【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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23話「ラッキースケベの神様」

 同日午後。

 

「ほう、これはなかなかですわ」

「へぇ、結構美味しいわね。この店、当たりじゃない?」

 

 カールに4人の約束がブッキングされ、どうするんだこの空気となった俺達勇者一行であったが。

 

 わずかに一触即発な空気が流れたものの、パーティー崩壊に繋がる様な事態にはならなかった。

 

「……♪」

「あらレヴ、口元汚れてるわ。そんなにがっつかずに食べなさいよ」

 

 まぁ今回は、幸いにも一番争いの火種になりうるマイカとレヴちゃんが仲良しだったのが大きい。

 

 サクラはカールにお熱って感じでは無さそうだし、かくいう俺もカールに異性的興味を抱いてなぞいない。

 

 そんな背景もあってか、

 

「俺の手違いで同じ時間に集まっちまってすまんな、俺が奢るからこのまま遊びにいこうぜ」

「……はぁ」

 

 と言うトンチンカールな男の提案に、全員が乗ったのだった。

 

 ビキニスーツの戦闘装束な俺、わりかし本気デート装備のLOVE勢と普段着のサクラ。この4人をつれ回そうとしてる辺り、カールは本当に大物なのだろう。

 

「最初は、甘いもの……」

「まぁ、それで良いわよ」

 

 そして現在、レヴちゃんと約束していたスイーツ巡りを行っていると言う話である。

 

 商店街の一角にあったお洒落なカフェに入った俺達は、幸せそうなレヴちゃんを愛でながらのんびりとした時間を過ごしていた。

 

「なあマイカ。今日はお前、すごく可愛いよな。こう、なんと言うか、すごく可愛いよな」

「お小遣いの前借り? 構わないけど利子が付くわよ?」

「……はい、分かりました」

 

 因みに4人全員を奢ると宣言したカールだけは、メニューの値段を見て顔を青くした。

 

 このヨウィンという街は、商品の質が良いが物価が高い。何せ、そこら中に貴族が闊歩する街なのだ。

 

 この街はお金持ちの暮らす街。そんな場所の大通りに構えている店が、庶民的な値段の筈がない。それに気付けなかったのが奴の敗因と言える。

 

「平民のお金で食べるお菓子は美味しいわぁ」

「……それは貴族としてどうですの、サクラさん」

「自分の懐が痛まないのは最高の調味料なのよ? そう言う貴女もガッツリ食べてる癖に」

「だって、この店は本当に美味しくて……」

 

 流石にカールが哀れなので俺は遠慮してやろうかと思ったけど、この店の料理がこれまた旨いのだ。

 

 パッと見は洒落た軽食屋だったが、これがまた大当たり。出てきた肉の焼き加減といい、香辛料の使い方といい、付け合わせのサラダのセンスといい、何もかも完璧である。

 

「甘いものを食べに来ておいて、ステーキ頼むのは女性としてどうなのよ?」

「糖分よりタンパク質の方が体に良いですわ」

「まぁ、私は普通にケーキを頼むけどぉ。店員さん、これお代わりお願いねぇ」

 

 サクラは、カールの懐事情なんぞ何のそのと頼みまくっている。

 

 ほんのり頬がゆるんでいるあたり、実はサクラも甘いもの好きなのだろう。

 

「今、代金計算したけどお小遣い3ヶ月分くらいね」

「……今日でサクラとも仲良くなりたかったし、これで喜んでくれるなら俺はっ……」

「ばーか」

 

 この後、全員でショッピングを楽しんだり修行をしたり、一日かけてカールを酷使した。

 

 彼はしばらく小遣い無しの生活らしいが、きっと覚悟の上での発言だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの男は、何処か抜けてるわよねぇ?」

「完璧な人間なぞ、なかなか存在しませんわ」

 

 夜。

 

 ショッピングの帰りにカールと組手を行った俺は、ユウリの家に戻った後サクラと共に水場で汗を流していた。

 

