【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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35話「女神の思惑! 闇夜に消える猿仮面」

「ずずず……」

「音を立てて茶を飲んでいるわね、この女神様」

 

 ユウリ邸に突如として現れた女神を自称する不審者。

 

 本物かどうかは分からないが、取り敢えず歓待しておくのが無難と考えた。

 

「結構なお手前で~」

「どうもですわ」

 

 こう見えて俺は貴族令嬢、紅茶を淹れるくらい朝飯前。

 

 俺の丁寧な紅茶道(ティータイム)に女神様も満足げだ。

 

 では、改めて質問していこう。

 

「あの。女神様は、どうして地上に降臨されたのですか?」

「んー? カールが熱心に祈ってたので、仕事を中断して降りてきたのですよ?」

「まあ」

 

 あー、そう言えば今日、カールは一日中祈るって話だっけ。

 

「そしたらあのヤロー、驚きのあまりズッコケて私の神布を剥ぎ取りやがったのです~。まさか人間相手に肌を見せることになるとは」

「あいつ、女神様にもソレ発動させんのね」

「目に浮かびますわ……」

「制裁の女神パンチで気絶したので、ヤツは今2階に転がしているのです」

 

 成る程。それで女神様は一人ポツンと此処に佇んでいたのか。

 

 この人、本物なのかね? さっきから嘘をついてる素振り無いし。

 

「ふふー。本物なのですよ、精霊の導き手」

「……ひょっとして今、心をお読みになりましたか?」

 

 心の中で疑問符を浮かべただけなのに、女神は答えを返した。

 

 ……心の声が、聞こえているのか?

 

「女神ですゆえ~、人の心を読むくらい余裕なのです~。そこの貧相娘がまだ私を疑っていることも、豊満なこの胸を苦々しげに睨み付けていることも、全てお見通しなのです~」

「貧相で悪かったわね!!」

 

 うわーお。

 

 じゃあ、俺が愛と勇気と筋肉を愛する、漢を目指す男であることもバレてるのか。

 

 それは不味いぞ。

 

「……んー。それもバレてますけど、何と言うか」

「出来れば、女神様の心の内に秘めておいていただければ」

「んー。まぁ良いのです、黙っておきましょう。そこは、バレようがバレまいがどっちでも良いのです」

 

 いや、全然どっちでもよくない。

 

 ヴェルムンド家の品位に関わる部分なので、バレる訳にはいかんのだ。

 

 頼むぞ女神、絶対に内緒だからな。

 

「はいはい、それよりですね。貴女方が私を呼び出した本題ですけども~」

「……ああ、そうね。色々と確認したいことがあったのだけど、口に出さなくても伝わるのかしら?」

「ええ、ええ。そっか、私が悪い神様として扱われていたのですね~。ぷんぷん!」

 

 うわっ。この人(神)、口でぷんぷんって言ったぞ。

 

「この街が魔族に襲われるのは本当なのか、アルデバランとは何者なのか、貴女が悪と言われる由縁はどうなのか。聞きたいのは、この辺」

「ふむ。アルデバランってのは、多分本物の勇者だと思いますよ~?」

「そこは、薄々と気づいておりましたわ」

 

 アルデバランは勇者確定、と。実際に話してみて悪い奴では無さそうだし、信用して良さそうだ。

 

「では、この街が襲われるのは事実なのですか?」

「ぶっちゃけますと事実ですが、この街はアルデバランとかいうのが居るので、守らなくて良いのです」

「……はい?」

「アイツの使徒が、この街に来てるのは分かってましたから。ここに魔族が攻めてくることは知ってましたけど、放置するつもりだったのです~」

 

 ……ふむ?

