【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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26話「精霊の歌」

「その時、森の妖精さんが話しかけてきたのですわ、こっちにおいでと。私がその誘いに吸い寄せられるように切り株に触れると、世界がカラフルな光で包まれて────」

「これはヤバいわね」

 

 突然の幻覚、幻聴、視野異常を主訴に医師の診察を受けた俺だったが、女医サクラは目を伏せて首を振った。

 

 どうやら俺は、手遅れらしい。

 

「おい、イリーネはどうしちまったんだ?」

「んー。もともと頭痛持ちで幻覚を見ちゃったのか、変なキノコ食べちゃったか。何れにせよ、街に戻って精査が必要ね」

「此処で治せないの?」

「前に言ったでしょ、私は外傷専門なのよぉ」

 

 どうやら俺は、やベー奴みたいな感じになってしまったらしい。無理もない、俺だってそう思う。

 

 でも、実際に……。

 

 

 

 

 

 

 ……こっちに、おいで。

 

 

 

 

 

 

 今も俺の目の前に妖精さんが立っていて、手招きしてるんだもん。

 

 うーん、疲れてるのかな。

 

「イリーネ、自分の名前は言える? ここは何処か分かる?」

「その辺は大丈夫ですわ。……今も、そこの妖精さんが手招きして呼んでるのが気になりますけど」

「あんまり大丈夫そうじゃないわね。うーん、頭打ってないわよね?」

 

 うん、打ってないとは思う。

 

「……。逆にサクラさんは、そこに何も見えないのですわね?」

「見えないわ。イリーネが指差してるのは、ただの切り株よ」

「切り株の上に居るのですわ。うーん……」

 

 この妖精さん、どうやったら消えるんだろう。

 

 森がヴェールを掛けられたように眩しいし、変な声が響いてくるしで頭が変になりそうだ。いや、もうなっとるのかもしれんけど。

 

「……」

 

 妖精は俺を手招きしながら、俺の見ている切り株のその先を指差していた。

 

 あっちに何かがあると、言いたいのかもしれない。

 

「……。よし、少し妖精さんの誘いに乗ってみますわ」

「えっ。何するつもりよ、イリーネ」

「妖精さんの呼んでいる方へ行ってみます。もしかしたら、本当に何かあるのかも」

 

 最初から頭の中の妄想と決めつけるのもよくない。1度くらい、妖精さんの示す場所を調べてみても良いだろう。

 

 妄想だったとしても、大して実害はないし。

 

「こっちに、妖精さんが導いていますわ」

「ちょっと、あんまり動いちゃダメ。今、貴女は相当おかしくなってるのよ?」

「自覚していますとも。だけど────」

 

 これが妄想や幻覚だと、理性では判断出来る。

 

 でも、実際に見えてしまっている俺にはどうしても、妖精が何か重要な事を示しているようにしか見えないのだ。

 

「こっち、こっちです」

「そっちに道は無いわよ……」

「ですが、こっちに」

 

 俺が妖精の指し示す道を進むと、その妖精は嬉しそうな声色で歌い始めた。

 

 どこかで聞いたことのあるその音楽と共に、妖精はゆらゆら浮いて俺を先導し始めた。

 

「イリーネ、ちょっと。一旦止まりなさい、どこに行くつもりなのよ」

「分かりませんわ……」

「これ、大丈夫なの? カール、一旦気絶させてでも止めた方が良いんじゃ」

「……ん。イリーネ、ぜったい変」

 

 ふらふらと、妖精の跡をついていく。

 

 そんな様子の俺を見て心配そうに、仲間たちが追いかけてくる。

 

「……すまんイリーネ、ちょっと落ち着け。な?」

「落ち着いていますわよ。……あ、妖精さんが止まった」

「落ち着いているようには見えねぇな。すまん、後で謝るからちょっと眠っててくれ────」

 

 俺を取り押さえようとしたのか、カールがニュッと手を伸ばしてくる。

 

 む、大丈夫だってば。

 

「……あっ、彼処。彼処です!」

「あん?」

 

 心配したカールに組みつかれた、その時。俺は、とうとう妖精が指し示す場所へと辿り着いて────

 

 

 

 

 

 

 

 

「うきゅぅ……」

「……」

 

 青い髪の幼女が、目を回して気絶しているのを見つけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地面にうつぶせに倒れる、小さな女の子。

 

