【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く 作:まさきたま(サンキューカッス)
森で伏した物言わぬ子供の骸を、布でくるんだ後。
俺達は、無言になったリタが案内するまま豪華な屋敷へと歩んでいった。
ここが、彼女の滞在していた宿らしい。屋敷の入り口でリタの名前を出すと、慌てた番兵が俺達を屋敷の中へと案内してくれた。
「そうか、君達がリタを……。まさか、森に出かけていただなんて」
導かれるまま屋敷の中に入って話を聞くと、リタは『王弟』ガリウス様の娘だった。
ガリウスは現国王の二つ年下の弟であり、直接的に内政権は持たないものの『貴族を束ねる議会』の議長を務める大人物である。
彼はこのヨウィンを直轄領地の一つとして治めているらしく、視察目的で滞在していたそうだ。
そして昨日に執り行われた王弟ガリウスを歓迎する舞踏会の最中、脱走を目論んだリタは行方不明となった。
王族が行方不明になったので、屋敷中は大慌て。反政府組織による誘拐まで視野に入れて、町中で捜索が行われる寸前だったという。
「お父様、私……」
「こっちに来なさい、リタ」
俺達が森でリタを保護した経緯を聞くと、『王弟』ガリウス様はカールにじきじきに頭を下げた。権力者が、それも王族が平民に頭を下げることは非常に珍しい。
それほどに、謝意が深かったのだろう。
「リタ、そこに立ちなさい」
「……」
そしてガリウスの娘への行動は苛烈だった。
1日中森を這いずり回り、疲労困憊で立った娘リタに起立を命じて、
「この、痴れ者がぁ!!!!」
────その頬を張り飛ばして、大声で怒鳴ったのである。
「ガ、ガリウス様」
「リタ、自室に戻っていなさい。君の処遇は、後程言い渡す」
憤怒の表情を隠そうともせず、ガリウスはぶたれて地面に這いつくばる娘に冷たく声をかけた。
そのあまりの剣幕に、誰もが言葉を失った。
「勇敢な冒険者諸君。君達には、王族の名に懸けて最高級の歓待を用意しよう。だがすまない、本日は立て込んでいてね」
「は、はい。恐縮です……」
「明日の夕方、再びこの屋敷に来てもらえないだろうか。ぜひとも今回の件の、礼をさせてくれ」
仮にも、命からがら生き延びた娘に対する所業ではない。しかし、ガリウスは娘を一瞥すらせず俺達に語り掛ける。
そんな扱いを受けたリタは、歯を食いしばるように立ち上がると、涙をこぼしながら屋敷の中に駆けだした。
彼女に声をかける者は、いなかった。
「それと、この子を……」
「ああ、預かろう。彼も、死後安らかに過ごせるように計らってやらないと」
リタが立ち去った後、俺はずっと手に持っていた『血の付いた布の塊』をガリウスに差し出した。
ガリウスは布でくるんだロッポ……、死んでしまった平民の子の死体を受け取る。そしてガリウスは、血で自らの服が汚れる事も気にせず抱きしめた。
「何から何までありがとう」
そう言って、ガリウスは再び頭を下げた。
……ああ、これが王族。貴族の中の貴族にして、生まれながらにして人の上に立つ者か。
「ガリウス様、リタ様も傷ついておられます。今日くらいは、御労りをしては如何でしょう」
「いや。アレは私の娘だ、私にはわかる。今日は労られる方が辛く苦しいはずだよ」
「……左様ですか、差し出がましい事を」
「ありがとう。君達には私の大事な娘を守ってくれて、感謝の言葉もない」
そしてガリウスは、ロッポを抱いたまま悠々と背を翻した。
「本来なら今すぐにでも君達に向けて感謝の意を示す所だ。しかし今夜だけは、私はこの小さな英雄の喪に服さなければならない」
「……ええ」
「明日、また君達に会えることを楽しみにしている。その時に、いろいろと話を聞かせてくれたまえ」
その言葉に、俺たち全員は黙礼した。
雰囲気のある人だと思った。『王弟』ガリウス様からは、サクラとはまた違った包み込むようなデカさを感じる。
明日は、粗相のないようにしなければ。
「と、言うのが今回の経緯だ」
ガリウスの屋敷を辞して、空に赤みがかかった頃。
「そうか。では、青髪の女の子は助けられたんだね?」
「そうだな。紆余曲折あったが、当初の目的だった青髪の子は助け出すことが出来たぞ」
「……むむむ」
魔術杖を作りに行く気になれなかった俺達は、少し早めにユウリの屋敷の戻って報告を行った。
杖は、また明日にでも作りにいこう。
「そうか、ボクの占魔法は外れたか。いや、子供の命が助かったのは喜ばしい事なのだが、うむむ」
「ユウリ?」
しかしユウリに『子供の命は助かった』と告げたら、とても複雑な顔をしていた。
「そっか、ユウリの研究的にはあまりうれしくない結果なんだ」
「そんなところだね、今回の魔術式はかなり自信あったんだけど。理論上は、絶対回避不可能の未来を映せるはずだったんだ。それでもなお、予知が外れたとなると……」
ブツブツ、と再び考え込むユウリ。
子供の命が助かったのは喜ばしいが、研究者としては無念な結果に終わった。彼女なりに、複雑なのだろう。
「あと、気になるのがイリーネの症状だね。森で霊が見えた、だとか」
「そうですわ。アレはまぎれもなく、亡くなった子供の霊の声でしたの」
「あの森で幽霊が出ただとか、そんな話は聞いたことが無い。だが、そうだな……」
少し顔を伏せたユウリは、何かを噛み殺した様に言葉を紡いだ。
「その症状については、ボクに心当たりがあるかもしれない。自信はないから、一度専門家に話を聞いてから話をするよ」
「おお、本当ですか」
「もしかしたら、だけどね。あまり当てにしないでくれ」
そう言葉を漏らすユウリには、その言葉と裏腹に好意的ではない感情がこもっていそうだった。
……何なんだろう?