「まぁ、リーダーには美味しいモノ奢って貰えたし? 平民特有の小狡い感じがしないのは好感が持てるけど」

「彼は、とても誠実な男ですわ」

「ふーん……」

 

 俺やサクラは一応貴族なので、髪のケアに時間をかける。……と、言うことになっている。

 

 本当のところ今までは烏の行水だったのだけど、サクラが仲間になったので真面目にヘアケアをする事になった。

 

 時間かけないと怪しまれるし、これは仕方がない。

 

「イリーネ、貴女はカールの事をどう思ってるの?」

「どう、とは?」

 

 ふと、サクラは俺にそんなことを聞いてきた。

 

「他の二人は、まぁ想いの方向が露骨よねぇ? イリーネだけは、よく分からなかったから」

「ああ、そう言う方向の話ですか」

 

 要はサクラは、俺がカールを狙ってるかどうかを聞きたいらしい。

 

 まぁ、女4人のパーティーだ。そう言う人間関係の把握は重要だな。

 

「私は、その気はありませんわね。カール自体は好ましく思っているのですが、異性としては見ておりません」

「ま、そんなとこよね。貴女、本心を隠すのが上手いから分かりにくいのよ」

「ふふふ。貴族は貞淑と可憐で身を包んで、真意を隠すことが重要なスキルなのです」

「……やれやれ、貴女って結構タヌキよねぇ。あの占娘はゴリラ扱いしてたけど」

 

 む、誰がタヌキだ。あんな筋肉のない動物に例えられるなど、侮辱に値するぞこの野郎。

 

「まぁ、その気がないのは分かったわ。イリーネの性格的に嘘は付かないでしょうし」

「当然ですわよ、私は嘘が大嫌いなので。私は、殿方より女性に興味があるのですわ」

「あぁ、成る程ね。確かに、ちょっとそれっぽい雰囲気が────」

 

 あ、ポロっと口が滑った。

 

 まぁ、実際は女の子の方が好きと言うより、まだ男と縁談するのに抵抗が大きいって感じだけどな。

 

 実家の縁談を断り続けたのもそれが理由だし。

 

「……あらぁ? 貴女って、ソッチなのね。あらあらぁ?」

「どうかしましたの、サクラさん」

「……」

 

 ところで、どうしてサクラは固まっているんだろう。

 

「……そういえば、前に童貞がどうとか言ってたような……。え、あれって冗談の類いとがじゃなくて? あれ、私って今かなりアブない??」

「おーい、サクラさん?」

「え、ええっと。ごめんなさい、私はノーマルよ? 変な気を起こさないでよねイリーネ」

「あー、そんな心配は要りませんわ。どっちかと言うと女性、って話ですし。家柄的にも、将来は普通にお嫁に行くつもりですもの」

「まぁ、そうよねぇ。貴族って、平民みたく自由恋愛できる立場にないモノねぇ」

 

 サクラ、俺が女もイケると知って警戒してたのか。全く失礼な、嫌がる女性に何かしたりするもんか。

 

 俺は、紳士な漢なのだ。

 

「いやまぁ、同性愛って言うのかしら? そういう人に会うのが初めてで、どう接していいか分からなくて。ごめんなさいね?」

「普通でよろしいですわ。サクラも普段から『女の子に興味のある』男の人と接しているでしょうけど、特別に警戒したりはしないでしょう? 人の気持ちを踏みにじるような卑劣な真似をするかどうかは、性癖ではなく人柄で判断すればよいだけの事」

「あー、ね。うん、そんなものよね」

 

 そうだぞ。それに俺の場合、前世に引っ張られてるだけだから本物ではないし。体に精神が馴染んでくれば、将来的にはどっちもイケる感じになりそうだ。

 

「ごめんね、変なこと言って。お礼に、背中でも流してあげよっか」

「ふふふ、それは嬉しいですわ。あと、今の話は誰にも内緒でお願いしますわよ?」

「はいはい、秘密の多い女ね、貴女は」

 

