【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

36 / 94
36話「失伝魔法とSMプレイ」

「……ふむ、ふむ。話は分かった」

「流石はユウリ、話が早いぜ」

 

 深夜の広場、ベンチに腰かける不審者と幼女がいた。

 

「君は思ったより、馬鹿だったんだねイリーネ」

「あるぇー?」

 

 その幼女は蔑んだ目で、俺を睨み付けていた。

 

 

 

 俺は、全てを話す事にした。

 

 ユウリをこの場に拉致してしまったは良いが、俺には上手い誤魔化し方が思い付かなかったのだ。

 

 そもそもユウリは占魔術の使い手である。仮面を付けていたとはいえ、何らかの魔法で俺の正体を看破できる可能性がある。

 

 もはや誤魔化すこと叶わじ。

 

 冷静にそう悟った俺は、仮面を捨ててかくかく然々とユウリに事情を説明する事にした。

 

「それは、その。イリーネなりの変装のつもりだったんだね?」

「どうだ、格好良いだろう」

「見た目の違和感は物凄いが、男口調に違和感がない……。さては結構慣れてるな、その演技」

 

 と言うか、こっちが素だが。普段のお嬢様口調こそ演技である。

 

「で、だ。君達は街を出て魔族との戦闘をアル某に任せる事にしたから、その旨を手紙で伝えたいんだね?」

「そうだ」

「なら、ボクから手紙を渡しておく。そんな怪しい姿で彼女の工房に忍び込めば、殺されても文句言えないよ」

「……そんなに怪しいかなぁ」

 

 ユウリはジトーっと俺を睨み、呆れ声で手紙を受け取った。

 

 だがまぁ、彼女から渡してもらえるなら話が早い。ここは、彼女に託しておこう。

 

「それよりも、だ」

「はい」

 

 ユウリは受け取った手紙を寝巻きのポケットに仕舞うと、先程よりなお機嫌が悪い声を出した。

 

 幼女誘拐したからだろうか。

 

「君、精霊の論文の件はどうするの? 君の経験を纏めて発表して貰わないと、ボクの研究も前に進まないんだが」

「……あっ」

 

 そうだ、論文の事を忘れていた。

 

「はぁ、忘れていたんだね?」

「す、すまん。あーでもどうしよう、俺達は明後日には出発する必要が……」

「分かったよ。ならせめて明日1日は、ボクに付き合いたまえ。論文はボクの方で代筆して、代理で発表する事にする。出来れば、君だけでも残ってもらいたいんだが」

「その。一応、パーティーの方針だし……」

「だろうね。まったく、君がいないと再現性を確かめられないと言うに……」

 

 ユウリは不満げに頬を膨らませ、俺を睨み付けている。

 

 その様からは、はっきりと「不満です」という態度が見てとれた。

 

「魔族からの襲撃が終わったら、この街に戻って来たまえよ?」

「ぜ、善処する」

 

 魔族から襲撃されるって結構な一大事な筈なんだが。ユウリ的にはそんなものより、研究の方が重要らしい。

 

 薄々感づいていたが、ユウリは少しマッドサイエンティスト寄りなのかもしれない。

 

「じゃあ、明日一日はボクの研究の為に尽くしたまえ。約束したよ?」

「お、おう」

「その代わり、君のその珍妙な変装については黙っておいてやろうじゃないか」

「あざーっす!! ヒュー、太っ腹だね大将!」

「……今の君がイリーネだと、中々に信じがたいねこれは」

 

 だが、これでユウリの口封じが出来た。

 

 物凄い弱味を握られてしまった気もするけど、深く考えないでおこう。

 

「では、屋敷に戻ろうか」

「応ともさ!」

 

 こうして俺は、無事に正体バレの危機を乗り越える事が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 筈だったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そうさ。そのまま、そのまま」

「あ、あ、アツゥイ!! 火傷する、ちょ、ま、アツゥイ!!」

 

 翌日、俺は猿仮面を被り、街の郊外でドM魔法の行使に勤しんでいた。

 

 なんでさ。

 

