君の激情に恋をして   作:考える人

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想いは交わらない

 

「誰と仲良くしていようと私には関係ないし、別にいいけど。誰と会っていようと私には関係ないし、別にいいけど」

 

「夜凪、なにイライラしてんの?」

 

 杉北祭当日、映画上映に向けて夜凪、吉岡、朝陽の三人は部室で最後の準備を行っていた。

 そんな中、わかりやすく不機嫌な夜凪に、どうせ園山絡みだろうと朝陽は見当をつける。

 

「誰も光にイライラなんてしてないわ!」

 

「やっぱり」 

 

 聞いてもいないのに、ご丁寧に名前まで言ってしまう夜凪。

 

 昨日、夜凪は光の家から思わず逃げるように帰ってしまった。

 理由は夜凪自身もよくわかっていない。

 ただ、今は光の話を聞きたくない――そんな感情が夜凪を支配していた。

 その日はなるべく考えないようにして就寝し、目を覚ますと次は言いようのない怒りがわいてきた。

 

 そうして今に至る。

 

「フツーにイライラしてんじゃん」

 

 不満オーラをまき散らす夜凪に、朝陽は半ば呆れ気味に対応する。

 一方で、吉岡は窓の外を見ており、会話に一切交ざろうとしない。

 

 それどころか全く動こうとせず、準備する手も止まっていた。

 

「ちょっと吉岡!あんたなにさぼってるわけ!?」

 

「……なんだろう、あれ(・・)

 

「は?」

 

 朝陽が怒声を飛ばすも、窓の外から目を話さない吉岡。

 気になって夜凪と朝陽も窓の外を見る。

 

「……なにこれ」

 

 そこには、おびただしい数の人がいた。

 校門入り口前で、まるで杉北祭が始まるのを待機するような人々。

 

 そのすべてが本当に杉北祭目的なら、明らかに一高校で収容できるキャパシティを超えている。

 

「もしかして、これ全部夜凪目当てなんじゃ……」

 

 朝陽の言葉に夜凪と吉岡は、肯定することも否定することもできない。

 ただ三人とも、嫌な予感がすることだけは確かだった。

 

 

 

 

 

 

「映研の上映会は中止。そうすれば夜凪目的のファンも引き返すでしょう」

 

 その嫌な予感は現実のものとなる。

 無慈悲な言葉が、教師の口から発せられた。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 小さいころ、まだ景の母親が生きていたころ、景と一緒に初めて『ローマの休日』という映画を見た。

 景が特にお気に入りの映画だ。

 ごっこ遊びに付き合ったこともある。

 もうずいぶん昔のことで、映画の内容もうろ覚えだが、ある思い(・・・・)を強く抱いたことだけはしっかり覚えている。

 

――お互い好きなのに、なんで離れ離れにならないといけないんだ。

 

 そんな思いをかかえたまま、しばらくの間ずっとモヤモヤしていた。

 大人に答えを求めたこともあるが、納得できる答えは得られなかった。

 

 あれから時が経ち、ほんの少しだけ大人になった今なら、その答えが少しだけわかった気がする。

 大人たちの言っていたことも、なんとなく理解できる。

 

 彼らは離れたかったんじゃない、離れなければいけなかったんだ。 

 それに初めて気づいたとき、なぜか泣きそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 太陽は完全に沈み、杉北際も後夜祭に突入している。

 盛大なキャンプファイヤー……とはいかないものの、小さな火を囲み、フォークダンスを踊る仲のよさげな男女の姿。

 

 そんな甘い光景を屋上から眺めながら、僕は遼馬と二人である準備(・・・・)を進めていた。

 

「よし、準備できたぞ。いつでもいけるぜ」

 

「じゃあ、始めようか」

 

 遼馬から準備完了の言葉を受け、僕は用意したプロジェクターのレンズカバーを外す。

 映写する場所は校舎の壁、内容はもちろん景たちの撮影した映画。

 唐突に映画が流れ出したことにより、中庭に集まっていた生徒たちはみな困惑する。

 