 

「勇者ってのは、言わばチートなのです。ずるっこで、無敵で、最強なのです。基本、負けっこ無い馬鹿げた力を持った存在ばかり」

「はぁ……」

「アルデバランがどんな力を貰ったかは知りませんが、そこらの魔族に苦戦するとかあり得ません。ここにカールまで来たら過剰戦力なのです。だから貴女達を、此処に導く必要は無かったのですよ~」

 

 勝手に来ちゃいましたけどね、と女神は溜め息を吐いた。

 

 ……過剰戦力。言われてみればそうだ。

 

 レーウィンの襲撃の時でも、カール一人で楽勝だった。勇者アルデバランも、きっとカールに匹敵する力を持っているに違いない。

 

 だから、女神はここに俺達を誘導しなかったらしい。

 

「むしろ、此処に来てほしくなかったくらいなのですよ。君ら二人が出会ったら、殺し合いに発展してもおかしくなかった。何せ根本的に、私とアイツは相性が悪いので」

「相性が悪い……?」

「ええ。以前の戦いでも、私と向こうの勇者は殺し合いしましたし。きっと、根本から噛み合わないのですよ」

 

 女神はそう言うと、不快そうに自らの髪をいじり始めた。

 

「ま、そういう訳でさっさとこの街から離れるのです。なるべく、あの子の使徒とは近づかないように」

「……今は人類にとって窮地です。仲が悪いからと言って、力を合わせないのは非効率的では?」

「そんなの向こうに言いやがれ、です。私としては、向こうが変ないちゃもん付けて斬りかかってこなければ敵対する理由もないのですし」

 

 あの分からず屋はいつも邪魔ばっかり、と女神はブツブツ呟いている。

 

 ……思ったより女神様って、感情的で人間臭いんだな。小物臭がしてきたぞ。

 

「聞こえてますよ、精霊術師~? それに私は元人間なので、人間臭いのは当たり前なのですよ」

「え、元人間?」

「はいそーです。意外ですか? 一定の信仰を集めれば、人間であろうと神に昇華されるのです」

 

 ……。え、神様ってそう言うものなのか。信仰を集めただけの、人間が成れるもんなのか?

 

 そういや、前世でもキリストが神扱いされてるしな。あいつも、元を正せばただの人間か。

 

「私の正体や過去なぞどーでも良いのです。要するに、他の勇者と仲良くやるのはあんまりお勧めしないってことだけ覚えておくのですよ」

「……失礼を承知で聞くわ。それって、貴女が悪神だってところが関係してるわけ?」

「うむ、確かに無礼な質問。まぁ、それはその通りなのですが、私は悪いことをしたとは思っておりません」

 

 少し挑発的なサクラの物言いを気にした様子もなく、女神セファは俺達に微笑んだ。

 

「人類を救うための手段が、神々の規律に抵触するものだった。ただ、それだけなのです」

「……具体的には、何をなさったのですか?」

「無実の人を殺しました。しかし、それは魔王を倒す為、人類を存続させるために必要不可欠な事でした。それが、私の背負った罪なのです」

 

 セファは笑みを崩さぬまま、少し目を細めて笑った。

 

「私は彼から……殺してくれと言われました。自分の命を捧げるからどうか大切な人を守ってくれと、懇願されました」

「……」

「酷い話です。その者は私の選んだ勇者で────、想い人でもありました。私はうっかり惚れちまっていたのですよ、自身が選んだ勇者に」

「む……、それは」

「神々は、人間と恋仲になってはいけません。しかし、どうしても情が寄ってしまう時があるのです。その結果、私は彼の願いを聞き入れ、彼の命と引き換えに人類を守りました」

 

 その言葉に、嘘はなかった。

 

 女神ともなれば幾らでも分からぬ嘘を吐けるのかもしれないが、それでも俺から彼女は嘘を言っている様に見えなかった。

 

「しかし他の神々の怒りに触れた私は、地上に落とされたのです~。数多の神々が滅び、減って、最近やっと復活しましたが」

「そんな、事が」

「それが私が悪神と呼称されている理由なのです。ご納得いただけましたか?」

 

 なんとまぁ、人間臭い。

 

 その言葉が事実なのであれば、この女神が元人間だったというのは頷ける。

 

「まぁ要は、私が他の神々から割と敵視される存在だという事なのです~」

「……ええ」

「ですが、私の想いはたった一つ。私が愛した人類の、存続と繁栄のみなのです」

「それは、何となく伝わったけど」

「ならば、私に従うのです。この街はもう一人の勇者に任せて、さっさとこの街から離れるのです。魔族襲来まで、後3日くらいしかないのですよ」

 

