君の激情に恋をして 作:考える人
そう言えば、夏ごろにもこんなふうに2人で歩いたなと、隣で歩く景を見ながら僕は考えていた。
あの時とは違い、景の表情に憂いはない。それどころか、どこかスッキリとした様子が見て取れる。
なぜ景が百城さんのマンションの前にいたのか?
なぜ僕がそこにいるとわかったのか?
わざわざここまで来た目的は?
僕の方から聞きたいことはいくらでもあった。
でも、僕は景の言葉を待つことにした。
僕も景も、何も話さない。
けどお互いの家まではまだ距離がある。
このまま無言で終わることはないはずだ――――僕がそう考えた通り、景はゆっくりと口を開く。その動きが、僕にはまるでスローモーションのように思えた。
「千世子ちゃんとは、いつから知り合いだったの?」
隣で歩く景は、前を向いたまま僕に問いかける。
「多分だけど、景と百城さんが初めて会ったのと同じ時期だと思う。街で偶然会ったのが最初」
「もう……隠す気はないのね」
「なんとなく、全部気づいてるんじゃないかと思って」
「……そう」
そこで一度会話が途切れる。
景の表情に変化はなく、うっすらと微笑んだままだった。
「特に隠すつもりはなかったんだけど、成り行きでそうなったんだ。だから、隠していたことに深い理由はないよ」
「……光は、千世子ちゃんのことどう思ってるの?」
その質問に僕は答えを迷う。
僕自身、まだ明確な答えを持っていなかったから。
だから素直にその気持ちを答えた。
「ごめん、僕自身もよくわからないんだ」
「でも、千世子ちゃんは光のこと好きって言ってたわ」
それ言っていいの? 公園でのことだろうから僕も知ってるけど。
「私、役作りに迷ってたの。千世子ちゃんに負けないくらい、強い怒りの感情が見つからなくて」
「……?」
僕はその言葉に疑問を覚える。
だって、そんなはずはないんだから。
景のお母さんの葬式の日、あの男が現れた時の君は――
――――そこまで考えて思い至った。景は忘れたふりをしているんだと。
「この前、『私の隣には光がいて欲しい』って言ったじゃない?」
「うん、杉北祭の時だよね」
「それで思ったの。光が私の隣からいなくなったら、私の味方じゃなくなってしまったら……強い怒りを覚えるんじゃないかって。でも、光に対してそんな思いを持つのは嫌だった」
「………………別に、お芝居のためなんだから僕は気にしたりしないよ」
嘘だ
「私が嫌なの。光にはずっと助けてもらってばかりなのに、憎しみなんて持ちたくない」
「…………」
「なのに、光と千世子ちゃんの関係を知って、自分でも信じられないくらい腹が立った」
それは、嫉妬からくる怒りなのだろうか。
だとしたら、それほど嬉しいことはない。
僕も、俺も。
「……怖かったの。光と会った時、その気持ちを光にぶつけちゃうんじゃないかと思ったから」
「でも、そうはならなかった」
「うん。光が私の隣からいなくなる
そう言った景の表情は、とてもきれいだった。
そのきれいな表情が、僕への思いからきていると思うと本当に嬉しかった。
でも、その思いは嘘の積み重ねで形成されたものだという事実に、もう目を逸らすことはできない。
この歪な関係を、このまま続けることはできないんだ。
「景はさ……僕が本当に百城さんと付き合うとか、景の傍からいなくなるとは思わなかったの?」
「………………何言ってるの?」
本気で意味がわからないといった表情で僕を見つめる景。
「光が言ったんじゃない。『僕は景の味方になって支える』って。光は
景は一切ためらうことなくそう言い切った。
僕から目を逸らさず、自身の発言に対する疑いは微塵もない。
それこそが、歪であることの
『ごめんね、変なお願いしちゃって。墨字さんが
雪さんが以前、僕の家に来て言っていたことが、今はすごく理解できる。
僕の偽り続けた中途半端な態度が、景にそんな歪な感情を抱かせてしまった。
歪とはいえ、それは確かに相手を思っての感情なのかもしれない。
でも僕は間違いなく、その感情に最悪の形で応え、いつか裏切り、最後に利用して取り返しのつかないことをしてしまう。
全て僕がいたことで始まったんだ。
僕が景を好きになってしまったから、景に近づいてしまったから、思いを隠し続けてしまったから、僕という存在が生まれてしまったから。
全部、僕のせいだ――
どこかまだ迷いのあった僕の心が決まる。
もう、終わりにしなきゃいけない。
「景……」
僕は歩いていた足を止め、半歩ほど前にいる景を見つめた。
それを不思議に思った景も足を止め、振り返り僕と向き合う。
「……光? どうしたの?」
「好きだよ。景」
「っ!?」
僕の突然の告白によって、景はめったに見せない驚きの表情を見せる。
けれど、その表情はすぐ何かに気づいたといったものに変わった。
「あっ! また冗談なんでしょ!! さすがに二回目は――」
「本気だよ」
景の言葉を遮って、僕は真剣に景を見つめる。
「冗談なんかじゃないよ。ずっと、小さいころから景のことが好きだった。今度はあの時みたいに誤魔化さない。僕は景が好きだ」
ずっと言いたくて、胸が張り裂けそうになって、つい口からこぼれてしまいそうで、それでも必死に仕舞い込んできた言葉を、我慢することなく思うがままつむぐ。
好きだ、大好きだ、どうしようもなく――君が好きだ。
「…………」
僕の思いは短い言葉にのせて全てぶつけた。
後は景の返事を待つだけだ。
待ちながら僕は思う。どうか
もし景が僕の告白を受け入れなければ、まだ踏みとどまれるから。
「……光には傍にいて欲しい――でも、正直に言うと、それが恋愛感情なのかはよくわからないの」
景は僕と見つめ合っていた視線を外し、顔をうつむける。
しかしそれは、ほんのわずかな間だけ。
「けど――」
またすぐ力強い言葉と共に顔を上げ、喜びを隠しきれない笑顔で僕を見つめた。
「光からの告白、すごく嬉しい! 今もまだドキドキしてるもの」
「それは……僕の告白を受け入れてくれるってことでいいの?」
「うん!」
はっきりと告げられた了承の言葉。この瞬間から僕と景は、僕がずっと望んでいた関係になれた。
なのにおかしい――僕の心がまるで遠くに行ってしまうような気がした。すごく、頭がボーっとする。
何も考えていないはずなのに、自然と言葉がこぼれだす。
「じゃあ僕たちはこれから恋人同士だね」
「そうね。そうなるのよね…………でも、恋人同士って何をすればいいのかしら?」
「今まで通りの僕らでいいんだよ」
「今まで通り?」
「うん、今まで通り」
もう、今までと同じではいられない。
「僕はいつだって景を支えるし」
僕が景から離れても、景を支える人間は大勢いる。
「僕はずっと景の味方」
だから、俺は喜んで景の敵になる。
「それでいいんだよ」
それでいい。
手直し含めて、書きたいことの十分の一も書けてない感じがする難産な回でした。
もしかしたらまた手直しするかも。
ツンデレは周りから誤解されてこそ。
ヤンデレは周りに溶け込んでこそ。