【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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33話「俺はただ、宴会芸で笑顔を……」

「と、いうことがありましたわ」

「ほう」

 

 同日夕刻。

 

 ユウリの家に戻ってきた俺は、パーティーにアルデバラン達の事を報告していた。

 

 アルデバランが勇者であること、カールの女神様とは別の女神様に力を貰ったこと、間もなく町に魔族が攻めてくること。

 

「……む。悪神、ね」

「女神様って複数いるのね。神様に祈る機会なんて無かったから、知らなかったわぁ」

 

 そしてアルデバランから貰った情報の中で、特に皆が注目したのはカールに力を貸しているという『悪神』だった。

 

 人の味方ではあるが、同時に『悪』でもあるというその女神。神という超常の存在でありながら、同じ存在に悪と断ぜられたモノ。

 

「私とレヴが聞きに行った勇者伝説でも、女神様は複数居たらしいって記述があったわ」

「へぇ、昔から女神は複数存在していたのですわね」

 

 俺の報告を聞き、勇者伝説について聞きに行っていたマイカが口を挟んできた。伝承でも、女神は複数居るらしい。

 

 前世の日本でも、神様は唸るほど存在していた。こっちでもそうなのか。

 

「文献には同じ時代に複数の勇者が存在していた記載が存在するの。だけど、基本的に1柱の女神が力を授けるのは1人までと言われているわ」

「つまり、昔から勇者の数だけ女神が存在していたわけぇ?」

「……魔王現れる度に、複数の女神がそれぞれ勇者を選んだ、だって」

「なんと。では、カールやアルデバラン以外にもまだ勇者が存在している可能性もあるのですか」

「あると思うわ」

 

 ほえー。1女神に1勇者がセットなのか。

 

 じゃあカールは、いっぱいいる勇者の中の一人なのね。なんか有り難みが薄れたな。

 

「ただ、ちょっと気になる学説があるのよね」

「あら、それは?」

「勇者は、近年になればなるほど数が減ってるのよ。一番古い文献だと10人以上存在していた勇者が、次の勇者伝説においては8人に減っていた。そして先の大戦において、勇者は4人しか伝承されていない」

 

 おお、結構減ってるな。何でだろう。

 

 相対的にカールのレア度が上がったけど、戦力は多い方が良いなぁ。

 

「これは仮説だけどね。勇者伝説は全てハッピーエンドで、勇者は全員生き残って幸せに余生を過ごしたとされる。でも実際は、戦争で勇者にも被害が出てたんじゃないかな?」

「まあ、普通に考えれば勇者陣営が無傷ってのも変ですわね。少しくらいは被害が有った方が自然ですが」

「そう、だから学会はこう考えているそうよ。『女神は、力を与えた勇者が死ねば共に消滅する』」

 

 ……むむ?

 

「つまり、女神が消滅したから勇者も減った。それが、世代を追う事に勇者そのものの数も減っている理由よ」

「……おいおい、マイカの姉御。前の大戦の時の勇者って、4人なんだろ? じゃあ、今回の勇者の数は」

「最大で4人って事ね。下手をしたら、カールとアルデバランだけの2人だけって可能性すらあるわ」

 

 お、おいおい。それは不味くないか?

 

 今までは何人も勇者が居たからこそ、魔王を倒せていた訳だろ? 今回は最悪2人って。

 

 しかも、その2人の勇者は……。

 

「アルデバランの女神様は、カールの女神を悪神と断言し敵対してるのよね? ……唯一の頼れる味方かもしれない勇者アルデバランと、共闘出来ないのはキツくない?」

「……喧嘩してる場合じゃ、無いよね」

「うーん。取り敢えず、カールに力を与えた女神様に事情を確認するのが先決ねぇ」

 

 そうだ。そんな、勇者が減り続けているのっぴきならない状態で、勇者同士で敵対するなど愚の骨頂。

 

 何としても、カールとアルデバランを通じて仲直りして貰わねば。

 

 

 

 

「ですが、その。カールは……」

「そうね、そろそろ解放しましょうか」

 

 

 

 

 マイカはそう言うと、アザだらけで居間に磔にされていたカールを解放した。

 

 実は居間に入った瞬間から、磔状態のカールに「タスケテ……タスケテ……」と乞われて反応に困っていたのだ。

 

