【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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2話「筋肉と恋人はよく似ている、嫉妬深い所とかな!」

 旅というのは素晴らしい。

 

 歩き通しで1日間過ごせるなんて、貴族として生きていた間は考えられなかった。貴族という生き物は、やれ馬車だの人力車だの、楽な移動手段を用いる事こそステータスと考えられていたからだ。

 

 俺も薄々気づいては居たのだ。俺のマッスルは、持久力に乏しいと。

 

 俺は、今まで様々なトレーニングを重ねて瞬発的な筋肉は鍛えてこれた。だが、持久力のある筋肉は中々鍛えられていなかった。

 

 と言うのも、魔法の座学の時間や礼儀の時間、社交界の時間など、色々と貴族も忙しいのだ。俺は、貴族としての職務から解放された夜の寝る前のわずかな時間に、鍛練を行っていた。

 

 だからこう、一日かけて軽い負荷を続けるトレーニングを行う機会はなかったのだ。

 

「……本当に、鍛えていたんですね。イリーネさん、全然疲れてなさそう」

「そうでもありませんわ。疲れを顔に見せぬよう誤魔化していますが、こういった長時間の運動はなかなか経験していませんの」

「あ、ごめん。ひょっとして、イリーネさん疲れてた? ちょい休む?」

「いえ、結構。この程度で休んでいては、魔王相手に戦えませんわ」

 

 俺の体にはあまり持久筋が無いからか、ただ歩き続けているだけで割といい感じに筋肉を虐められている。

 

 これだけでも、旅に出た甲斐があるというものだ。色々と負荷を変えてやるだけで、俺の筋肉は更に発達していくだろう。

 

 次は小走りくらいの負荷をかけてみたい。

 

「レヴなんか、私達についてきた日はずっとカールに背負って貰ってたよね」

「それを考えれば、やっぱイリーネさん体力あるよ」

「あうう……」

 

 見るからに小動物系のレヴちゃんは、あんま筋肉なさそうだもんな。そりゃしゃーない。

 

 よしよし。もし彼女が疲れたらウェイト代わりに俺が背負ってやろう……。

 

 と、言いたいのだが。そう言い出せるほど、俺と彼女はまだ仲良くない。むしろ、レヴちゃんは俺に対し警戒心剥き出しだ。

 

 俺が近付くと、ビクッと肩を揺らしてマイカやカールの後ろに隠れてしまう。

 

 早いところ、仲良くなりたいなぁ。

 

「ところで、レーウィンの街に着いたら、どうするつもりですの?」

「そこを拠点にしばらく活動する予定だよ」

「ふむ、具体的には?」

「女神様が言うには、そこが魔族の最初に狙う都市らしいので。だからレーウィンで魔族の情報を集めつつ、敵が攻めてくるのを待つ」

 

 ふむ、成る程。つまり、俺はレーウィンで暫く筋トレしていればいいのか。来るべき戦いに備え、筋肉を調整しておかねば。

 

 ……あ、待てよ。そういや、普段筋トレをする場所はどうしよう。流石に、こんな初対面の平民の前でフンフンフンフンする訳にはいかない。

 

 そもそも、筋トレをする姿は傍目には見苦しい。家の品位を守るためにも、1人で誰にも見られず筋トレできる時間が欲しい。

 

 だが、仲間と旅をする以上、一人になれるタイミングなんてあるのか? それも、トレーニングを行うなら数時間ほど。

 

 ……厳しいよなぁ。まさか、俺は今まで通り筋力トレーニングが出来ない!?

 

 これはまずい。筋肉は嫉妬が強く、浮気に厳しい奴なのだ。少し構ってやらない時間が多いと、すぐにそっぽを向いてしまう。

 

 せっかくコツコツと作り上げてきたインナーマッスルが、フニャフニャになってしまったら俺はショックで自殺してしまうだろう。

 

 うーむ、対策を考えねば。深夜にこっそり起きて、フンフンするべきだろうか。夜更かしは肌に悪いから、令嬢的には止めておきたいんだが。

 

「今日は、この辺で野宿にしよう」

「……あら?」

 

 などと今後の筋肉との向き合い方を考えていると、カールは見晴らしの良い野原で立ち止まり、ドスンと荷物を下ろした。ふと空を見上げれば、いつの間にか日が赤く、地平に落ちかかっていた。

 

「今日はここまで来れれば十分だ。このペースだと、3日もあればレーウィンに着く」

「そうね、今日はこの辺にしときますか。旅に慣れていないイリーネさんも居る事だし、あんまり無茶は良くないわね」

 

 夕焼けの空が、赤い平原を照らしている。なるほど、そろそろ夜営の準備をする必要があるのか。

 

 ……。夜営ってどうすれば良いんだろう。何を手伝えば良いのかな?