「そうか……そうだったんだ、今までのボクに足りなかったのここの術式……」

「もう止めていいっすか、これ!? 痛いんだけど!? 何で真っ昼間からマゾヒスト魔法の修行しないといけないんだ俺!?」

「あと少し、あと少しだけ……。これも、精霊の研究の一環だ。多少呪文を間違えていようと、魔法発動が可能な君にしか頼めない仕事なんだ」

「どう考えても精霊関係ないよなぁ!?」

 

 街の郊外とはいえ、近くに通りはある。往来を行き来する人も少なくない。

 

 そして街行く人々は、好奇と畏怖の目で俺達を見ていた。

 

 ああ、何でこんな目に。

 

「ふ、ふ、ふ……。ようし、この呪文のデータは取れた。では次の呪文を」

「もう良いだろ!? せめて精霊についての実験をしないか!」

「あれぇ、ボクに逆らうのかい猿仮面? ならうっかり昨夜の事とか仮面の事とか、口が滑ってしまうかもしれないよ?」

「この腐れサディスティックドMロリ!」

「何とでも言いたまえ」

 

 あかん。ユウリの目が完全にキマっている。マッドサイエンティストモードに侵食されている。

 

 俺は出発の準備をカール達に任せて、一体何をやっているんだ!?

 

「あふん、次で最後だ。今は亡きお祖父様の残した、最大にして至高の自傷魔法……。ボクがずっと理論を研究し続けてなお理解できなかった、祖父の人生を賭けた究極のマゾプレイ」

「お前の祖父(じい)ちゃん、ドMに人生賭けちまったの!?」

「史上類を見ないネタ魔導師の秘奥を、是非とも現代に蘇らせる。それこそボクの使命……」

「そんなネタ魔法は一生寝かせとけ!」

 

 ああ、本当にどうしてこんなことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数刻前。

 

 俺は、カール達に頭を下げてユウリの研究に同行する旨を承諾してもらった。

 

『そういや、そんな話もあったな。なら準備は俺達に任せてくれイリーネ』

『恩に着ますわ』

『……気にすること、ない』

 

 こうして温かく送り出された俺だったが、内心は結構ブルーだった。

 

 研究だの論文だの、めんどう臭そうな話題は苦手だ。

 

 しかし嫌な予感をビンビンに感じながらも、弱味を握られた俺はユウリに逆らうことが出来ない。

 

「ああ、論文に関してはそんなに時間を取らないよ」

 

 ────しかし、ユウリの話は想定外の方向へ行った。

 

「実はもう、精霊に関する論文の構想はほとんど完成しているんだ。今日主にイリーネにして貰いたいのは、古代魔法学の発展の為の実験さ」

「どう言うことだユウリ?」

 

 彼女によると、実は精霊論文の内容に関して最終段階まで完成しているらしい。

 

 その最後の詰めも、少し時間があれば終わるそうだ。

 

「君の真の才能は、古代魔法の復活にある」

「古代魔法の……?」

「長い歴史の中で詠唱が失われ、文献に存在すれど行使出来る者の居なくなった魔法。それは失伝魔法とも呼ばれ、我ら古魔法学者はその復刻に生涯を賭ける者も多い」

 

 ユウリには、前に俺の話を聞いてからずっと狙っていた実験があったそうだ。

 

 それは、俺による『失伝してあやふやな詠唱しか残っていない呪文』の復活である。

 

「君ほど精霊に愛されていたなら、多少呪文を間違えても魔法は正しく発動してくれるだろうさ。そして、その発動した魔法から逆に解析して正しい呪文を導きだす」

「な、なるほど」

 

 ユウリの所属する学派は古代魔法の研究グループ。古代魔法の復活こそ、悲願。

 

 そんな連中からしたら、俺は喉から手が出るほど欲しい存在らしい。

 

「丁度よく、手頃に失伝した魔法がいくつかある。それを、是非とも復活させたい」

「手頃に失伝したの意味がよくわからないが、了解だ。その失伝魔法を詠唱すればいいんだな?」

「ああ」

 

 そう言うと、ユウリは目を輝かせ、

 

「どうしてもボクには発動させることができなかった、祖父の開発した魔法なのだが……」

「……『火炙り体験☆苦悶鎖攻め』?」

 