「みんな、今日は疲れただろう。ゆっくりと休むと良い」
「言われなくてもそうするわぁ。マスター、食事の支度は出来ているかしら?」
「ヘイお嬢。腕によりをかけてますぜ」
ユウリは、そこで会話を切るとブツブツ呟きながら部屋に戻って行った。研究者と言う生き物は、考える事が多いみたいだ。
「この屋敷、なかなか調理設備が整っていましてね。今日は、少し手の込んだモノを作らせてもらってます」
「へぇ、ハンバーグ……」
「ここらで取れる魔物肉は、魔力が豊潤で旨いそうでさぁ」
ユウリと入れ替わりに出てきたエプロン姿のオジサンが、自慢げに肉を焼き始める。
彼の自慢の料理に舌鼓を討ちながら、俺は今日起こった出来事をゆっくり反芻していた。
その夜。
そのまま寝る気になれなかった俺は、ユウリの屋敷のリビングで独りミルクを飲んでいた。
隠れ筋トレにも、身が入っていない。やはり、俺も今日は疲れているのだろう。
肉体的にではなく、精神的に。
────ありがとう、おねぇちゃん
────リタを、助けてくれて
あの青髪の娘は、本来は死んでいた。
ユウリの予知によれば、高確率で帰らぬ人となっていた。
それを助けることが出来たのは、とても喜ばしい。
……だが、彼女と仲の良かった平民ロッポは、どうしても助けることはできなかったのだろうか?
それは、きっと難しかっただろう。ロッポが死んだのは、恐らく昨日の話だ。
ユウリの予知魔法より前に死んでいた人間なんて、どうやったって救いようがない。
……夜空を、見上げてみる。そこには未だに、森から見えるようになった光の奔流が渦巻いていた。
「……はぁ」
これも、分からない。
俺にしか見えない光ではあるが、確かに現象として存在しているモノだ。
ユウリには心当たりがあると言っていた。なら、俺は彼女の言葉を信じて待つしかない。
LaLaLa……。
夜空を見上げ、星を読んでいたその折。屋敷の何処かから、哀愁の漂う音楽が聞こえてきた。
それは、清らかな吹奏楽器の音。
夜中の風情を壊さぬよう、控えめで真摯な音色で誰かが唄を奏でている。
「……何処の、音楽でしょうか」
聞いたことのない、音程の曲だった。
パーティーの誰かが、楽器を使えると言う話を聞いたことはない。俺自身、教養程度に弦楽器を弾ける程度だ。
このように、高いレベルの吹奏楽を習得しているとなると同じ貴族のサクラか。
あるいは、ユウリとその父親……。この家の人間か。
「聞きに行こう」
どうせ寝付けなかったのだ。夜の無聊を慰めるには丁度良い。
俺はその音色に導かれ、屋敷の外の庭へと歩きだし────
「やめたまえ、やめたまえ。学会と言うのは新たな知識を世に知らしめる場であり、下手な宴会芸を披露する場ではない」
「うるさいぞユウリ。今年の学術学会の金賞は、私の『屁で奏でる三重奏』で決まりである」
「やめたまえ、やめたまえ」
尻から素敵なメロディを奏でる奇人と出会ったのだった。
「改めて、はじめまして」
それは、無精髭がだらしない細身の男性だった。
「私はユウマ。そにいるユウリの父であり、『ヨウィンの青き稲妻』と呼ばれる存在だ」
「呼ばれてなどいない、恥ずかしい名乗りはやめたまえ」
ふむ、なかなか濃い男が出てきたな。
以前風呂場でちらっとしか会った事がないが、見た目の通りヤバい人の気配がするぜ。
「屋敷で世話になっておりますのに、挨拶が遅れて申し訳ありませんわ。私の名前はイリーネ。イリーネ・フォン・ヴェルムンドと申します」
「ふむ、よろしく。先日は、大変良い乳と尻であった」
「セクハラはやめたまえ、恥ずかしくて仕方ない」
このオッサン、凄いな。俺が普通の貴族令嬢なら攻撃魔法が飛んでくるぞ。
「ヴェルムンド家のお嬢さん。時間があるなら、私の次の学会で発表予定の演目を見ていかないかい?」
「学会での発表なのに、演目……?」
