【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く 作:まさきたま(サンキューカッス)
ヨウィン南西部に位置する、広大な森。
『魔力の森』と俗称されるその場所は、この近辺では類を見ない程に『凶悪な魔物』が跋扈しており、現代の魔境と言われている。
「どうやら、この森には魔力を豊富に含んだ地脈が存在するらしいのですわ」
「へ? 魔力って、地面から出て来るもんなの?」
「魔力と言うものは何処にでも存在する、空気のようなものです。ですが魔力を行使する事が出来るのは、魔術師だけと言われていますわ」
そもそも、このヨウィンと言う街の成り立ちはこの森から始まったという。
豊富な魔石や魔力樹を有した、天然の魔法樹林。
何故、この森だけ妙に魔力が濃いのか。その謎の研究をするために、100年以上前の学者が森の近くに研究所を立てたのが全ての始まりだった。
その豊富な魔力資源に目を付けた商人が研究所の近くに拠点を作り、小さな集落が出来た。その小さな集落であげられた高度な研究成果を求め、貴族や学者が移り住み始めた。
そんなこんなで集落はどんどん発展し、気が付けばヨウィンは小さな研究拠点から立派な街へと変貌を遂げたのだ。
「たった100年で、こんなに街が大きくなったの?」
「建築資材さえあれば、土魔術師1人で街は作れますからね。ましてや、ヨウィンに来るほど腕の良い土魔術師なら楽勝でしょう」
「そっか、魔法か」
そのヨウィンの学者たちが、100年かけてなお踏破しきれていない『魔力の森』。そこは高純度の魔法素材が枯れることなく手に入るという、とても不思議な場所だ。
「魔物も、この森で高純度の魔力を帯びた餌を食べて育っているのです。ですから、他の街より住み着いた魔物が強いそうですわ」
「成る程、それでさっきから妙に強力な魔物が出てくる訳ね」
「……カールが居て助かった」
この森に入るには、相応の実力が要求される。そこらの冒険者が迷い込めば、半日で魔物の胃袋に収められてしまうだろう。
なので、この森に探索に来るのは基本それなりの冒険者。
そんな精鋭が100年の月日をかけて森の探索を進めているそうだが、奥地はまだ秘境扱いなのだそうだ。
「思ったより早く、進めてるわねぇ?」
「マイカの索敵が早いからな。いつも助かる」
「一応、私の本職は狩人だしね」
だが、うちのパーティには『索敵の達人』と『対魔物のスペシャリスト』がいらっしゃる訳で。
自分よりでかい魔物にめっぽう強い俺達のリーダーは、道すがら多量の魔物の死体を量産していた。
「もう少し奥に、ヨウィン樫という魔術杖に最適の木が群生しているらしいわ。あとひと踏ん張りよ」
「おう、任せとけ」
まだ森の浅い所とは言え、今の所は順調。
俺達は、カールの背に守られながら危険な森を歩み続けた。
「じゃあ各自、警戒を怠るな」
────その顔の裏に、言い知れぬ不安を抱えながら。
順調な旅なのに、皆の顔が険しい理由。
それは、今日のユウリの占い結果に起因していた。
「最悪の占い結果?」
「……ああ。正直な事を言うと、この占いには外れて貰いたいね」
「どんな内容なの?」
今日の朝。ユウリは、過去に類を見ない程に怖い顔で占いを告げた。
「子供だね。死んでいるみたいだ」
「……なっ!?」
「森の中で、絶望の顔の女の子が魔物に食われて絶命している。まだ年端も行かぬ、小さな子だ」
「どういう事だ、それ」
「近くに、真っ青な顔の君達の姿が見える。カール君がすぐ魔物に斬りかかって女の子を助け出そうとするけど、既にその子の下半身は無い。どう見ても、絶命している」
「……」
その占いの内容は、信じられ無いほどに残酷で悲劇的だった。
「……朝から最悪の気分だよ。何とか、この結果を覆してみてくれ。理論上、今回のボクの占魔術は絶対に的中する筈なんだけど……。何処かに穴があるかもしれないから」
「わ、分かった。努力する」
「青髪の、ショートヘアの女の子だ。見かけたら保護してやってくれ、頼んだよ」
ユウリが生涯をかけて研究してきたテーマは、絶対に的中する占魔法だ。
確定した未来の一部を知ることで、前もって対策を立てる事をユウリは目指している。
火事を予知したなら、水を貯めて備えるだろう。
