【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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4話「世を忍ぶ仮の姿……。それもまた、ロマン!」

「まずはこの街でやるべきことの整理だな」

 

 レーウィンの街についた俺達一行は、翌朝より来るべき魔族の脅威に対抗するべく行動を開始した。

 

「周辺で魔族の目撃情報がないか聞き込み、ヴェルムンド様から貰った資金で新たな装備の調達、そして新たな協力者を見つけられないか交渉」

「そのあたりですわね」

 

 現状では、俺達の持っている情報は少ない。分かっているのは、魔王軍の手先がもうすぐ襲ってくるかもしれないという事だけだ。

 

 詳しい情報を知るには、女神さまとコンタクトを取るか地道に聞きこんでいくしかない。

 

「聞き込みは、私がやるわ。この街に、狩った獲物を卸しに来たことがあるの。知り合いの商人さんを当たってみるわ」

「俺も聞き込みかな、以前この街で冒険者をしていた時期があるんだ。その時の仕事仲間に当たってみるよ」

 

 周辺での聞き込みは、この街に来たことのある二人がやる事になり。

 

「……じゃあ装備、探してくる。この街の鍛冶屋を総当たりして、品質を見定めておく」

「おう、レヴの鑑定眼は当てになるからな。良さげなモノが有ったら報告してくれ」

 

 武器の鑑定が出来るらしいレヴが、装備を見繕う役目になったので。

 

「新たな協力者については、お任せください。これでも私は貴族ですもの。この街の貴族へ交渉するなら、私がスムーズだと思いますわ」

「うん、お願いするよ」

 

 俺は必然的に、残された『協力者を探す』任務を与えられることになった。まぁ、貴族という身分を活かせる任務だし妥当な役目だろう。

 

 ……でも、交渉とか苦手なんだよなぁ。口ではああ言ったものの、やっぱやだなぁ。

 

 拳で語り合える相手なら楽なんだが、残念ながら貴族は基本的にインドア派が多いし。

 

「じゃあ、結果は夕方にまたこの宿に集まって報告するという事で」

「異議なーし」

 

 とはいえ、せっかく引き受けた任務だ。

 

 自信はないけれど、やれるだけ頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フワッハッハハハ、魔王が復活デスか。面白くない冗句デス、マドモゼアル・イリィィィィネ!! 民衆を不安に陥れて何を企んでいるのデスか、オヒョヒョヒョヒョ!!」

「いいえ、私は決して冗談や企みをしているわけではありませんわ。本当に魔王が────」

「キエェェェイ!! まだ続けるというのであれば、いかにヴェルムンド家の御令嬢と言えど容ォ赦はしませーんヌ!!」

 

 ……レーウィンに居住している3家の貴族。俺はそのうちで、まずは一番格式高いソミー家を訪ねてみた。

 

 ソミー家はこの町の統治者とされる家だが……。その当主を呼んでもらうと尋常じゃなく濃いキャラのオッサンが出てきて、清楚モードの俺の嘆願を一蹴した。

 

 見た目はシルクハットにカイゼル髭と言う、まさにザ・貴族な男だ。だが、心は尋常ではなく狭い。奴は奇怪な口調で俺を罵倒し、追い立てるように唾をペッペと吐き散らした。

 

「2度と来るなデス! オヨォー、ぶっ殺しますよキエェーイ!!」

「は、はあ。失礼いたしました……」

 

 まったく話が通じない。同じ人類とは思えない。

 

 マジかよ、貴族にもあんな奴がいるのかよ。

 

 魔王の話を出した瞬間、カタカタ真顔で笑いながらクビを振るオッサンは、ちょっとしたビックリ人間の域だった。俺、社交界を続けていたらそのうちあんなのとお茶会しなきゃいけなかったのか。良かった、カールに付いて行って社交界から逃げ出せて本当に良かった。

 

 これで、ソミー家との交渉は決裂、と。うん、仕方ない。あれは仕方ない。

 

 あんなに変な奴は、そうそう居ない筈だ。切り替えて次行こう、次。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァー。お前、私の財産を狙っているのね……。そうなんでしょう、バレバレよ……」

「あ、あの。私はそういうつもりではなく、プーンコ家のお力をお借りしたく」

「騙されない、騙されないんだから……。ヴァー……。私をそこらのアホ貴族と一緒にしないで頂戴……。そんなのに騙されるのは、ヴァー……。この街の他の貴族くらいのモンよ……」