 映し出されたのは、景のきれいな横顔。

 そして『隣の席の君』というタイトルテロップ。

 

 生徒たちのざわめきがどんどん小さくなり、映画に釘付けになっていく。

 

「ごめん遼馬。こんなこと手伝わせちゃって」

 

「お前に言われなくても、俺一人でどうせ勝手にやってた。それより、お前のほうが良かったのかよ?学校一の優等生様がこんなことして。推薦とかぱあになるんじゃねえの?」

 

「いいんだ。もともと一般で受験するつもりだから。僕の志望大学、推薦のほうが難易度高いんだよね」

 

 停学は覚悟しないとダメかな――遼馬と話しながらそう考えていると、バンと大きな音をたてて屋上の扉が開かれる。

 そこには、景が立っていた。

 息を切らし、汗をかいており、大慌てで来たことがうかがえる。

 

「え…花井君?それに光も、どうして」

 

 僕たちのほうへ近づく景は、いまいち状況を飲み込めておらず、わかりやすく疑問符を頭に浮かべている。

 

「景こそどうしたの?そんなに慌てて」

 

「だって!部室にいたら、私達の撮影した映画が流れてきて……」

 

「ああ、これは遼馬が――」

 

 やってくれた――そう言おうとした時、遼馬にがっしりと肩をつかまれる。

 

「二人でやったんだ。光、お前も共犯だからな」

 

「……ずるいなぁ」

 

 果たして、それは単純な責任分散による自己保身か、それとも不器用すぎる優しさか。

 

「つかやべ、カギかけ忘れた。しゃあねえ締めてくるか。まあ、しばらくは教師の足止めしといてやるよ」

 

 そう言って、僕と景に気を遣ったのか、遼馬はこの場から離れようとする。

 そんな遼馬に、夜凪が声をかける。

 

「よくわからないけど……花井君ありがとう。私たちのためにがんばってくれて」

 

 夜凪の言葉に、遼馬は一瞬だけ立ち止まるも、軽く手を上げてそのまま去っていく。

 

 

 

 こうして、僕と景は二人っきりになる。

 

「……」

 

「……」

 

 景は何か言いたそうにしているが、切り出すことができないといった様子だ。

 ここは僕から切り出すか。

 

「ごめん景、嘘までついて手伝いを断って」

 

「え?」

 

「実は、ちょっと前に柊さんがうちに来たんだ」

 

「柊って、雪ちゃん?」

 

「うん」

 

 景の所属するスタジオのスタッフである柊さん。

 彼女がうちを訪ねたのは、僕に釘をさすためだ。

 

 景の帰る場所を作るために、できる限り手を貸さないで欲しい。

 そう伝えられたとき、僕はためらうことなく了承した。

 それは、景から離れるという僕の目的にも合致していたから。

 

 僕は柊さんから伝えられたことを、そのまま景に伝える。

 すると、景は突然力が抜けたように膝を抱えて座り込む。

 

「はぁ~~~~」

 

 大きく一度息を吐くと、またゆっくりと立ち上がる。

 

「私、光に嫌われちゃったのかと思ったわ」

 

「ありえないよ。僕が景を嫌うなんて、絶対に」

 

 逆はありえても。

 

「やっぱりそうよね!光が私を嫌うなんてありえないもの」

 

 すっかり元気になり、いつもの(・・・・)調子を取り戻す景。

 あまりにも単純な景に、ついつい苦笑する。

 

 

 

『え…!?ちょ…!吉岡隠し撮りキモイ!』

 

 二人で笑いあっていると、映画に流れる朝陽の声が響き渡る。

 僕と景はフェンスに腕をかけ、景の映る映画を眺める。

 

 場面は、景と朝陽たちが仲良く昼食を食べているシーン。

 景も朝陽もいい笑顔で、とても楽しそうにしている。

 一週間前までの景では考えられない光景だ。

 

