君の激情に恋をして   作:考える人

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お久しぶりです。
そして本当に申し訳ありません。


意外な再会

 

「ふぅ……」

 

 空気が薄くなっていくのを感じながら、僕は呼吸を整える。

 

 景に荷物を届けるため、山を登り始めてから数時間。

 頂上まではあと少しといったところ。

 時間は昼前でありながら、高地かつ時期が冬ということもあり、気温は凍えるように冷たい。

 

 僕が通ってきた登山コースはそれなりに険しく、成人男性でもそれなりに苦労するほど。

 にもかかわらず、装備ゼロという暴挙に加え、制服という登山家に怒られても文句を言えない状態で登頂した景には、もはや笑うしかない。

 

 しばらく歩くと、頂上付近だと思われる場所にたどり着く。

 レイちゃんの話だと、演出家の人のテントに泊まっているとのこと。

 とりあえず、そのテントを探すために歩き回る。

 

 それはすぐに見つかった。

 成人女性二人くらいなら、余裕をもってくつろげるであろう大きさのテントが、何もない中でわかりやすくポツンとたてられている。

 

 しかしながら辺りに景の姿はなく、テントの中に人の気配もない。

 どこに行ったんだろう?

 

 とりあえず荷物だけ置いて周囲を探してみようかと考えていたその時、背後でジャリという音が聞こえる。

 

「私に何か用ですか? それとも、あの女子高生のほうでしょうか?」

 

 それは女の人の声だった。

 

 景のものではない。

 だとするならば、演出家の人だと考えるのが妥当だろう。

 ただ僕には、この声にどこか聞き覚えがあった。

 はっきりとは思い出せない。しかし胸の奥で引っかかるよな違和感が広がる。

 覚えているのに、まるで思い出したくないような、そんな違和感。

 僕は恐る恐る、ゆっくりと振り返る。

 

 そうしてその女性の顔を見た時、僕は違和感の正体を全て理解した。

 

 登山装備に身を包み、メガネをかけ、髪はボサボサで自分の見た目を気にしていないといった印象の女性。

 

 僕はその女性を知っている。

 直接会ったこともあれば、会話をしたこともある。

 

 なのになぜ僕は、本能的に思い出すのを拒否したのか。

 女性に対して嫌悪感があるわけではない。

 もっと間接的な理由。

 

 その女性を思い出すということは、僕の許されない罪の記憶を掘りおこすことになるからだ。

 

「……!」

 

 女性の方も、僕の顔を見て驚いた表情を浮かべる。

 

「もしかして……園山光?」

 

「……はい、久しぶりですね――花子さん」

 

 数年ぶりに会う知り合いに、僕はなんとも言えない複雑な気持ちで言葉を返した。

 

 

 山野上花子――

 画家であり、彫刻家であり、小説家といった様々な分野で才能を発揮する女性。

 美人過ぎる芸術家として、一時もてはやされたこともある有名人だ。

 

 彼女と初めて会った――というより、彼女を初めて見かけた(・・・・)のは、僕が中学生の時だった。

 それは、ある男(・・・)に会いに行った時のことだ。

 玄関先で僕と男が話している中、男の背後から花子さんは現れた。

 見た目は今とほとんど変わらず、何の話をしているのだろうと、不思議そうにコチラを見つめていた。

 そんな花子さんを男は、君には関係のないことだよと言って部屋の奥に押し戻す。

 

 今思えば、会話の内容を聞かれないための行動だったのだろう。

 

 そんなふうに、僕が何度かその男と会う中で、花子さんの姿も何度か確認していた。

 だが、実際に花子さんと話すような機会はまったくなかった。

 

 初めてまともに会話を交わしたのは、最後に会った時だ。

 

 今日こそはという強い意気込みと共に男の元へと向かったあの日。

 男はそれを察したかのように僕の前から姿を消した。

 男の部屋には、深い失望と怒りにのまれ、崩れ落ちたように座る花子さんの姿だけがあった。

 

 同じ男に裏切られた者同士。

 僕と花子さんは、このとき初めてお互いを認識した――

 

 

 

 

 

 

 

「まだ……景さんと交流を続けていたんですね」

 

 数年ぶりに再会した花子さんは、どこか憐れみを含んだ表情で僕に語り掛ける。

 

 花子さんは、僕の秘密を知っている数少ない人物だ。

 負の感情に囚われて抜け出せない僕を知っている。

 

 あの男に裏切られた日からしばらくの間、僕と花子さんは交流を持つようになった。

 交流と言っても、偶に会って話したいことを話すだけ。

 誰かに話すことで、少しでも楽になりたかったんだと思う。

 

 どう考えてもまともじゃない歪な関係。

 そんな関係が長く続くわけもなく、しばらくすると会うことも無くなった。

 

 その関係を終わらせることで僕と花子さんは前に進めたのか、それとも目を逸らしただけなのか。

 きっと後者だ。

 

 だからこそ僕は、花子さんの言葉にこう返答する。

 

「当然ですよ。人間そう簡単には変わらない、変わりたくとも変われない。僕も花子さんも……そうでしょ?」

 

「……ええ、そうですね」

 

 僕の言葉を肯定した花子さんの姿は、最後に見た時と変わらず、心の内側に激しい炎を宿していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 時刻は昼過ぎ。

 そろそろ昼食の時間かと、森で演技の練習を行っていた夜凪はテントへと戻る。

 そのテントの傍で、演出家である山野上花子が何をするでもなく、ただ立ち尽くしていたのを見て夜凪は不思議に思う。

  

「どうしたの? 花子さん」

 

「ああ、景さん。いえ、なんでもありませんよ」

 

「そう? ならいいのだけれど」

 

 夜凪もそれほど気になったわけではないため、特に追及することもなく話は終わる。

 

 そのまま昼食の準備に取り掛かろうとテントの中を覗いた景は、今朝まではなかった荷物があることに気づく。

 中を覗いてみると自身の着替えなど、キャンプに必要であろう品がそろえられていた。

 

「それ、さっき園山光という人物が景さんのために届けてくれたんですよ」

 

「光が!?」

 

 夜凪が疑問を口にするよりも早く、花子が事の経緯を伝える。

 それを聞いた夜凪は興奮するように声を張り上げた。

 そのわかりやすく大げさな反応に、花子は思わず目を見開く。

 

「……ええ、そう名乗ってましたよ」

 

「もう帰っちゃったの?」

 

「なんでも用事があるとかいって」

 

「そうなの……また光に迷惑かけてしまったわ」

 

 そう言いながらも、夜凪の表情はどこか嬉しそうだった。

 

「……容姿の整った子でしたね。わざわざこんな所まで荷物を持ってきてくれるくらいです。恋人なんですか?」

 

 花子は光と夜凪の関係性をなんとなく察している。

 二人が恋人関係でないことも。

 それでもあえて(・・・・・・・)、花子は探るように尋ねる。

 

「ううん、違うわ。でも――」

 

 一度言葉を切り、夜凪は花子と目を合わせてはっきりと答えた。

 

「恋人以上に大切な相手よ。お互いそう思っているわ」

 

 

 




ごくまれに上がるモチベーションと、完結させたいという思いを頼りに、なんとか書き上げていきました。
完結まですでに書ききっているので、パソコンや心が壊れたりしない限り最後まで投稿します。
手直ししつつではありますが、少なくとも三日に一回は投稿できるかなと。

相変わらず趣味全開の二次創作ですが、よろしくお願いします。
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