【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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21話「アルデバランの正体は?」

「……はぁ、はぁ。ついに手に入れたぜぇ」

 

 その時、俺は歓喜していた。

 

「まさか、本当にこんな奇跡のアイテムが実在していたなんて」

 

 こんなモノをお嬢様モードで購入したら噂になるかもしれない。

 

 だから俺は慎重を期して、猿仮面を装備してその店へと向かった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。んほぉ、たまんねぇ……」

 

 俺が手に持っているのは、怪しく緑色に輝いている宝石があしらわれた銀製のブレスレット。

 

 これはどうやら観光客向けの特産品らしいが、俺の心の熱い部分にヒットしてつい衝動買いしてしまった。

 

「これを身に付けるだけで、本当に────」

 

 勿論、俺は宝石や装飾品に興味はない。

 

 俺はただ、このブレスレットに付随している魔法効果に興味があったのだ。

 

 なんと、このブレスレットは……。

 

 

「体が、すっごく重いぞぉー!! うほぉおぉお!!」

 

 

 装着者に、重力負荷をかけることが出来るマジックアイテムだったのだ!

 

「すげぇ、これさえあれば誰にもバレずに24時間筋トレ出来るじゃねぇか……」

 

 このヨウィンの観光客に人気を博している、トレーニング用の筋力増強ブレスレット。

 

 その中でも、最も負荷の強いモノを選んで購入してみたが……、これは良い!! 体が一歩踏みしめるごとに圧がかかる!!

 

 これが悟●やベ●ータが愛用した修行……。テンションが超上がってきた。

 

 装備時は所有者の魔力を消費し、体全体に重力負荷がかかる仕組みらしい。つまり、戦いの最中にピンチになって「ふむ……本気を出させてもらおうか」とか言いながら重力ブレスレットを外すという格好いいムーヴが出来るようになった訳で。

 

 これは、実に画期的な装備品だ。俺の人生(きんにく)の革命にと言っても過言ではない。

 

「伝説の重力修行だ、これで俺も最強の戦士だ! うは、うははははは!!」

「このブレスレットを気付かずに姉様に装着させれば、自分が弱くなったと勘違いしてきっと────、あは、あははははは!!」

 

 

 

 そんなこんなでテンションが上がり、高笑いをしていると。

 

 俺の隣から同じように、高笑いをする声が聞こえてきた。

 

「……ん?」

「……おや?」

 

 なんだろうと、横を向いてみるとそこには……。

 

 

 

「なーっ!! 変態ウサギ野郎じゃねぇか!!」

「げ、ねぇ……じゃなくてお猿の不審者仮面!」

 

 なんとレーウィンの街でひと悶着あった憎き相手、ウサギちゃん戦士がそこに立っていたのだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って感じで、喧嘩になった」

「お前が言ってたウサギ野郎って、実在してたんだな」

 

 ────おい、お前なんで猿仮面になって喧嘩してんだよ。揉め事は厳禁だって言ったじゃねぇか。

 

 人気のない所で呼び止められた俺は、怖い顔のマスターにそう問い詰められていた。

 

「悪かったよ、熱くなっちまった」

「まぁ、ウチのお嬢も揉め事起こしてたし今回は大目に見るが……。次やったら正体バラすぞ」

「ごめんなさい。許してください。何でもしますんで」

 

 正体ばらされたらヴェルムンド家の威厳が地に落ちちゃう。

 

「……ていうか、カール達にも見られちゃったんだよな。マイカとレヴちゃんは、猿仮面の正体に気付いてそうだったか?」

「いや距離が離れてたし、二人とも目を合わせないようにしてたし。多分気付いていないと思うが」

「そっか、よかった。……あれ、何で目を合わせないようにしてたの?」

 

 幸いなことに、マスターの話ではみんな俺が猿仮面だと気付いていないらしい。

 

「そんなに正体バレたくないなら、筋トレ器具買う程度でワザワザ変装すんなよ」

「いや、俺みたいな清楚な可憐な美少女がマッチョ用の負荷グッズかったら目立つし……」

「……はぁ。次から、俺に言やぁ買ってきてやるぞ?」

「本当か!? それは助かる!!」

「お前は俺とお嬢の命の恩人だ、そんな程度の雑用で良ければやってやるさ」

 