普通学会で発表するのは演題とかじゃなかろうか。
演目って劇だろ。
「タイトルは何ですの?」
「『6騎士放屁物語─シャイニングブレス─』である」
「遠慮しておきますわ」
本当に劇だった。
「イリーネ、ここはおとなしく部屋に戻っておかないか。我が父のことながら、この男と同じ時間を過ごして得をする人間はいないと思うのだ」
「何を言う。意外とチビっ子に人気なんだぞ私は」
「学会で評価を得たまえよ、チビっ子相手ではなくて!」
ユウリはウンザリとした口調で、父親であるユウマに食って掛かる。
彼女は以前、学会に発表を持ち込んだ時に『父親のせいで苦労した』と言っていた。詳しくは知らないが、今の状況からなんとなく想像はつく。
学会で演劇をするような人物の子が持ち込んだ発表だ。まぁ、ネタ発表だと思われても仕方ないだろう。
「その、ユウマ様は素敵なお方だとは思うのですが。既に夜も遅く、貴殿の発表を楽しむにはいささか不向きな時間かと存じますわ」
「ふむ、そうかね。それは残念だ」
ユウリの言う通り、この男とはなるべく関わり合いにならない方がよさそうだ。
「ではせめて、曲のサビだけでも演奏して差し上げよう! これぞ『トロピカル────』」
「いい加減にしたまえ迷惑人間!!」
「ぎゃふん!」
一度断られたのも関わらず、意気揚々と尻を俺に突き出した奇人は娘の肘打ちで地面に叩きつけられた。
結構ヤバい音がしたぞ今。
「今のうちに帰ると良いイリーネ、この馬鹿の始末はボクがやっておくから」
「は、はぁ……。結構良い一撃でした様ですが、生きておいでですか?」
「無論だ。我が父ながら、無駄に頑丈で……」
その疲れ果てたユウリの声を遮るように、床に沈んだ馬鹿親はノッソリと起き上がった。
「ふむ。脇が甘いなユウリ、肘に体重が載っていない。30点だ」
「本当に、無駄に頑丈なんだ……」
そして、娘の渾身の肘打ちの採点を始めた。
「その、ユウマさん。打たれた頭は大丈夫ですか?」
「無論。イリーネ君よ聞きなさい、何を隠そう私は痛みを快感に変換できる人種だ。君はまだ私に対して遠慮しているようだが、もっと容赦なく侮蔑して貰って構わない」
「……は、はぁ」
ヤバい、本気で付き合いたくないと思った人間はコイツが初めてだ。
「紛う事なきセクハラだから本当にやめたまえ。よりによってあのパーティで、一番良識的なイリーネに無礼を働くなんて」
「彼女が良識的だからこそ、私は快感なのだ」
「……」
……。まぁセクハラはどうでも良いんだが、普通に失礼だよなこのオッサン。
「その、お話が込み合っている様子ですので、そろそろ失礼いたしますわ」
「そうしてくれ。明日、また何かしら誠意を用意しておくから」
ユウリの心情的にも、これ以上俺がここにいる方が負担になるだろう。
彼女の言う通り、今日は部屋に戻るか。
「因みに我が一家は代々マゾヒストでな。我が父も、『自らに心地よい痛みを与える魔法』を開発して学位を取ったのだ」
「父よもうそれ以上喋らないでくれ、頼むから一族の恥を広げてくれるな」
「何を言うユウリ、お前だってその論文を読んどるだろうが。知っとるんだぞ? 貴様の棚にある背表紙に何も書いていないファイル、ソコに自らを痛めつける快楽に関する魔術が纏まっていて────」
「やめたまえ、やめたまえ。それ以上その話を続けるなら、ボクは親子の縁を切って殺人に手を染めねばならなくなる」
ああ、聞こえない。俺には何も聞こえない。
思春期の女の子の恥ずかしい性事情なんか知った事ではない。
「お気に入りのページは、縄を使って自ら────」
「未来予知エルボー!!」
「ぐほぉ!?」
部屋に戻る最中、俺が背を向けた後でユウリがとてもしょうもない事に予知魔法を使っていた。
……にしてもユウリは凄いな。エロ本隠すノリで論文隠すのか……。