君の激情に恋をして   作:考える人

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また今日も

 公園での衝撃的な出来事から、しばらくが経った。

 世間ではハリウッドスターが来日し、日本の舞台に出演するということで騒がしくなっている。

 

 一方、僕の周りは驚くほどいつも通りだった。

 特に危惧していた景の様子だが、いつもの様子となんの変化もなく、まるであの日のことは幻だったかのように普段通りの生活を送っていた。

 てっきりまた、動揺した景が下手な探りを入れてくるのではないかと想像し、いくつかの誤魔化しパターンを考えていた僕は、肩透かしを食らった気分になる。

 あと、少し自意識過剰みたいで恥ずかしかった。

 

 朝会えばいつも通り挨拶を交し、授業の休憩時間中は他愛もない会話を楽しみ、放課後はたまにルイくんたちの遊び相手をする。

 

 僕と景の関係は、文化祭の時から何も変わらない。

 この関係を壊すなどと決意しながら、優しくも正しくない現状に甘え、具体的な案はなかなか思いつかず、景を傷つける方法を考える自分に嫌悪する日々。

 やはり高校卒業と同時に、黙って景の前から姿を消すことこそ最善ではないのかと、思考が二転三転し続ける。

 

 

 

 そんな中途半端な日々を送る中、夜凪家から電話がかかってくる。

 電話の主は景ではなく、レイちゃんだった。

 

『お姉ちゃんが山から帰ってこないの!』

 

 レイちゃんの声はひどく慌てている。

 遭難――まず普通ならその考えが頭をよぎり、心配のひとつでもするのだろう。

 だが、僕はまったく焦る気になれない。

 むしろ、いつもと同じように行われる景の突飛な行動に、どこか安心感のようなものを抱いてしまっていた。

 

「まったく、相変わらずだな景は」

 

 先程までうだうだ考えていたことが全て消え、自然と笑みがこぼれてしまう。

 改めて僕は、自分の単純さを自覚する。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 スタジオ大黒天自称美人制作の柊雪は、現在夜凪家を訪れていた。

 きっかけは、夜凪景の弟妹から助けを求める連絡がかかってきたこと。

 

「まさかそれでほんとに山登りに行った上、そのまま山頂に泊まって帰ってこないとか、けいちゃん破天荒すぎる。しかも制服で」

 

 状況をレイから伝え聞いた柊は、驚愕しつつも、景ならありえるかとどこかで納得する。

 

「私が山登りなんて口にしたから……」

 

「いや、多分けいちゃんなら遅かれ早かれ結局登ったような気がするし、気にしなくてもいいんじゃないかな」

 

 自らの言葉がきっかけで、姉が奇怪な行動に走ったことを落ち込むレイちゃんに対し、柊は慰めるように接する。

 

「それで、今は偶然出会った演出家(・・・)の人と行動してるんだっけ?」

 

「うん、さっきお姉ちゃんから電話があってそう言ってた。だから心配しないでって」

 

「じゃあ着替えとか必要なもの持って行ってあげたほうがいいかな。うへぇ、私登山とかしたことないんだけどなぁ」

 

「あ、それなら大丈夫。荷物は光くんが届けてくれるから」

 

 レイの口から出てきたある人物の名前。

 その名前に覚えのあった柊は反応を示す。

 

「光くんって、園山光くん?」

 

「うん、さっき電話したからそろそろ来てくれると思う」

 

 そう言うと同時に、夜凪家のインターホンが鳴る。

 

 真っ先にルイが元気よく返事をして玄関を開けると、ちょうど二人の話の話題だった人物、園山光が立っていた。

 

「おはようルイくん、レイちゃん」

 

 ルイに促されるまま部屋に入り、優しげな表情でルイとレイに言葉をかける光。

 

 ふと部屋の中に夜凪家以外の人間がいることに気づいた光は、一瞬訝しげな表情を浮かべる。

 だが、すぐに思い出したかのように『あっ』と声を出すと、ルイやレイと同じように言葉を投げかけた。

 

「おはようございます。たしか、柊さん……でしたよね?」

 

「え?……あ!はい、そうです。柊です!」

 

 入ってきた光を見て、『相変わらずイケメンだな~、カメラ映えしそうだな~、役者やってくれたりしないかな~』などとボーっと考えていた柊は、慌てて返事を返す。

 

「というか園山くん、私の名前覚えててくれたんだ」

 

「忘れないですよ。急に家に訪ねてきて、景に協力しないでくれなんて言われたんですから」

 

「あはは……あの時はヒゲがご迷惑を」

 

 ほんの少し前の会合を思い出しながら、二人は笑い合う。

 

 

 

