【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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24話「魔術とは、学問なのです」

「うむ。むむむ、成る程」

「どうだ、ユウリ」

 

 柔らかな朝日が照りつける、ユウリ家の食堂のテーブル。

 

 目を覚まし身支度を整えた俺達カール一行は、今日も約束通りユウリの占いを聞くべく集合していた。

 

「そうか、何とまぁ……。うん、占いの結果が出たよ」

「おお。なら、今日はどうすれば良いか教えてくれ」

 

 厳かにそう告げる、幼き占い少女。

 

 今から聞くのは、今日起こる可能性の高い未来。それを回避するのが俺達の役目なのだが────

 

「カール君、君はだね。今日マイカの胸を揉んで、レヴのお腹を舐めて、イリーネの股ぐらに突っ込んで、サクラの尻に顔を埋める事になるだろう。何とか、その未来を回避してくれたまえ」

「あんたは何やるつもりなのよ!!」

「痛あぁっ!!」

 

 占いの結果を聞いたカールの顔面が、マイカのアッパーカットで大きく揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 ジリジリ、と俺達は警戒心をむき出しにカールから後退った。

 

 こいつは本当に、どういう星の下に生まれているんだ。

 

「そんな怖い顔で、距離を取らないでください女性陣。俺は、カールは危険人物などではありません」

「話を聞く限り、危険人物そのものなのだけどぉ?」

「まだ俺は何もしていないでしょう? ほら、怖がらなくて良いんです。カールは敵ではありません、もっと心を開いてください」

「ですが、その。ユウリさんの占い結果を回避するのには、距離を取るのがが最適だと判断いたしましたわ」

「……カールは放っておくと、ろくなことをしない?」

「俺は無実だ……」

 

 ぶん殴られてなお、必死で無害アピールをしているカール。

 

 確かにまだ何もしていないかもしれないが、カールならそういうことをしてもあまり違和感がない。うっかり偶然で、そういうラッキースケベくらいは普通にあり得る。

 

 そんな自覚があるからこそ、彼はこれから自分がどういう扱いを受けるのか理解しているらしい。

 

「いっそのこと、カールを拘束しましょうか。縄と手錠、荷物にあるから」

「えっ、何でそんなものを持ってらっしゃるの」

「本来は、取り押さえた賊に使う用よ。生け捕りで報酬額が上がるタイプの」

 

 マイカはそう言うと、ジャラジャラした鎖を袋から取り出した。

 

「なあマイカ、俺達は仲間だよな? 俺とお前は、ずっと一緒に遊んでた幼馴染み同士だよな?」

「そうね、カール。私と幼馴染みなら、分かってくれるよね?」

「分かるさ! 本気で俺を縛るつもりなんだろ!? 今日は一日、俺を部屋に放置して情報収集する気なんだろ!?」

「よく分かってるじゃない」

 

 マイカは顔を青くしているカールの腕を掴み、ぐるぐる巻きに拘束していく。

 

 口で嫌がってはいるものの立場的にマイカには逆らえないのか、カールは抵抗らしい抵抗をしなかった。

 

「食事の世話はマスターがしてくれるでしょ。今日は一日、その姿で我慢なさい」

「……了解です。カールの旦那、元気だしてくだせぇ」

「ひでぇ……酷すぎる……」

「……大丈夫。私も、お世話してあげる」

 

 占魔術師にセクハラを予言されてしまっては、どうしようもない。

 

 憐れカールはミノムシみたいに簀巻きにされ、マスター(おっさん)に抱き抱えられたまま男部屋に放り込まれたのだった。

 

「……ぐすん」

 

 部屋からカールのすすり泣く声が聞こえて、少し可哀想な気もするが。

 

 ユウリとの契約的に、カールをこうするのもやむを得まい。マスターに世話してもらえるみたいだし、今日くらいは妥協してもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父に頼んで、紹介状をいくつか用意させたよ。好きなのを持っていきたまえ」

「助かりますわ」

 

 ユウリは、俺達に3枚の手紙を持ってきた。

 

 カールを封印し、俺達はマスターの用意していたサンドウィッチを頬張っていた折である。

 

「昨夜は迷惑をかけたからね、精一杯やらせてもらうよ。まだ直接話は通せてないから、今日会いに行くつもりならボクがついていこう」

 

