【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く 作:まさきたま(サンキューカッス)
「と、いう訳で」
ごくり、と一同は唾を飲み込んだ。
「俺達は猿の怪人と共に魔族を撃退することに成功し、そして────」
時刻は朝早く。
目を覚ましてもカールが帰っていない事に気付き、怒っていたレヴちゃんとマイカの前で。
若干お酒の匂いがする笑顔のカールは、女の子と手を繋いで悠々と帰宅した。
「今日から仲間になってくれることになった、サクラだ」
「暫く世話になるわ」
うっすら透けているフリフリのスカート。赤く刺激的な布面積の少ないキャミソール。
そして彼は、どう見ても風俗嬢な見た目のサクラを『仲間』として起き抜けの俺達に紹介したのだった。
「風俗嬢をお持ち帰りして朝帰りとは、良い度胸ねカール」
「違う! 痛いから頬をつねるのはやめてくれマイカ」
カールは即座に正座を言い渡され、幼馴染マイカにより折檻が加えられた。
無理もない。一緒に戦っていた俺は、カールの言ってることが嘘じゃないと知っているのだが。
サクラが刺激的な服に着替えたせいもあって、先程の報告がエッチなお店帰りの酔っぱらいの戯れ言にしか聞こえない。
「……この、イヤらしい服の女の人、何?」
「レヴ、貴女にはまだ早いですわ。少し私の方を向いていましょう」
「……カールは、不潔?」
カール大好きっ娘の思春期レヴちゃんは、心底悲しそうな顔をしている。この野郎、レヴちゃん泣かしたら許さんからな。
「ふーん。私があれだけ頑張って資金をやりくりしてた間に、カールはエッチなお店で散財する人なのね。ふふふ、殺すわよ」
「誤解だマイカ! 本当に、本当に魔族が襲来したんだって!」
「その割には服も装備も汚れてないけど」
「いや、それは頑張ったからで!」
まぁこれはカールの責任というよりかは、サクラの服が悪い気がしなくもない。風俗嬢の同伴にしか見えない。
「あの、サクラ・フォン・テンドーさん。どうしてそのような、扇情的な衣装を?」
「うるさいわね、今着れる服がこれしかなかったのよ」
話が進まなさそうなので、助け舟を出しておくか。サクラの口から説明があれば、二人も納得するだろう。
「マイカさん。この方は紛れもなく、テンドー家のご令嬢サクラさんですわ。何故か、水商売の服を着てらっしゃいますけど」
「え。サクラって、あの高慢ちき貴族?」
そうだよ。会ったことあるだろみんな。
「……言われてみれば、確かにあの貴族。胸が萎んでて気付かなかった」
「髪が解けてるからか、貴族のオーラが無くて分からなかったわ」
「胸なんか萎んでないし、貴族のオーラくらいちゃんとあるわよ!!」
……。あ、言われてみれば初めて会った時と比べて胸が萎んでる。
ちょっと盛ってたのか。
「貴族がどうして、そんな商売女みたいな服を?」
「アジトが半壊したので、最寄りの私の店の娘から服を借りたの」
そういや、あの辺りは風俗街近かったもんな。風俗嬢の服借りたのか。
「……じゃあ、魔族が襲来したのは本当?」
「ああ」
「じゃあ正体不明の猿の仮面を被った怪人が、魔族相手に大立回りして勝ったのも本当なの? その話で戯れ言と確信したんだけど」
事実です。
「雇い主の私が言うのもなんだけど、猿仮面については深く考えない方が良いわ。頭がおかしくなるわよ」
「俺も同じ意見だ。道端で全裸で歩いている人が居たら、お前ら見て見ぬふりをするだろう? それと同じ対応で構わない」
流石にソレと同じ対応は遺憾です。
