君の激情に恋をして   作:考える人

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景のカムパネルラ

 舞台「銀河鉄道の夜」公演初日

 

 

 景の初舞台作品、それも主演。

 当然すぐ見に行きたかったのだが、初日のチケットは一瞬で売り切れ。

 そのため、初日の観賞は諦めていた。

 

 ところが、阿良也さんから傘のお礼だといって、景を通して初日のチケットを融通してもらえた。

 特に深く考えることもなく、阿良也さんに感謝しながら、チケットに示された席に座る。

 

 しばらく席に座っていた僕は、すごく見やすくていい席だと思いつつ、何かがおかしいことに気づき始める。

 

 周りから聞こえてくるのは、おそらく舞台やドラマの専門的な言葉かなにか。

 座っている人物はどこかで見たことあるような顔ばかりで、監督と呼ばれている人物もいる。

 

 僕はもう一度、阿良也さんからもらったチケットを見直す。

 

 ……これ、もしかして関係者席のチケットでは?

 

 え、一般人の僕が座っても問題ないのかな?

 周りにはオーラのすごい人ばかりで、僕の場違い感がすごい。

 

 ちょっと調べてみよう。

 舞台、関係者席……

 

 スマホで検索をかけていると、空いていた右隣の席に誰かが座る。

 関係者席(ここ)に座るってことは、この人も有名な人なのだろうか?

 顔を上げ確認しようとしたところ、ちょうど隣の人もこっちを見ていたようで、お互い意図せず顔を見合わせる。

 

「!?」

 

 相手の顔を見て、思わず立ち上がりそうになったのをなんとか抑える。

 

「わあ、すごい偶然」

 

 僕とは対照的に、相手は落ち着いた様子で笑顔を顔に貼り付ける。

 

「こんにちは、光君」

 

「……こんにちは、百城さん」

 

 ほんとにすごい偶然だよ。

 こんなことある?

 たまたま関係者席のチケット渡されて、たまたま百城さんの隣になるなんて。

 

「あら、友達?」

 

「うん、役作りを手伝ってもらったこともあるの」

 

 役作りなんて手伝ったことあったっけ?

 いやそれより、百城さんに声をかけた人物だ。

 その人物は、ドラマにあまり詳しくない僕でもすぐにわかった。

 

 星アリサ――

 かつて天才女優と呼ばれた超がつくほどの有名人。

 現在は百城さんも所属する芸能事務所『スターズ』の社長で、景のオーディションの時にも見かけた。

 あの時は遠くから見ただけだったが、そのアリサさんが今はすぐそこにいる。

 

「どこかの事務所に所属してるのかしら?あなたの顔に見覚えがあるわ」

 

「いえ、所属していませんけど……」

 

「そう、なら勘違いね」

 

 その言葉を最後に、アリサさんは僕への興味をなくす。

 年の功でもあるのだろうか?

 話すだけで緊張してしまう。

 

「光君はやっぱり夜凪さん目当て?」

 

「うん」

 

「私が舞台に立つことになっても、見に来てくれる?」

 

「……うん」

 

 もしかして――いや、もしかしなくても百城さんって、景のこと相当意識してるんじゃないだろうか。

 以前にも景と比べるような発言をしてたし。

 まだ新人のレッテルがつくにもかかわらず、若手トップ女優に意識されるなんて、景の役者としての実力は相当なんだなと感心する。

 

「千世子、アキラみたいなスキャンダルはごめんよ」

 

「大丈夫だよ、アリサさん」

 

 

 ……さすがに邪推しすぎでは? 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 舞台が始まる直前、演出家である巌裕次郎が緊急入院したというニュースが流れた。

 そのことに客席がざわつくも、舞台は時間通り開始される。

 

 混乱する客席の心を、一瞬で舞台に引き戻して見せた明神阿良也の演技。

 彼以外にも、素晴らしい演技を見せる劇団天球。

 まだ序盤も序盤ではあるが、演出家不在を感じさせない演劇が行われていた。

 