 

「ここで休むのですか。して、私はどのようにすればよろしいのですか?」

「今日はちょっと汚いけど、この寝袋を使ってくれイリーネ。今日の見張りは、俺とマイカでやる。旅の初心者たる君は、ゆっくり休んでいて」

「……そ、それはどうも。大変ありがたいのですが、その。野宿ってここで雑魚寝なさいますの? 一面、何もないようですが」

「そうだね。一面何もない場所だからこそ、襲われにくいんだ」

 

 周囲は、一面見渡す限りの野原。遠目には森などが見えているだけで、遮るものが何もない大平原だ。

 

 え、ここで雑魚寝するの?

 

「み、水浴びなどはどうすれば……? まわりに、水源も何もございませんし」

「あっはっはっは、やっとイリーネさんが貴族らしい所を見せたわね。冒険者は、毎日水浴びなんかできないわよ」

「明日、近くに川があれば寄るつもりなので。イリーネには申し訳ないけれど今日は我慢してください」

 

 カラカラと、同じく女冒険者のマイカが笑う。

 

 そっか、平民はいちいち身を清めないのか。それで小汚い身なりになっちゃうのね。

 

 まぁ俺も身なりを気にするのは、あくまで令嬢的な価値観に基づいてのことで。平民のふりをしている今は、特に気にしなくても良いと思うのだけれど。

 

 ────マジで、一人になれるタイミングがねぇな。

 

「……やっぱり、貴族様に旅は厳しい? ……帰る?」

「帰りませんわよ。……ふむ、でしたら」

 

 よっしゃ、こうなれば力技だ。筋肉との愛を守るため、久しぶりに派手に魔法をぶっ放すか。

 

 魔法を使うがこれは浮気じゃない、むしろ筋肉への純愛だ。うん、てか俺、いざという時に魔法使えんと困るしね。

 

「あー、皆様、ちょっと離れていてくださいな」

「……ん?」

 

 えーと、上級魔法はうろ覚えなので自信はないのだが……。うん、なんとなく呪文思い出してきた。

 

 これでも一応魔法使いとしてパーティ加入しているんだ、ここは復習を兼ねて本気でやっとこう。

 

「炎の精霊、風神炎破、錦のそよ風、爆連地割の大明封殺!」

「え、あの、イリーネさん?」

「来たれ粉塵、飛び散れ岩炎、集積を成すは鋼の克己!!」

「な、何!? イリーネさん怒った!? そんなに、水浴びできないのが嫌だったの!?」

 

 あ、ちょっと呪文間違えた気がする。鋼じゃなくて黒鉄の克己だったような……? 

 

 いやまぁ良いや、気にせずぶっ放してやれ。

 

「行きますわ、これが私の最大火力!! エクストリィィィム、バスタァーッ!!」

 

 

 

 ────ちゅどーん。

 

 

 

 俺が約1年ぶりぶり3回目に放った爆炎の上級魔法は、なんとか無事に野原の丘に着弾し大爆発を巻き起こした。

 

 うーん、やっぱり魔法は好かんな。呪文を覚えるのが面倒くさいし、魔力の制御がちまちましていて性に合わん。

 

 威力は申し分ないけど、ロマンがない。例えるならこれは、火薬を仕掛け爆発させただけだ。

 

 やはり肉弾戦の方が、俺は好みだ。いつか、上級魔法並みの威力のパンチを放てるようになりたいものだ。

 

「にゃあああ!!」

「ひぃぃぃ!?」

 

 近くで仲間たちの迫真の悲鳴が聞こえてくる。

 