「ふむ。魔族の襲撃が事実だとしたら、ひとまずは女神様の指令を達成できたって事なのかしら」
「ああ。女神様は『この街は暫く大丈夫』って言ってたな」
「……そう。じゃあ、次は何処へ行けばいい?」
「まだ未来を読み切れないそうだ。暫くは、修行して敵に備えろってさ」
ふむ、次の行先は不明なのか。
なら、しばらくこの街を拠点にして情報収集しつつ筋肉トレーニングあたりが妥当かな。
「では、改めて名乗らせてもらうわ。私はサクラ・フォン・テンドー、この街の『夜』を司る快楽と堕落の貴族」
「はぁ、どうも。……そういえば貴女、カールが仲間になるって言ってたけど」
「ああ、そのこと? 昨晩テンドー家の勢力がほぼ壊滅したから、この街に残ってたらいくつ命があっても足りないの」
若干目が死んでいるサクラは、そう言うと速やかに地面に正座した。
「僅かに残ってる私の資産は好きにしていいから、連れて行ってください……」
「ちょ、土下座しなくても」
……。そうか、サクラの家は実質壊滅してたな。
後ろ盾が無くなった貴族ほど惨めなものはない。ましてや、こんな治安の悪い街の貴族なら尚更だ。
人買いに『元貴族の奴隷』とか銘打たれ、変態糞貴族に売られるのが関の山だろう。
「サクラはかなり高レベルの回復術者だそうだ。パーティに医者が居ると居ないとでは大違いだし、俺からも『是非仲間に』とお願いした」
「ふーん。カールがそういうなら、私は別に良いけど。回復術者は仲間にして損がないし」
それに彼女は、俺のあの重傷からこうして五体満足に回復させてくれた。
その恩は、返さねばならないだろう。
「私としても賛成ですわ。サクラさんは、この街で唯一まともな対応をしてくださった貴族ですし」
「……最初に会った時、イリーネさんには割と邪険に扱っちゃった気がするけど」
「挨拶を返してくださり感動しましたわ。まさか、サクラさんが礼儀という概念を理解しているなんて」
「私に対する期待値低くない!?」
すまん。その前の2家の対応で、期待値が下限突破していたのだ。
「……その貴族に1度助けてもらった恩があるから、反対はしないけど」
「何か含みがありそうな言い方ね。遠慮せず言って良いわよ」
「……コイツ卑猥な服着てるし、信用出来ない。パーティーの和を乱しそう」
レヴちゃんは、サクラの加入に難色を示していた。
そういやこの娘、俺が加入した時も反対気味だったっけか。人見知り激しいのかな。
「この服は普段着じゃないわよ? 普通の服買って着替えるまでの繋ぎだしぃ」
「……でも、何となくカールを誘惑しそう。躊躇いなく胸とか露出しそう」
「躊躇いが無かった訳じゃないわよ!」
せやな。非常事態だったもんな。
「それに男1人に女4人のパーティー、バランス悪い……。男に性転換して出直してきて」
「無茶言わないでよ……」
「その辺にしなさいな、レヴちゃん。カールが入れると決めたのですから」
「イリーネ……。むぅ」
放っておくと際限なく毒を吐きそうだったので、一旦レヴちゃんを抱き締めて落ち着かせてあげる。
見知らぬ人への警戒心が強すぎる。本当に小動物みたいだなぁ。
「それに、もう一人連れていきたい人が居てだな。まぁ、連れていきたいというか『連れていってくれ』と懇願されたというか」
「……え、もう一人ですの?」
「重傷だから今は上で休ませてるけど、サクラの配下の男が1人着いてきたいそうだ。これで男女比は少しマシになるぞ」
「お、男の人? 知らない、男の人、怖い……」
……。それってもしかして、マスターか?