 俺は公衆の面前で、いかがわしい謎魔法を詠唱する羽目になったのだった。

 

 勿論俺は、身バレ防止のために猿仮面を装備することを選んだ。ついでにユウリにも、土魔法で複製した予備仮面を付けさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『猿の仮面の変態が2人、郊外でSMプレイに励んでいます』と通報が有った」

「だから何だというんだい? ボク達は誰かに迷惑をかけたかい?」

「アツゥイ!! くそ、アツゥイ!!」

「……確かに迷惑は、かけては、いな……。いや、やっぱり割と迷惑じゃないか?」

 

 間も無く、国家権力の犬が不審者出没の通報を受けて駆け付けてきた。俺とユウリは敢えなく捕捉され、警備(ガード)から事情聴取と相成った(10日ぶり2度目)。

 

 こんないかがわしい行為をしていたら、通報されるのもやむ無し。まったくユウリめ、幼女とはいえ常識というものくらい持って欲しいものだ。

 

「そもそも、その怪しい仮面は何だ。仮面で素性を隠して何をするつもりだったんだ?」

「アツゥイ!! はぁはぁ、そりゃこんな特殊なプレイを公衆の前でやるんだぞ? 素性を隠したくなって当然だ」

「……ごもっとも。いや、でも、アレ?」

 

 それに、この街の警備は融通が効かないな。

 

 いくら行動が怪しかろうと、この仮面を見れば俺が不審者ではない事くらい分かるだろうに。

 

「それに、この仮面は格好良いだろう。俺の野性味とワイルドさをよく表現した素晴らしい仮面だ」

「……格好、良い……?」

「くふぅ……。そこの馬鹿のいうことは無視してくれ、単にこの仮面もプレイの一環なのさ。公衆の面前で、こんな屈辱的な仮面(モノ)を付けさせられて────嗚呼」

「何と業の深い奴等だ」

「あれ? 今、俺の仮面の事を屈辱的って言った?」

 

 どういう意味だ、こんなにイカす仮面に向かって。

 

「君達に悪意がないのは分かったがね、世の中には公序良俗と言うものがあるんだ。こんな朝から卑猥な行為をされると、この地に住まう子供達の教育に悪い」

「と言うか、君達もまだ子供だろう。特に、ちっちゃい方……、子供のうちからそんな特殊性癖に目覚めてはいかん」

「男の方も、幼女に攻められたいと言う願望は深く理解できるが……。いくら同意の上とはいえ幼女に手を出したら駄目だ」

「ちょっと待て誤解だ、俺にそんな趣味はない……アツゥイ!!」

「言動と行動がまるで一致していない」

 

 そんな懐疑的な目で見るな! これはユウリに命じられてやってるだけで、仕方なく!

 

「ともかく、詰め所に来てもらおうか。君、危ないから早く火を消したまえ」

「えー。不審者2名を確保。詰め所まで任意同行願います、オーバー」

「ご、誤解だぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったくひどい目に遭った」

「お前のせいでな、ユウリ!!」

 

 1時間ほど事情聴取を受けて、厳重注意で俺達は解放して貰えた。

 

 俺達は卑猥ではあったが危険人物ではないと判断されたらしく、逮捕には至らなかった。

 

「家の庭とか、そんな誰にも見つからない場所で試せばよかっただろう。あのマゾ魔法!」

「とはいってもだね。呪文のタイトルからして火が出る事が予想されるから、水回りが近くにないと危険だと判断したのさ。となると、必然人目のあるところで試さざるを得なくてだね」

「ちょっとお前の趣味も入ってただろ! 見られて気持ちよくなってたんだろ、この変態幼女!」

「それは否定しないが……。そもそも、原著論文にも周囲に人目がある場所でと記載されていてだね」

 

 2人でやるんだから人目は十分だろ! それに水が必要なら、俺が魔法でいつでも出せたわ!

