやそんな定型句すらも生徒だけでなく教師たちが認識し、口にしている今日この頃である。俺はとある噂を聞いた。もちろん、弥勒蓮華に関する噂だ。

 

 

 弥勒蓮華の旧友が何人かこの象頭中学に入学していたからこそ得ることが出来た情報である。

 

 

 あの超優等生、有言実行の鬼と呼ばれる弥勒蓮華の過去話など、実に興味深いものだ。

 そして同時に聞いてしまったら色んな意味で災厄が降りかかってきそうな『パンドラの箱』のような危険物であるのも確かである。

 

 

 『弥勒蓮華伝説』、蓮華の旧友からはそう言われるものがあるらしい。

 

 

 それは小学校の頃、弥勒蓮華が他校の男子生徒に喧嘩を売られ、全てを返り討ちにしたというものである。

 

 

 勢力図は弥勒蓮華1人、対して他校の生徒は30人。

 この世界って、そんな野蛮な連中居るんでしたっけ。どこのクローズですか。高橋先生、掲載する雑誌間違えてますよ、ここG´sマガジン枠です。どうかチャンピオン枠に戻ってください。

 

 1対30。その戦力は圧倒的だ。

 人間は2~3人以上の人間に囲まれた戦うよりもまず逃げろ、という言葉があるくらいだ。自分達の勢力30倍の数を相手にするなど頭がおかしくなりそうである。

 

 

 どこかの物量に物を言わせて他国を侵略する帝国と戦う300人の少数精鋭部隊の戦争映画ではあるまいし。

 

 

 何故そう言った事態に発展してしまったのか俺のような凡人には知る事は出来ないのだが。

 とにかく、こんな圧倒的な戦力差をものともしないというのが弥勒蓮華と言う女なのだろう。

 結果的に弥勒蓮華が勝利したという事実が残ったのだから。

 

 

 

『弥勒スラッシュ・降臨!!』

 

『弥勒スライス・満開!!』

 

『撃滅!弥勒疾風弾!!』

 

『弥勒!春のギロチン祭り!!』

 

『56億7千スラッガー!!』

 

 

 なんかそんな意味不明な弥勒節100%の必殺技を口にしながら迫りくる小学生男子をちぎっては投げ、ちぎっては投げる弥勒蓮華の姿が容易に浮かんだ。

 やっぱり、というかあの女が負けるイメージがまるで沸いてこないのはこの先どんな苦境にさらされても弥勒蓮華ならなんなく乗り切ってしまうのだろう、という謎の信頼感が生まれているからか。

 

 

 もし、人類が破滅の危機に晒されても。

 四国市民99%が諦めていても、1%の蓮華だけは諦めない。

 そして最後には当然の如く、難局を覆してしまう。

 

 

 どうしてそんなことが出来るのか、と周りから尋ねられても蓮華の答えはきっと変わらないだろう。

 

 

 

『それは弥勒だからよ、これからは人類の希望は弥勒になるわ。

 希望を見失った時は、弥勒の事を思い出しなさい……この弥勒こそが、人類最後の希望よ』

 

 

 そんなウィザードみたいな事を平気で言いそうで。

 記者会見の場で自信満々にそう答える蓮華の姿が容易に想像出来てしまうくらいに俺はあいつの洗脳を受けつつあるかもしれない。

 

 

 人々の絶望から生まれるファントムを根絶する指輪の魔法使い、ウィザード。ウィザード弥勒。朝9時の新番組だな、キラメンジャーとゼロワンの枠をまるまる一時間奪い取る事になるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 俺にとってはいつもの放課後。

 いつかだったか交換した蓮華のアドレスに後悔を抱いていたのは最初の一週間だけで、今は普通にこうして簡単に連絡を取り合える仲である。

 一度蓮華からの呼び出しをすっぽかしそうになった俺を校門で待ち伏せしていたのも懐かしい。

 

 

 予定をすっぽかす前提で校門前に立っていたのだから中々鳥肌ものだ。 

 弥勒蓮華からは逃げるのは至難の業である。俺はこの時学んだ。

 

 

 

 そして目の前では蓮華が購買で入手したドーナツを口にしている光景があった。

 

 

 

「はむ……はむ」

 

 

 教室に俺と蓮華が二人。

 例の如く、人気というのは感じなかった。ここが閉鎖空間なのか、そうでないのか。

 超常の力が働いてるかのように二人を邪魔する者は誰もいない。

 

 

