君の激情に恋をして 作:考える人
吉岡という少年と出会い、夜凪は映像研究部に入部することとなった。
当面の目的は、学祭に向けて映画を撮ること。
そうすることで、お芝居も友達もできて一石二鳥。
そんなことを考えていた夜凪だが、ある問題に直面する。
「単純にスタッフ不足なのよ、吉岡君」
そう、人不足だ。
映画を撮るためには、まるで人数が足りていない。
二人いる他の映像研究部部員にも手伝ってもらおうとしたが、すでに一度断られていた。
そのため、思うように撮影は進んでいない。
「夜凪さんは誰か手伝ってくれそうな知り合いとかいない?園山くんとか、けっこう仲良さげだけど」
「ごめんなさい、光の手助けは禁止されてて……あっ!」
黒山の言葉があったため、はなから幼馴染の協力は諦めていた夜凪だが、閃いたようにあることを思いつく。
「そうだわ、黒山さんに禁止されたのは友達作りの協力。けど映画作りの協力なら何の問題もないはずよ!」
そう言いながら、夜凪は慌ててスマホを取り出し、光に電話をかける。
しばらくのコール音の後、電話がつながった。
『どうしたの景?』
「私、学校祭に向けて映画を作ることになったの」
『へえ、そうなんだ』
「でも人が足りてないの。だから光にも手伝って欲しくて」
うん、いいよ――そう言っていつものように、笑いながら(電話越しのため顔は見えないが)光は受け入れてくれる。
それが夜凪の期待していた返事だった。
しかし、
『手伝いたいのはやまやまなんだけど、クラスの出し物のほう手伝うことになってて。だからそっちは手伝えそうにないんだ。ごめん』
「……あ、そうなの」
夜凪からすると予想外の返事に、ほんの少しの間だが受け入れることができず、返す言葉に間が空いてしまう。
「うん、わかったわ。無理言ってごめんなさい」
自分でも自覚できるほど気落ちしながら、夜凪は通話を終了する。
考えてみれば当然のことだった。
夜凪にとってこういう時、頼れるのは光だけ。
しかしこの学校で光に頼る人間はたくさんいるし、光が頼る人間もたくさんいる。
普通に友達がたくさんいる光にとって、自分はそのうちの一人でしかないのかもしれない。
そんな当たり前のことに今さら気づき、夜凪はさらに気落ちする。
「だめだったの?」
「うん……」
「じゃ、じゃあやっぱりあの二人に頼んでみよう!」
「二人って、映画部の?」
「一回断られてるけど、俺に任せて」
落ち込む夜凪を励ますように吉岡は言う。
「俺たちが本気で頼めば、少しは話を聞いてくれるかもしれない」
夜凪と吉岡は期待をもって、目的の人物がいるであろう映研の部室へと向かった。
「フツーに無理、ありえない」
あえなく一蹴される。
ソファーで寝ころぶ映研の幽霊部員『朝陽ひな』は、まるで興味がないといった様子で、夜凪と吉岡のことを見もせず雑誌を眺め続ける。
取り付く島もなかった。
「お願い朝陽さん。私達、本当に困ってるの。少しだけでいいので手伝ってくれないかしら」
それでも、新しくできた友達と映画を作りたい一心で必死に食い下がる夜凪。
そんな夜凪を、朝陽は冷たい目で見つめる。
「…はぁ」
ソファーから立ち上がった朝陽は、その冷たい目のまま夜凪の前に立つ。
「夜凪さぁ、吉岡の名前覚えてた?私の名前は?」
その言葉を聞いたとき、夜凪の表情が固まる。
思い当たる記憶が、夜凪にはいくらでもあった。
「――ほらね。そういうのフツーに分かるから。うちらのこと、全然興味なかったんでしょ。そんな奴が突然学祭とか部活とか…フツーに虫が良過ぎるよね?」
「……これからは朝陽さんのことも、皆のことも知りたいと思ってる。ごめんなさい」
「…はあ」
夜凪からの謝罪の言葉を聞いても、朝陽の口から漏れたのはため息。