 

「それに、もう一つ試してほしかった究極の魔法……祖父の秘奥がどれほどの威力か分からなかった。我が家の狭い庭で試すのは少しリスキーだと判断してね」

「えっ……そんな危険な魔法を使わせようとしたのか」

「詳細が良く分からないのさ。曰く、究極のネタ魔法らしいのだが……。『自らに苦難を与えることで、より高度な成長に導く魔法』というのが祖父の記載だね」

 

 ……結局、ただのドM魔法じゃねえか。そんなネタ魔法の復活の為に、俺は大恥を掻かされたのか。

 

「この魔法の論文には『術者に成長を促す』と書かれているのが気になっていてだね。成長しないと解除できない凶悪な苦難が襲い掛かってくる危険が……」

「おい。それ、今日中に解除できたのか?」

「分からないから試しているんじゃないか」

「今日中に解除できなきゃ困るんだよ! 俺は明日出発するんだから」

「でも、技術の発展に犠牲はつきものでね」

 

 いかん。この娘、やはり相当にマッドだ。

 

 昨日までは割と常識的で素直な子だと思ってたんだがな。ユウリはどうやら実験の事になると、周囲が見えなくなってしまうタイプらしい。

 

「悪いが、脅されてももう協力はしないからな。警備(ガード)の世話にまでなったんだ、義理は果たしただろう」

「むぅ。まぁ仕方あるまい、現時点でそこそこに収穫はあったしね」

 

 これ以上ユウリには付き合っていられん。俺は裏路地で猿の仮面と鎧をしまい込んで、さっさと屋敷に帰ることにした。

 

「はい、ユウリさんも仮面をお取りになって。仮面のまま屋敷に戻るところを見られたら、面倒ですわよ」

「ふむ、確かに」

 

 ああ、無駄で災難な1日だった。

 

 だが、少し俺だけの自由な時間が出来たのは幸運だ。今のうちにユウリと一緒に、アルデバランに会いに行こう。

 

「仮面を外した事ですし、このままアルデバランさんの工房へ向かいますわ。よろしくて?」

「構わない。にしても、先程の猿モードとの言動の違いが凄まじいな……。本当に同一人物なのか?」

「貴族令嬢たるもの、猫を被る事くらい造作もありませんの」

「そんな生易しいレベルではないけどね。多重人格と言われた方がしっくりくるよ、ボクは」

 

 この手紙をアルデバランに渡せば、この街での俺の仕事は終了。後は、彼女に全てを任せよう。

 

 頼んだぞ、アルデバラン。この街を、どうか魔族から守ってくれ。

 

 

 

 

「……おや。ソコに居るのは、イリーネ殿と、ユウリ女史」

「へ? あ……」

 

 

 

 

 そんな、ちょうど猿仮面を脱いだ直後の俺に話しかけてきた人物がいた。

 

 それは何と、

 

「ガリウス様! これはこれは、ご機嫌麗しゅうですわ」

「うむ、数日ぶりであるな。ユウリ女史も、学会以来であるか」

「どうも、王弟ガリウス様。お久しぶりでございます」

 

 この街の最高権力者、すなわち視察中の王の弟ガリウス様であった。

 

 周囲には護衛がぞろぞろと立ち並んでおり、リタの姿は見えない。きっと、仕事の最中なのだろう。

 

「精霊の件、イリーネ殿から話を聞いたかねユウリ女史」

「ええ、素晴らしい発見でした。彼女との共同研究の下、次回の学会にてボクの口から発表させて戴く次第です」

「ふむ? 君は精霊否定派と思っていたが」

「いえいえ、実際に見れば意見も変わるというものです。ボクは真実に基づいて考察するのみ。きっと、閣下のド肝を抜く発表に仕上げて見せますよ」

「それは上々、実に楽しみだ。君が噛んでいるなら、イリーネ殿の発表はきっと大成功となるだろう」

 

 ガリウスは嬉しそうに、俺とユウリを見比べた。

 

 そうだ、しまった。俺ってばガリウス様から直々に発表を命じられてたんだった。

 

 王様の弟の命令を無視するって、相当にヤバい案件だ。このタイミングで謝っておかねば。

 

「ガリウス様、大変に申し訳ない事がありますわ」

「む、どうしたというのだねイリーネ殿」

「私達カール一行は、一身上の都合で街を離れねばならなくなりました。私の知る情報は全てユウリに伝えておりますので、精霊の件についての発表はユウリに依頼する事になっております」