「彼は私の付き人みたいなモノよ。基本的に私の傍から離れないから、あんまり気にしないで良いわ」
「……その男は連れていく価値あるの? 話を聞いてると、戦闘要員にはなれなさそうだけど」
「あの男は役に立ちますわよ? スラム出身ですが話術だけで成り上がり、人気風俗店を経営するに至ったその手腕と人生経験は中々のモノです」
ほー、マスターって結構凄い人なのか。確かに、人生経験は豊富そうだが。
「いや、ソレ要はただのチンピラって事じゃ」
「……ヤらしいお店の経営者? それは、ヤダ」
だが、流石に女性陣の受けは悪い。風俗店関係者ってだけでかなり胡散臭いもんな。
話してみると、マスターは結構いい人なのだが。
「……お嬢」
「あ、貴方! まだ動いちゃダメっていったでしょ!」
そんな、パーティ女性陣から反対の雰囲気を感じ取ったのか。すごく顔色の悪いマスターが、食堂にゆっくりと降りてきた。
大丈夫か、この人。フラフラじゃないか。
「いえお嬢。この宿屋は床が薄くてね、話が聞こえてきちゃいまして」
「……だからって」
「カールの旦那、その仲間の皆さん。どうかこのしがないショボくれたオッサンの、一生に一度の頼みを聞いてくれねぇか」
見るからにまだ不調そうなマスターは、震える足を折り曲げて地面に額を擦り付け、俺達に頭を下げた。
いきなり重傷者が鬼気迫る勢いで頭を下げたので、マイカもレヴちゃんも凍り付いている。
「この方は、お嬢は、俺の全てなんだ」
そのオッサンは、サクラの為に命を懸けて隙を作ったその男は、自分より一回りも二回りも年下の俺達に土下座を続けた。
「魔族のせいでテンドーの家も壊滅し、風俗の経営も手放さなきゃいけねぇ。共に夢を語り合った友人も、みんな化け物に食われちまった。俺に残されてるのは、もうサクラお嬢だけなんだよ」
「……」
「旅の途中で俺が不要だと思ったなら、奴隷に売り払って資金に変えてもらっても構わねぇ。俺ぁ少しでも、お嬢の力になれる事がしてぇ。頼む、連れてってくれっ……」
枯れた声の、心よりの懇願。
俺はその言葉に、嘘を感じなかった。これはひたすら真摯な、この中年の男の本心だった。
彼は、何もかも失って残された命をサクラの為に使いたいと、本気でそう思っていた。
「……むぅ」
「俺としては、この人に着いて来て貰っても構わねぇと思ってるんだが。男が俺一人ってのも、肩身狭いし」
まぁ、確かにこんな頼み方をされちゃあ断れんよな。俺も賛成しておこう。
「私はサクラ・フォン・テンドーさんを信用しています。彼女が勧める男性であれば、同行に何の不満もありませんわ」
「そうね。何かやらかしたらその場で追い出せばいい話だし。男手として、ついて来て貰うのもありかもね」
「……えー」
レヴちゃんは俺の背中に隠れ嫌な顔をしているが、マイカも一応納得してくれたみたい。
よかったよかった。レヴちゃんは、早く人見知りを治さないとな。
「恩に着る。この命、お嬢とあんたらに捧げることを誓おう」
「はいはい、満足したなら早く上に上がって寝なさいよ。心臓破けてたんだからね、貴方」
「うっ。了解です、お嬢」
心配そうにマスターに駆け寄るサクラ。心臓破けるって、ソレ相当やばくないか?
「腕を貸しますわよ、付き人さん。私、ちょっとこの方を二階に送ってきますわ」
「え、あ、どうも」
「イリーネ、大丈夫? その人、結構体格良いけど」
「身体強化を使えば余裕ですわ」
重傷だとは思っていたが、まさか心臓ぶち抜かれてるとは思わなかった。
俺は肺が破れただけだし、彼よりは大したこと無い。
マスターの方がよっぽど重傷じゃないか。まったく、そんな体で降りて来るなんて無茶な男だ。
……いや。心臓と肺が破けるのって、どっちが重症なんだろうか? なんとなく肺の方が破けやすい気がするけど……。
「ほら、しっかり捕まってください付き人さん」
「かたじけねぇ」
まぁどっちでも良いや。なんか俺、サクラの治療のお陰か結構調子いいし。
「はい、付き人さん。このベッドで横になっていてください」
「ありがとうな」
ヨロヨロのオッサンの肩を担ぎ、2階のカールの部屋に放り込む。
男部屋で寝とけ。
「俺のことはマスターで構わねぇ。もう、バーも店も失ったけどな」