 まぁ、うっかり口が滑ってしまったけどなるべく今のは黙っておくことにしよう。将来、婚約先の男性に嫌な思いをさせるかもしれんし。

 

 サクラが、話の分かる相手でよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おろ? 風呂場に誰ぞおるのかい?」

 

 ────かぽーん。

 

 サクラと俺が、なんとなくノリで洗いっこを始めたその折に。

 

「……ユウリ? ではないのか、誰ぞ……?」

 

 なんとヒゲのオッサンが、股間にタオルを当てながら侵入してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おろろ?」

「……ひっ、ひぃ!?」

「あらま」

 

 そのオッサンは、見たことのない人間だった。

 

 だが、その言葉と居住まいからはなんとなく素性に想像がつく。

 

「いやぁぁぁぁ!!? 変態ぃぃぃ!!!」

「う、うわわわ!? おなごが二人とな!?」

「あらまぁ」

 

 ふむ、嘘をついているかどうか観察するか。

 

 オッサンは、心底驚いているように見える。だが同時に、頬を赤らめて俺やサクラの裸体を見て興奮し始めている。カールの様に土下座せず、ガン見を続けて喜色満面な表情を浮かべている。

 

 判定。このオッサンはわざと覗いたワケではなさそうだ。だが、かなり邪な感情が渦巻いている。

 

「おお、そうじゃ。そう言えば昨夜、客が居ると────」

「いいから後ろ向きなさいよ変態ジジイ!!」

「ありがとうございます!!」

 

 一応イリーネ的判定は無罪だが、サクラがいち早くぶん殴ってしまった。まぁ、彼女も裸を見られたわけだし殴る権利くらいはあろう。

 

 何故殴られたジジイがお礼を叫んだのかは知らんけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「重ね重ね、申し訳ない。客人に対する礼を大きく逸している、出来る限りの詫びはするつもりだ」

「本当よ、私の肌はタダで拝めるほど安くないわ。私は今まで家族とカール以外の男に裸を見られたことないんだから」

 

 そのオッサンは顎に綺麗なアッパーカットが入って昏倒し、騒ぎを聞いて駆けつけてきたユウリは風呂場の惨状を見て全てを察し土下座した。

 

 ユウリ曰くやはりこの謎の人物の正体は、ユウリの父親である『ユウマ』という人物らしい。

 

「そういえば、私もカールと家族以外の男の人に裸を見られたことありませんでしたわ。奇遇ですね、サクラさん」

「言っとる場合か!! 貴女はもっと怒りなさいよイリーネ!!」

「私は肉体に自信がありますわ。見られて恥ずかしい部分はありませんし」

「……もういいわ。私は、絶対にそのジジイ許さないから!」

 

 サクラは怒り心頭に、プリプリと気絶した裸のオッサンを睨みつけている。

 

 乙女の柔肌は、他人に見せるものではない。漢らしいサクラと言えど、やはりショックなのだろう。

 

「彼はわざと覗いてきたわけではありませんよ? 見られてしまったものは仕方が無いです、いったん落ち着きましょうサクラさん」

「そんなこと言われてもねぇ」

「ボクからの説明が足りていなかったんだ。こんなでもボクにとってはたった一人の肉親、無礼は承知だが命を奪うのは勘弁してほしい。代わりに、ボクにいかなる罰を与えてくれても構わない」

「……い、命まで奪うつもりはないわよ。てか、貴女って魔術師よね? 爵位が有ったら、こんなことくらいで死罪にはならないけど」

「……ウチは、その、単なる混血魔術師で。何代か前に貴族の血は入ってるけど、今は平民の身分だ」

「あー」

 

 サクラは気付いてなかったのか。家のどこを探しても家紋とかないし、そんな感じだろうと思っていたが。

 

 平民の男が貴族令嬢の裸を覗くのは、普通に死罪まであるよな。

 