 でもマイカ達の顔が怖かったので、知らんぷりをしていた。

 

「因みに、そろそろカールに何があったのか聞いても?」

「男同士の付き合いで、俺がカールを一緒に水浴びに誘ったんでさ。したらこいつ、時間を間違えやがって」

「裸の女子3人で身を清めていたら、『さあ、裸の付き合いをしようぜ!』と言って全裸のカールが乱入してきたのよぉ」

「それは酷い」

 

 成る程。それは磔の刑も妥当と言えよう。

 

「……ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、マイカ様」

「はいはい、反省したならもう良いわ」

 

 ただ、カールが萎縮しすぎなのが気になる。何をされたんだあの男。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう、なら俺は女神様に祈ってくる。熱心に祈ってたら、たまに通じるんだ」

「そうね、女神様に連絡とるのが先決よね」

 

 俺達は、カールに頼んで女神様に事情を聴くことにした。

 

 それが、今のとこ最重要なミッションだろう。

 

「マイカさんとレヴさんは、街で情報集めを。レーウィンと同じく、魔族に関する情報を探っていただきたいですわ」

「……ん、了解」

「イリーネとサクラは?」

「杖を作りに行きますわ。戦闘が近いのなら、装備を整えねばなりません」

「そうね、質の良い魔術杖って魔法使いの能力をかなり強化するもの。また魔族と戦う羽目になるなら、早いとこ準備しないと」

 

 それにはマイカ達も納得し、俺達の新たな方針が決まった。

 

 アルデバランからの情報を信用し、魔族が再び攻めてきている前提で動く。

 

 カールは、女神様から事の詳細を聞き出す。

 

「じゃあ、今日は早く寝ましょう。明日、朝一番から動くわよ」

「……ん」

 

 つまりまた、俺は戦うことになるらしい。

 

 あの、人の理の外に位置する化け物と。ひたすらに不気味で凶悪な、獣のような何かと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────寝れねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜、俺はなかなか寝付けずにいた。

 

 ベットの中、思い返されるのは『類人猿の顔をした4足歩行の化け物』の姿だった。

 

 耳に残る奇妙な鳴き声で、何もかもを破壊しつくしながら迫り来る『人類の敵』。

 

 あの時はカールが居たから、俺達は勝てた。

 

 もしカールが居なければ、俺はどうなっていた?

 

 そう思うと、恐怖で身が固まる。

 

「……いえ。次はちゃんと、最初からカールが居ます」

 

 そうだ。こっちにはカールが居るんだ。

 

 何を恐れる事がある。魔族がどれだけ束になろうと、カールに手も足も出ていなかったではないか。

 

 勝てる勝負だ。きっと、カールさえ万全なら────

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 

 

 ああ、震えている。

 

 そっか、怖いんだ。思ったより、魔族に食われかけたあの経験は、俺の中でトラウマになっていたらしい。

 

 もう一度、あの戦いをしなければならない。その恐怖が、ギリギリと胃を締め付けている。

 

「……情けない」

 

 自分で選んだ道だ。血沸き肉踊る闘争の旅を求めたのは俺自身だ。

 

 1度死にかけたくらいでこんなザマでは、何のためにカールについてきたのか。

 

 

 

 

 俺は部屋を抜け、夜道を歩きだした。

 

 少し風に当たろう。心を落ち着けて、再び床に就こう。

 

 そんな、気持ちだった。

 

 

 

 

 屋敷の外、壁に覆われた庭。

 

 月の光に照らされ、草木は揺らめいていて。

 

 

 

「……あら」

 

 

 

 俺は吸い込まれるように、太い切り株の上に目を落とした。

 

 何故ならそこには、愉快な小人が隊列を組んで踊っていたからだ。

 

 ……これは、精霊?