 やはり、マスターは良い人だ。そう言ってくれるなら、次からはお願いしてみよう。

 

「後な、悪いがお前よりお嬢の方が清楚で可憐だ」

「……清楚? 可憐?」

「清楚で可憐だろぉが?」

「あ、ハイ」

 

 サクラは言うほど清楚で可憐だろうか。どっちかって言うと男前な奴だと思うが。

 

 清楚というのは俺の様にお上品で、可憐というのは俺の様に可愛らしい存在を言うはずだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マイカもイリーネも、あの場に居たのか?」

「私は居たわよ。あんたら喧嘩しそうだったから、いざって時の為に罠張りしてたんだけど……。ま、不要だったわね」 

「私も、何やら騒がしかったので遠巻きに様子を伺っておりました。あの方々はお知り合いなのですか?」

 

 集合時刻になると、既に待ち合わせ場所には全員集合していた。

 

 俺はその場にいたのか問い詰められたが、猿仮面については知らぬ存ぜぬで通すことにした。

 

赤いヤツら(アルデバラン)は知らんけど、猿仮面は俺の知り合いだな。……なんでアイツ、こっちに来てるんだろ?」

「……それって、魔族を1匹倒したっていう、例の怪人さん?」

「そうだぞ。あの滲み出る怪しさは間違いなく本人だ」

 

 いうほど滲み出ていたか?

 

「……正体不明の、強い戦士。きっとお父やお母の様に、あの仮面さん達は訳あって身分を隠しているに違いない……。かっこいい」

「レヴ、あれをカッコいいと認識するのはやめなさい。ダメです。お兄ちゃんは絶対に許しません」

「えー……」

 

 そうだよな、やっぱりアレ格好いいよな。

 

 やはり、カールはちょっとセンスが人とズレてるみたいだ。可哀想に。

 

「で、まだあんたはアレを仲間に誘う気? 私はご一緒したくないわね、怪しすぎるわ」

「中身は良い奴なんだ、本当に。それにシンプルに強いから、背中を任せられる」

「せめて仲間に誘うのは、身元がはっきりしてる奴にしましょうよ」

 

 まぁもう、仲間としてご一緒してるんですけどね。

 

「でもあの猿仮面、なんか大事な用事があるから仲間になってくれるつもりはないみたいよぉ? 本人が言い出すまでは、放っておきましょ」

「だな、とりあえずアイツは放置だ。バッタリ街中で出会っても、他人の振りをするんだぞ」

「言われなくとも話しかけるつもりなんてないわよ」

 

 おう、そうして貰えた方が誤魔かす手間が省けて助かるぜ。

 

「じゃ、もう時間だし換金しに行きましょ? 相場がマシな店は、もう見繕ってるから」

「お、仕事が早いなマイカ」

「誰かさんと違って、私は喧嘩で時間を潰したりしてないの」

 

 そういうと、マイカはいくつかの店の方角を指さした。

 

「今日中に手土産持って、紹介された学者さんの家に挨拶に行くわよ。それと、宿も探さないとね」

「……生活拠点の確保、大事」

「だな」

 

 俺達が喧嘩している間に、マイカは一人でやるべき事を終わらせてしまっていたらしい。

 

 うむ、カールより頼りになる。

 

「そんじゃ、行くぞ」

 

 こうして取引を無難に済ませた俺達は、商店街を離れた。

 

 そして商人に紹介してもらった『魔法学者ユウリ』を訪ねるべく、南エリアへと足を進めた。

 

 その先に、どんな出会いがあるのかと胸を踊らせながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ」

「よっておいで、見ておいで!」

「おお、君たち! バイトをしてみる気はないかい!?」

 

 南エリアへと通じる、水路を渡る橋。

 

 その場所は、多種多様な人々が往来して活気に満ちていた。

 

「ねぇねぇ、そこゆくお兄さん。少し、時間を頂けないかい。君には不思議な運命が渦巻いている気がするよ、ボクの占いを聞いていくといい」

「アルバイト募集だよ~! 危険なことなど何もないよ、ただちょっとジュースを飲んで一晩ゆっくりしてもらうだけ! その間、体の変化を記録させてもらえればバイト代貰えるよ!」