 曰く、それぞれ勇者関連の研究において有名な研究者への紹介状だそうだ。ユウリは、しっかりと依頼をこなしてくれていたらしい。

 

「このブリオ博士は、古代回復魔法の復活を研究している学院教授さ。ボクも講義を受けたことがある人物だ、非常に分かりやすい講義をしてくださる。勇者伝説の回復役の伝承と文献から、実際に古代に使われた回復魔法の再現を目指しているらしいよ」

「あら、良いわね。回復魔術には興味があるわ」

「ロメーロ博士は、射出系魔術についてこの街でも有数の識者と言われている人だ。古代から現代への魔法詠唱と構築の変遷を研究しており、勇者伝説において使用された魔法についても講演を定期的に行っている」

「……それは興味深いですわ」

「最後は、アンリというボクの同級生。彼女は、家ぐるみで歴史考古学の研究をしている変わり種の一家だ。魔法の知識には今一つ欠けるけど、恐らく純粋な勇者伝説については彼女の一家が一番詳しい筈さ」

「へぇ、良いじゃない」

 

 ユウリの話を聞くと、成る程話を聞いてみたい研究者ばかりだ。特に、射出系魔術に詳しい人には是非とも教えを乞うてみたい。

 

 俺は、ちょっと胡散臭い家庭教師からしか魔術を習ったことが無かった。一度、ちゃんとした学校で学んでみたいと思っていたのだ。

 

「さて、何処に行こう……? 全員でそれぞれ会いに行くか、3手に別れるか……」

「3手で良いんじゃない? この人数でゾロゾロ押し掛けてこられても迷惑でしょ」

 

 確かに、その方が無難だろう。それに、その方が効率よく情報も集まるだろうし。

 

「なら私、その回復魔術を研究している博士に会いたいわねぇ。父親から学んだだけの独学の魔術じゃ、この先不安だもの」

 

 サクラは、やはり回復魔術の学者に興味を示した。俺と考えることは同じらしい。

 

「私は、ロメーロ博士ですっけ? その、射出魔法の人に興味がありますわ」

「まぁそうよね、それぞれの得意分野だもんね。私とレヴは魔法の話分かんないし、単純な勇者伝説に詳しい最後の子に会いに行きましょうか」

 

 とまぁ、俺とサクラの熱望を感じたマイカは頷いてくれた。よし、これで射出魔法の人に会いに行ける。

 

 俺が集めるべきは、古代の攻撃魔術の情報収集。勇者伝説の情報だけでなく、あわよくば精霊砲より強力な魔法を習得したい。

 

「自分を磨いて損は無いからね、頑張りましょイリーネ」

「ええ。どうせなら私も、もっと強力な魔法を覚えたいですわ」

 

 俺とサクラは、そう言って腕を交わした。

 

 ぶっちゃけ現代に精霊砲より強力な魔法は無いのだが、過去の大戦期にはもっと強力な攻撃魔法がたくさん存在していたという。

 

 それらは時代の変遷と共に失伝され、『失伝魔法(ロストマジック)』と呼ばれて各地で研究されているのだ。

 

 射出魔法を専門に研究している人なら、ひょっとしたらそういう研究もしているかもしれない。

 

 こないだのような無様な勝負はしたくない。せっかく魔法都市に来たのだ、しっかりパワーアップして見せる。

 

「うむ、委細承知した。じゃあ、その人達の下に案内するからボクに付いて来たまえ」

「お願いね、ユウリ」

 

 こうして、俺は新たなる『学び』に期待してロメーロ博士とやらに会いに行くのだった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────の、だったが。

 

「おお、おお、好ましきかな。イリーネさん、貴女のような勉学熱心な方にはいくらでも知識を提供しましょう。それが、ヨウィンと言う街です」

「感謝の極みですわ」

 

 学園の最上階の研究室で出会った、ロメーロ博士。

 

 彼の話は、一言でいうと。

 

「ではまずは基本。魔導方程式と魔力昇華過不足算の法則について復習いたしましょう」

「……はい。……はい?」

 

 何を言っているのかサッパリ理解できなかった。

 

 ……え、何その聞いたことのない言葉。

 

「使用した魔力αに、発動係数nをかけることで理論実行量nαとなりますが、魔力昇華過不足算の法則により決して実際の威力Tはnαを超えることが無いのです。つまり、全ての魔術発動においてnα>Tは絶対不変の法則であります」