「は、話を聞いてください。決して私は……」

「ヴァー。それ以上続けるなら、呪うわよ……。ふふっふふふ。呪って呪って、二度と散歩出来ないからだにしてあげるわ……。ヴァー……」

 

 ……なんだこの女。

 

 続くプーンコ家に交渉に行くと、出てきたのは目に物凄いクマを浮かべたダウナーな女貴族だった。彼女はヴァーヴァーと奇妙な声で鳴きながら、俺の話に最初から聞く耳持たず突っぱねるだけだった。

 

 一応めげずに交渉していたけれど、やっぱり話を聞いてくれる様子がない。最初から嘘と決めつけて、鼻でせせら笑うような対応だ。

 

 まぁ、いきなり魔王とか言われて胡散臭いのもわかるけど……。でも仮にも別の家の貴族が訪ねてきたんだぞ? もうちょい礼節的なアレは無いのだろうか。

 

 ……というか、何でこの街の貴族は全員こんなにキャラが濃いの!?

 

 貴族ってそういう人しかいないのか? 俺が過去に社交界で話した人たちは、普通に礼儀正しい人ばっかりだったけど。まさかそれは、パパンが付き合う相手を厳選していたから?

 

 実は貴族って、変人が多いのかもしれない。まさか最後の家も、このレベルの奇人が出てくる……のか?

 

 だんだんやる気がなくなってきた。怖い、貴族怖い。

 

 こんなのを貴族と思ってたなら、そりゃマイカも『貴族はとっつきにくい人が多い』って結論に至るわ。俺も今、貴族という存在に辟易している。

 

 頼む、最後の家くらいはまともな貴族が出てきてくれ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごきげんよう」

「ええ、ご機嫌よう」

 

 ……っ。

 

 こ、この貴族……。挨拶を返すぞ!?

 

「私はヴェルムンド家が長女、イリーネ・フォン・ヴェルムンドと申します。貴重なお時間を頂き、感謝いたします」

「これはご丁寧に、サクラ・フォン・テンドーですわ。まずは当主の不在をお詫びします。ただいま家を空けております父の代わりに、私が当主代行をしてますの」

 

 お、俺の自己紹介に名乗りを返しただと!?

 

 まさかコイツ……。

 

「良かった……。話を聞いていただけて、本当にうれしいですわ……」

「ええっ!? ま、まだ何も聞いてないような!?」

 

 普通だ……。この人は話が通じる、普通の貴族令嬢だ……。

 

「そ、それで。今日はいかなる御用で?」

「ええ、お話いたします。実はですね……」

 

 これでやっと、普通に交渉が出来る。よし、頑張るぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……魔族の王が、復活ねぇ。……すみません、その」

「流石に胡散臭い、信用に値しない。でしょうか?」

「ええ、まぁ」

 

 一応、カールから聞いた話をしてみたが。この貴族も話を聞いてくれただけで、あまり協力的なそぶりは見せなかった。

 

 うん。まともな感性を持っていても、初見でカールの話を信用するのは難しいからな。

 

「正直なところ、貴女が他の貴族2家どちらかの回し者ではないかと疑ってすらいます」

「回し者、ですか?」

「このレーウィンの地で、我がテンドー家を含めた3つの家が権力争いしているのは貴方もご存じでしょう。無駄な出資をさせて、我が家の資金力を奪う……、貴方の役割はそんな所では?」

「そ、そんな!」

 

 それどころか、この御令嬢は俺を詐欺師扱いして睨みつける始末だ。ぐぬぬ。

 

「権力争い、と言いますが……。そもそもこの街はソミー家が仕切っているのでは? 私は他の地の貴族ですが、そう伺っておりましたけど」

「そのソミーが没落してきてるから、争いが生まれているんでしょう? アホ当主が何も考えず散財しまくったせいで当家やプーンコ家の支配力が強まって、今やレーウィンは三つ巴の権力図です」

 

 俺の頭に、ふと『キョキョキョキョキョ』と笑うカイゼル髭の変人が浮かんでくる。俺が最初に助力を乞うた先のキャラの濃い男貴族だ。

 

 そっか、アイツ見るからにアホっぽかったもんな。

 

「この絶妙な勢力バランスの中で、何の信用もない冒険者に出資する様な貴族家はないでしょうね。勿論、当家も含めて」

「……そうですか。理解が得られず残念です」

「もしも。本当にもしも、魔族が攻めて来るというなら当然手を貸しましょう。貴女の言葉が真実だというなら、口先で援助を求めに来るのではなく、確固とした証拠を持って私の前に来なさい」