「生きの良い魔導ゴーレム、新作だよ! 使い道は特にないけど、ほら勝手に動くんだぜ! これは買いだろ!」

 

 商店街と住居エリアの中間であるその橋は、少し怪しげな露店で溢れていた。

 

 この感じは、レーウィンの風俗繁華街を思い出す。

 

 研究者の街だし、もっと静かな雰囲気を期待していたが……。まぁ、ここを越えればきっと静かになるだろう。

 

「ねぇ、お嬢さん。この薬を飲んで、一晩だけうちに泊まらないかい? 損はさせないよ」

「すみませんが、他を当たってくださる?」

「どうだい嬢ちゃん、このゴーレム。動くぜ!」

「……動いてますわね」

「そうだ、動くんだぜ! だから買え!」

 

 すれ違う度に声をかけられるのは、結構ウザかった。

 

 レーウィンの風俗街のポン引きは、まだ美人のお姉さんが声をかけてきただけマシだった。むさいオッサンに声をかけられるのは苦痛極まりない。

 

「ほらほら、そこいくお姉さん。ちょっと数分、頂けませんか」

「すみませんが、急いでますので……」

「ボクの話が役に立たないと断ずるのであれば、お代は結構ですよ。しがない占い師ではありますが、世の中を見通すことには長けているつもりです」

「いえ、その、ごめんなさいね? また、時間のあるときにお付き合いしますわ」

 

 そのまま流れで、橋の手摺にもたれ掛かったフードの女の子に声をかけられる。

 

 水晶を手に持ったその娘は、レヴちゃんより幼い。商売と言うより、ごっこ遊びをしている様に見える。

 

「聞いておいた方が良いよ? ボクが今から語るのは、与太話でも何でもない」

「……はぁ」

「なんと既に魔王が復活していて、間もなくこの街へと攻め込んでくるんだ。そうなってからじゃ、君達は他人事で居られなくなるよ」

 

 普段なら、ちょっとくらいは構ってあげても良かった。

 

 だが今日は買い物に喧嘩で時間がかかったので、早めに学者さんに挨拶に行きたい。今は、子供の遊びに付き合っている時間はない。

 

 申し訳ないが、スルーしよう。

 

 そう、思っていたけれど。

 

「……魔王の、復活?」

「そうさ。もう、魔王という存在は復活しているらしいんだ」

 

 子供の与太話として切って落としにくい言葉が出てきたので、俺は立ち止まった。

 

「おや? 興味があるかい、この話に」

「……そうですわね」

 

 それはもしかしたら、この子のごっこ遊びの設定というだけかもしれない。

 

 無論、聞くだけ無駄な話かもしれない。

 

 でも、

 

「……カール」

「ああ。お嬢さん、今の話を詳しく聞かせてくれねぇか?」

「ふふふ、喜んで。占い師は、その見通した先をベラベラと喋るために生きているのだから」

 

 俺達は、情報収集のためにこの街を目指したのだ。

 

 それが有益な情報である可能性があるなら、是非とも聞いておくべきだろう。

 

 

 

 

 

「ボクが知る話によるとね」

 

 白髪のショートボブ。フードをすっぽり被った少し眠たげなその女の子は、注目を集められて嬉しそうに話を始めた。

 

「つい10日ほど前、この街に赤き魔炎の勇者が現れて人々に告げて回ったらしいんだ。『魔族の王が復活した、再び混沌の時代が始まる』と」

「……ほう?」

 

 彼女の話は、どうやら『赤き魔炎の勇者』……、おそらくアルデバランの語った内容をそのまま吹聴しているらしい。

 

「彼女によると、まもなくこの村に魔族が攻め込んでくるそうだ。みんな、冗談や悪戯だと馬鹿にしているみたいだけど……。ボクには、本気で言っているようにしか見えなかったね」

「そうか。その女勇者について、知っていることはもっと無いか?」

「そうだね。……名前は、アル何某といったかな。凄まじい魔力の持ち主で、最新式の炎獄魔法を習得している世界最強クラスの魔術師だそうだよ」

「ふむ」

 

 確か女神様は「次に魔族が訪れる場所が分からない」とカールに言っていた。しかし、アルデバランは次にこの街が襲撃されると言うらしい。

 

 もしもアルデバランが本当に女神に選ばれた存在だというなら、何故カールと聞いた話の内容が違うのだろう。

 

