君の激情に恋をして   作:考える人

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なんかすごいお気に入り増えた。嬉しい。


遠くの君

 

 景が、映画デスアイランドの撮影へと出発してから半月以上経った。

 

 ルイくんとレイちゃんも、景の所属する事務所に預けられているらしく、僕の出る幕はない。

 これほどまで僕の生活において、夜凪家が関わらないのは久しぶりだ。

 

 だが、思っていた以上に僕の心情は穏やかだった。

 いつも通り学校に行って、いつも通り勉強して、いつも通り友人たちとつるんで。

 

 何をしても、僕の心は揺さぶられない。

 ちゃんと生きているはずなのに、生きている気がしなかった。

 

 

 とはいえ、そんな日常の中にも、ほんのわずかな非日常は存在していた。

 

 部屋でゆっくり過ごしていると、スマホの着信音が鳴る。

 ラインのトーク画面一覧を開くと、一番上にあったのは『百城千世子』の名前。

 

 トーク画面を開くと――

 

『昨日のドラマ、どうだった?私の横顔、綺麗に見えてた?』

 

 それは自分の演技に対し、意見を求める言葉。

 あのよくテレビで目にする有名女優が、僕みたいな一般人に感想を求めているのだ。

 

 連絡先を交換して以来、百城さんからは頻繁にこのような連絡がくる。

 自分の演技を向上させるために、いろんな視点からの意見が欲しいとのことらしい。

 

 しかし、僕はドラマや映画をそんなに見る方じゃない。

 事前に百城さんが、自分の出演する番組の情報を送ってくれるのだが、よく見逃してしまう。

 ちなみに、昨日のドラマも見るのを忘れていた。

 

 ごめん、見ていない――そうメッセージを送ろうとした時、新しくメッセージが送られてくる。

 

『たしか光君、夜凪さんのファンだったよね?実は今、撮影で一緒なんだ』

 

 うん、デスアイランドだよね。

 知ってる。

 

『ちゃんと感想くれれば、夜凪さんのサインもらってあげてもいいよ』

 

 サインか……もらおうと思えば直接もらえるしなあ。

 あ、でも、僕にあてたものではなく、一人のファンに送るつもりで書いたサインだと考えると、ちょっと欲しいかも。

 それに、初めての映画作品出演時のサインなんて、ちょっとプレミア感あるし。

 

 とはいえ、ドラマを見てないため感想を送ろうにも送れない。

 というわけで、いくつか関連ワードを入れて検索し、ドラマの感想を書いてある適当なサイトをコピペしてそのまま送る。

 検索してかなり下の方のサイトを選んだので、まあばれないはず。

 

 ピロン

 

『これ、ドラマ感想サイトの文章そのままだよね?』

 

 ……なんでばれたんだろう。

 もしかしてエゴサでもして、自分の批評をすべて把握しているのだろうか?

 いや、僕みたいな一般人に意見を求める時点で、その可能性もありえるかもしれない。

 

 仕方ない、正直に白状して許してもらおう。

 

『ごめん、見てなかった。今度はちゃんと見て感想送る。サインは欲しいです』

 

 少し図々しい気もするけど許して。

 

『次は水曜20時からのインタビュー映像。忘れないでね。罰としてサインは名字で書いてもらうから』

 

 水曜ね、ちゃんとメモしとこ。

 別に名前はどっちでもいいけど。

 

『あ、私のサインもいる?』

 

 ……ここでいらないとか言える人間は、相当な猛者だと思う。

 

『うん、欲しい』

 

『既読がついてから変な間があったよ、今』

 

 うぐっ。

 

『まあいいけど、ちょっと夜凪さんに嫉妬しちゃうかも』

 

 嫉妬って……百城さんには、今の景なんか比べ物にならない数のファンがいるだろうに。

 ごくわずかな景のファンに嫉妬しなくても。

 

 結局、撮影の休憩時間が終わったようで、連絡はそこで途絶える。

 

 

 スマホの電源を切り、ベッドにあおむけで倒れながら目を閉じる。

 

 景は元気にやっているのだろうか?

 百城さんと上手くやっているといいけど。

 

 

 

 ……ああ、だめだな。

 すぐに景のことが頭に浮かんでしまう。

 

 景と会うことがない――それがいずれ訪れる未来だ。

 ちゃんとなれなきゃ。

 

 

ーーーーーー

 

 

 デスアイランド撮影30日目 最終日

 

 

 映画デスアイランドの全ての撮影が終了したその日の夜、撮影関係者たちによる打ち上げが盛大に行われていた。

 豪勢な食事を堪能した後、締めとして行われた海での花火。

 

 それもほぼ終わりへと近づき、夜凪景と百城千世子の二人は線香花火を楽しんでいる。

 

 夜凪のTシャツには、役者仲間たちのサインがこれでもかと書き込まれており、その中には千世子のサインもある。

 

「ありがとう、千世子ちゃん。サイン書いてくれて」

 

「気にしなくていいよ、友達なんだから」

 

「友達……そうよね、友達」

 

 千世子の友達という言葉に、夜凪は顔をほころばせる。

 

「嬉しそうだね?」

 

「うん、私こんなに友達ができたの初めてだから」

 

「ふーん……あ、そうだ。夜凪さんもサイン書いてくれない?私の知り合いに、夜凪さんのファンがいるの」

 

「え!私のファン!?」

 

「うん。アキラ君にも負けないくらいイケメンさんだよ」

 

 自分のファンという聞きなれない言葉に驚くと同時に、夜凪は興奮が抑えられない。

 

「書く!書くわ!何枚書けばいいかしら!?」

 

「一枚でいいと思うよ。名前は園山君で――あ、花火終わっちゃった」

 

 言葉の途中で、千世子の持っていた花火が燃え尽きる。

 

「後で色紙持って行くね」

 

 そう言って千世子は立ち上がり、終わった花火を捨てに行く。

 一人残された夜凪は、まだかすかに燃えている花火をぼんやりと眺めていた。

 

「園山……光とおんなじ名字だわ」

 

 光だけではない。

 久しく会えていない幼なじみを思う気持ちは、夜凪も同じだった。

 

「元気にしてるのかしら……」

 

 小さな声でつぶやかれたその言葉は、波の音と共に消えていく。

 

 




どんな理不尽な目にあっても、どんなに傷つけられても、目から光を失わなず、未来を見据えるキャラが好き。復讐の炎でも可。
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