飢饉を予知したなら、食料を節約して蓄えておけるだろう。
────だけど。予知してしまった火事や飢饉そのものを、防ぐ手段はないそうな。
「……」
ユウリが見えた『子供が死ぬ』場所は、森。カールはその娘を助けようとして、間に合わなかった状況らしい。
恐らく、占い結果を変えるため森に向かわなかったとしても、その娘が死ぬ未来に代わりはないだろう。俺達がその女の子を助けるためには、ユウリの占い結果より早く女の子を見つけ出して保護しないといけない。
「すぐに、森に出発するぞ」
「了解ですわ」
俺達はあまり、時間に余裕がない。
そう判断した俺達は、マスターに用意してもらった食事をかっこむと、朝1番に魔力の森へと向かったのだった。
「もうすぐ、目的地ね」
「取り敢えず、当初の目的だったヨウィン樫は手に入りそうだな」
まだ、太陽が昇りきる前の時刻。カールがサクサクと敵を倒してくれたお陰で、俺達は早くも樫の群生林へと到着した。
「元々、私達はヨウィン樫を取るために此処へ来る予定だった。それであの占い結果なのだから、今通ってきた道の何処かで女の子が殺されるのよね」
「まぁ、女の子が迷い込んだとして他の場所は通らんだろうな。人が通れる道は1本だったし」
普段ヨウィン樫を取りに行くのは、街の冒険者か魔術杖職人だ。
比較的森の浅い所に存在する、ヨウィン樫の群生地。そこへの道筋は過去の冒険者により草が分けられ、迷わぬ様に目印がつけられていた。
途中に分かれ道らしき場所も見当たらない。ユウリも『1本道だから迷わない筈』とは言っていた。
「女の子らしい姿は今の所どこにも見つからなかったわね……」
「……だな。じゃあ、ここからどうする? 少し周囲を探すか?」
「馬鹿なのぉ? こんな危険な場所で時間使う必要なんて無いでしょ、さっさと帰るわよ」
「えっ」
そう言ったのはサクラだった。
彼女は、不満げな顔でカールをジトっと睨みつけていた。
「おいサクラ、まだ女の子が見つかっていないぞ」
「だからこそよ? 私達がこの森の中で女の子を見つける筈なのよぉ、だったら早く引き返した方がいいに決まってるじゃない」
「そうね、サクラさんが正しいわ。素材を回収出来たら、さっさと帰るわよカール」
その意見にマイカも頷く。カールはまだ、よく分かっていないという表情だ。
……ふむ。そっか、よく考えたらそうだな。
「もともと私達が通る予定だった場所に、女の子は居る筈ですわ。1本道で行きに出会えなかったなら、絶対に帰りに出会う筈」
「……あ、そっか」
「間に合わなかったのが原因でその子が絶命するのであれば、むしろ私達は急いで引き返すべきなのです。そう言う事ですわね、サクラさん?」
「そんなとこ。私だって子供を見捨てるのは忍びないもの、せめて最大限努力はするつもりよ」
「そっか。じゃあ、急いで帰らないと駄目なんだな俺達」
その通り、せっかく元々の予定より早く出発したんだ。1秒でも早く、女の子に接触するためにもなるべく早く行動しないと。
にしても、前から思ってたけどサクラって結構頭いいよな。
魔族戦でも、きっちり罠に嵌めて動き止めたりしてたし。マスターは何処を見て彼女をポンコツ扱いしているのだろう。
「さっさと良い感じの枝を集めて帰りますわよ。ただし、生きてる魔力樹の枝を切っちゃだめですわ。呪いを受けて寿命が減るらしいですから」
「あくまで落ちてる枝を集めないといけない訳ね、了解よ」
「あぶねー。聞いといてよかった」
「カール、斬るつもりだったの……?」
剣を抜きかけていたカールに、先んじて忠告しておく。
魔力の樹には意思があり、自らの体を傷つける者に呪いをかける性質があるのだ。森林伐採にもなるし、生きている樹に傷はつけてはいけない。
あくまで俺達は、森の恵みの『おこぼれ』を預かる身なのだ。
10分ほど、俺達は互いに見える範囲で採集を行った。
そして俺がそれなりに丈夫そうな樫の、40~50cm程の枯れ枝を拾って強度を確かめていた折。
「……?」
俺はふと、何処かから視線を感じた。
誰かにジッと、見つめられている。たぶん、近いところだ。
「イリーネ、どうかした?」
「い、いえ……」
すぐさま周囲を見渡したが、周りにいるのは仲間だけ。
森には、魔物も女の子らしき姿は見えない。
……気のせいか?