「おーい、大丈夫かしら?」

「……はっ!?」

 

 彼女がどうやら、お目当ての幼女で間違いないらしい。俺とサクラは駆け寄って声をかけると、幼女の眠りは浅かったのか、声に反応してすぐ目を覚ました。

 

「えっ、えっ? ここは、何処なの?」

「怖くないですわよ。大丈夫、大丈夫」

 

 女の子は起き上がると、パチクリと目を見開いて困惑した顔を見せた。

 

 見た目は妹……イリアと同じくらいの年代だろうか。貴族風の衣装を身に纏った彼女は、俺達に気が付くと警戒した表情で睨み付けた。

 

「本当に、イリーネの言った場所に何かあったわね」

「うーん……偶然なのか?」

「今はそんなことどうでもよろしいですわ」

 

 どう対応していいか分からなそうなカールを脇にどかして、俺は女の子に優しく語りかけた。

 

「お嬢さん。落ち着いてくださいな、私達はヨウィン樫を採集しにきた冒険者ですわ」

「冒険者……」

「そう、冒険者です。お嬢さんよろしければ、私達にお名前を教えてくれませんか?」

 

 この子からしたら、それは怖い状況だろう。森の奥深くで見知らぬ大人に囲まれているのだから。

 

 こっちがアタフタしていると、この子まで不安になってしまう。

 

 こう言う時はさっさと自己紹介して、安心させてあげるのが大切だ。

 

「……内緒。平民なんぞに名乗る義務はないの」

「あら、あら。でしたらご安心ください、私は貴族ですわよ? イリーネ・フォン・ヴェルムンドと申しますわ」

「嘘。名門ヴェルムンド家の人が、冒険者なんかやってる訳ないの」

 

 むず、信じて貰えなかった。

 

 まぁ、そうか。俺の家柄的に、冒険者は変だよな。

 

「とある事情があっての事ですわ。ヨウィンへと戻る道すがら、お話しいたしますわよ」

「……信用できない」

「むー。どうしましょう、宿に戻れば家紋入りの装飾品などお見せできるのですが」

 

 睨み付けるように、俺を見つめる幼女。

 

 この警戒心の強さは、初めて会ったときのレヴちゃんに通じるものがあるな。

 

「……私に任せて」

「何とか出来るのか、レヴ」

「……ん」

 

 その幼女の態度に、シンパシーを感じたのだろうか。

 

 自信ありげなレヴは、目で俺に下がっていろと合図を出した。

 

「森の中で、一人ぼっち。そんなあの娘の気持ち、私にはよく分かるから……」

「レヴ……」

 

 そうか、きっと彼女も初めてカールに出会った時に似たような状況だったのだろう。

 

 俺なんかより、確かにこの娘の気持ちを理解できるのかもしれない。

 

 ここは彼女に任せよう。信じるぞ、レヴちゃん。

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

 レヴちゃんは、しゃがみこむ幼女の前に腰を落とした。

 

 正面から、座って向き合う形だ。

 

「……?」

「…………」

 

 お互いに無言のまま、数秒が経過する。

 

 真剣な表情で幼女を見つめるレヴと、困惑の表情で見つめ返す幼女。

 

 場には、不思議な緊張感が張りつめていた。

 

 

「……っ!」

「……っ!?」

 

 

 やがて、ピクンと幼女が揺れる。それに釣られたのか、レヴちゃんも目を見開いてのけぞる。

 

「……っ! ……っ!」

「……っ!?」

 

 やがて青色幼女は小刻みに震えだし、不思議な声色でヒッ、ヒッと呻き始めた。

 

 その珍妙不可思議な行動に、逆にレヴちゃんの方が混乱させられる。

 

「……ひっ! ……ひっ!」

「え、え……? なにこれ……」

「……ひっ!」

 

 睨みあいの最中、その幼女の呻きは一定間隔で続く。

 

 その謎の挙動に、レヴちゃんの理性はとうとう耐えきれなくなったらしい。

 

「ひ、ひぃぃ……」

 

 レヴちゃんは幼女から逃げるように、カールの背中へと逃げ出して隠れてしまった。

 

 どうやら、作戦は失敗の様子だ。

 

 

 

「……ひくっ! ……ひくっ!」

「な、何なの……? あの娘、何をやってるの……?」

「いや、レヴちゃん」

 

 レヴが去った後も、女の子は数秒起きにピクピク揺れ続けていた。

 