「スターズの天使とかさぁ、あんたとか星アキラとか。いいよね芸能人って。皆、美男美女で生まれつきフツーに人生イージーモード。園山だってそう。芸能人ばりに顔が良くて頭も良くて、皆に愛想振る舞ってるけど、実際には私たちになんて何の興味もない。あんた達、皆うちらのこと見下してんでしょ。そういうの分かるから」
言いたいことをすべて言い切り、朝陽は夜凪の隣を通って教室を出ようとする。
そんな朝陽の手を、夜凪はがっしりと掴んで歩みを止めさせた。
「…何よ」
「私…お芝居に出会うまでずっと、家族のことしか考えてなかったんだと思う――」
始めは、小さくて弱々しい声だった。
「だから朝陽さんの言う通り、自分でも虫が良いって思う。ごめんなさい」
その声は少しずつ大きくなり、強さも宿っていく。
最後の言葉は、目を見据え、叫ぶように告げられた。
「でもっ、私の友達のこと、光のこと勝手に決めつけて悪く言うのは違うでしょ!」
夜凪が感情的になったのを初めて見た朝陽と吉岡は、わずかばかり動揺する。
しばらく沈黙が続いたが、勢い余った夜凪は走って部室を出ていってしまう。
吉岡もそれを追いかける。
部室に一人残された朝陽は、小さな声でつぶやいた。
「…なんだよ。あいつフツーにキレんじゃん」
朝陽が教室に戻ると、教室にはほとんど人がおらず、少年がたった一人だけ。
少年はカバンに教科書などを片付けていた。
その少年を見て、朝陽はつい顔をしかめてしまう。
少年の名は園山光。
つい先ほど、悪口ともとれる悪態をついてしまった相手だった。
かといって当然その悪口を聞かれたわけでもないので、普通の態度で接すればいいのだが、朝陽にはどこか後ろめたさがあった。
そのため、話しかけることなく教室を出ていこうとする。
「あれ、どうしたの朝陽?教室に用があったんじゃないの?」
しかし、教室を回れ右しようとしていたところを、タイミング悪く光に見つかり声をかけられる。
さすがに声までかけられて無視するのはどうかと考え、そのまま教室に入る。
「別に……園山こそ何してんの?」
「帰るところだよ。うちのクラスは大きな出し物も特にないし。帰宅部には学校祭の準備期間って暇だから」
「ふうん……」
朝陽にとって、園山光とは微妙な関係である。
ただのクラスメイト――で終われば簡単だったのだが、自分の思い人である花井遼馬となぜか仲が良い。
遼馬と話しているときに、ちょくちょく光の話が出てくるほどに。
超がつくほど真面目な光、不良のレッテルが貼られる遼馬。
なぜそんな二人の仲が良いのか、その理由を朝陽は知らない。
「遼馬となにかあった?」
しばらく黙っていると、光による突然の問いかけが飛んでくる。
それも思い人の名を口にして。
「は?何もないけど」
「となると……景?」
「……なんでそこで夜凪の名前が出てくんの?」
「だって最近の朝陽、景のこと見てずっとイライラしてるから」
「っ……」
朝陽は光のこういう所が苦手だった。
光という人間は、とにかく人の悪意のようなものに敏感で、まるで心を見透かされているような気分になる。
先ほどの悪口も、実は気づかれているんじゃないかと錯覚してしまう。
「昔の景と今の景……朝陽にはどっちも同じに見える?」
「……知らないし、そんなの。園山みたいに夜凪のことばっか気にしてるわけじゃないから。そうやって私にずけずけ言うのも、夜凪以外の人間にどう思われようが興味ないからでしょ」
とにかく教室から、光から離れたかった朝陽は、負け惜しみのような言葉を吐いて教室を出ていく。
そんな朝陽の姿を見て、光はうっすらと笑っていた。
「相変わらず、するどいなあ」
小さくつぶやいた光は、かばんを持って教室を後にする。
そのまま、
お互いのことが誰よりも嫌いだけど、誰よりも相性がいいみたいなのが好き。