「…………??」

「この際にT/nαを昇華係数と言って、いかに効率よく魔術を行使できたかの指標になります。これは魔術師が修練によって上昇させることが出来ます。一方で理論値であるnαは、魔力成長期を過ぎた魔導士だと生涯増えることはありません。熟練の魔導士とは、発動した魔法を理論実行量にいかに近付けるかを探求した存在なのです」

「ははぁ、成程ですわ(思考停止)」

「そして、魔術杖などで魔法の威力を強化しようとする場合は理論実行量に強化係数vをかけます。ここはとても大切で、魔術杖は決して昇華係数を上昇させるものではなく、理論実行量に対する係数だという事なのです。むしろ、その操作の難易度から魔術杖は昇華係数を下げるとまで言われています。だが、ある程度熟練した魔導士において昇華係数が下がろうと、理論実行量に強化係数が掛かる方がメリットが大きい」

 

 頭の中が、数式でぐるぐるしている。

 

 俺の家庭教師は、そんな難解な数式を教えてくれたことはない。『ガァーってするとフォゥ!! って感じで出るのよ! 発動すればいいの、細かい理論より体で覚えるのが魔術よ!』みたいな教え方の家庭教師だった。

 

 それで理解できた俺も俺だが、やっぱり本物の魔術師って頭を使わないと駄目なのね。

 

「今までの話は、全て単一属性の魔法の話です。イリーネさんの用いる精霊砲は、4属性の魔法の合わせ技なので計算式が大きく変わります。4つの属性全てに魔導方程式を組み立てて、均一対数計算を行います。正確な計算には虚数魔導式の概念が必要になってくるのですが、恐らくそこまでは習っていらっしゃらないと思うので割愛いたします。近似計算式maxNα≒v〔(n1-logT1)/a+(n2-logT2)/b+(n3-logT3)/c+(n4-logT4)/d〕を用いて計算してみましょう」

 …………。

 

 で、全く話についていけてない訳だが。俺は、どうしようかコレ。

 

 

 

「……ええ、理解しましたわ」

「おお、分かったかね」

 

 無論、ここは取り敢えず────

 

「さっぱり分からないことが分かりました」

「……おや」

「私の師匠は、そのような難解な数式を教えてくださりませんでした。ただ、発動すれば良いと」

「ふむ。感覚派の人から魔法を教わったんだね……、なら今の私の言葉の大半は理解できなかったのでは?」

「お恥ずかしながら。学びを乞いに来て、情けない限りですわ」

 

 わからん事は素直にそう言う。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。

 

 知ったかぶりは、ろくな事にならんのだ。

 

「まぁ、確かに魔術師は詠唱さえ覚えれば魔法行使が可能だ。そこで満足する人も多い」

「……」

「だが、それよりも1歩上を目指したいなら────、どの様にして魔法は発動し、どんな風に魔法は制御されているかを知らねばならない。それを知れば、きっとイリーネ君の魔法はますます強くなる」

「それは、本当ですか?」

「勿論だとも」

 

 素直に分からないと吐露すると、博士は優しい顔のまま俺の顔を見つめてそう言ってくれた。

 

「なら、今日はもっと簡単で分かりやすいところから始めようか。昇華係数測定……まぁつまり、君がどれだけ魔術が上手いかを調べてみよう」

「……はい。私はどうすれば良いですか?」

「そうだね、この器具を腕に付けて────」

 

 あー。この人、凄く優しいな。

 

 何の義理もない俺に、ここまで親身にしてくれるなんて。

 

「初級火魔法を詠唱したまえ。後はこの振り子が、君の実力を測定してくれる」

「はい。これは、どういった物なのですか?」

「君が使用した魔力に対して、どれだけの火力が出ているかを調べる道具さ。少ない魔力で強い火が出せていれば、昇華係数が高い魔法と言えるんですよ」

 

 ふむ。要は、どれだけ魔力のコントロールが上手いかってことか。

 

 それは結構自信あるぞ。

 

「分かりました、博士。煌めく火精、指に宿りて炎を映せ……」

「……うむ?」

 

 腕にバンドを巻いたまま、俺は言われた通りに小さな火を指に灯す。

 