「で、誰も信じてくれなかった事に腹を立てた彼女は、自分の魔術工房に籠って有事に備える事にしたそうだよ。北エリアに工房を借りて、今は生活しているらしい」

「そっか。他に情報は?」

「いや、ボクが知っているのはこれくらいかね。どうだい、役に立ったかい?」

 

 占い師の少女はそう言うと、ニパっと笑顔を見せた。

 

 そうか。期待していた内容とは違ったが、アルデバランの情報が手に入ったのは収穫だと言えよう。

 

 勇者を自称する凄腕魔法使い。ヤツの正体は何者なのか、カールから女神様に確認してもらわねば。

 

「ありがとう、お嬢ちゃん」

「礼なんていらないさ。少しでもボクの話が役に立ったと思うなら、ついでに占いを聞いて行きなさい。全員合わせて50Gで、君達の運命を見通してあげるよ」

「……あー。む、まぁ良いか。頼む」

「毎度あり……」

 

 良い情報が貰えたので、カールはお布施として自腹で50Gを彼女に支払った。こういうお金をケチったら、誰も情報をくれなくなるので仕方がない。

 

 必要経費だと言えよう。

 

「……むむむ! これはこれは、皆様なかなか数奇な運命の様子で」

「ほう? どう数奇なんだ?」

「えっと、そうだね。剣士君、君が全ての仲間の運命と紐付いているよ。今後、君と一緒に旅をしている仲間たちの命運は君の選択で大きく変化していくだろう」

 

 金を払うと、占い師の少女は少し愉快そうにカールを見据えて笑った。

 

「君、名前は?」

「カールだ」

「カール君。君は、群れを守る百獣の王だよ。君が道を違えない限り、君の仲間たちはずっと君を支え続けてくれるだろう。まもなく君に大きな苦難が訪れるだろうが、選択を誤らない限り道は開ける。精進したまえ」

 

 むむ。まぁ、カールはパーティのリーダーだし、そりゃあそうだろうな。

 

 占い師って言えば、適当で意味深な事を言いつつ誰にでも当てはまることを言うのが仕事だ。コールド・リーディングって奴だっけか?

 

 まぁ、信じる気にはなれんな。

 

「そこの、小柄な女の子……。君は、小猫かな」

「……子猫?」

 

 次に占い師は、レヴちゃんに語りかけた。ビクッと、レヴちゃんの肩が揺れる。

 

「そう。警戒心が強く、なかなか誰かに懐こうとしない子猫。でも、その将来性には目を見張るものがある。……君、どこか凄い人の血筋だったりしないかい?」

「……うるさい。私は、普通の冒険者の子」

「そうかい」

 

 占い師はレヴちゃんに向かって話しかけるも、プイとそっぽを向かれてしまう。うん、警戒心が強いのは見たままだ。

 

「えと、次はそこの……レンジャー衣装のお姉さん」

「私? マイカよ」

「おお。マイカさん、貴方はウサギですね。愛情が深く一人で生きていけるようにふるまいつつも、実は寂しがりで誰かのぬくもりを求めている。おそらくお相手は……さっきのカール君?」

「んな!?」

「貴女は自分の心に素直になるだけで、一つ上の幸せを得ることが出来ますよ。それに、ウサギは性欲が強い事で有名な生物です。貴方も本当は────」

「ちょ、ちょ、何をデタラメ言ってんの!! この、ちっこいからって」

「……ああ、失礼。少し配慮が足りませんでした」

 

 おお、この娘は結構観察力あるな。マイカの恋心、もう見抜いたのか。

 

 それとも、本当に占い出来るんだろうか。子供のごっこ遊びにしては、堂に入っている気がするし。

 

「あんた、適当言ってるだけでしょ! 訂正しなさいよ!」

「失礼な、ボクの占いは本物ですよ」

「ま、まぁまぁマイカさん。子供のいう事ですわよ」

 

 マイカの目がつり上がったので、窘めておく。

 

 この子、結構怖いもの知らずだ。

 

「そこの、胸が大きい貴族さんは……、ゴリラだね。身長は180㎝で体重100㎏オーバー、人間の12倍の筋力を持ち、身の危険を察知すれば自らの糞を投げ付けてくる森の怪人」