 セファはそう言って、俺達を優しく諭した。

 

 でも、本当にそれでいいのか? アルデバランの奴は話が分かりそうだった。

 

 カールの事を話しても、あんまり興味がなさそうと言うか。敵対の意思は感じなかった。

 

「……女神様。叶うのであれば、私達もこの街のために戦いたいですわ。この街には、知り合いがたくさん出来ました。その方々を見捨てたくはないです」

「だーかーらー、そういうのはアルデバランとかいうのに任せればいいのです。心配せずとも、勇者の力があれば負けることはあり得ません。むしろ、残っても足を引っ張り合うだけなのです」

「アルデバランとコンタクトを取りましたが、彼女はあまり敵対的ではありませんでした。上手くやれば、共闘も────」

「無理ですよ。アイツとはきっと、絶対に分かり合えない。共闘するとしたら、それは向こうに騙し討ちの計略がある時だけなのです~」

 

 にべもなし。

 

 女神様は、アルデバランとの共闘を絶対に無理と切って捨てた。

 

「それは、しかし」

「分からず屋なのですね~。そこまで言うなら止めはしませんが、きっと貴女も気付く日が来るのですよ。『共闘なんて、絵空事だった』と」

「……」

 

 少し意地になりながら食って掛かると、女神様は口をへの字に曲げて嘆息した。

 

 やはりこの女神も、向こうの女神を快く思っていなかったらしい。頑として、セファは共闘を受け入れるつもりは無さそうだった。

 

「まぁ、カールはきっと言う事を聞いてくれるのです。あの子、私を狂信してますし」

「……む」

「話し合いは、これでおしまい。私も結構忙しい身で、やることが沢山あるのです。質問には全て答えたのですよ、後は行動あるのみ~」

 

 そこまで言うと、女神セファは光に包まれた。

 

「さっさと荷物を纏めて、旅に出るのです。そして、君たちは手にいれた杖を使いこなせるように修行してください」

「……ですが」

「ですがも、へったくれも有りません。女神命令なのですよ~」

 

 カールにもそう伝えておくのです、と女神は嗤い。

 

「では、貴女達の未来に幸と栄光のあらんことを」

 

 やがて、光に包まれて消え去った。

 

 

 

「……どう思う? イリーネ」

「女神様の仰る事も、分かりますが」

 

 女神が消え去った後。

 

 俺は、サクラと顔を向き合わせ相談した。

 

「ちょっと、横暴と言うか強引よね。別に、カールも残って共闘しても構わないじゃない」

「何か、それで良くないことが起きるのでしょうか」

「分かんない。私には、あの女神にやましい事があって誤魔化した様しか見えなかったけど」

 

 ……女神からの命令は、即日退去だ。アルデバランとは、関わってはいけない。

 

 しかし、この街には知り合いが沢山できた。ユウリを始め、力になってくれた人が沢山いた。

 

 出来る事なら、俺はこの街の人々を守るために戦いたい。

 

「共闘出来ないなら、役割分担すればいいのですわ。例えばアルデバランさん達に敵をせん滅していただき、私達は街の被害を防ぐために行動するとか」

「そうよね。その命令が出てこなかった時点で、あの女神様はちょいと胡散臭いのよね」

「とはいえ、私達のリーダーはカールです。どう判断されるでしょうか」

 

 そう、俺達のリーダーはカールだ。女神様に心酔し、力を授かった勇者。

 

 たとえ俺達にとって女神が胡散臭い存在でも、彼はきっと命令に素直に従ってしまうだろう。

 

「……はぁ。詳しい事は、全員集まってから話し合いましょう。マイカやレヴ、あとマスターも含めて」

「そうですわね」

 

 だが、ここでいくら議論しても何も始まらない。

 

 パーティの行動指針は、皆で決めるべきだ。

 