「……ええ。その言葉を頂けただけでも、他の貴族の家よりは収穫がありましたわ」

「それはどうも。これでお話は終わり?」

「ええ。今日のところは、引き返しましょう」

 

 信じて欲しければ証拠を出せ。まぁ、納得のできる言い分だ。

 

 他の貴族は論外だが、テンドー家だけは交渉の余地がある。この事実が分かっただけでも、収穫として十分だろう。

 

 あとは、聞き込み担当のマイカやカールがしっかりと魔族の存在の証拠を掴んでいれば、改めて説得は可能だ。

 

「また会いましょう、サクラ・フォン・テンドー」

「こっちは出来ればお会いしたくないわ、イリーネ・フォン・ヴェルムンド」

 

 こうして俺は最後の貴族屋敷を後にして、帰路に就いた。

 

 

 さーて、今日の仕事は終了。後は……、夕方までどうしようかな。

 

 ……。まだ、しばらく手持ちの資金はあるけれど。今後、俺が個室を借り続けるのであればいつか無一文になってしまうだろう。

 

 今日は、このままバイト先を探す方向にシフトしよう。資金を増やすことは、パーティにとってもきっとプラスに働くだろうし。

 

 ……夕方までは就職活動だな。この世界の雇用形態がどうなってるのか、どんな仕事をすればいいのか、まずはその下見をせねば。

 

 肉体労働系のバイトが良いかな? しかし、それだと1日中拘束される可能性もある。日中はパーティとしての仕事を振られる可能性もあるから、出来れば半日だけの仕事がいい。

 

 なら噂話を集めるためにも、飲食店で接客バイトの方が良いか? 貴族的に人前で給仕をするのは抵抗があるが、そこは平民のふりをして……。いや、バレるか? バレたら社交界で物笑いの種だぞ。

 

 ……ま、その辺はやってみないと分からん。とりあえず、一度宿に戻ってこの貴族的な服を着替えてから考えよう。

 

 こんなフリフリした服で平民だと言っても説得力がないしな。早めに冒険者衣装に着替えねば。

 

「……」

 

 ……そうだ、どうせなら時間がある今日のうちに冒険者用の鎧とかも下見しておこう。俺は魔法使いだけど近接戦をする可能性もある、鎧は必須だ。

 

 篭手と、兜も必要だ。フルアーマーな魔法使いって何やねんと突っ込まれそうだけど、理屈の上ではおかしくないし。装備を下見してくれているだろうレヴちゃんの話を聞いて、明日購入してみてもいいかもしれない。

 

 一般的な『ローブにトンガリ帽子』の魔法使いって、あれはローブの下に魔法薬仕込んでたり特殊な魔法が付加されてたりするのが本来魔法使いが装備する意味な訳で。特殊な装備や魔法薬を持ってない俺が、所謂『魔法使いっぽい格好』をする意味はあんまりないのだ。

 

 貴族は儀礼とか風習を重んじるから俺もローブを持っているけれど、魔法使いだろうと鎧装備の方が強くねと常々思っていた。魔力を通すことで鋼より硬くなるローブ(確か国宝)みたいなアイテム持ってるなら、その方が強いんだろうけど。

 

 ……。でも、やっぱいろいろ言われるかなぁ? 一応、鎧を買うのは相談してからだな。それとなくカール達に感想を聞いてみて、いけそうならちゃんとしたのを購入するようにしよう。

 

 うん。古い慣習や意味のなさそうなしきたりって奴も、人と人とのコミュニケーションでは重要になってくることもあるのだ。その辺は慎重にしておいて損はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────と、言うのが今日の私の成果ですわ。テンドー家は、一応交渉の余地がありそうでしてよ」

「そっか、ありがとうイリーネさん」

 

 俺は今日のところは取り敢えず本格的な鎧は購入せず、使い捨てれる品質の皮鎧と格好よさげなお面だけ購入して宿に戻った。

 

 皮鎧でボディラインを隠し、お面を被れば男女の区別がつきにくくなる。この状況で髪型をポニーテールにでもすれば『小人族の長髪の男』に見えなくもない。

 

 まぁ今日は、バイト時の変装用の衣装だけ購入した訳だ。戦闘用の鎧は、後でみんなと相談するつもり。

 

「私は駄目ね、魔族の目撃情報なんてどこにもなかった。本当に魔族なんて来るのか? って猜疑的な目で見られたわ」

「すまん、俺も空振りだ。冒険者の誰も、魔族なんて目撃していないって話だった」

「あら……。そう、上手くはいかないものですね」

 