「なら、マスターとお呼びしますわ」
おう、俺もそっちの方が呼びやすい。付き人さんって言いにくいんだよな。
「ではマスター。何か欲しいものはございますか? 喉は渇いておりませんか?」
「ありがとう、大丈夫だ」
そうか。なら、もう俺は降りるか。
「では、お大事になさって」
「……ああ」
にしても、一気に大所帯になったな。6人旅か。
サクラが一緒に来てくれるのは心強いし、マスターの料理の腕は絶品だし。旅が楽しくなるな。
「……なぁ、イリーネさん。あんた、猿か?」
「……」
俺がふと気を抜いた、その瞬間。
マスターは不意に、俺の正体の核心を突いてきた。
「どうなんだ?」
「……ふむ」
ふむ。やはり、気付かれていたか。
精霊砲は、ヴェルムンド家の代名詞。あの魔法を人前で使った時点でバレるのは覚悟していたが……。
マスター相手と言えど、正体はなるべく知られたくないのが本音。あんな猿みたいな粗暴な振る舞いを、他家に知られたらヴェルムンド家の品位が問われる。
───生き別れの兄とか、そう言う方向で誤魔化すか。
精霊砲を使える、とある事情で勘当になった猿好きの兄が居ると言ってみよう。
おお、良いなコレ。割と説得力のある嘘な気がするぞ。
よし、これで誤魔化せる。いや、誤魔化して見せよう。
「な、な、何を言ってるのかお前、バカ野郎この野郎。わたわわわたしには生き別れの兄が居るウッキ」
「全身から馬脚生えてるぞ」
おお、いかんいかん。結構動揺してたわ俺。
嘘を突くのは得意なつもりだったが、こんな不意討ちで問い詰められる状況には慣れてないし。
「カールと飲んでる時、ヤツの仲間の話題になると猿仮面は動揺してたからな。猿の中身はカールの関係者だと睨んでた」
「動揺なんかしてませんわよ、ウホホホホ」
「お嬢様笑い出来てねーぞ」
クソ、この男鋭いじゃねぇか。どうしよう、秘密を知られたからには口封じをしなければ。
どうしようか……。
「……安心しろよ。別に、言い触らしたりしねぇからよ」
「いえ、その、本当に、俺……じゃなくて私は」
「はいはい。じゃ、俺が勝手にアンタを猿だと思って話しかけるわ」
しかし。
当のマスターは、別に言い触らすつもりは無いと言い放った。
「────今日は、ありがとうな」
「……」
「お嬢を守ってくれて、仲間の仇を討ってくれて、ありがとう」
……。
「魔族を退けたのは、カールですわよ?」
「アンタがいなけりゃ、お嬢は死んでただろ。それに、仲間の直接の仇を討ったのはあんただ」
「……そんな言葉を頂いて、さらに誤魔化すのは無作法ですわね。貴方のお礼、受け取っておきますわ」
あー。もうバレバレっぽいし、おとなしく白状するか。
噂が広まったらどうしよ。
「その、マスター? 少しお聞きしたいのですが」
「別に構わねぇが、その敬語やめてくれねぇか? その方が親しみやすいぜ猿」
「……そうかい。あのだな、サクラお嬢様は俺の正体に気付いてると思うか?」
俺は、サクラの事をよく知っているだろうマスターに相談してみた。
気にはなっていたのだ。俺の体を治療したサクラも、俺の正体に気付いてそうだと。
彼女にもバレてるなら、しっかり口止めしておかなければ。
「お嬢様か。……んー、どうだろうな?」
「分からないか?」
「サクラお嬢は鋭い時はとことん鋭い人なんだが、普段は物凄いポンコツでな。あの反応だと、気付いてねぇんじゃねぇの?」
……えっ。普段は物凄いポンコツなのか、サクラ。
「うっかり集合場所を間違えて拉致されるわ、詐欺に騙されて全財産の半分くらい毟られるわ、何もない所でスッ転ぶわ」
「……あらら」
「あのお嬢だけ旅に連れていかれた日には、お前らにどんな迷惑をかけるか分かんねぇ。俺がついて行ってやらねぇと」
そういや猿仮面として出会った日、拉致られてたなあのお嬢様。薄々そんな気はしてたけど、結構ウッカリな人なのか。
「そ、そっか。俺も気を付けて見とくよ」
「おう。……土壇場だとトコトン頼もしくなる人なんだがなぁ、お嬢は」
だがいくらポンコツでも、サクラは俺にとって命の恩人。しっかりフォローしてあげるとしよう。
いざという時は凄く頼りになるし。