 

『ハイホー、ハイホー』

『えんやらたった、ほいたった』

 

 いや、これは精霊ではない。

 

 精霊にしては、声が随分とはっきり聞こえる。本物の精霊は、もっとエコーがかかった声だった。

 

 しかし、これが実在する生物とは考えにくい。こんな小さな人間など、いくらファンタジーなこの世界でも居る訳がない。

 

『月夜に歩く、お嬢さん♪』

『今宵一晩、楽しい舞いに付き合いませんか♪』

「……私に、話しかけているのかしら?」

『勿論ですとも♪』

 

 その小人は、快活な笑みを浮かべて躍り続ける。見ていて元気の出る、小気味の良いダンスだった。

 

「……」

 

 その小人に、触ってみる。なるほど、触ることは出来る。

 

 木製、かな? よく見れば、その小人の関節部分に分かりやすく切れ込みが入っていた。

 

「……これが、貴方の魔術なのですか?」

「ご名答、よく気付いたのである」

 

 今、切り株の上で踊っているのは木製の人形だ。

 

 となれば、こんな器用な魔術を使えるのは一人しかいない。

 

「こんばんは、ユウマさん」

「うむ。またお嬢さんに出会ったの」

 

 小人を見とれる俺の背後から返事を返したのは、ユウリの父親にして学会随一の変人、ユウマであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も今日とて、新たな芸の練習である」

「ご勤勉なのですね」

 

 俺はどうやら、ユウマ氏の宴会芸練習中にお邪魔してしまったらしい。

 

 このオッサンは、どうやら夜に練習する習性が有るようだ。

 

「……娘に、聞いた。君は、精霊が見えるのかね?」

「ええ、その通りですわ」

「精霊は実在したのだな。あの娘の学説が間違っていたとは、やはり世界は面白い」

 

 ユウマは、少し目を細めて切り株の小人へ目を落とした。

 

「ユウリは、落ち込んでいたかな?」

「最初は。しかし精霊を用いて新たな研究の種を見つけたようで、最終的には大喜びしていましたわ」

「それで、帰ってから妙に機嫌が良かったのだな。それは上々である」

 

 ユウマは、娘が落ち込んでいたかを気にしていたらしい。奇人とは言え、親だということか。

 

「最近ユウリは、私が渾身の芸を見せても笑わなくなってきたでな。昔はきゃっきゃと喜んだものだが」

「それはきっと、成長した証でしょう」

「うむ、我が娘の成長は嬉しくもあり寂しくもある。いずれ巣立ってしまうのが怖くてしょうがない」

 

 ……。それは、何処までがこの男の本音なのだろう。

 

 学会の奇人ユウマは、娘の学者生活にとって障害でしかなかった。

 

 しかし、この男は一応親としてユウリを可愛がっても居るみたいだ。

 

「ユウリさんには、ずっと家に居て欲しいのですか?」

「それは男親の共通の願望である。出来るなら可愛い娘は大人にならず、ずっと子として傍に居て欲しい。まぁ、叶わぬ願いではあるがな」

 

 ……そんなモノだろうか。行き遅れが家に居る状況って、男親からしても辛いと思うのだが。

 

「……ユウマさん。貴方がどうして芸の研究をしたか、伺って宜しいでしょうか?」

「む。学者に研究内容の話を振る意味を理解しているかね。一晩かけても語りきれぬぞ」

「いえ、シンプルに答えていただきたいのですわ。ユウリさんの障害になってまで、左様な研究を続けるのはどうしてなのかなと」

 

 俺は、少し勇気を出して聞いてみた。

 

 何が、そこまでユウマを動かしているのかを。

 

 ユウリに辛い思いをさせてまで、彼が宴会芸を研究する意味を。

 

「私が娘の足枷になっているだと? 何をバカな、あの学会は親がどうだからと言って研究成果を不当に評価したりはしないが」

「……しかし。ユウリさんは最初の講演で、ユウマさんの評判のせいでそれは酷い場を与えられたと」

「む、そんな勘違いをしとるのかユウリめ。7歳の子の持ち込み発表に、そもそも場を与えられることは普通ないというのに」

 

 ユウマはそう言うと、ふんすと鼻息を荒くした。

 

「私が学会主に頭を下げ、あの席を用意して貰ったのだよ。子供ながらに価値のある発表だと、お偉いさんに媚びて何とか1席ねじ込んで貰った」

「……え?」

「娘の研究内容は、友人から聞いて理解していた。我が娘は、紛う事なき天才だ。だから1度でも発表の場を与えてやれば、きっとその価値は見出だされ認められる。だから、最初はどのような場でも良かったのだ」

 

 あれ? ユウリから聞いた話とは違う。

 

 彼女は父親のせいで、学会で酷く苦労したと。ユウマの娘だと馬鹿にされ、軽んじられたと。

 