 確固たる証拠を持ってこいと言われたが、残念ながらカール達は失敗したらしい。まぁ、まだ情報収集して1日目だ。焦ることは無い。

 

「レヴはどうだ? 良い店あったか?」

「……正直、この街の防具は品質良くない。あんまり、性能面は期待できない……」

「そうかー。ま、田舎だしなぁココ」

「しいて言うなら、北西のユリネ工房がマシ……。あそこは仕事が丁寧……。もし剣が折れたりしたら、そこに持っていくと良いかも……」

「分かった。ありがとう、レヴ」

 

 ふむ。なら、俺もその工房を覗いてみるか。

 

 メタリックなアーマーを装備するのは、一つのロマンだからな。

 

「さて、今日はここまでだな。明日からは、全員で聞き込みを行おうと思う。それまで、各自休んでくれ」

 

 これで今日の報告会は終わり。カールが締めて、解散の流れになった。

 

 ならば、俺も好きにさせて貰おう。

 

「カール。私は、今から仕事を探しに行って参りますわ」

「え、仕事?」

 

 そう。今こそ、バイト探しタイムの本番だ。

 

 夜だけ働き手を募集している店は、日中にチェック済み。後は、総当たりで雇ってもらいに行くのみである。

 

「個室を借り続ける以上、いつか私の手持ちもなくなりますもの。それに、仕事先で情報が何か聞けるかもしれないでしょう?」

「……イリーネさん、働いたことあるの?」

「ありませんけども。出たとこ勝負ですわ!!」

「……貴族がバイトってどうなの……」

「平民のふりをしておけば、無問題ですわ!」

「だ、大丈夫かなぁ?」

 

 まぁ、何とかなるだろう。筋肉があれば大抵のことは乗り切れるし。

 

 それにメタルアーマーなんて購入する事になったら、かなり金が飛ぶだろう。資金を増やしておいて損はない。

 

「仕事が無理そうだったら、戻ってきなよ」

「結構、こき使われるわよ」

「それも、修行のうちですわ」

 

 うむ。無事にパーティの許可をもらえたし、堂々と出かけますか。

 

「では行って参ります」

「気を付けてね」

 

 さぁ、どんなお店が俺を雇ってくれるかな? 器量よし、頭よし、筋肉よしの3拍子揃ったパーフェクト人材たるこの俺を雇える幸せな店は何処かな?

 

 わーっはっはっはっは!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい止まれコラァ」

「……」

 

 ……絡まれた。

 

「舐めてんのかテメェ」

「ぶっ殺されてぇのか、あぁん!?」

 

 俺がバイト先を探し始めて、数分。夜の街を歩いていただけで、ものすっごく絡まれた。なんだこの街、怖ぇよ。

 

 そっか、そういえば貴族の間で勢力争いの真っ最中だったっけ? 治安は良くないんだな、ここ。

 

「……何が、気に障ったかは分からんが。ソコをどいてくれるか、前に進めない」

「退く訳ねぇだろ、このガキがぁ!!」

 

 変装しているので男口調のまま、穏便に事を済ませようと交渉する。しかし、相手は激高するばかりだ。

 

 

 うぅ、マズイなぁ。

 

 いきなり路上で喧嘩なんてしたら、雇ってくれる店も雇ってくれなくなる。何でいきなり絡んでくるかなぁコイツら。

 

「俺に他意はないんだ、敵対の意思はない」

「ふざけんなよ!」

 

 ……うう、チンピラはやだなぁ。こういう程度の低い人の考えはよくわからん────

 

「────猿のお面で顔を隠した完全武装の男なんて、見逃せるわけねぇだろうがぁ!! 怪しすぎるんだよテメェ!!」

「本物の不審者でも、もうちょい怪しくない格好するぞオラァ!!」

「どこの家の回し者だぁ、テメェ!!?」

 

 あぁ、そっか。昼に買ったこのお猿のお面(モンキーマスク)が原因か!