 午前中にウィザード弥勒を思い浮かべただけに、今蓮華が食しているのもドーナツ。こんな奇妙な偶然があるのだろうか。

 もちろん、ドーナツの味もプレーンシュガー。 

 

 

「フフッ、ドーナツを食する弥勒に見惚れているわ。これで指輪があれば弥勒もまさしく指輪の魔法使いと呼ばれているところだけど」

 

「自分に見惚れてるというセリフに疑問形すらなく断言しちゃう女、俺初めて見た。え、しかもなに。お前魔法使える前提なの?」

 

「弥勒の魔法は主に気絶技よ。打突と締め技に分かれるわね、弥勒にとって常識よ」

 

「マジカル=物理を同義にするな。常識とは一体……」

 

「弥勒を世間一般の常識で推し量らない方がいいわね。

 常識とは誰かが言い始めた訳の分からないルールであり、誰しもが最初に口にした常識らしき言葉が新しい常識となる可能性だってある。

 

 つまりミギー?あなたのような人でも世界の新たな常識を作り出す権利があるという事よ、分かる?」

 

「わ か ら ん」

 

「フフッ、いいわね。最初から諦めてるなんて……素敵じゃない」

 

 

 何が素敵なんだ。素敵とは一体なんだ。

 できればお前のさぞ博識な弥勒脳を用いて、この場で俺に分かりやすく説明してもらいたいところである。

 

 

 さて今日のテーマは『伝説』だ。話を戻すことにしよう。

 

 

 

 伝説とは超常的な存在である。

 故に、特に学力からっきしで体力にしか然程自身がない俺にとってその手の伝説の話題は理解に及ばない部分がある。

 

 

 一角獣の馬ユニコーンとか、世界樹ユグドラシルとか、主神オーディンとか。

 日本神話で言うなら太陽神アマテラスとかスサノオとか。

 

 古今東西、中二心をくすぐられるようなワードなど直ぐに浮かんできそうなのに、この女……弥勒蓮華と言う女は。

 

 

 

「ウルガモスって固定シンボルキャラのくせに伝説扱いじゃないのは不遇ってことなのかしら」

 

「いや、え、お前、〝伝説〟ってお前、伝説ポケモンの方かよ!」

 

 

 剃刀シュート並みに急激な変化をつけたポケモンの話題であった。

 

 

「いけない?」

 

「いや、別にいいけど!どちらかというと俺がまだ話せるジャンルの内容だけど!

 明らかに暴投した球がスカイフォーク張りの変化つけて俺のストライクゾーンに入って来たけど!!」

 

「フッ、弥勒を侮ることなかれ。ミギーの好みを想定して、話題に出したまでのことよ」

 

 

 あれ?俺お前に好みの話したっけ。

 

 

「フフッ、弥勒の心眼侮ることなかれ。弥勒の心眼にかかれば、人の心を見透かすなど容易……ミギーもまだまだ心眼が足りないわ」

 

 

 黒髪を掻き上げる蓮華は自身に溢れた笑みでそう言っていた。本格的にエスパーになり始めた。

 しかし俺の好みを把握していた、つまり向こう側から、弥勒蓮華のほうから話題を合わせに来てくれたという事なのだろうか。

 

 

 相も変わらず不敵な笑みを浮かべる蓮華に俺はようし、と思った。

 この手の話を振ってくる相手は大抵にわか仕込みの浅はかな知識だ。

 

「蓮華、ポケモンクイズだ。お互いに問題を出し合って、正解数が多いほうが勝者だ」

 

「フッ、よくってよ」

 

 

 試してやろう。初代からやり込んだ俺の知識量でお前の化けの皮を剥いでやるぜ。

 

 

 

 

 

 

 数分後。

 

 

 

「マボロシ島で入手できる限定の木の実の名前は?」

 

「ぅ、ぅう……」

 

「ギャラドスの特性は『いかく』、では夢特性は?」

 

「ぁ、ぁう……」

 

「フーディンの知能指数は?」

 

「ん、ひぃ……」

 

「ジョウト地方のアサギの灯台にいるデンリュウの名前は?」

 

「おっ、おっ……」

 

 

 先ほどの余裕した顔から一変、苦悶の表情を浮かべて絞り出す言葉が見つからない。

 額に汗を垂らし、恐ろしい相手に喧嘩を売ってしまったという後悔だけが加速していく。

  

 

 