 上級魔法を間近で見たことがなかったのかな? 見れば、カール達は腰を抜かして座り込んでいた。そうビビるなよ、ただの爆発じゃないか。

 

「え、あの、イリーネさん? 貴女は一体何をやって……」

「出来ましたわ、横穴」

「えっ」

 

 だが、嫌いな魔法を使った甲斐はあった。俺の魔法は見事に成功し、野原の小さな丘に大穴を開けることに成功した。

 

 これで、簡易洞穴の完成だ。

 

「ふふ、では私はあの中で水浴びをしてきますわ。この中ならカール様が意図して覗きに来ない限り、服を脱いでも体を覗かれません」

「あぁ成程、それでいきなり魔法を……。で、水源はどうするの?」

「水魔法の適性を私は持ってますので。私は今から少し、お時間を頂きます」

「あ、ああ。どうぞ、ごゆっくり」

「……そんな事で簡単に、魔法で地形を変えるのね。貴族の人って大胆というか何というか」

 

 よし。これで一人になれる空間を強引に作り出したぞ。

 

 後は、なるべく声を出さずにフンフンするとするか。

 

「……イリーネさんって、少し変わってるかな?」

「そうね。嫌味な人じゃないけど、エキセントリックな人ではありそうね……」

「怖い……、爆発魔法怖い……」

 

 背後から何か聞こえてくるけど聞こえないふりをしよう。さぁ、今こそマッスル達との蜜月の時間だ。

 

 今日は軽く、超高速スクワットから始めるとするか。いくぞぉぉぉぉ、スクワット1万回ィ!!

 

 

 

 

「……私たちは、寝床の準備をしましょうか」

「そうだね」

「……? なんか、物凄い速度のフンフンが聞こえない?」

「え、何それ聞こえない」

「そもそもフンフンって、何さレヴ?」

「いや、その、フンフンとしか言いようのない声が……」

 

 息を殺して、声を潜めてえぇぇ!! ふん、ふん、ふん、ふんふんふんふんふんふんんっ!!

 

「や、やっぱり聞こえる!」

「レヴ、大丈夫?」

 

 フン、ハー!! フン、ハー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……イリーネさん、遅いわね」

 

 ふんぬー!! 逆立ち腕立て、後300回ぃぃぃ!!

 

 ふんぬー!! ふんぬー!! ふぬん……っ!

 

「水浴びにしては、時間がかかっているな。マイカ、少し様子を見てきてくれないか」

「了解よ」

 

 ……ふんぬ?

 

「おーい、イリーネさーん?」

 

 近づいてくる人の気配と共に、洞窟の外からマイカさんの声が聞こえてきた。

 

 どうやら、俺は筋肉との愛に夢中になりすぎたらしい。既に、それなりの時間が経過してしまった様だ。

 

 俺は手早く桶の水をひっかぶり、汗だらけの肉体を洗い流した。こんな穴の奥で貴族令嬢が筋トレをしていたと知られるわけにはいかない。

 

 バレたらまるで、俺が変な人みたいではないか。

 

「はい、何でございましょう」

「あ、居た居た。ずいぶん時間をかけているみたいだから、様子を見に来たんだけど……」

 

 マイカさんはヒョッコリと、穴の奥まで顔を覗かせた。しかし時既に遅し、俺は取り繕いを終えた後だった。

 

 彼女からは、俺が普通に水浴びしているようにしか見えないはずだ。

 

「私は、髪のケアに時間をかけておりまして。せっかく今まで大事にしてきた髪ですもの、旅に出たとしてもそれは続けたいのですわ」

「あー、その気持ちは分かるかも。イリーネさんの髪、長くて綺麗だもんね。そっか、それで時間かかってた訳ね」

 

 今まで髪のケアなんぞしてなかったけど……。まぁ、でも咄嗟に出てきたにしては良い言い訳ではなかろうか。

 

「もう少しで、上がりますわ」

「りょうかーい」

 

 何にせよ、これで上手く誤魔化せた。マイカさんが立ち去ったら、筋トレ再開するか。

 

 今日のノルマが終わった後は、ついでに髪をよく洗って、一応ヘアケアした振りをしとこう。

 

