【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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22話「修羅場系パーティに入った俺だったが」

「さあ入りたまえ、遠慮は要らないさ。ボクの工房へようこそ、冒険者諸君」

 

 白髪の幼女に導かれるままに、俺達は街を行き一軒家へと案内された。

 

 案内されたのは石造りの洋館で、奇妙な魔法陣が幾つも壁に描かれた『いかにも』な風体であった。

 

「おお、立派な家。一応聞くけど、1人暮らしじゃねぇよな?」

「ああ、父と同居している」

「そうか」

「ボクの父も研究者だ、一応ね。もし父の研究に興味があるなら、口を利いてもいいよ」

 

 そこまで言うと、ユウリは口をつぐんだ。

 

 ……ふむ。何故か今、母親の話題が出てこなかったな。触れない方が良いんだろうか。

 

「それはありがたいな。まずユウリは、どんな研究をしてるんだ?」

「よくぞ聞いてくれた。ボクは、古代より伝わる由緒正しい予知魔法を正しく再現する研究をしているのさ。ボクの占い師稼業も、研究の一端だね」

 

 カールも母親については触れない方が良いと判断したらしい。ユウリが話しやすそうな話題を振って、分かりやすく話を変えた。

 

「予知魔法……。え、じゃあ俺に大きな苦難が待ち受けているってのは本当なのか?」

「うむ、本当である可能性が高い」

 

 くるくると、白い短髪を弄くるユウリ。その彼女の瞳は、少し不満げに揺れていた。

 

「ただし、確実ではない。ボクの見た未来は、あくまで『現時点で起こる可能性が最も高い未来』に過ぎないのさ。だから昨日の占い結果が、今日の結果と変わることなんて多々ある」

「ふーん、最も起こる可能性が高い未来、か」

「それが、現代占星魔術の限界なのだよ。ボク達占魔法使いは、予知しているのではなく予測しているに過ぎないのさ。ボクはそれが、不満なんだ」

 

 彼女は、自らの魔法を語りながら自嘲する様に笑った。

 

「ネズミと猫が戦っているのを見て、『猫が勝つだろう』と分かる魔法にどれだけの価値があるだろう? 考えれば自ずと分かるのに」

「む、何となく言いたいことは分かるぞ」

「もし、猫がネズミに敗北するような事があるならば。その結果を予め予知してこそ、価値のある対策が取れるんだ。ボクが研究しているのは、予測を予知に変える術なのだよ」

 

 成る程、確かにそうかもしれない。

 

 話の内容は少し小難しいが、ユウリが言いたいことは何となく理解出来た。要は占魔術をもっと確実なものにしたいわけね。

 

 そういや占魔法って、突き詰めれば確率論になるって家庭教師が言ってたな。

 

「その為に、君達にボクの研究へ協力してほしいのさ」

「協力って、何すれば良いんだ?」

「ああ、大したことは要求しないさ。君達には、数日間だけボクの指示通りに生活してほしい」

 

 ……む? それ、結構大した要求じゃないか?

 

「君達に対して、ボクが朝一番に占を立てる。その結果を元に、色々と行動してほしいんだ」

「具体的には?」

「例えば、占の結果でカール君が転ぶ事が分かったとする。ならばその日に『足元に気を付けて』と言い含めて、それでもなお転ぶかどうか様子を見る」

 

 白髪の少女はそう言うと、少し真面目な顔になって俺達を見つめた。

 

「ボクの新たな占魔術理論が正しければ、どう言い含めようとカール君は転ける筈なんだ。確率を予想しているのではなく、未来を予知しているのであれば」

「まぁ、そうだろうな」

「だから、君達にはしばらくボクの占結果に逆らって生活して貰いたい。それで、ボクの占いが外れたかどうかを報告してほしいんだ」

「……へぇ? それ、ちょっと面白そうじゃない。要は、あんたの占をどんな手を使ってでも外させれば良い訳ね?」

 

 ふーむ。まぁ、そのくらいなら確かに大した要求じゃない。

 

「ただ申し訳ないけどウチは金欠で、協力の報酬として金品を支払うことはできない。代わりに、ボクが持ちうる限りの知識やコネを提供しよう。これで、どうだろうか」

「ああ、助かるよ。そもそも俺達は、学びに来たわけだし」

「授業料が浮くなら万々歳ね。ついでに、この家に泊まり込むとかはアリ?」

「研究に参加してもらってる間は、我が家を住居としてもらって構わない。客部屋は3室しかないので、相部屋をして貰うことになるがね」

 