「平民に、裸を見られたのね……」

「まぁカールさんも平民ですし」

「アイツは将来的に英雄になるし構わないわ。むしろ未来の大貴族候補だもん、誘惑の為に見せてやるくらいしないと」

「あれ、サクラさんは意外とカール狙い?」

 

 今度はポロリと、サクラが割と重めの爆弾を落とした。

 

 サクラもカール争奪戦に参加するつもりなのか。

 

「狙ってあんまり損がなさそうなのよねぇ、カール。騙されたりとか裏切られたりとかはなさそうだし、ウブだから押せばコロって行きそうだし」

「あらまぁ、人気ですわねあの男」

「上手くいけばお家復興よぉ? 側室扱いで資金援助とか貰えるだけでも、十分な見返りだわ。私の立場的に狙わない手はないでしょ」

 

 そっか、彼女の立場的にカール落せたら物凄く美味しいのか。

 

「むしろ、彼を狙う理由がないのってイリーネくらいじゃない?」

「そうですわね。ウチはもう、既にそれなりの名門貴族ですから……。魔王討伐に貢献しただけで、かなりの地位を戴けるでしょうね」

「軍事の名門一族よね、貴女。最近平和続きで、以前ほどの権勢は無くなっちゃってるっぽいけど」

 

 まぁ、パパンはあんまり権力とか求めてなかったし。

 

 前なんか『軍人の権力なんぞ、低いくらいで丁度いいんだ』と笑ってたなぁ。

 

「ねぇ、サクラさん。私は、このおじ様に研究者さんを紹介して貰えればそれでお咎めなしとしたいんですけど」

「むー。でも」

「度量の大きなところを見せて、カールにアピールしては如何ですか?」

「そ、そうねぇ。そう言う事ならまぁ、一旦不問にしてあげるわ」

 

 そんなこんなで、少し話が逸れたのを利用しサクラを説得する事に成功。

 

 感謝しろよ、オッサン。

 

「すまない、この借りはきっと返そう」

「そうね、貸し1つね。後で取り立てるから覚悟しなさい」

「分かった、勿論だ」

 

 こうして場を収めることに成功した俺は、サクラと共に風呂を上がった。

 

 本来、世話になってる立場なのは俺達だ。なるべく、譲歩するのが筋というものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇカール。サクラの言ってた『裸を見た』って、何の話?」

「……カール、また女の子の裸見たの? 仲間になった女の子、全員の裸を確認しないと気が済まないの?」

「その、違うんです。不可抗力だったのです」

 

 部屋に戻ると、下で俺達とユウリの会話を聞いていたらしい仲間たちがカールの折檻を始めていた。

 

「私の服は切り裂いたし、レヴは失神中に全裸にしたし。仲間にするたびに裸の具合でも確認してるの?」

「滅相もないです。レヴに関しては救命行動ですし、少し語弊がありますマイカ」

「……思い出したら、恥ずかしくなってきた」

 

 そういや誰にも言ってなかったっけか。サクラは風呂場で魔族に襲われたから半裸で戦ってたって話。

 

 ……と言うかカールの野郎、俺やサクラだけじゃなくそこの二人の裸もばっちり見てたのね。

 

「ねぇイリーネ、カールって結構肉食だったりする? 割と安全な男として見てたんだけど」

「そうですわね……。基本は紳士でおとなしい方ですけれど、しっかり性欲はあると思いますわよ?」

 

 前に風俗のバーで、俺の事エロいとか言ってたしな。

 

 簡単に女の子の裸を見られる辺り、奴はラッキースケベの神様に好かれてるのかもしれない。

 

「良いから吐け、この変態」

「……どうして、カールは女の子の裸を見るの? わざとやってるの?」

「偶然なんです、わざとじゃないんです、痛いのでそれ以上はぁあああ」

 

 そんなカールLOVE勢の二人に頬を抓られて悶えているカールを、俺とサクラは生暖かい目で見つめていた。

 

 ああ、平和だなぁ。

 


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