「じゃあ、俺はちっと寝るわ。おまえも重傷だったんだから、早く休めよ」
「はいよ、サンキュー」
その言葉を皮切りに、マスターは目を閉じて静かに寝息を立て始めた。きっと、もう限界だったのだろう。
「おやすみ、マスター」
俺はそんなオッサンにシーツをかけてやり、再び食堂へと向かった。
「寝ましたわ、彼」
「悪いわね、イリーネ。本当は主たる私の仕事なんだけど」
「気になさらなくて結構です。こう見えて、力持ちですのよ」
あくまで清楚な範囲で、俺は力こぶを作りマッスルアピールする。
……うむ? なんとなく筋肉に元気がないな。やはり俺の身体はまだ本調子じゃないらしい。
「イリーネ、お疲れ。とりあえず今後の動きを話し合ってだな、元々受ける予定だった商人の護衛依頼をそのまま受ける方針にした」
「ああ、魔族が食いつくかもしれないと仰っていた依頼ですわね」
「次の行先が定まっていないし、どうせ旅をするなら丁度いいかなって」
そうだな。その依頼を受ける理由は無くなったけど、断る理由も現状ないもんな。
小金稼ぎに、しっかり依頼をこなしてやろう。
「行先がヨウィンってのも、ちょうどいい……」
「ヨウィン、ですか」
「そうね。魔法学研都市ヨウィン、古代の勇者伝説を研究している専門家のいる街」
おお、それは何か聞いたことがある。
色々な魔法学者たちが集って研究施設を作り、その最先端の知識を欲した有力者が移り住んで、いつしか大きな街へと発展したという研究者の為の街。
「過去の魔族との戦争資料が手に入れば、一石二鳥ね。適当に選んだ依頼だったけど、良い行先じゃない」
「もう買い出しも済んでいますから、準備もいらないですわね」
そっか。じゃあ、この治安の悪い街とはおさらば出来るのか。
風俗の店の客たちは悪い連中じゃなかったが、チンピラやらウサギ仮面やらに絡まれるのは正直もう御免被りたい。
「じゃ、今日はもう予定が無いのね。今から屋敷へ向かって路銀になりそうなものを回収しに行くわ。私を護衛しなさいカール」
「屋敷って、テンドー家のか?」
「そうよ。きっと今日中に、事情を知った他家のチンピラが略奪しに来るはず。それより早く、持ち出せる財産は持ちだしたいの」
サクラはそう言うと、カールの手を引いて外へ出た。
財産の確保ね、それは大事な仕事だ。
「もう少ししたら嗅ぎつけられて、戦闘になるかもしれない。急ぐわよ」
「ほほう、私も同行するわ。貴族の屋敷から、ドサクサに紛れて金目になりそうなものを片っ端から持ち出せばいいのね」
「マイカさん、でしたっけ。貴女、なんか目が輝いてません?」
……マイカは何でそんなに嬉しそうなんだろう。
まぁ、資金が増えるのはありがたい話であるが。
「そう言うことでしたら、私もお手伝いをしますわ。多少は腕に覚えが……」
「イリーネさんは結構、ここで休んでなさい。私がここに逃げ込んだ姿はきっと見られてるもの。旅の資金や装備を置いてるこの宿を、防衛する戦力は必要でしょう?」
「え、はい。分かりました」
筋力には自信があるので荷物運びを手伝おうと申し出てみたが、残念ながら俺はお留守番らしい。
拠点防衛は確かに重要だしな。仕方ない。
「じゃあ、レヴとイリーネはこの宿で待っていてくれ。俺達で、路銀を回収してくる」
「オッケー、目利きは私に任せなさい。金目の物を正確に判定してあげるわ」
「いや、私の家の所有物なので価値は大体わかってるつもりですけど……」
でも、なんかソレ楽しそうだな。ちくしょう、ちょっと羨ましい。
「じゃあ、出発ー!」
「盗賊を実家に案内している気分ね……。気が重いわ」
「いってらっしゃいまし」
うーん。俺ってば後衛職だし、チンピラと殴り合いする様な任務には不向きと思われてるのかも。
弱いと思われるのは悔しいから、もっとレヴちゃんに鍛えて貰おう。
チンピラくらいなら、多分もう勝てるけど。いつか、魔族を一人でボコボコに出来るくらいには強くなろう。
「……まったく。3日間は絶対安静って言ったでしょうに」
「ん? サクラ、今何か言ったか?」
「何も言ってないわよぉ?」
朝の戸張に、包まれて。
そのギャング令嬢の呆れた声色の呟きは、早朝の街の雑踏にやがて溶け消えた。