 傍から見ていた俺にはわかる。それは、どう見ても……

 

「……しゃっくり、始まったの。……ひくっ!」

「レヴ……」

 

 まぁどうみても、緊張でしゃっくりが始まっただけであった。

 

 

 

「レヴにコミュニケーションを期待しちゃダメみたいね……」

「……あう」

 

 同じ小動物系同士、馬が合うかと思ってけしかけてみたが失敗だったらしい。

 

 

 

 

「……起こしてくれたのは感謝するけど、1人で帰れるの。放っておいて」

「むぅ、強情ですわね」

 

 その後、俺達はあの手この手で会話を試みたが、幼女の警戒が解けることはなかった。

 

「ですが、道中には怖い魔物が居ますわよ?」

「私、魔法使いだもん。全然怖くないの」

「でもよ、さっき気絶してたじゃんか。あの状態で襲われたら、死んじまうんだぞ」

「うるさい、起こしてくれたのは感謝してると言ったの。でも、これ以上私に関わらないで」

 

 何を言っても頑なに、彼女は俺達の同行を拒否してやまない。何やら、思うところがあるらしい。

 

「とはいっても、ここから街への帰り道は一緒でしょう? 安全の為にも、一緒に帰った方がいいですわ」

「まだ私にはやる事あるもん。あなた帰るつもりなら、先に帰っててよ」

「そういう訳にはいきませんわ。やる事って、なんですの?」

「言わない。関係ない」

 

 これではらちが明かない。

 

 こなれば、彼女には申し訳ないが、魔法か何かで眠って貰って街まで運ぶのも手かもしれない。放っておいたら死んでしまう可能性が高いのだ、本人の意思は尊重したいが人命優先の場面だろう。

 

「いい加減にしなさいよぉ? ここは、子供の遊び場ではないわ。親に、勝手にこんな場所に来ちゃいけないと習わなかった?」

「……習った、けど。私、今はやる事があるの!」

「だから、何がしたいのか知りませんが親と一緒に来なさいな。貴女一人で森をうろつくだなんて、見過ごせるわけがないでしょ?」

「うるさいうるさい! 関係ないでしょ!」

 

 説得を続けるサクラも少し、口調が厳しくなってきた。ここは命を落とすこともある危険な森、カールが守ってくれているとはいえ俺達もそれなりのリスクを冒してここにきているのだ。

 

 幼女の駄々で、無駄に時間を使いたくないのだろう。

 

「もう、しょうがないんじゃない? 気絶させて運ぼうか、カール」

「……あんなちっちゃな子を殴るのか?」

 

 マイカは、俺も考えていた最終手段を持ち出してきた。

 

 手荒な行動だが、これは仕方ない。

 

「失神する呪文とか無いの? イリーネ、サクラ?」

「私は知りませんわ」

「……ちょっと眠くする魔法ならあるけど、こう興奮している子には効かないと思うわぁ」

「んー」

 

 さて、問題はどうやって気絶させるかだが────

 

 

「うるさい、そんな事させるかなの!」

「ぎゃん!!」

 

 

 森に少女の悲鳴が響き、振り向けばサクラが仰向けに倒れ伏していた。

 

 俺達の不穏な気配を察した幼女が、正面に立っていたサクラを吹っ飛ばしたらしい。

 

 ……あの子、何をしたんだ?

 

「お、おげぇ……。お腹が、お腹が」

「サクラさん、大丈夫ですの!?」

「こっち来るな、なの!」

 

 腹を押さえて蹲るサクラに駆け寄ろうとしたら、間髪入れずに幼女は俺に向けて光の弾を発射した。

 

 無詠唱の攻撃魔法だと? ……意外な攻撃手段に目を見開いていると、拳大の射出魔法が俺の顔面へと迫ってきていた。

 

「痛っ……、何をなさいますの!」

「この、この、この!」

 

 腕のガードが間に合わなかったので、飛んできた魔法は額で弾いて無効化する。うん、痛い。

 

 だが、耐えられないダメージではない。せいぜい、チンピラのパンチと同じくらいの威力だ。この程度なら、どうという事はない。

 

「イリーネ!」

「大丈夫ですわ!」

 

 俺の顔面に直撃させた後も、幼女は魔法を連打し続けた。いくらパンチ程度の魔法とはいえ、急所に貰うと気絶させられてしまうだろう。

 