 すると机の上に置かれた振り子は速やかに、直角に折れ曲がって動かなくなった。おお、不思議。

 

「火を消してみてください」

「はい」

 

 そして魔法を終えると、振り子はそのまま力を失って左右へと揺れ始めた。

 

 面白いなー、これ。

 

「うむむむ?」

「どうかしましたか、ロメーロ博士」

「君、さっき詠唱を間違えておったよ?」

「あら?」

 

 ……あ、そんな馬鹿な。火の初級魔法、今までずっとあの呪文でやって発動したんだけど。

 

 確か教科書にも、あの詠唱が書いてあった筈。最近見直したし、間違いないと思う。

 

 ……そういやあの教科書、師匠の手書きだったな。師匠が間違えて書いたのか?

 

「正しくは『揺らめく火精、指に宿りて炎を灯せ』です。なの、ですが……」

「分かりました、次からそう詠唱いたしましょう」

「いえ。その、不思議なことに貴女の魔法には無駄が一切ありませんでした、イリーネ。昇華係数は満点の100%です」

 

 博士はそう言うと、胡散臭い目で俺の指先を見つめていた。

 

「呪文を間違えたというのに、魔法発動に全く魔力のロスがない。発動に使用した魔力を100%、綺麗に威力へと変換できています」

「へぇ。それはつまり、良い事ですわね?」

 

 ふ、どや。俺は師匠からも「魔力使うの上手過ぎて引くわー」と言われたことがある。

 

 伊達に一族きっての天才扱いされてはいないのだ。大して努力せんでも並大抵の事は出来たし。

 

「ええ。だが裏を返せば、既にイリーネさんの魔法は完成してしまっています。もう、全ての魔術師が生涯をかけて到達しようとしている『究極の魔法効率』に至っていると言えます……。どうなってるんですか?」

 

 ……おろ? 俺の魔法は、完成している?

 

「では、私はどうしたらもっと強くなれるのでしょうか」

「呪文を間違えているのにこの昇華係数になるなら、どのように魔法を使っても最大威力が出せるでしょう。逆に言えば、今からどのように努力されようと魔法に関しての伸び幅はあまり期待できませんな……」

「……えぇー」

 

 それは、正直かなりショックな事実だった。

 

 要は、俺は「もうレベルカンストしているのでこれ以上強くなれませんよ」と言う事らしい。

 

 ちょっと俺のレベルキャップ低くない?

 

「では、私はもう強くなれないのですか?」

「そんなことはありませんよ。貴女自身の成長は頭打ちですが、より強化係数の良い魔術杖などを使えば魔法威力の底上げは出来ます」

「杖、ですか。実は恥ずかしながら、自分用の魔術杖は持っておらず……。なかなかに高価で手が出しにくくて」

「おお、でしたらこの街で作っておくべきですな。ヨウィンは魔術杖の名産地、他で買うよりも断然安く品質も良い。お勧めの店を幾つか教えて差し上げましょう」

「それは願ってもない事ですわ。ですが、その」

 

 なるほど。俺のレベルはカンストしてるから、後は装備で誤魔化すしかないのか。

 

 小さなころは魔法の天才とか言われて少し調子こいたけど、ただ俺は早熟なだけだったんだな。早々に魔法に見切りをつけて筋トレに走ったのは、強くなるという意味では正解だったらしい。

 

 でもなぁ、魔術杖はなぁ。

 

「私は今、実家から出て旅をしている状況でして。予算が、あまり……」

「……ふむ。予算ですか」

「日々の暮らしに困窮してはいないのですが、魔術杖のような高価な装備品を買うとなると……」

「そういえば、イリーネさんは冒険者のパーティとして旅をしてらっしゃるんでしたね。確かに、それでは資金的に心許ないでしょう」

 

 正直言って、魔術杖は高い。

 

 旅商人は、中品質の魔術杖で一軒家が建てられるくらいの値段を要求してくる。

 

 原産地であるヨウィンで買うと少し安くなるとは思うが、それでもカールパーティの有り金全部はたいて買えるかどうかだ。一応、杖店は覗いてみるつもりだが、正規品を購入するのは難しいだろう。

 

「でしたら、ちょうど良い方法がありますよ」

「丁度良い方法?」

「ええ。ある程度腕が立つことが前提ですが、精霊砲が使える魔法使いが居るならきっと何とかなるでしょう」

 