 そして俺とサクラは、とりあえず2階で気絶しているだろうカールを起こすべく階段を上った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女神セファ……、へぇえ。確かそりゃ、テンドー家の主神じゃねぇですかお嬢」

 

 パーティ全員が集まってから、俺達は先程の女神様とのやりとりを共有した。

 

 気絶していたカールも、夢の中で女神と対話をしていたらしい。カールと女神が話した会話の内容は、俺達が聞いたものとほぼ同一だった。

 

「え。私の家って、あの女神の信徒だったの?」

「そうですぜ」

 

 そして女神セファ、という名前に真っ先に反応したのは、意外にもマスターだった。

 

「セファ教って言ったら、ちっとマイナーながら細々と続いている由緒正しい古宗派でさぁ。条件付きながら人殺しが容認されてる教義なもんで、チンピラにとっちゃ信仰しやすい宗派です」

「あー、大多数を救う時に必要ならば犠牲を許容する、みたいな感じのアレね。そういや聞いたことあったわぁ」

「無論、犠牲者本人の同意が必須だとか色々と細かい条件がありますがね。そっか、女神様自身が人殺しをやったんだ。だから、そんな教義が出来ちまったんですねぇ」

 

 話を聞くに、セファという女神は昔から確かに存在していたらしい。

 

 俺は宗教に詳しくないのだが、聞く人が聞けば卒倒するレベルのビックネーム女神だったのだとか。

 

「何せ歴史が古いんですよ、セファ教は。俺達みたいになんとなく信仰しているチンピラも居れば、狂信的に命を捧げる勢いで崇拝している奴もいる」

「ふーん」

「ありがとうマスター、セファの事はよくわかりましたわ」

 

 これで、あの女神の事は分かった。

 

 だが、今はそれよりももっと重要な議題がある。

 

「で、だ。どうするんですかい、カール」

「……ああ、俺達の方針だろ?」

 

 俺達は話し合わねばならない。女神様の指令通り、この街を見捨てて別の場所へ旅立つべきかどうか。

 

 勇者であるなら、少しでも被害が少なくなるように行動するが常。しかし、今回は女神様自ら『この街の戦いに関わるな』と念を押してきた。

 

 

「みんなの意見を聞かせてくれ」

 

 

 そう言ってカールは、全員の目を見つめた。

 

 きっと彼自身、まだ迷いがあるのだろう。

 

「正直、私はあの女神を胡散臭いと感じたわぁ。……此処の住人にはかなり良くして貰っている。街に残ってアルデバランと共に、みんなを守るべきだと思うわよ?」

「アルデバランと共闘が駄目でも、二手に分かれてより街への被害を減らすべく活動することは出来ますわ。傷つくかもしれない人がいるのに、ここを離れるのは反対です」

 

 俺とサクラは、先程話し合った通りに街を守るべく残ることを主張した。

 

 3日後に魔族が攻めて来る。なら、そこから逃げ出すような真似はしたくない。

 

「……私は、神様を信じない。でも、必要ないのにカールを危険な戦場に赴かせたくない。だから方針は、カールに任せる」

「俺はお嬢と意見合わせるべきなんだが……。本音を言やぁ、避けられる戦いは全て避けたいね。前の時だって、お嬢は死にかけたんだし」

「私も、女神様に従うべきと思うわ。そもそも、カールが旅に出て戦ってるのも、女神様の指示通りなんでしょ? そんな神様からの指示に逆らうなんて、今までのカールの行動全否定するようなもんじゃない」

 

 レヴちゃんはどっちつかずで、マスターとマイカは女神様に従う派か。

 

 女神の命令に賛成2、無投票1、反対2。意見が綺麗に割れてしまった。

 

 ああ、こうなってしまったならば。

 

「よし。俺は、出来るなら女神様に従いたいと思ってる。あのお方が言うことには、きっと何か深い意図が有る筈なんだ」

「……カール」

「多数決だ、今回は女神様の仰る通り行動する。明日準備して、明後日にこの街を経とう。それまでに、この家の庭に避難所を作れるか?」

「……狭いものならね。2人が逃げ込める程度の大きさなら、1日もあれば形になるわ」

「なら、明日1日かけて頼む。サクラ以外は、全員で旅の準備だ」

 