「あそこにいる私は、お芝居と出会わなかった私なの。役者じゃない普通の高校生。そういうもう一つの普通が(・・・・・・・・)、私にもあるんだなって気づいたの」

 

 そう話す景の表情は、とても穏やかだった。

 

「きっと私達は何にだってなれるんだわ。だって、私がお芝居と出会ったのも偶然だったから。でも――」

 

 そこで言葉を切り、景は僕の方を向く。

 

「役者でも、普通の高校生でも、たとえどんな私であっても、隣には光がいて欲しい。そう思ったの」

 

 優しい笑顔を浮かべ、真っすぐ僕の目を見て景は告げる。

 

 あぁ、もう……ほんとに。

 きっとなんの含みもなく、景は純粋にそう言ってるだけ。

 だからこそ、なおさらたちが悪い。

 やめてくれ、そんなこと言われたら、もう我慢しなくていいんじゃないか――なんて思考が生まれてしまう。

 

「景」

 

「なに?」

 

「好きだよ」

 

「――え?」

 

 後夜祭のフォークダンスで告白したら、二人は永遠に結ばれる。

 そんなどこにでもあるような、面白おかしく伝えられる噂話がこの学校にもある。

 もし僕がまともな人間なら、ありえないとわかっていながら飛びついていたかもしれない。

 告白をOKされて歓喜し、振られてショックを受ける。

 遼馬から不器用に励まされ、クラスメイトにいじられる。

 そんな未来があったのかもしれない。

 

 でも、その噂話は甘いものでもなんでもなく、もはや呪いだ。

 僕にとっても、告白された相手にとっても。

 

「……なんてね」

 

「え?」

 

「冗談だよ。プロの役者を騙せるなんて、僕の演技力も捨てたものじゃないのかも」

 

 僕は努めて、本気じゃなかったというていを装う。

 

「なっ……ひどい!本気にしたじゃない!」

 

「ごめんごめん。でも景だって似たようなこと言ったくせに」

 

「……?なんのこと?」

 

 やっぱり無自覚か。

 わかってはいたけど。

 

 

 

『コラ映研!!開けなさい!!自分たちが何したか分かってんだろうな!!』

 

 ドンドンと、扉をたたく音が屋上に鳴り響く。

 どうやら遼馬の足止めもここまでらしい。

 

「どうしよう光。私達怒られてしまうわ」

 

 怯えるように顔をすぼめる景。

 怒られるということを、今まで完全に忘れていたみたいだ。

 

「まあ、どうしようもないんじゃない。素直に怒られよう、一緒に(・・・)

 

「……うん!」

 

 僕と景は覚悟を決め、扉の方へと向かっていく。

 

 

 

 

 今回、景と離れてみて気づいたことがある。

 僕が離れることで、景から生まれた焦り、不安、苛立ち。

 しかもそのすべての感情が、余すことなく僕に向けられている。

 

 その事実が、俺はどうしようもなく嬉しかった。

 

 だからわかったんだ。

 僕と景が離れるには、ただ距離をとるだけじゃだめだって。

 今の景との関係を、仲のいい幼馴染という立場を、修復不可能になるまで徹底的に壊してしまう。

 それくらいしないと僕は結局のところ、景から離れることができないって。

 

 長年続けてきた初恋を、これ以上ないという最悪な形で終わらせる。

 歪んだ僕には、ぴったりな結末だ。

 

 ごめんね、景。

 でも、君を傷つけるのはそれで最後にするから。

 長年抱え続けた俺の罪も(・・・・)、きっと清算する。

 

 

 

 役者じゃない友達を僕以外に作り、景は自分の定義を増やした。

 もう――僕という存在は必要ない。

 

 

 

 

 

 




爆弾を解除できた!(ように見えた)
新たな特大爆弾をかかえてしまった!
羅刹女編が来るよ!



一度挫折を経験して、わかりやすくぐれてしまうけど、実は主人公たちを助けてくれるめっちゃいいやつみたいなキャラ好き。遼馬君のことなんですけどね。そりゃひなも惚れるわ。

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