「ほう、それは……。何とも勿体ない。その発表はきっと、学会中で讃えられる事になるだろうに……。世紀の発見たる精霊の観測者が、その場にいないとは」

「非常に残念極まりませんわ」

 

 王弟ガリウスは、話を聞いて見るからにガッカリしていた。むぅ、目をかけて貰ったのに申し訳ない。

 

 俺としても是非とも、ヨウィンを守るためにに残りたいのだが……。カールが決めたなら、従うほかにないのだ。

 

「因みに、一身上の都合とはどういう要件なんだね? 私が力になれる事であれば、力を貸すが」

「それが、なんですが……」

 

 ガリウスはおそらく心からの善意で、俺にそう言ってくれた。

 

 ……どうしようか。

 

 以前パーティで話し合って、ガリウス様にはカールが勇者である件は伏せる事になっていた。

 

 『魔王復活』なんて言葉を出せば国家転覆レベルの流言と判断されて、街を追い出される可能性があったからだ。

 

 しかし、ガリウスは非常に聡明な男に見える。よくよく話せば、理解してもらえるかもしれない。

 

 だが、もし信じて貰えなかったら? 即日逮捕なんてことになったら?

 

 俺はどうするべきなのだろう。

 

 だが、そもそも魔族が襲撃するのを知っていて、黙って立ち去るのは果たして正しい事なのだろうか。

 

 せめてこの街の権力者たるガリウスに、報告はしておくべきではないのだろうか。

 

「実は、とある恐ろしい予知が有ったのです」

「……ほう?」

 

 そして俺は数瞬黙り込んだ後、ポツポツとガリウスに向かって話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「まもなく大量の魔族が攻めて来る、か。縁起でもない話だ」

 

 俺は、その場でアドリブに言い訳を作った。

 

 まぁ、要はこういう話だ。

 

 ユウリたちと研究していた予知魔法で、2日後にこの街に大量の魔族が攻めて来る事が分かった。その予知を信じて、俺達は逃げる事にした。

 

「言いふらせば、町中がパニックになる話です。しかし、誰にも何も言わずに逃げるのは気が引けまして」

「それは間違いないだろう。よく私に知らせてくれた」

 

 ガリウスは俺の話を聞いて、ううむと首を捻った。

 

「予知魔法は絶対ではない。しかし、なかなか精度の高い魔法だ」

「仰る通りですわ」

「この時代に魔族などと、にわかには信じがたい話だ。予知魔法の失敗だと思いたいが……」

 

 そんな予知を見てしまったのであれば、逃げ出すのも納得だ。ガリウスはそう頷いて、

 

「君達は一刻も早く逃げると良い。この街の事は、我々に任せたまえ」

 

 そう言って腕を組み、自信満々に笑った。

 

「王族たるもの、民を守るが生業なり。道中怪我をしないよう気を付けられよ、イリーネ殿」

「……ええ。ガリウス様こそ、御達者で」

「ふふふ、こう見えても私は歴戦の魔術師である。もしその予知が事実であったとて、我が必殺の魔法で魔族を蹴散らしてくれよう」

 

 ああ、偉丈夫。ガリウスには、この男に任せておけば安全だと思えるだけのオーラが有った。

 

 ……だが、現実を俺は知っている。当代随一と謳われた俺の精霊砲を持ってなお、魔族の群れには歯が立たなかったのだ。

 

「決して、無理はなさられぬよう。ガリウス様の勝利を信じておりますわ」

「ああ、任せておきたまえ。もし何もなければ、是非戻ってきてくれよ?」

 

 ガリウスは、ひとかどの人物だ。これほどの男を、魔族の襲撃で失うのは惜しい。

 

 アルデバランに伝えよう。くれぐれも、この街をよろしく頼むと。

 

「では、おさらば。急いで対策を練らねばならぬでな」

「はい、ガリウス様」

 

 俺は、強い眼光で部下を引き連れて戻るガリウスの背中を、祈るように見つめ続けた。

 

 ……本当に、この街を離れて良いのだろうか。そんな疑問を、心に浮かべながら。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。