 

「べ、別に俺は怪しくないウッキー」

「舐めてんのかゴラァ!!」

 

 ……。

 

 ふーむ、これは想定外だ。

 

 俺は考えたのだ。貴族令嬢が、店で給仕なんてしたら家の沽券にかかわる。ならば、身分がばれないようにすればいいと。

 

 とはいえ、ここの3貴族の家には挨拶に行ってしまった。バイト中にこの地の貴族に顔を見られれば、俺がヴェルムンド家の令嬢だとバレてしまう。

 

 なら、最初から顔を隠してバイトすればいい。性別も誤魔化しておけば、絶対に気付かれない筈だ。

 

 お面をつけて小人族の男を名乗れば、小柄で声が高いのも誤魔化せる。俺は小人族の平民、ホビーとして仕事を探そう。と、まぁそんな名案を浮かべていたのだが……。

 

 まさか、その弊害としてバイトする前から怪しまれてしまうとは。

 

 まさに、盲点だった。

 

「俺は小人族のホビーだウキ」

「その腹立つ猿真似はやめろ! 殺すぞ!!」

「怪しいモノじゃないウッキ」

「お前以上に怪しい人間はこの街に居ねぇよ!!」

 

 幸いにも今は猿の振りでうまく誤魔化せているが、このまま怪しまれたままじゃ囲まれて拘束されてしまう。

 

 うーむ、どうしたものか。

 

「おめぇが、お嬢の誘拐犯かその仲間だろう? ネタは上がってるんだよ!!」

「誘拐犯?」

「しらばっくれんじゃねぇ!!」

 

 おぉ? つまり、この街で誘拐事件が発生していたのか?

 

 治安どうなってるんだ、本当に。仲間に、夜一人で出歩かないよう警告しておこう。

 

「お嬢を何処にやった!!」

「てめぇは陽動ってとこか? どっちにしろ、お嬢を拐った連中の仲間だろう」

「お嬢を何処に攫いやがった、吐けこの猿!!」

「人に向かって猿とは失礼な。俺は小人族のホビー……」

「さっきまでウキウキ言ってたのは誰だよこの猿ぅ!!」

 

 そうかそうか、この連中は『お嬢』とやらを拐われて気が立っている訳ね。そんな時に猿のお面を装備した不審者を見つけて激昂していた訳か。

 

 そりゃ、キレるわな。

 

「落ち着け、俺は本当に何も知らない」

「上等だ! 体に聞いてやるよ、爪全部剥がされても同じことが言えるかなぁ?」

「ただ、俺は誰が『お嬢の行方』とやらを知っているかは分かるぞ」

 

 ここは、取り敢えず誘拐事件の解決に協力しよう。話はそれからだ。

 

「やっぱりテメェは回し者か!! お嬢を何処にやった────」

「お前らの中に一人、嘘をついている奴がいる。俺には、それが分かる」

 

 とっとと疑いを晴らすために、俺は先程から嘘の匂いがプンプンする怪しいチンピラを一人指さした。

 

 多分、コイツは何かを知っている。

 

「お前。一人だけ随分と、落ち着いているみたいだが」

「……っ! テメェ、何の言いがかりだ! 自分が怪しまれているからと言って────」

「その腰に巻き付けた袋は何だ? 昏睡薬でも入っているんじゃないか?」

 

 俺の嘘を見抜く能力は、パパンが無条件で信用するほどに精度が高い。まぁ、やってることは顔色見て呼吸様式見て、そんで態度と口調で判断しているだけだが。

 

 それでも、大概の人間のごまかしは見抜ける。

 

「何の言いがかりだ!」

「もしかしてコイツが、お嬢とやらが誘拐された時の第一発見者じゃないのか?」

「黙れ!」

「この男からだけ、本気で誰かを心配している気配がない。むしろ、必死で何かを隠し続けている後ろ暗い気配がする。内通者がいるとすれば、ソイツだ」

「黙れぇぇ!!」

 

 俺の口を塞ごうと思ったのか、内通者っぽい奴が突進して殴りかかってきた。

 

 ただ、こいつはロクに鍛えていない。そんな軟な拳ではこの俺に傷一つつけることは出来ん。

 

「ふん!!」

「ぐあぁ!!」

 

 俺は慌てて突っ込んできた男の土手っ腹に拳を叩き込んで、その男の腰袋をスリ取る。果たして袋の中には、怪しげな粉薬が隠し持たれていた。

 

「貴様、かえ、せ……」

「お前がこれを飲んでみろ」

「もがぁっ!?」

 

 まぁ、これ睡眠薬か毒薬かどっちかだろ。さぁ、どうなる?