 あぁ、なんてザマだ。

 化けの皮なんて僅か数秒で剥がされ、そこから永遠と等しいくらいに続くこの地獄すら生ぬるい仕打ちに必死に涙目を浮かべて耐えようとする姿には滑稽さすら感じてくる。 

 

「わたくしのまけ、です。だから許してください――――」

 

 

 遂に負けを認めやがった。

 プライドなどズタズタだ。

 くくく、もう好きにしろと言わんばかりに机に額を擦りつけるその姿には愛嬌すら感じるぞ。

 

 

「―――――蓮華さん」

 

「フフッ、弥勒全問正解。ミギー50問中、35問不正解。 その程度の知識量で弥勒に喧嘩を売るなんて56億7千年早いわッ」

 

 

 それは俺の歴史的な大敗北だった。

 

 

 俺は自身のやり込み具合を過信していた。

 俺は初代からルビー、サファイアで燃え尽いて金銀リメイクで再燃して、そこから先に進まなかったクチだったのを思い出した。クソ雑魚ナメクジなのだ。

 

 はっきり言って、メガシンカとかゼットワザとかそこらへんも無知である。

 

 

 対して、蓮華は全てのシリーズにおいてやり込んでいた。

 ダメージ計算、努力値設定、稼ぎ方から振り分けまで、普通にポケモンをプレイしている奴らからしたら絶対にやらないであろう図鑑の説明文すらも一言一句完全記憶していた。

 

 

 そんなやり込みレベルEXの蓮華にレベル30程度の中堅トレーナーの俺が知識量で叶うはずもなかった。約束された敗北だった。

 

 

 

「なんでお前そこまでやり込んでるの……その知識量はマジでポケモン廃人だぞ」

 

「フフッ、弥勒に手加減はないわ。それにしても、まさか最新のダイマックスすらも理解していなかったのは驚いたけども。

 ところでミギーはまだシリーズでデータを残していたりするのかしら?」

 

「ま、まぁ金銀リメイクあたりならまだデータは残ってたかな……」

 

「そう?なら、今度はシリーズ物でポケモンバトルしましょう。この弥勒と。

 伝説無しのフルバトルよ。弥勒の色違い6V軍団がお相手するわ」

 

  

 

 

 なにこの自信たっぷりな感じ。どんだけ俺の心折に来てるの。

 「弥勒6V」いや、「弥6V」、それは「まんだのりゅうせいぐんはつよい」とか、「まんだはしょてりゅうまいや」並みの格言を上回る。相手は死ぬ。

 

 

「く、来るなら来やがれ!俺の両刀ドンカラス(ふいうち未取得)で一匹残らず撃退してやる!!」

 

 

 なお、対戦時は蓮華の初手「てんのめぐみキッス」のエアスラ地獄によって無事にボッコボコに6タテされたのは別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、一つ聞いてもいいか?」

 

「よくってよ」

 

「〝弥勒伝説〟って本当なのか?」

 

 

 残り時間、30分が迫ってきた時に発した俺の言葉に蓮華のドーナツを手に取る動きが止まった。

 人の言葉に対して、己動きを止めることが滅多にない蓮華が初めて見せた行動の停止だった。

 蓮華はドーナツを取ろうとした手を引っ込めて、

 

 

「どこからどこまでがそういう話になっているのか分からないけど」

 

 

 腕を組んだ蓮華は一言。

 

「本当よ。弥勒の知る情報と、ミギーたちの間に広まる情報に誤差がないのであれば。

 

 『他校の生徒が喧嘩を吹っかけてきて、弥勒は戦い、終われば30人くらいの男が地面にへばりついていた』……それが事実ね」

 

 

 おお、こわ。

 というか、なんでいきなり他校のしかもそんな団体様に狙われるようなことになったのか気になるところではある。

 

 

「弥勒のクラスメイトが他校の生徒に虐められてたって、言えば分かるかしら」

 

 

 虐められていた女友達が居た。

 それだけで、なんとなく想像は出来る。

 神樹様を信仰する清い心を持つ人間は徐々に増えつつあるのがこの現代、神世紀70年代における特徴だが、それでも子供であれば無邪気に悪行を働く者たちはいるのだ。

 

 

 悪事に大あれ、小あれ弥勒蓮華はそういった分別を超えて悪を成敗する正義感をその頃から持っていたとしたら。大事な友の名誉を守る為に、蓮華は行動を起こせる少女だとしたら。

 

 

 