「あれま」

「そこの胸の小さな貴族のお姉さんは、なんとびっくり獅子だね。実は、上に立つ者の資質をこの中の誰より備えている……。ただ、今は怪我をしているみたい。雌伏の時だから、耐えぬいてみて」

「ご忠告は感謝するけど、胸の大きさでイリーネと区別しないで。殺すわよ」

「その後ろのオジサンは……、野良狼か。恐ろしい牙があるように見えて、その実は臆病で従順。仕えるべき主が居ることを、幸運に思うといいよ」

「……む、見透かしたことを言いやがる」

 

 むむ、サクラの王器にまで気付くのかよ。これ、コールド・リーディングとかじゃなく結構ガチの占いなのか?

 

「はいはい、もう満足した? もういいでしょカール、とっとと行きましょう」

「……見当はずれの事ばっかり。時間の無駄だった」

 

 レヴちゃんとマイカの二人は、胡散臭い詐欺師に対する反応だ。だがこの占い師が本物なら、カールに大きな苦難とやらが訪れる訳で。

 

「マイカ、ごめん。私、ちょっとこの娘を信じる気になってるわ……。初対面にしては、人の内面を見抜き過ぎよぉ」

「……恥ずかしいが、俺も見透かされた感じがしたね。お嬢に賛成しとく」

「そうですわね、私もこの娘を信じかけています。カール、一応気を付けましょう」

「……待ってイリーネは納得(そっち)側で本当に良いの?」

 

 構わないけど、何か?

 

「なぁ、占い師さん。俺に降りかかる苦難ってのは、どんなもんだ?」

「そうさね。君に降りかかる苦難は、君にとっては取るに足らないモノさ。ただ、君を必要としている人たちにとってその限りではないよ」

「どういう意味だよ」

「思い切りをよく行動しなさい。悩まず、咄嗟に最適に動きなさい。それが、次の君の苦難に対しては正答になりうるだろう。……まったく、たかが50Gで喋る内容じゃないね、コレは」

 

 そこまで言うと、白髪の占い少女はニコリと微笑んだ。

 

「これで、助言は終わりだよ。君達がどんな未来を歩むのかボクには分からないけれど、君達が歩む先に見えたものは話した通りさ」

「まぁ、よく分からんが一応頭に入れておくよ。ありがとう」

「そうしてくれ。君が、選択を誤らないことを祈っていよう」

 

 そう言うと、彼女は再び目を伏せて水晶を覗き込み始めた。

 

 言うべき事は言い終わった、という感じだ。

 

「……不気味なやつ」

「そうね、気にしないでおきましょ。それより、早く紹介された学者の家に行かないと」

「ああ、ユウリさんだっけか」

 

 にしても、気になる娘だったな。ただの子供のごっこ遊びにしてはイヤに現実味があった。何より、彼女の人見は割と的を射ていたように思える。

 

 可憐で清楚な俺を見て、ゴリラなぞ普通は連想しない。何かしらの、特殊な魔術を使っていると考えるのが妥当だろう。

 

「む、ユウリだと?」

「お、知ってるのか占い師さん。良ければ、家がどの辺か教えてくれないか?」

「……ふむ。もしかして、君達は商人パイロンからの紹介状を持ってたりするのかい?」

「パイロン……? ああ、あの商人はそんな名前だったような」

「おお、そうかそうか。何だ、それを早く言いたまえよ」

 

 一度は会話を切った占い師少女だったが、ユウリという名前を聞くと驚いた顔で再び話しかけてきた。

 

 何やら、知っているらしい。

 

「パイロンの言っていた実験(モルモ)……、お客さんというのは君達なんだね。来るのはもう少し夕方になると思ったが」

「……む?」

「ああ、自己紹介が遅れて申し訳ない。パイロンが紹介した学者というのは、ボクの事さ」

 

 そう言うと、白髪の占い師は俺達の前に歩いてきて軽く一礼した。

 

「どうも、はじめまして。ボクは『未来を見通す者』『時代の観察者』たる占考学者ユウリだ。君達を歓迎するよ」

「……え?」

 

 

 そう言って手を差し伸べてきた少女は、レヴちゃんより年下にしか見えぬ幼さの残る女の子。

 

 それが、俺達と天才少女ユウリの出会いだった。


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