 お、泊めてくれるのか。

 

「その方が、朝一番にボクの屋敷に来るより楽だろうさ」

「それは、助かりますわ」

「ただ、ボクの家に家政婦やメイドの類いはいない。生活するのであれば、食事や洗濯などは自分でやって貰うよ」

「無論、構わねぇ」

 

 そして、ユウリとの契約が成立した。

 

 彼女は、俺達に住居と知識を提供し。その代わり、俺達はユウリの研究へ暫く協力する。

 

「そんじゃ、明日の予定はどうする?」

「俺は、戦闘じゃあんまり役に立てねぇ。代わりに炊事洗濯は、任せてもらおうか」

「そうね、マスターにその辺は任せて私達は街を散策するってのでどぉ?」

 

 炊事などは、その道のプロフェッショナルのマスターが買って出てくれた。

 

 これはありがたい。俺も料理は出来るけど、マスターには勝てんし。

 

「私達は好きに出歩いても、宜しいのですよね?」

「朝一番の占に逆らってもらう事以外に、ボクから要求することはない。日中は、ある程度自由に行動してもらって構わないよ」

「なら明日は各自、自由行動にするか。みんな散って、それぞれ情報を仕入れてきてくれ」

 

 こうして、俺達はユウリの好意で生活拠点を得ることが出来た。

 

「今夜はもう遅い。今日くらいはボクが食事をご馳走するから、待っていたまえ」

「おお、感謝する。料理出来るんだな」

「こうみえて嫁入り修行はバッチリなのさ。将来は、ボクの知慧と魔術を欲する貴族に娶って貰う心積もりだ。良い当てがあれば紹介してくれ」

「その年から将来見据えすぎだろ」

 

 ……ふむ、貴族の側室狙いか。魔力は弱まるから正室に平民はあり得ないけど、側室に囲う貴族は多いと聞く。

 

 彼女が優秀な学者であるなら、十分勝算はあるだろう。

 

「……本気なのでしたら、伝を当たって差し上げますわ。縁談の類は、我が家にいくらでも飛び込んでまいりますので」

「おお、助かるよ」

「まぁ、もう少しお年を召してからですけどね」

 

 ここは、おとなしく媚を売っておこう。仲の良い貴族に能力のある学者を紹介するのは、我が家にもメリットになるし。

 

「……ここの家の本は読んでもいいの?」

「ボクの家にある本? ああ、汚さないなら手に取って貰って構わないさ」

「……ん」

 

 レヴちゃんは、じぃっと本棚の本を見つめていた。どうやら、気になる本があるらしい。

 

「じゃあ、今日はこのままユウリの世話になりつつ、本で情報を集めるか。勇者伝説などについて書かれた本はあるか?」

「うーん、父の趣味の本棚に小説くらいならあると思うけど。ボクは読んでないから、場所は知らないね」

「そういうのに詳しい学者に渡りをつけて貰う事は出来ます?」

「あー……。少し、知人を当たってみるよ。でもそういうのなら、父の知り合いを当たった方が良いかもしれない」

 

 ユウリは、少し難しそうな顔をして俺達の話を聞いていた。

 

 どうやら彼女自身は、あまり勇者伝説に詳しくなさそうだ。

 

「まぁ、父にはボクから話を通しておく。君達は気兼ねなく、本を読んでいると良い」

「それはどうも。そういや俺達、まだ親父さんに挨拶をしていないな」

「そこは気にしないでくれ、君達はボクの客なんだ。父と会う必要はないさ」

「いや、そういう訳にはいかないでしょ……。ここ、お父さんも住んでいるのよね」

「まぁ、そうなのだけど。父はその、少し変わり者なんだ。あまり会わない方がいいと思う……」

 

 父の話題が出ると、ユウリは目を伏せて明後日の方を向いた。

 

「変わり者?」

「その、何というか父は、メインの研究論文が『宴会芸で使える古代魔法』という感じの人で。学会でも奇異の目で見られていてだね」

「友人として見ると面白いけど、家族になると迷惑なタイプの人か」

「迷惑ってレベルじゃないよ……。ボクが初めて発表もちこんだ時も、父の名前が出ただけで門前払い食らったし」

 