 そうして、舞台は第二幕。

 阿良也演じるジョバンニは銀河鉄道へと乗り込み、夜凪演じるカムパネルラもついに登場する。

 

 待ちわびた幼馴染の出番に、光は心を躍らせる。

 隣に座る千世子も全く同じ気持ちだった。

 

 舞台上でスモークが焚かれる。

 徐々に、徐々に晴れていくその煙の中から、カムパネルラ(夜凪)が現れる。

 

 夜凪のことを知っていた者は、現れた夜凪の姿を見て一人残らず息をのむ。

 もはや人格から別人と化していることが分かるほど、その立ち振る舞いは異常なものだった。

 

 死者であることを自覚した少年(・・)の美しさ。

 笑顔の裏に、どこか孤独な寂しさを感じさせる儚げな表情。

 友と一緒に帰る、それがすでに叶わないことを少年は知っている。

 

「あはっ、素敵」

 

 夜凪の姿を見た千世子は、心からの言葉を口にする。

 

「ねえ光君、夜凪さんすごくきれ――」

 

 千世子は隣に座る光の顔を見て、話そうとしたことをすべて忘れてしまう。

 

 いつもの優しい笑みではなく、本能のままに浮かべた獰猛な笑顔。

 まるでたった今この世に生を受けたような歓喜の表情。

 その笑顔と醸し出すオーラに、千世子は恐怖すら感じさせられる。

 

 百城千世子は初めて(・・・)園山光という少年の顔を視た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 舞台は順調に進み、特に大きな問題もなく最終幕が終わる。

 カーテンコールが始まると、役者たちに送られる惜しみない称賛の拍手。

 それほどまでに素晴らしい舞台であったことの証明。

 

 

 この時、星アリサは思い出していた。

 自分の二つ左に座る少年、この少年を一体どこで見かけたのか。

 思い出したきっかけは、夜凪が舞台に登場したときに見せた少年の笑顔。

 

 かつて夜凪景が受けていたスターズの最終オーディション。

 そのオーディションの時、強く印象に残った人物が夜凪の他にもう一人いた。

 それは最終審査に残った他の三人ではなく、夜凪の付き添いで来ていたただの一般人(・・・・・・)

 

 ほんの一瞬、アリサ以外は誰も気づかないほど刹那の出来事だったが、その少年は信じられないオーラを放った。

 かつてスターズを捨てた男、王賀美陸を彷彿させるほどのオーラを。

 

 そして今日、アリサは確信した。

 この光という少年は、仮面なんてものではない。

 人工的な別人格で覆い隠すように、禍々しいオーラを秘めた人格を持ち合わせている。

 

 アリサは立ち上がり、まだ芝居の余韻に浸っている光の前に移動する。

 

「役者は幸せになれない。けれど……あなたのような子は、役者になった方が幸せなのかも知れないわね」

 

 そう言ってアリサは名刺を取り出し、光へと手渡す。

 

「えっと……?」

 

 名刺を渡された光は、いまいち状況を理解できていない。

 

「もし役者に興味があったら……もしくは、普段の日常を生きづらい(・・・・・)と感じたら、そこに書いてある番号に連絡しなさい」

 

 それだけ告げると、アリサはきびすを返し劇場を後にしようとする。

 

「アリサさんに直接スカウトされるなんて、私と一緒だね」

 

「行くわよ千世子」

 

「はーい、じゃあまたね光君。今度は全部(・・)見せてね」

 

 千世子は手を振って光に別れを告げると、そのままアリサについて劇場を後にする。

 

 

 舞台終了からそれなりに時間が経過し、ほとんどの客が帰ってしまうなか、今だ光は席から動こうとしない。

 

 アリサから渡された名刺を、手に持ってただじっと見つめていた。

 

 

 




これでもかと無茶ぶりする上司と、まったく言うこと聞かず問題ばかり起こす部下に挟まれる中間管理職キャラが好き。胃薬買ってあげたい。もっとがんばらせたい。
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