 要はこういう事だろう。

 他校から虐められていた友達を『万人の為に』を掲げる蓮華が動かないはずもなく、救い、その他校の生徒から大多数の報復を食らうことになったのだと。

 そしてそれを打倒したが故に生まれた『弥勒伝説』、成り行きはそんな感じか。

 

 

「80点。ミギーにしてはなかなかな考察力ね」

 

「違うのか?何が足りない」

 

 

 残りの20点、それをいつものようにフフッと笑う蓮華に俺は違和感を覚える。

 今教えられた手掛かりではこの答えこそがベストだと思ったのだが。

 

「ミギー、ワンピースでも言っていたように、〝確かめたのならば伝説じゃない〟わ。

 誰かがそれを確かに目で見たのかしら。弥勒蓮華が男子生徒を木っ端みじんにぶっ飛ばしていたという光景を誰かが見ていたのかしら?

 

 誰かが見ていなくて、不確かで不透明なまま伝わった逸話、それが伝説と言うものよ」

 

 

 それは、歴史や創作物にもよく見られるものだ。

 作家が織田信長などの有名な歴史上の人物について本を書く時、その時代に行って、調べて本を書いたわけではない。

 

 

 とある文献から、信憑性に差がある無数の情報をいくつも重ね、そこから考察し、その人物が一体どんな人物だったかを想像するのだ。

 

 

 人々から『信長は魔王のような人』と後世に伝えられていたのが一般的である。

 しかし、本来の信長がそのような人物だったかは定かではない。

 

 

 

 

 伝説など、伝承、逸話には必ず存在するのだ。

 『語り継がれているイメージと実際の人物像には大きな乖離がある』というものは。

 

 

 つまり蓮華の言う残り20点とは、周囲の弥勒伝説と実際の弥勒伝説に少しだけ差異があるという事になる。

 いくつか誇張表現が過ぎて伝わってしまっているのだろうか。噂が独り歩きをする、みたいな。大したことのない噂が尾ひれがついて広まってしまったとか。

 

 

 俺がその真実を確認しようとしたところで―――――。

 

 

「残念、時間よミギー」

 

 

 蓮華の人差し指が俺の開こうとしていた唇にあてらていた。

 くすり、と小さく笑ってその指による静止を解く。

 当然、それくらいの事で止まる俺ではなかった。食って掛かる勢いで椅子から立ち上がろうとするが――――。

 

 

「ほい、ほほいのほい」

 

「んぐっ!?」

 

 

 突如、余っていたドーナツを強引に口に突っ込まれてしまい、言葉を発することすら出来なくなった。

 なんのつもりだ、俺はただ真実を知りたいだけなのだ。窒息死など俺の望むところではない。

 

 

「フフッ、そのドーナツの食いっぷりには弥勒ですら感服するわ。

 ドナキチこと椎名法子が見たらさぞ嬉し泣きするくらいね」

 

 

 愉快な光景に見えることだろうな、そんな事を俺が思っていることなど露知らず、蓮華は続けた。

 

 

「そういえば来週からゴールデンウィークね。弥勒も休日にミギーを拘束しないわ。好きに過ごしなさい。

 

 ちなみに弥勒は色々と予定があるから会えないと思いなさい……寂しくなったら電話の一つでもしてくれていいのよ?」

 

 

「むぐっむぐぐぐぐ!!」

 

 

 誰がするか、というか何故俺の長期連休もお前に管理されることになっている?という、そんな意思表示を目と顔で行うも相手は弥勒蓮華である。こちらの意図を分かった上で悠々と立ち去ろうとしていた。

 

 だけど一度扉の前で止まって。

 

 

「じゃあねミギー、またね」

 

 

 柔和な笑みを浮かべて教室から出ていった蓮華を俺はただ見つめることしかできなかった。

 完全に人の気配すらしなくなった教室で俺だけが存在していることに嫌な孤独感を覚える。

 

 

 来週からゴールデンウィークだ。他のクラスの奴らとしこたま遊び込むし、今抱えている孤独感とは無縁なものになるだろう。

 

 

 そして蓮華と会わなくても良い、変な事に巻き込まれることもない最高の休日が始まるな、と思う一方で。

 

 

 連休中は蓮華に会えないことで、あのくだらなく、他愛もない会話をする事がない休日を過ごすのは少しばかりつまらないなと思い始めている自分が居た。 

 

 




引き出し漁ってたら金銀リメイク版のカセットだけ出てきたことにより生まれた今回のお話、って言ったら信じる?
タイトルが伝説だったのにいつの間にかクイズの話になってて自分でも草を生やしてしまった。
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