 

「…………Zzz」

「睡眠薬か」

 

 ま、そんな事だろうとは思ったが。

 

「ど、どういうことだ!? お前が誘拐犯の仲間じゃねぇのか!?」

「フレッドが、裏切り者……? でも確かに、コイツがお嬢の誘拐を知らせて……」

「何だ、何がどうなっている!?」

 

 チンピラ達は、混乱して俺と裏切り者のフレッドとやらを見比べている。

 

「め、酩酊香を持ってこい! フレッドから事情を聴くぞ」

「そこの猿も逃がすな、事情を聞かせて貰うからな!」

「構わん。誘拐事件が起こっているというなら、むしろ1市民として力は貸す」

 

 とりあえず、このチンピラ達と協力してお嬢を救い出してやろう。

 

 上手くやれば、大金が貰えるかもしれない。

 

「起きろ、起きろフレッド!!! てめぇ、どういう事情でこんな薬隠し持ってやがった!!」

 

 さて、どうなるかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ結論から言えば、フレッドは内通者だった。

 

 嗅ぐと人間を酩酊状態にするお香を使ってフレッドは尋問され、その素性がばれた。

 

 彼はソミー家に買収された人間で、どうやら『お嬢』とやらを拉致し奴隷として売り飛ばす役目を任されていたらしい。ひでぇ事しやがる。

 

「俺も付いて行こう。女を攫って売りさばくなんぞ、男の風上にも置けない」

 

 チンピラ共は激高し、お嬢が拉致されたという倉庫を強襲する運びとなった。当然、俺も付いて行く。

 

 女の子が拉致されているのだ、いかなる理由があろうと見過ごすわけにはいかない。それがたとえ権力争いの一環なのだとしても、知ってしまったからには戦わねば不義理だろう。

 

 俺はチンピラ共と協力し、倉庫の扉を蹴破って。

 

「カチコミじゃあああああ!!!」

「お嬢を返せアホンダラぁぁぁ!!」

「ウッキー!!!」

 

 倉庫の奥に簀巻きにされている若い女を確認し、突撃した勢いのままに奴隷商人どもをボコボコにぶっ飛ばした。俺も、KO拳を駆使しながら数人の敵をボッコボコにした。

 

 俺は、女を攫ったり無抵抗な人間をいたぶる連中を決して許さんのだ。

 

「無事ですか! お嬢!!」

「け、けほっ。あ、貴方達……っ! やっと来てくれたのね、遅いわよぉ」

「お嬢ォォォォ!! 俺達としたことが、油断して申し訳ねぇ!!」

「うぉぉぉぉ!! 申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!」

 

 ……チンピラ達は号泣しながら、助け出した『お嬢』とやらに慚愧している。どうやら、お嬢は軽傷らしい。

 

 むさい男が号泣しながら頭をガンガン床に打ち付けるのは熱苦しいが、良い光景だ。

 

「……!? ねぇ貴方達。あの不審者は誰?」

「え? ああ、あの猿ですかい。アイツは……」

 

 そして、『お嬢』とやらが俺に気付く。俺も、彼女の顔を正面から見る。

 

 ……あっ。

 

「お嬢、ご安心ください。アイツは……。あの猿の仮面は敵じゃないです」

「そ、そうなの?」

「ええ。だってアイツは……」

 

 俺は、その令嬢に見覚えがあった。

 

 というか、普通に考え着くべきだった。3家の貴族の争いに巻き込まれ拉致される『お嬢様』が居るとすれば、彼女である可能性が高いに決まっていたのに。

 

「アイツは……」

「あの、猿の仮面は……」

 

 お嬢、と呼ばれたその女性は。俺が今夜、ノリと勢いで助け出したその女の子は。

 

 ────唯一交渉の余地がありそうだった貴族令嬢、サクラ・フォン・テンドーその人だったのだ。

 

「……」

「そ、そうだ。よく分からないが、その場のノリで一緒について来て貰ったけど……」

 

 これは、ヤバい。俺がこんな粗暴なふるまいをしたことがばれたら、ヴェルムンド家が社交界で終わる。

 

 気付くな、俺の正体に気付かないでくれよ────

 

「改めて、あの猿仮面って誰!? 何アイツ、めっちゃ怪しいんだけど!?」

「小人族とか名乗ってなかったか!? でも小人にしては格好が珍妙すぎねぇ!?」

「なんとなく味方扱いしてたけど、改めてアイツ何なの!?」

「ええっ!!? 貴方達、素性も知らない奴と一緒に突っ込んできたの!?」

 

 それ以前の問題だった。バレるとか以前に、まだ不審者扱いされていた。

 

「お、俺は怪しいモノじゃないウッキ」

「尋常じゃなく怪しいわ!」

 

 あーうー。

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