君の激情に恋をして   作:考える人

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仮面を被るもの

 

「いやあ、やっぱかわいかったな千世子」

 

「そうだね。あと脇役の女の人が死に際、好きだった男に恨みつらみをこれでもかと吐き捨てて死んでいくシーンもよかったよね」

 

「ええ……そこ?いやまあ確かにびっくりはしたけど。やっぱ光は変わってんな」

 

「そうかな?」

 

 今日は休日を利用して、高校の男友達と渋谷に出かけていた。

 友人の希望もあり、映画を見ることになった僕たちが選んだ作品は、主演・百城千世子の話題作。

 それは約2時間の映画で、話題になるだけあって十分満足のいくものだった。

 

 映画を見終わった僕らは、近くのハンバーガーショップで昼食をとりながら、映画の感想を言い合う。

 

「特にラストシーンが圧巻だった。千世子の可愛さが際立ってて」

 

「うん、あのシーンは一番の盛り上がりなだけあってみんな熱かった。だからこそ(・・・・・)、一人だけ綺麗でいる演技が、僕には違和感を覚えるものだったけどね」

 

「はあ?なんの話だ?」

 

「いや、ただ僕の見たかった演技じゃなかったってだけ」

 

「あんなに綺麗だったのに文句つけるとか、お前の理想高すぎるだろ」

 

「……高いわけじゃないよ」

 

「ふーん……ゲ!まじかよ!?」

 

「どうしたの?」

 

 友人がふとスマホをのぞいたかと思うと、おかしな声を出して、その顔を歪ませる。

 なにかあったのだろうか?

 

「わりい、バイト先の店長から急に呼び出されちまって……人が足りないんだと」

 

「そうなんだ。まあ一番の目的だった映画は見終わったし、ちょうどよかったんじゃない?行ってきなよ」

 

「ほんと申し訳ねえ、また埋め合わせはする。じゃあ!」

 

 そう言って友人は慌てて席を立ち、バイト先へと向かう。

 

 さて、これからどうしようか?

 特に寄りたいところも、買いたいものもないし、少し早いけどこのまま帰ろ――

 

 

「ここ、いいですか?」

 

 これからの予定を考えていた僕は、その声にふと顔を上げる。

 友人の座っていた席に、座る許可を求めてきたのは女の人だった。

 

 おそらく、僕とそう変わらない年齢だと思う。

 思う――というのは、この女性が帽子をかぶり、サングラスをかけ、マスクをつけており、顔の情報がまったく入ってこないからだ。

 

 なんだ、この怪しいを絵に描いたような人は。

 

 しかも何が問題って、僕の座っている二人席以外にも、周りに空席がいくらでもあるということだ。

 つまりこの人は、あえて僕の正面に座ってきたということになる。

 

「いいですか?」

 

「あ、はい」

 

 先ほどよりも強くなった口調に、僕はつい肯定してしまう。

 

「ありがとう」

 

「いえ……」

 

 やばい、早く食べ終わって席を離れよう。

 

「ねえ、さっき百城千世子の話してたよね?」

 

 目の前に座った女性はマスクを外すこともなく、僕へと語り掛けてくる。

 

「……そうですね」

 

「じゃあ『違和感』って、どういう意味?」

 

 しまった――この人千世子ファンなのか。

 さっき友人と、千世子の話していたのを聞いて絡んできたのかな?

 いや、でも悪口は言ってないはず、うん、大丈夫。

 

「別に変な意味じゃないですよ。違和感を覚えるくらい、綺麗すぎて惚れ惚れしたってだけで――」

 

「嘘つき」

 

「……」

 

「惚れ惚れしたなんて、そんなこと微塵も思ってないよね」

 

 表情は相変わらず隠されており、声のトーンも変わらない。

 そのせいで、女性がどのような感情を抱いているのか見当がつかない。

 

「本当のこと教えてよ。あなたが百城千世子という女優を見て感じた、心からの素直な気持ちを」

 

 わからない。

 感情が読めないため、その言葉が本気か判断できない。

 普段、感情がせわしない景とばかり一緒にいるため、こういう相手にどう対応していいか迷ってしまう。

 