「……」
いや、やはり視線を感じる。
どこかで、誰かが俺を見つめている気がする。
「マイカさん、周囲に何かいませんか? 何かの気配を感じますわ」
「えっ……。気付かなかったわ、ごめんなさい。少し探ってくるね、みんな止まって」
「オッケー」
気のせいだったら恥ずかしいが、念のためマイカに探って来て貰おう。
もし例の女の子が居るのであれば、ぜひとも保護してあげないと。
「……気配、ある? 私には分からない……」
「すみません、何か視線を感じるのですが……。気のせいかもしれませんわ」
「気のせいだったらそれに越したことはねーよ」
パーティで何かの視線を感じているのは、俺だけの様だ。
だったら、気のせいかもしれない。だが、確かに今も視線を感じている。
……何処だ?
「うーん……。イリーネ、誰も居ないみたいだけど」
「そうですか……。申し訳ありませんわマイカさん、気のせいの様です」
「良いの良いの、危険な場所では過敏に反応するくらいで丁度良いんだから」
そうこうしているうちに、ぐるっと周囲を一周してマイカが帰ってきた。
特に、異常は無かった様子だ。
「……」
「じゃあ、続けましょうか」
なのに、何だ? この、不思議な感覚は────
……みぎうしろ。
そして何となく、声が聞こえた気がして。
俺は、右後方へと振り返った。
……そのまま、まっすぐ。
居る。やはり、そこに何かが居る。
「誰か、居ますの?」
声をかけても、反応はない。だが、確かにそこに『何か』が居る。
「……イリーネ?」
「やはりそこに居ますわ、何かが」
落ち着いて周囲を見渡し、俺は気付いた。
振り向いた先、右後方の倒れた樫の切り株の上に、何かの気配が有った。
そうか、こいつか。こいつがさっきから気配を放っていたのか。
……こっちに、きて。
こいつは、何だ? 目には見えぬ、化け物の類か?
……周囲には、頼れる仲間たちが居る。ここでなら、何かが起こっても助けてもらえる。
おびえる必要なんてない。俺はその得体の知れない声の主に従い、切り株を目指す事にした。
「カール、そこに何かの気配を感じます。少し、見ていてくださいまし」
「……お、おいおい。そこって、何処だよ?」
カールに一声かけて、俺はゆっくりと歩きだした。
切り株の上。よくみれば、ぼんやりと蜃気楼の様に揺らめく陰がある。そして、確かな魔力の奔流を感じた。
「ここですわ────」
俺は、それに恐る恐る触れて────
「────っ!?」
真っ白な光が、俺を包み込んだ。
直後、温かく目が焼ききれそうな光量が、切り株に触れた瞬間に森を照らしあげた。
「きゃっ!?」
「どうした、イリーネ!?」
「目が、目が……」
眼球が痛ぇ。何じゃこりゃ、スタングレネードか何か?
音はしなかったけど、この光量はテロだろ。目が潰れるかと思ったわ。
「何があった?」
「カール、その、目をやられましたわ。先ほどの、謎の光のせいで……」
「光?」
ぼんやりと視力が戻ってくる。心配そうに俺を覗き込むカールの顔が、輪郭を帯びてくる。
「光って、なんだ?」
「ですから、先ほどの」
「……? すまん、何処か光っていたか?」
しかし、いまいちカールの言葉は要領を得ない。
あの殺人的な明るさの光を、カールは見逃したと言うのか?
「マイカ、何か見えたか?」
「ううん、私にも分からなかった。イリーネ、本当に大丈夫?」
「……あら、あら?」
え、誰も見えていないのか? あの、森全体を覆えるくらいの熱量を帯びた光を……
……これで、みえる?
頭に、そんな声が響いてきた。
それは、どこか幼さを帯びた優しい声色で。
「……え」
「イリーネ、本当に大丈夫なの? ひょっとして、持病とか持ってたりする?」
心配そうにサクラが駆け寄ってきたが、俺にはそれどころじゃなかった。
再び目が慣れて、世界が色彩を取り戻した後も……。俺の目には、カラフルな波がそこら中に渦巻いているように映っていたからだ。
「これは、目がおかしくなった……? すごく、チカチカ致しますわ」
「む。イリーネ、頭は痛くない? 吐き気はしないかしら?」
「そういうのではなく、その。何と形容すればよいのでしょうか……」
俺を抱きかかえ、優しく介抱してくれるサクラ。
そして俺は、そんな彼女の横に……
……やっとめが、あったね。
小人のような姿をした、光で形成された存在を知覚した。
「イリーネ、大丈夫だから。わかりやすく、今どんな感じなのか教えてくれる?」
「……実は、妖精さんが見えますわ。そして今、私に話しかけてきましたの……」
「……。これはもう駄目かも分かんないわね」
なんぞこれ。