君の激情に恋をして   作:考える人

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僕のいる意味

 

「おねーちゃん、ちょっと!!どーゆーこと!?こんな時間にどーゆーこと!?」

 

「ルイも一緒に夜更かしする!夜更かし!!」

 

「シカクカンケーなの!?シカクなの!?ダメだよ!光君以外許さないよレイ!!」

 

「ルイも一緒に遊ぶ!!寝る時間エンチョーする!!『9じまでに寝るルール』をはきして下さい!!」

 

「これから役者さんのお勉強会をするの。良い子だからいつも通りねんねしてね」

 

 場所は景の家。

 まだ起きていたいと駄々をこねるルイくんとレイちゃんを、景が必死に説得する。

 

 そんな様子を僕とアキラさん、さらに舞台役者の明神阿良也さんが後ろから眺めている。

 なぜこんなことになったのだろうか?

 

 きっかけは3時間前。

 景からかかってきた一本の電話だった。

 

『セクハラ男が家にくるの!助けて!!』

 

 それを聞いたとき、僕ではなく警察に連絡すべきではないかと思ったのだが、そのセクハラ男というのが阿良也さんのことらしい。

 一体何をされたのか聞いてみたが、かたくなに教えてくれなかった。

 とにかく失礼なことを言われたらしい。

 

 

 

 

 時刻は夜10時過ぎ。

 僕たち四人は、景の作ったカレーを食べていた。

 

「そういえば堀君は、なんでここにいるんだっけ?」

 

 景の作ったカレーがよっぽど気に入ったらしく、遠慮なく何杯もおかわりしていた阿良也さんが、ふと思い出したように疑問を口にする。

 

 堀君?

 

「星です」

 

 ああ、アキラさんのことか。

 

「ぜひ僕も阿良也さんから役作りについて伺いたくて」

 

 そう、僕以外の三人は役作りのために集まったということらしい。

 

 あれ?僕のいる意味が分からない。

 

「君は、えーと……」

 

 阿良也さんの質問対象が僕へと向く。

 

「園山です」

 

「園山君はなんでここにいるの?」

 

「僕にもわからないです」

 

「ふーん?夜凪カレーおかわり」

 

 興味ないならなんで聞いたんだろう?

 

 阿良也さんもそうだけど、役者っていうのはやっぱり変な人が多いのかな?

 アキラさんのようにまともな人のほうが少ないのかも。

 

「ねえ景、僕もう帰っていい?」

 

「ダメ!いて!!」

 

 アキラさんもいるし、問題ないと思うんだけど。

 役者じゃない僕がいても、邪魔になるだけじゃないのかな。

 

 一人だけどこか場違い感を抱えながら、しばらく無言でカレーを食べ続けていると、唐突に阿良也さんが口を開く。

 

 

「ところで夜凪って、弟妹(きょうだい)のこと疎ましく思ったことある?」

 

 

 その言葉に、場の空気が固まるのがわかる。

 

「……え?」

 

「さっきのチビっ子達のことだよ。疎ましく思ったことない?」

 

 ……何を言っているんだ?この人は。

 

「3人暮らしでしょ?だってこの家、君達の臭いしかしない。まだ10代なのに、2人のせいで大人になることを強いられたんじゃない?」

 

 やめろ、それ以上は何も言うな。

 景に、あの日々(・・・・)のことを思い出させるな。

 

「夜凪、よく思い出してよ」

 

 止めるんだ。

 これ以上阿良也さんが何もしゃべらないように。

 声を上げろ、立ち上がれ、止めるんだ。

 

「自分の感情に正直であることは、役者の条件だからね」

 

 なぜ止める必要がある?

 これは役者にとって必要なことなんじゃないのか?

 

 違う!だからといって景を傷つけていい理由にならない!

 動け!何してるんだ僕は!ここで動かなきゃ、なんでここに僕がいるのかわからないだろ!

 

弟妹(ふたり)を恨んだ夜もあったんじゃない?」

 

 なんでここにいるのか?

 そんなもん決まっている、俺は――

 

「本当は弟妹なんていなければ良かったって――」

 

 勢いよく立ち上がり、阿良也さんの胸ぐらを掴む。

 さんざん頭に思い描いたその行動をとったのは――僕ではなく、アキラさんだった。

 

 認めたくない、否定したい、もう少しマシな人間だと思いたい。

 そんな願いをあざ笑うかのごとく、ひどい現実が僕を打ちのめす。

 

 アキラさんが、もっともな怒りを阿良也さんにぶつける。

 本来なら、景の悲しみを知っている僕がすべきだった行動。

 

 なのに、僕は立ち上がることすらできなかった。

 

 

 

 

「あったかも知れない」

 

 阿良也さんの問いに、景は静かに口を開く。

 

「お母さんが死んで、誰もいなくなって、でもあの子達のために元気でいなくちゃって思って」

 

 それは、まるで懺悔のようにも聞こえた。

 

「毎日、毎日、毎日、毎日、ずっと映画を観て楽しい気持ちを思い出そうとした――」

 

 よく、覚えている。

 

 かける言葉がわからなかった僕は、ただ黙って景の隣に座って、一緒に映画を観ていた。

 でも、映画の内容なんてほとんど覚えていない。

 覚えているのは、深い悲しみと、自分のことすら燃やし尽くしてしまいそうな怒り(・・)を含んだ君の横顔。

 

 きっと景は、その感情(怒り)を忘れてしまっている。

 いや、思い出そうとしないだけかもしれない。

 

 けれど、僕の脳裏には焼き付いて消えることのない()の記憶。

 もっとも美しいものを見たという歓喜の記憶。

 

「現実のこと全部忘れて映画の世界に逃げたいって、思っていたことが…あったと思う」

 

 そう話す景の表情は本当に辛そうで、目に涙もためている。

 そんな景の横顔から、僕は目が離せない。

 

「…でも、そんな私をルイとレイ、それに光が救ってくれて――」

 

 違うんだよ景、僕はそんなふうに言われる人間じゃない。

 景にそんな思いをさせる原因は僕にもあるんだ。

 

 だというのに、俺は後悔や自責の念を微塵も感じていない。

 有り余る感情が、僕のすべてを塗りつぶしていく。

 

 

 

 ――景、君は本当に綺麗だ。

 

 




敵キャラは死に際が一番輝くと思ってます。最後の言葉って個性出ますよね。
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