「……じゃ、私は、これ、で……」

 

 納得した顔のマイカさんは、そのまま俺に一声かけて、穴から戻ろうとする。

 

 しかし。何かを直視した彼女は突然目を見開き、顔をひきつらせた。

 

「あら、どうかしましたかマイカさん」

「あ、ひ、ひ?」

 

 マイカさんは顔を真っ青にし、絞り出すような声で縮み上がっている。

 

 む、一体どうしたというんだ。

 

「へ、へ、へ」

「……屁?」

「ひゃあああ!!! へ、蛇ぃぃぃ!!!!」

 

 彼女はそう叫び、その場で尻もちをついて俺の方へ抱きついてきた。

 

 あー……。よくみれば、魔法の衝撃で眠りから目覚めたのか、ニョロリと蛇さんが土から顔を出していた。

 

 これか。

 

「へ、へび、蛇っ!!」

「……マイカさん、蛇が苦手ですの?」

「誰だって嫌でしょ!? 私、ちっちゃい頃に噛まれて死にかけたのよ!! 蛇をバカにしちゃだめよ、噛まれたら痛くて辛くて、おまけに激痛のせいで気絶できないんだから!!」

「あらまぁ」

 

 珍しく、マイカさんは取り乱している。

 

 どうやら蛇にトラウマがあるらしい。彼女は飄々として見えたが案外、こういうのには弱い様だ。

 

「じゃ、私が追い出して差し上げ────」

「何が起こった、マイカァ!!!」

「……へっ?」

 

 

 

 

 

 

 直後。焦った表情のカール青年が、俺が水浴びをしている穴に飛び込んできた。

 

 あまりに咄嗟で、体を隠す余裕などない。むしろ俺は、蛇を掴むため布を手に巻いていたので、一糸纏わぬ生まれたままの姿だった。

 

 そして俺は全裸のまま、目を白黒しているカールと真っ正面から向き合った。

 

「……あ」

「へっ……?」

 

 当然ながら生まれてこの方、父親以外の男性に裸を見られたことなどない。

 

 これでも俺は、箱入り令嬢なのだ。

 

「あ、いや、アレ? マイカ、無事か……?」

「……」

 

 カールは混乱し、その場から動けずにいた。まだ、いまいち事態を把握できていないらしい。

 

 ふむ。

 

「ちょっと動かないでくださいな、カールさん。そこに蛇が出ましたの」

「あ、ああ蛇。蛇ね、了解」

 

 俺は気にせずにカールの傍に歩き、そのままひょいっと、蛇の顔をつまみ上げて洞穴の外へ放り投げた。

 

 せっかく、俺の放った爆発魔法の近くに居たのに生き延びたんだ。その命、大切にしろよヘビ公。

 

「あ、ああー、蛇ね。成程、マイカは蛇で悲鳴を上げたのね」

「そうですわ」

 

 だんだん状況が把握できて来たのか、カール青年の顔が青くなってくる。

 

 平民が、嫁入り前の貴族令嬢の水浴びを覗く。ぶっちゃけこれは、死刑クラスの狼藉である。

 

 現在進行形で顔を逸らさず、俺の裸体をガン見しているのもポイント高い。

 

「そ、その、違うんです。これは、その」

「良いから後ろを向きなさいよ、このエロ男!!」

「ずびばぜん!!」

 

 ガスッ、と気持ちのよい音が響く。

 

 蛇がどこかへ行って復活したマイカさんが、棒立ちしていたカールの顔面に膝蹴りを放ったのだ。

 

 それも、真ん中にクリーンヒット。カールの顎を揺らす様に入ったな、良い運動センスだ。

 

「ご、ごめんなさいイリーネさん! カールの馬鹿が、いやそもそも私が叫ばなければ!」

「ごめんなさい、ごめんなさい!! 違うんです、悪気はなかったんです、本当にごめんなさい!!」

 

 しかし、中々良い一撃をもらったにもかかわらずカールはそのまま流れるように土下座の体勢に移行した。

 

 ……タフだな、コイツ。

 