 ユウリは、父の話をしている時はほんのり目が死んでいた。きっと苦労したんだろう。

 

「悪い人じゃないんだけど、迷惑な人なんだよ父は。尻から出てきた魔法を食らいたくなければ、会わない方がいい」

「何それ怖い」

 

 そんな人には確かに会いたくねーな。

 

「父は夜遅くまで出かけているから、彼が帰ってくる前に客間に入ってくれたまえ。そのまま寝て貰えると、ボクとしては助かるよ」

「そうか、分かった」

 

 そんな半ば懇願に近いユウリの要請を受けて、俺達は早々に案内された客室へと入った。俺とサクラ、レヴとマイカ、そして男どもという部屋割りだった。

 

 彼女の手作りの夕食は確かに美味しく、お腹も膨れたのだが……。夜遅くになると陽気な男の歌声が屋敷に響き、少し寝不足になったのは我慢するべきか。

 

『もう、客が居るんだと言っただろう!!』

『客が来ているからこそ、歌うのだ! ラララララーイ!!』

『本当に勘弁してくれ、さもなくば親子の縁を切る事になる!』

 

 ユウリは、しっかりと怒ってくれていたみたいだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……翌朝。

 

「ああ、部屋から出てきてくれて構わないよ。父はもう追いだしたから」

「追い出した、て」

「本当にすまなかった、昨夜のような乱痴気騒ぎはもう起こさないと約束しよう。久しぶりの客に、父も興奮してしまったらしいんだ」

 

 朝日が屋敷の窓を照らし出したころ、疲れた顔のユウリが俺達の部屋をノックして起こしに来てくれた。

 

 昨夜は、なかなかに大変だったようだ。

 

「父はもう研究室に向かわせた。すまない、君達の求める勇者伝説に詳しい学者への伝手は少し待ってくれないか? 父とその話をする余裕が、昨晩には無かったんだ」

「ああ、いや、どうも。そりゃあ、しゃーねぇよ」

 

 まぁ、そうだろうな。昨日は、大喧嘩をしていた様子だし。

 

「今から早速、今日の君達の占を立てる。それが終わった後は、自由に行動してくれたまえ」

「分かった。何処に行けば良い?」

「居間に来てくれ、簡単ではあるが食事を用意している」

「おう」

 

 なるべく、彼女には優しくしてあげよう。

 

 俺は、すこしゲッソリしている幼いユウリを見てそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「うむ。……むむむむ、これは……」

 

 そして、食事を食べている間。

 

 ユウリは非常に難しい顔で、食卓に置かれた水晶を覗き込んでいた。

 

「そうか、いや、成程。むむむ」

「何をそんなにうなっているんだ、ユウリ」

 

 その顔は、先程までと打って変わった真剣なものだった。他人の未来を見通す彼女には、きっと彼女にしかない視点があるのだろう。

 

「うむ、そうか。すまない皆、今日の占に関しては何も頼むことはない。思い思いに、1日を過ごしてくれたまえ」

「ん、何だそりゃ。俺達は占いの結果を教えて貰って、その占い通りにならないようにするって実験じゃなかったのか?」

「今日に関しては、何もしない方がいいのさ。では、もう解散してくれて結構だ」

 

 そう言うと彼女は、静かに席を立った。

 

「では、失礼するよ。君達の今日に、幸せの多からんことを」

 

 何かから逃げるように、いそいそと席を立ったユウリ。

 

 ただ気のせいか、その時彼女は少し頬を染めてカールの方を見ていたような気がした。

 

 

 

「……行っちまいましたね」

 

 さてユウリも去って、自由に行動していいぞと言われた俺達。ここから、どうするかだが。

 

「勇者伝説に詳しい学者さんへの伝手がまだ貰えてない訳で、あんまりやることないわね」

「……一応、図書館とかは使えるって」

 

 はっきり言って、あまりプランは無いのであった。

 

「そういやカール、女神様からアルデバランの事は聞けた?」

「いや、昨日は夢に出てきてくださらなかったな。女神様も、忙しいのかもしれない」

「そっか」

 

 そうなのか。カールって毎日、夢の中で女神様に会える訳じゃないんだな。

 