 そんなふうに会話しながら、ルイとレイも含めた四人は荷物の準備を進めていく。

 

「あ、私とルイでお姉ちゃんの服準備してくるから、光くんは少し待ってて」

 

「わかった」

 

「私も手伝おうか?」

 

「ううん、二人で大丈夫」

 

 そう言って柊の手助けを断り、ルイとレイは居間から出ていく。

 居間には、柊と光だけが残されていた。

 

 柊と光、二人は初対面ではないものの、前回は業務内容のようなものを口にしただけで、ほとんど初対面と変わりない。

 しかしながら、コミュニケーション能力は二人とも高く、特に会話に困るようなことはなかった。

 

 

 

 数分後――

 

 

「雪さんのオススメ、すごく面白そうですね。今度見てみます」

 

「うん、絶対に光くんも気にいると思うよ」

 

 ごく短時間で名前呼びになり、お気に入りの映画を紹介する仲になった二人。

 第三者から見てもわかるであろうほど、二人の仲は打ち解けている。

 

 ふとその時、柊はずっと気になっていたあること(・・・・)を思い出す。

 ちょうど二人きりの今だからこそ、そこそこ打ち解けた今だからこそ聞けること。

 

 それは、夜凪景と園山光の関係性だった。

 

 絵に描いたような美男美女。

 しかも幼なじみ。

 ちょくちょく思わせぶりな態度をとる景。

 気にならないはずがない。

 

 普段事務所で景が他人の話をするとき、その八割が光の話であり、直接聞いたわけではないが、景が光という人物にかなり好意を抱いているのはわかる。

 

 では逆はどうか?

 

 景の話や、実際に見た印象からこの少年を少女漫画で例えるならば、ヒロインに甲斐甲斐しく世話を焼く優しげなイケメン幼なじみポジションといったところ。

 どうやら付き合ってはいないみたいだが、これで光から景への好意がないなんて嘘だろうと、柊は自分の中で結論づける。

 

「あー……光くんてさ、景ちゃんとは幼なじみなんだよね。いつからの一緒なの?」

 

「小学校の時からですね。家も近かったので同じ学区だったんです」

 

「なるほど……」

 

 ここで柊は思考する。

 これは遠回しに聞いても、なんだかんだでかわされるな、と。

 光のわずかな返しから、今までの人生経験をもとに判断する。

 ならば、ストレートに聞くぐらいがちょうどいい、そう考えた柊は神妙な顔を浮かべて光に尋ねた。

 

「その、光くんはさ……景ちゃんのことどう思ってるの?」

 

 大切な友人、大事な幼なじみ、もしくはただの腐れ縁とでも言うのか。

 柊の予想していた返事はこのあたりだった。

 

「好きです」

 

 だからこそ、その答えに呆気に取られる。

 

「……え?」

 

「好きですよ、景のこと」

 

「え、えっと……それは友達として?」

 

「いえ、異性としてです」

 

「お、おお……」

 

 予想を遥かに超えたストレートな返しに、柊はなぜか自分が恥ずかしくなってくるのを感じる。

 

「あ、景には言わないでくださいね」

 

 そこで初めて、少し照れくさそうに笑う光を見た柊は『この子あざといなー、年上からモテそう』などといった感想を抱く。

 

「もちろん、誰にも言わないから安心して。そうだよね、やっぱり想いを伝える時は自分で伝えたいよね」

 

「……はい」

 

 少年少女の甘酸っぱい青春に、成就してほしいと期待する柊。

 ほんの少しテンションも上がっていた。

 

 

 

 一方で、そんな柊の態度と反比例するかのように、光の内心は冷えていく。

 想いを伝えるという未来など、訪れることは決してない――と。

 しかし、自分を偽り続けた結果として身についた技術が、柊にそれを悟らせない。

 

 少年はまた今日も嘘をつく。

 相手にも自分にも。

 

 誰も救われない嘘を。

 

 




アクタージュの男性陣を少女漫画で例えるならこんな感じかなあ。

星アキラ
好意を寄せられると、周りから嫉妬がとんでくる学園のアイドル系ポジ。普通に優しくてすごくいい人。

明神阿良也
野生児ポジ。初めて会ったときは何だこいつとなるけど、好意を寄せてくるようになると急になついて、かわいく見えてくるタイプ。

王賀美陸
傲慢な俺様系ポジ。絶対に「おもしれー女」って言うと思う




(オリ主)
園山光
甲斐甲斐しく主人公の世話を焼いてくれるし、なにかと協力してくれる優しい幼馴染ポジ。地雷。






ファンタジー系の少女漫画がけっこう好き。守られるだけは嫌だ系の主人公が大好き。

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