「確かに、馬鹿にはされたろうな。私を目の敵にしてる学者も多いし、そういった奴らは下品なヤジを飛ばしてくる」

「そうなのですか」

「もっとも、慣れればどうということもない。馬鹿にしている奴の発表を見に来る暇な奴等だと、笑い飛ばしてやればいい」

 

 ユウマは得意気な顔でそう言うと、自分の髭を弄りながら唇を吊り上げた。

 

「実は私も、父親が『ネタ魔法使い』であったせいで散々な扱いを受けたのだ」

「まあ」

「何の役にも立たない、無駄な研究をしているに違いない。そう言われ、中々発表の場を与えて貰えなかった」

「しかし、今は発表の場を貰えているのですね」

「発表し、認められたからな。私の芸魔法の、その素晴らしさが!」

 

 中年は、全力でドヤ顔をした。殴りてぇ。

 

「……でも実際、宴会芸はあまり生活の役には立たないような」

「何を言う」

 

 宴会芸の発表なんぞ、学会でやる価値は無いってのは正解だろ。

 

 そう思って突っ込んだのだが、ユウマは憮然とした表情で言い返した。その目には、小さな怒りすら見てとれた。

 

 

「誰かを笑顔にする行動。それは、決して馬鹿にされたり軽んじられたりして良い事ではない」

「……あ」

 

 

 それはただ、優れた芸の為だけに魔術を研鑽した男の言葉。

 

 人を笑顔にしようと、人生を賭けて四苦八苦した奇人。

 

 彼はその芸を発表する場を与えられるのに、どれ程苦労したのだろうか。

 

「まだ小さな頃だ。私の魔法を見て、ユウリはキャッキャと笑ってくれた」

「……」

「それだけで、無邪気な娘の笑顔だけで、私はこの魔法は生涯を捧げるに足る魔法だと知った。父の悪名のせいで苦労したが、ついにその価値は学会にも認められ、私は毎年学会で場を与えられるようになった」

「……」

「聞いて、見て、楽しい魔法はそれだけで価値がある。若人よ、私の魔法をどうか軽んじてくれるな」

 

 む。むむむ。

 

 なんだコイツ、急にまともな事を言いやがって。

 

「失礼いたしました。聞けば、確かに素晴らしい魔法に違いありませんわ」

「そうであろ?」

「ですが、ユウリさんの言うことも少しは聞いてみては如何でしょう。時折ですが、貴方の行動にはどうかと思う節もありますので」

「……ふむ。留意しよう」

 

 こいつ、頭のネジは外れてるけど、中身は人の良いおっちゃんらしいな。

 

 人を笑顔にして喜ぶタイプの、少し迷惑な善人だ。

 

「ユウマさん。間もなく、この街に危険が迫り来るそうです」

「うむ? それは、精霊のお告げか?」

「いえ、女神のお告げです。おそらくは、真実」

 

 少しだけ信用してみてもいいかもしれない。

 

 この男は迷惑で空気が読めず、セクハラで無礼ではあるが根は善性だ。

 

「いざという時に、逃げ隠れる場所を用意しておいた方がよろしいですわ。獣では気付けぬ地下室のような、そんな場所を」

「ふむぅ。と言われても、一朝一夕で用意できるものではないが」

「土魔術師の力を借りれば可能かと。ちょうど、私達の仲間に腕のいい土魔術師(サクラ)もおります」

 

 元々これは、ユウリを救うために提案をするつもりではあった。

 

 今のタイミングで告げたのは、俺がこの男を少し気に入ったからに他ならない。そして、きっと受け入れてくれると踏んだからだ。

 

「うむ! 娘の安全に関わる事なら是非頼む。我が家の庭の範囲であれば、好きにしてもらって構わない。なけなしの財産だが、依頼料も出そうではないか!」

「ず、随分あっさりと信用なさるのですね」

「それは当然。何せ、君は先程……」

 

 ユウマは俺の提案を快諾した。見込み通りだが、そのあっさりした態度に少し肝を抜かれた。

 

 この男、無条件で俺を信用しすぎではないか?

 

「君はユウリの為を想って、私にあのような文句をぶつけたのだろう? 娘の為を想ってくれる女性の発言だ、何を疑う必要がある!」

 

 ……。

 

 ああ、この男は色々と間違えているだけだ。

 

 

 この日俺は、学会一の奇人と呼ばれていた男の実態が、何処にでもいる子煩悩な父親だと知った。


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