「まぁ、今日はまだヨウィンに来て2日目だし。みんな観光もして無いだろう、今日は好きに羽を伸ばしていいんじゃねぇか」

「そうですわね」

 

 そんなカールの一言で、今日はオフという事になった。

 

 昨日まで長旅をしていた訳だし、確かに休養日を設けるのもいいだろう。

 

「じゃあ、今日はゆっくりしましょうか」

「……ん」

 

 

 だが、その一言こそが地獄への入り口であることを、この時のカールはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、手合わせか? 良いぞイリーネ」

「ふふ、よろしくお願いしますわ」

 

 俺は、この降って湧いた休日をカールを誘って修行に費やすことにした。

 

 今まで近接戦に関してはレヴちゃんに指導をしてもらっていたが、まだこの男と直接手合わせしたことが無い。

 

「私に勇者の選ばれし力というものを、経験させてくださいまし」

「オッケー、じゃあまた後でな」

「楽しみにしております」

 

 俺は前から、一度勇者の身体能力を体験したいと思っていた。

 

 それに大概カールは他の女子メンバーと仲良くしていることが多く、二人きりになれずにいた。これは、奴と距離を縮める良い機会だと思うのだ。

 

「では、私達がヨウィンに入った門の郊外の広場でお待ちしておりますわ」

「おう、了解だ」

 

 ふ、ふふふ。腕が鳴るぜ。

 

 今まであんまりカールと男らしい付き合いをしてこなかったからな。ここで一つ、俺がパーティ内のライバルポジションだとカールに認めさせてやらねばなるまい。

 

 対人戦闘に関しては、対魔族特化の剣術しか使えないカールじゃそんなに強くないだろう。俺でも戦えば、ワンチャンくらいはある筈だ。

 

「あ、そうだイリーネ……」

「では、本日の昼! よろしくお願いしますわね!」

「え、あ……」

 

 カールが何かを言いかけた気がしたが、俺は気にせずに走り出した。

 

 さぁて、血沸き肉躍る筋肉のぶつけ合いの準備を始めようか! あのビキニアーマーは何処にしまったかな?

 

 ふはは!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、まぁ。

 

 こんな感じでカール君と決闘(デート)の約束をしてウキウキしてた俺だったが。

 

 

 

 

 

「…………カール? 今日は私と、一日付き合ってくれるんじゃなかったの?」

「……一緒に、甘い物、食べようって。カール……」

 

 俺は、カールを舐めていた。

 

 この男の朴念仁スキルが、此処までのものとは考えていなかった。

 

「私をわざわざ買い物に誘ったのは、あなたでしょぉ? これ、どういうこと?」

「カールさん、私との戦闘訓練をしていただけるという約束は……」

 

 約束の時間、約束の待ち合わせ場所、郊外の広場付近。

 

 そこには、目を吊り上げて一人の男を睨みつける4人の女の子が居た。

 

「え、あ、いや。全員と十分時間取れると思ってたんだけど」

「……で、4人全員と約束重ねちゃった訳? 同じ時間に、同じ待ち合わせ場所で?」

「それは、その、調整に失敗したというか」

 

 俺はてっきり、今日はずっとカールと殴り合えるもんだと思っていた。

 

 しかし、この男は何と……。俺だけではなく、パーティの女子全員に約束(デート)を交わしていたのだ。

 

「……」

「え、あれ? 何でみんな、そんなに怒ってるの?」

 

 いや、俺は怒ってないんだが……。マイカとレヴちゃんは、かなりキてるだろこれ。

 

 完全にデート用の装備で身を固めてますやん。凄いお洒落してきてますやん。

 

「ん、そういやマイカにレヴ。何か今日、可愛いな服」

 

 大丈夫か、コイツ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないねカール君、ボクは研究者なのだ。研究者とはすなわち、自らの知的好奇心に決して抗う事が出来ない生き物なのだよ」

「……ユウリのお嬢。これは、一体」

「だって、見たくもなるだろう。あの男が、仲間の女の子全員から詰め寄られる未来が見えたんだぞ? ボクはその未来に対する好奇心を抑えることが出来なかったのさ。だから、カール君に助言しなかったボクは研究者として決して間違っていなかった訳で……」

「はぁ……」

 

 その様相は、物陰に隠れたロリとオッサンが鼻息荒く見つめていたりする。


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