 やはりカールは、女神の命令に従うようだ。彼は筋金入りの女神信者、パーティの意見が同数なら当然そっちに行くだろう。

 

「ごめんな、イリーネにサクラ」

「いえ。リーダーがそう決めたなら、従うだけです」

 

 こうして俺達が、アルデバランと共闘する事は無くなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜。

 

 俺は今ひとたび、猿の仮面と鎧を身に着けて立った。

 

「……」

 

 部屋の外には誰もいない。今、この屋敷で出歩いているのは俺ただ一人。

 

 夜に練習する習性の有るあのオッサンも、既に寝静まったのを確認した。屋敷を出るには、今しかない。

 

 

 

 

 ────イリーネ、貴様は何か困ったことがあれば私のパーティーに逃げてこい。私こそ真の勇者だ、助けを乞う者を見捨てる事は絶対にしない。

 

 

 

 アルデバランのこの言葉に嘘はなかった。

 

 きっと、彼女は信じる女神は違えど、心優しき勇者の筈だ。

 

「せめて報告には、行かないと」

 

 アルデバランの滞在場所は、既に聞いている。夜分遅くになってしまうが、今からアルデバランの所に手紙を出しに行こう。

 

 夕方、俺はヴェルムンド家の家紋入りで、数枚綴りの手紙を作った。

 

 これを読めば、俺達が知りうる情報が全て伝わるようにしておいた。

 

 3日後に襲撃がある事、俺達の女神の指令で街を離れる事、結局共闘は難しそうだという事。

 

 

 

 そしてこちらの女神様が、少しきな臭い。何かを隠している様な気配が有る事。

 

 

 

 こんな話を、堂々とアルデバランに伝えるわけにはいかない。

 

 カールが聞いたら、間違いなく気を良くしないだろう。

 

 だから、コッソリと手紙でアルデバランに伝えるだけに留めておく事にした。

 

 

 

 月は雲に隠れ、闇が街を覆い隠す。

 

 隠密活動には、もってこいのコンディションだ。

 

「……いざ」

 

 貴族令嬢が夜に徘徊するなど、目撃される訳にはいかない。俺は再び、猿神の装束の力を借りて駆け出した。

 

 闇に紛れし、猿の化身。さぁさ、夜の街に溶け込んでいざ任務を果たさん────

 

 

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ」

 

 

 

 そんな感じに、屋敷から飛び出そうとしたその瞬間。何やら恐怖に震えた声が背後から聞こえてきた。

 

 ……ん?

 

「な、何か物音がするなと思って様子を見に来たのだが……。何と言う事だ、想像の十倍は怪しい奇人がいるじゃないか」

 

 廊下の奥から声がしてくる。

 

 恐る恐る首を回して振り返ると、そこには顔面を蒼白にしたユウリが俺を指さして立っていた。

 

「君は誰だい。イリーネの部屋の前で、何をしているんだい……?」

「……」

 

 ……。

 

 ふむふむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「幼女☆誘拐!!」

「も、もがもがもがー!!」

 

 

 あば、あばばばばば!! 見つかった、見つかっちまった。

 

 どどどどうしよう、俺が猿仮面身に纏ってる姿を屋敷内で見られてしまった!!

 

「証拠隠滅☆口封じ!!」

「むむむむー!!」

 

 とりあえず拉致だ! 拉致監禁だ!

 

 ユウリを連れてここを離れ、ゆっくりと事情を説明するんだ! 大丈夫、きっと分かってくれるはず!

 

あうええ(たすけて)ー!!!」

「叫ぶなコラ、バナナの皮にするぞ(?)!!」

「ぃぃぃー!?」

 

 

 

 

 こうして猿仮面の怪人が幼女の口を塞ぎながら、深夜の街を全力疾走するのだった。

 

 そのあまりの怪しさに、寝ぼけて窓の外を見つめていた街の住人は流石に夢だろうと切って捨てたとか。

 

 


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