君の激情に恋をして   作:考える人

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演技だから

 

「演技の練習に付き合って欲しいの」

 

 授業の休み時間、隣の席に座る景が真剣な表情で僕に頼み込む。

 

 景曰く、ある映画のオーデションに受かるため、特訓がしたいとのこと。

 具体的には――

 

 1.役作りは正確に。

 2.ただし共演者に手を上げない

 

 という目標を掲げて。

 

 2番目はもはや役者どうこうの問題ではないと思うのだが、どうやら前科があるらしい。

 一体どんな状況の撮影だったのだろうか?

 

「いいよ。景の家?」

 

「うん」

 

「わかった。帰りに寄るよ」

 

 特に断る理由もないため、僕はその頼みを了承した。

 

 

 

 

 

 

 そうして放課後。

 

「とりあえず、前回演じたシチュエーションと同じ設定でやってみようと思うの」

 

「たしか女の子が切り殺されるのを、黙ってみていることしかできない江戸時代の町人Aだったっけ?」

 

「そう」

 

 学校で聞いた、共演者に手を出したという話はその時のことだったらしい。

 女の子を斬り殺す役の人に、思わず蹴りかかったとのことだ。

 ちょっと見てみたかった。

 

「じゃあ僕がその斬り殺す侍の役かな。……蹴らないでね」

 

「う、さすがに、大丈夫……だと思うわ」

 

 できればはっきりと断言して欲しい。

 

「じゃあ殺される子供の役は――ルイくん、お願い」

 

「えー、ルイ倒す方がいいー!」

 

「それだとちょっと現実味が足りなくなっちゃうなあ。後でウルトラ仮面ごっこ一緒にやるから」

 

「しょうがないなあ」

 

 なんとか不満を言うルイくんを説得して、配役が決まる。

 ちなみにレイちゃんはカチンコ役。

 そのレイちゃんから、はい!といってデッキブラシを渡される。

 どうやら刀の代わりらしい。

 

「じゃあいくよ!よ~いカチンコ!」

 

 カチンコって口で言うんだ。

 

 それはともかく、僕はルイくんを切るふりをすればいいのかな。

 

「え、えっと……でやあ~」

 

 僕はルイくんの数メートル手前で、ゆっくりデッキブラシを振り下ろす。

 

「うわああやられた~」

 

 ぽてんと、ルイくんが後ろに倒れる。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「ごめん、いつも通りじゃれてるだけにしか見えないわ」

 

 だろうね。

 

 とはいえ、僕やルイくんに役者張りの演技力を求められても困る。

 

「その、もうちょっとそれっぽく見せられないかしら?」

 

「そう言われても……」

 

「私のやり方なんだけど、本気で怒ってる時のこと思い出したり――」

 

 本気で……そう言われると、誰かに本気で怒った覚えがあまりない。

 自分以上に嫌いな人間なんて、この世に存在しないのだから。

 いつだって、怒りの対象は自分にしか向いていなかった。

 ずっと、こんな自分を否定したかった。

 

「斬り殺す武士の気持ちになりきったり」

 

 なれないよ、無茶ぶりにもほどがある。

 そもそも、ルイくんを傷つける気持ちになんてなれるわけがない。

 間違えて怪我でもさせてしまったら、きっと景は――景は?

 

「ほら、これは演技だから」

 

 演技――ああ、そうだよね、これは演技だ。

 ……なんだろう、頭がボーっとする。

 

 ()はルイくんを殺そうとする役。

 そう、役だ、何も後ろめたいことなんてない。

 

 

 やめろ、こんなものが(・・・・・・)、僕の本心であるはずがない!

 何を言っているんだ?これは演技だろ?()は何一つためらうことなんてないじゃないか。

 

 僕は……いや、俺は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは演技だから」

 

 私がそう言った瞬間、光をまとう雰囲気が明らかに変わった。

 その瞳は無機質で、ルイではなく私の方を見ている。

 普段から物腰柔らかく、一緒にいて安心するような存在であるはずの光を、怖いと感じてしまう。

 

 光は持っていたデッキブラシを床に置くと、ゆっくりとルイに向かって近づいていく。

 ルイの目の前までくると、膝を床につけ、ルイと目線の高さが合う位置までしゃがむ。

 

「……光くん?」

 

 ルイも光の異変を感じ取ったようで、困惑するように名前を呼ぶが、光は何の反応も示さない。

 光はルイの首元へ、ゆっくりと手を伸ばす。

 ルイの細い首筋に、ピトリと光の手が触れる。

 

 今私の目の前にいるのは、間違いなく光だ。

 優しくて、いつも私を気遣ってくれる幼なじみ。

 なのに――

 

 

 光の顔を見ても、初めて会った人間にしか見えない。

 

 いや、初めて会ったは違う。

 以前どこかでこの顔(・・・)を見たことがある。

 あれはたしか……

 

 頭の中に浮かぶ違和感を頼りに、今までの光との記憶を探る。

 そうだ、もっと幼いころに――

 

 思考を巡らせる最中、視線を上げた光と目が合う。

 どこか期待するようなその目に、私は吸い込まれそうになる。 

 

『いいのか?お前の大切な家族に、俺は手をかけるぞ』

 

 光は何も言っていない。

 でも、私には確かにそう聞こえた。

 

「ダメ!!」

 

 そこからは体が勝手に動いていた。

 ルイに触れる光を突き飛ばし、勢い余って仰向けに倒れた光に対し、そのまま馬乗りになる。

 

「ルイに――!」

 

「……おねーちゃん?」

 

 それは戸惑うようなレイの声。

 その声で私は現実に引き戻される。

 

「ッ!ごめん!!」

 

 私は慌てて立ち上がり、光の上から身を引く。

 痛そうに背中をさすりながら立ち上がる光に、レイが近寄り話しかける。

 

「光くん大丈夫?もう、おねーちゃん!手を出しちゃダメじゃなかったの!?」

 

「アハハ、大丈夫大丈夫。景のことを責めないでやって。ほら、きっと()の演技が迫真だったんだよ」

 

 そう言いながら苦笑いを浮かべる光は、私のよく知る優しい光だった。

 

 さっきのあれ(・・)は、私が役に入り込みすぎた故だったのかしら?

 いや、きっとそう。

 だって――

 

 

 

 光が、私の傷つくような事をするはずないのだから。

 

 




オリ主ヤバさの片鱗。


必要悪みたいなのは好きだけど、自分で必要悪を誇るキャラは嫌い。
罪悪感にさいなまれながらも、俺がやるしかないみたいなキャラが好き。
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