 俺は光の弾を拳で弾いて、何とか耐え抜いた。

 

 現にサクラは、鳩尾に貰ってノックアウトされているのだ。しっかりガードせねば、油断はできない。

 

「魔法具────?」

 

 だが、あんな年の幼女が無詠唱でじゃんじゃか攻撃魔法を連打するなんておかしい。気になってその発動の様子を見ていると、どうやら彼女の手に持っている球体から魔法が発動されているようだ。

 

 ヨウィン産の高性能魔法具、と言ったところか。

 

「その子を取り押さえて!」

「分かったぜ!」

 

 今の俺に詠唱する余裕などない。自分の身を守るので手いっぱいだ。

 

 俺が時間を稼いでいるうちに、カールに頼んで幼女を制圧して貰おう。

 

 少しお痛が過ぎるからな、反省させてやらないと。

 

 

 

 

「……この防犯具の性能を、甘く見るななの」

「へっ?」

 

 

 

 ふと、魔法の猛攻がやむ。

 

 顔を上げれば、幼女に向かって突進していたカール目掛けて幼女は『その魔法具を投げ出していた』。その直後、幼女は投げ出した魔法具に背を向けて耳を塞いでしゃがみこんだ。

 

炸裂(バースト)!!」

「ぎゃあ!!?」

 

 その奇妙な行動に嫌な予感がして、俺は咄嗟に目を閉じ耳を塞ぐ。

 

 ああいう使い方をする現代兵器をよく知っているからだ。

 

 

 

 ────光が、森を覆う。

 

 

 

 同時にキィィィィィ、と凄まじい耳鳴りが森に鳴り響いた。

 

 あわせてバタバタと、樹の枝にとまっていた鳥が地面へ力なく墜落した。

 

「……うぅ。やはり、これは」

 

 スタングレネード、この世界にもあるのか。俺の世界と違って、音波攻撃が有害っぽいけど。

 

 耳を塞いでいた俺ですら、頭がくらくらしているのだ。鼓膜破けてるんじゃねぇか、みんな。

 

 

「……ぁ」

 

 

 流石に、自分の目の前で音の爆弾を食らったカールは再起不能っぽい。

 

 視力が回復して周囲を見渡すと、カールは幼女に飛び掛かろうとした体勢のまま、その場で気を失って倒れ込んでいた。

 

 そして周りを見渡しても、幼女の姿は見えなくなっていた。視界を奪った隙に、隠れてしまったらしい。

 

「な、何てもん持ってるのよあの娘……。あー、頭がくらくらする」

「マイカさん! 無事でしたの?」

「え、ごめんよく聞こえない。まだ、耳がボケてるみたいね」

 

 声がした方へ振り向くと、なんとマイカは気を失わずに平然と立っていた。

 

 耳をポリポリと掻いているあたり無傷ではなさそうだが、彼女も気絶は免れたらしい。逆に、他の仲間────サクラやレヴちゃんはカール同様に気を失って倒れていた。

 

 ……人間3人を即座に昏倒させるのか。俺が知ってるスタングレネードより遥かに強力っぽいな。ただの音波攻撃ではなく、多分魔法による攻撃も混じってそうだ。

 

 あと、青髪幼女があんな場所で気を失っていた理由が分かった気がする。絶対自爆しただろアイツ。

 

「マイカさん、お怪我はありませんか? よくご無事でしたわね」

「あー、聞こえてきた。あの娘とイリーネが耳を塞いだのを見て、咄嗟に真似したのよ。何か意味がある行動だと思って」

「それは、素晴らしい判断だった様ですわ。私も、あの娘が耳を塞いだから咄嗟に真似をしましたの」

「へー、成程」

 

 ふむ、彼女が状況判断力に優れるというのは本当らしい。パーティ全滅を避けれて、何よりだ。

 

 この状況で俺一人とか勘弁してほしい。

 

「……さて。イリーネは気絶から回復させる魔法とか、使えないのよね?」

「ごめんなさい」

「謝る事じゃないわよ」

 

 後は、気絶したみんなの手当てだが……。俺にはよく分からん。

 

 ぐわーっとしてドッカーン、って感じの魔法しか教わってないんだ。すまんな。

 

「それより、このままだとまたあの娘を見失ってしまいますわ。マイカさん、気絶した彼らは私が見張っていますので追跡をお願いしてよろしいですか?」

「……うーん。そうねぇ」

 

 取り敢えず、気絶した仲間は一纏めにして俺が守ることにしよう。

 

 マイカには、早くあの子を追ってもらわないと。

 

「いや、これは潮時かもね。私も、ここで周囲を警戒しておくわ」

「へ?」

 

 しかしマイカは子供を追いかけようとせず、溜息をついて気を失っているカールの下へ歩み寄った。

 

 ……あれ?