 でも、わからない以上どうしようもない。

 怒られることも覚悟で、僕は自分の感じたことを、嘘偽りなく伝えることに決めた。

 

「綺麗だと思ったのは本当ですよ。でも、素顔を隠して演じる役者に僕は興味がない。だから、何も感じなかった(・・・・・・・・)というのが、僕の素直な気持ちです」

 

「……じゃああなた()、仮面を外して演じるのが人間だと思うの?」

 

「それは違う」

 

「え?」

 

「僕が言っているのは好みの話であって、正しい正しくないの問題じゃない。ましてや、人間かどうかなんて、仮面一つで決まるはずがない」

 

 でないと、僕は僕を人間だと認められなくなってしまう。

 

「その仮面に譲れない意味があるなら、絶対に外すべきじゃない」

 

 僕の仮面も、景の前では絶対に外さないと決めている。

 それだけは絶対に譲れない。

 例え、誰になんと言われようとも。

 それが、自分自身(・・・・)であっても。

 

「……ふーん、好みとは違ってもちゃんと認めてくれるんだ。あと途中から敬語とれてたよ」

 

 あ、しまった。

 つい興奮して。

 

「その口調のまま話してよ。私たち、そんなに年も離れてないし」

 

「……わかった」

 

「名前は何ていうの?」

 

園山光(そのやまこう)

 

「じゃあ光君の好きな俳優とか教えてよ」

 

 すごい距離つめてくるなこの人。

 

 しかし、好きな俳優か……正直そこまで映画とかドラマを見るわけじゃないからなあ。

 まあでも、真っ先に思い浮かんだ顔はある。

 

「夜凪景――今は無名だけど、きっとこの先有名になるよ」

 

 僕は自信をもって、幼なじみの名を告げる。

 

「……」

 

 この時、今まで一切わからなかった目の前の女性の感情が、一瞬だけ読み取れた。

 とても怒っている。

 

 その感情を向けられ、少し心地いいと思ってしまった自分を自己嫌悪する。

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

 歪んでるうえに節操無しとか、最低にもほどがあるだろ。

 いい加減にしろよ、僕。

 

「大丈夫ならいいけど――あ、ライン交換しようよ。また演技についての意見聞きたいし」

 

「?僕の感想なんて聞かなくても、語り合える千世子ファンなら周りにいくらでもいるんじゃないの?」

 

「光君みたいな視点の人からも聞きたいの。ほら、バーコード出して」

 

 かなり強引だが、僕は彼女の指示に従ってしまう。

 彼女は僕の出したラインのバーコードをスマホで読み取る。

 

「じゃあ私、そろそろ撮影があるから行くね」

 

 そう言って彼女は立ちあがる。

 

 撮影?なんの話だろうか?

 その言葉に疑問を抱いていると、ピロンとスマホの音が鳴る。

 おそらく、彼女からの友達申請だろうとスマホを覗く。

 

 『百城千世子』

 

 名前の欄に、はっきりとそう表示されていた。

 

「……え?」

 

 思わず顔を上げると、マスクとサングラスを外した彼女の姿があった。

 それは、さっき見た映画の主演とまったく同じ顔をしていて――

 

「ばいばい」

 

 手を振りながら、またマスクとサングラスをつけ、女優『百城千世子』はその場を去っていった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 後日

 

「よ、夜凪さん『デスアイランド』出るって本当?」

 

「うん」

 

「じゃあさじゃあさ、千世子と会った!?生千世子と!?」

 

「…会ったわ」

 

 映画デスアイランドの出演者オーディション結果が一般に公表され、合格者の一人である景は一躍学校の人気者となる。

 休み時間中、質問攻めにあっていた景だったが、授業開始前になりようやくそれも落ち着く。

 ちなみに、千世子の話をしていた時の景は少し怯えていた。

 

「……ねえ景、千世子と会ったとき、もしかして怒らせるようなことした?」

 

「……エスパー?」

 

 本気で驚いた表情で僕を見つめる景。

 

「やっぱり」

 

 僕はあの日のことを一人納得した。

 

 

 




思春期丸出しで感情に抑えがきかないのキャラが好き。
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