 と、若干魔術杖の入手を諦めかけていた俺だったが。

 

「実はですね────」

「そんな方法が……」

 

 気の良いロメーロ博士はなんと、現実的な魔術杖の入手方法を丁寧に教えてくださったのだった。

 

 初対面の俺に、よくもまぁここまで親身になってくれるものだ。

 

「本日は、本当にありがとうございました。このご恩は、いずれお返ししますわ」

「気にすることはありません。私はユウマ博士のファンですからね、彼の紹介ならいくらでも力になりますよ」

「そ、それはどうも……。ん、ユウマ博士?」

「ええ、私の尊敬する数少ない研究者の一人です」

 

 ……。それって、あのユウリの父親の変な人?

 

「そ、そうですか。素晴らしい方と知り合えて、私は幸せですわ」

「そうでしょう、そうでしょう。ユウマ博士に、くれぐれもよろしく頼みます」

 

 うーん? 人違いとかじゃなくて、本当にあの変な人のファンなのかこの人。

 

 チラッとしか会ってないけど、話を聞く限り相当な変人だと思うんだが。宴会芸の研究している人だろ?

 

 まぁ、そういう人に限って変なカリスマを持っていることも多い。気にしないでおくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕刻、ユウリの家。

 

「さて。ただいま戻りましたわ、カールさん」

「モゴモゴ」

「口まで縛られているんですか……」

 

 俺はロメーロ博士の家から帰った後、真っすぐにカールが閉じ込められている部屋に向かっていた。

 

「はい、外して差し上げますわ」

「ぷはぁー、生き返った。おかえりイリーネ、話は聞けたか?」

「ええ、素晴らしい話を聞けましたわ」

 

 ユウリからの依頼的に俺はカールを避けるべきなのだろうが、どうしても今日の間にカールに話しておきたい頼みがあったのだ。

 

 それは、

 

「明日、郊外の森の探索に行きたいのです。ついて来ていただけませんか、カール」

「探索?」

「ええ、森の探索です」

 

 明日一緒にフィールドワークしようぜ! という、至極シンプルな頼みであった。

 

「この辺は魔物が強いので、探索するにも護衛が必要なのです。カールがよろしいのでしたら、是非……」

「探索って、いきなりそんな……。何か理由でもあるのか?」

「ええ。実は、私とサクラさんの魔術杖の素材を取りに行きたいのですわ」

 

 そう、俺がロメーロ博士から教わった『高価な魔術杖を安く入手する裏技』。それは、自分で素材を取りに行って工房に持ち込むという方法だった。

 

 魔術杖の技師さんは冒険者から杖の素材を買って、加工して商品にしているらしい。つまり、俺達でも魔術杖の素材を持っていけば買い取ってくれるのだ。

 

 なので明日、カールやサクラを誘って森に行って『魔術杖の素材になる木材』を入手し技師さんに売れば、その代価で1~2本ほど杖を作ってもらえるという寸法である。

 

「私、どうしても魔術杖が欲しいんです。魔族とやらがいかに恐ろしい存在なのか聞いて、このままで良いのかと考えまして。どうか、私のわがままに付き合っていただけませんか……」

「む、そっか。そういう話なら、喜んで付き合うよ。それならいっそのこと、パーティ全員で行ってもいいかもね」

「ええ、私から提案してみますわ」

 

 よし来た。これで、精霊砲の威力は上がるし、魔法使いっぽい見た目になるし。

 

 中身が筋肉なのだから、せめて見た目くらいは魔法使いっぽくしないと清楚がはがれてしまう。

 

「じゃあ、明日に備えて準備しないとな。イリーネ、流石にそろそろ縄解いてくれない?」

「構いませんわよ。今日1日、大変だったでしょう」

「本当だよ、まったくマイカめ。アイツ、人の心の大事な部分をいくつも失って────」

 

 カールも理解してくれたし、後はみんなの説得だな。うん、コイツが話の分かる男で助かったぜ。

 

 だからその後、足がしびれていたカールが転倒して俺の股に顔を突っ込んできたのはご愛敬としてやるか。

 

 

 




おまけ


「さて、カール君。今日のボクの占いは、どうだった?」
「お見事様、全て的中してたよユウリ」
「やたっ! ふふふ、流石はボクだ」
「────っ!?」

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