 

「あの娘は、もう諦めましょう。あんな物騒な物持ってたんですもの、次はどんな隠し玉が出て来るか分からないし」

「……マイカ、さん?」

「変に関わって、私達まで死んじゃったら元も子もないし。予言通りにあの娘が死んじゃうことになったとしても、それは運命だったって事ね」

 

 ……そのままマイカはカールの頭を膝に乗せ、暗に彼女を見捨てるような事を言い出した。

 

「そ、そんな! せっかく、彼女が生きている間に見つけ出せたのに────」

「それでここにいる皆を、危険にさらすつもり? そもそも今、魔物に襲われたら絶体絶命なのは分かってる?」

「わ、私が撃退しますわ!」

「後衛の貴女が、ここで全員を守りながら戦えるの? それに、私が上手くあの子を捕まえたとしても、次の隠し技で私が気絶しないという保証はあるの?」

「……ですが、それでは彼女は」

「私達は、最大限努力をしたわ。でもこれ以上は、仲間に危険が及ぶ……。いえ、もう既に及んでいるもの。私は、もうあの子に関わるのは反対よ」

 

 そのマイカの言い分は、間違っていなかった。

 

 あの娘が、俺達が想定していなかった隠し武器を持っていたのは事実だ。

 

「……」

 

 ああ、でも。

 

「では、あの子を見捨てるのですか」

「イリーネ、貴女の住んでいた世界とここは違うのよ。恵まれた貴族みたいな『救えるものは救おう』なんて甘い考えじゃ、冒険者としてやっていけない」

 

 それではあの、妹と同じくらいの年齢の女の子は。

 

「自分と、仲間の命を最優先。それ以外は二の次よ、分かってイリーネ」

「……」

「それに、私達は彼女に手は差し伸べたわ。それを振り払ったのは、彼女よ」

 

 ユウリの予言の通りに、殺されてしまうのだろうか。

 

「……」

「ごめんね、貴女の怒りも分かるわ。冷たい人間よね、私」

「……その、それは」

 

 俺には、我慢できない。

 

 目の前に助けられる命があるのに、救おうとしないのが許せない。

 

 でも、

 

「私には、あの子よりカールのが大事なのよ」

 

 そのマイカの言葉は正しい。それは、理解は出来てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……こっち、こっち。

 

 

 

 

 

 

 頭のなかに、声が響く。

 

 光の奔流の先に、人型の小さな生命体か手招きをして俺を呼んでいた。

 

「妖精さんが……、あそこで手招きをしてますわ」

「えっ。まだ見えてんの、それ」

「はい」

 

 それは舞い踊るように、フワフワ左右に揺れながら、真っ直ぐに俺を見つめた。

 

 女の子を見捨てる。そんな決断を仕掛けている俺を咎めるように、その妖精は歌い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……宵の羽衣、既に剥がれ。

 

 ……小さな子羊、天へと召され。

 

 ……憐れ憐れ、はよう此方へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソレは、不思議な唄だった。どこか懐かしく、どこか厳かで、どこか悲しげな歌だった。

 

「やはり、あの妖精は私に語り掛けていますわ……。あの子を追いかけろと」

「ちょ、ちょっと? またフラフラついていかないでよね? 私一人で魔物の相手とか無理よ?」

「分かっています、分かっていますとも」

 

 何がそんなに悲しいのだろう。何をそんなに呼んでいるのだろう。

 

 俺はこの場を離れることが出来ない。マイカの言う通り、唯一意識があって戦える俺がここを離れたら、カール達は魔物の餌になるだろう。

 

 

 

 

 

 ……こっち、こっち。

 

 

 

 

 だが俺は、その不思議な歌声を聞いてから、妖精から目が離せなくなっていた。

 

「イリーネ?」

「……」

 

 俺は、行かなければいけない。その妖精に着いて行かなければ、きっと後悔する。

 

 そんな強迫観念に囚われ、気付けば俺はフラフラと妖精の方へ一歩踏み出していた。

 

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