「ふふふ、気になさる必要はありませんよマイカさん」

「う、その。多分カールは本当に悪気はなかったと思うんで、どうか許してあげていただけたら」

「そもそも、私は怒ってなどいませんよ」

 

 とまぁ、顔面蒼白にして恐縮しているエロ男を前に。俺は普段通りの笑みを浮かべながら頭を撫でてやった。

 

 ふ、この男に下心がない事くらい見ればわかる。俺を舐めないで貰おうか。

 

「お父様も仰っていたと思いますが。私は、人が嘘をついたり誤魔化したりしていればなんとなく分かるのですわ」

「え? は、はぁ」

「この場所に飛び込んできた時の、カールさんの表情は見えていましたもの。仲間が心配でたまらない、そんな顔をしておいででした。マイカさんが心配で、反射的に駆けつけてきたみたいですね」

「は、はい……」

 

 おう。ならば、俺がカールを責める理由などどこにもない。

 

 漢たるもの、ラッキースケベの一つや二つ起こして当然だ。それもまた、青春!

 

「仲間が心配で、反射的に体を動かせる。それは、貴方の美徳そのものでしてよ? 何を恐縮する必要があるのです」

「え、でも、その。俺は、イリーネの体を見てしまって」

「貴方に少しでも邪な目的があったならば、それはそれはきついお仕置きが行われたでしょう。ですが……ただの事故に対して憤慨するほど、私は狭量ではありませんよ」

 

 俺は堂々と体すら隠さず(サービス精神)恐る恐る顔を上げるカールの前に立って言い放った。

 

「貴方の仲間想いなその態度、感服しましたわ! その崇高な精神に免じて、此度の狼藉は不問といたします。これからも高潔な貴方でいてくださいな、カール」

「お。おお……」

「これもまた、ノブレス・オブリージュ! 貴族たるものの矜持ですわ」

「おぉ……、おぉ?」

 

 カールは俺の決め台詞を聞いて、少し首をかしげている。

 

 うん、多分ノブレス・オブリージュは関係ない。言いたかっただけだ。

 

「許してくれるのか、イリーネ……?」

「そう言っておりますわ」

 

 もし下心有ったらぶっ飛ばしてたけどな。まぁ、今回はシロという事にしてやろう。

 

 マイカさんが即座に庇ったことからも、前科がある訳ではなさそうだし。

 

「マイカだったら全身複雑骨折までは覚悟しなきゃいけなかっただろうに……。イリーネさんは、なんて心が広いんだ」

「何か言ったかしらカール」

「ひっ。い、いや。許してくれてありがとうイリーネさん、もう二度としないから!」

「よろしくってよ!」

 

 彼はそのまま、俺の体を直視せず背を向けて出て行った。

 

 うむ。きちんと反省して、二度と同じ過ちを犯すなよ。

 

「……心が、広いんだねイリーネさんは」

「いいえ? 私は、悪意をもって行動する人間には、欠片も慈悲を用意しませんコトよ」

「……でも、私だとこうあっさり許せなかったかも」

 

 マイカさんは、あっさり許した俺を意外そうな目で見ていた。

 

 まぁ、こう見えて中身は漢を目指す男なもんで。裸見られても精神的にはほぼノーダメージなんだ。

 

 俺が裸見られて怒るかどうかの基準は、下手人が悪い奴かどうかである。

 

「……私も、そんな風に冷静にカールと接することが出来たらなぁ」

 

 ────そんな俺を、マイカさんは何故か羨ましそうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、今!! あの平民、お姉様が水浴びをしていた穴に飛び込みました!!」

「あら、本当ですね」

「馬脚を現しましたね、これだから男は!! ふふふ、楽しみです、アイツは姉様により処刑決定です。あの地獄の制裁を受けて立っていられるでしょうか?」

「……イリア様は制裁された経験がおありなんですね」

「これで姉様も目が覚めたでしょう。平民の男と旅に出るなんてもっての他です!! きっと、説得すれば家に戻ってきてくれるに違いありません!!」

 

 そのパーティが野営している距離よりはるか後ろ。

 

 こそこそと姉をストーキングしていた貴族令嬢とお付きメイドは、はるか遠くの野営パーティを指さしてぎゃあぎゃあ騒いでいた。

 

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