【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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43話「それは平凡で、何処にでもいる普通の男」

「……居たぞ!! 奴等だ!」

 

 

 

 

 

 

 ヨウィンでの決戦から、一夜が明けた。

 

 王弟ガリウスに報告を終えた俺達は、ユウリの家に戻って小さな宴を催した。

 

 ユウリの祖父の功績が認められた事。無事に、絶体絶命の危機を乗り越えることができた事。

 

 祝うべき事は沢山有った。

 

 

「あんな状況でなお、芸を披露するなど正気ではないだろう」

「何を言う。私に出来ることは、それ以外何もないのだぞ?」

「威張って言える事ではない」

 

 

 ユウリ父娘は、酒で少し顔を赤らめて愚痴りあっていた。ユウリは酔うと理屈っぽくなる様子で、くどくどと父親に説教を始めた。

 

 

「マイカ……レヴ……。むにゃむにゃ」

「はいはい」

 

 

 カールは相変わらず酒に弱く、マイカやレヴを誉め倒して気絶した。そして自ら誉め倒したマイカとレヴに、優しく介抱されている。

 

 

「お帰りなせぇ、お嬢。無事なお姿を見れて何よりです」

「そうねぇ。つくづく、私は悪運強いみたい」

 

 

 サクラは飲み方を弁えているらしく、マスターと大人びた雰囲気でグラスを交わしていた。

 

 流石は夜の嬢王、酒の扱いはお手の物みたいだ。

 

 

「明日はどう致しましょうか。旅支度は整っているので、すぐに出発も出来ますが」

「うーん。ガリウス様のご厚意で資金には困らないし、ちょっと良い武器を買ってみない?」

「賛成よぉ。貴族と高級品の集う街ヨウィン、ここ程技術レベルの高い街はなかなか無いもの」

 

 明日はどうするか相談すれば、マイカが新しい武器を買いたいと言い出した。

 

 俺やサクラは新しく杖を買ったけど、彼女の弓は据え置きだ。資金に余裕があるなら、彼女だっていい武器が買いたいだろう。

 

 それを悟ったのか、サクラは反対をしなかった。

 

「私も、剣を買ってみたい……」

「おやレヴ、貴女は剣も扱いますの?」

「父に習ったけど、実際に扱った事はない……。でも、刃物が有った方がやっぱり近接戦闘は有利になる。カールに習いながら、身に付ける」

 

 レヴちゃんは、剣を欲しがった。

 

 うんうん、分かるぞレヴちゃん。剣にはロマンが有るよな。

 

 それに、愛しのカールと二人きりの時間も作れそうだし。

 

「今までは無駄遣い出来なかったから言い出さなかった、けど……」

「レヴなら、きっと上手く使いこなせるでしょう。賛成いたしますわ」

「そうね。レヴ、頑張りなさいよ」

 

 マイカの許可も降り、レヴちゃんは嬉しそうに『やった』と呟いた。

 

 よしよし、可愛いなぁこの娘は。

 

「じゃあ、明日は街を歩いて買い物ですね」

「では、出発は明後日にしましょうか。次の目的地については、カールから女神様に確認してもらいましょう」

「うーん、でもあの女神様はあんまり当てにならないような」

 

 そんなこんなで俺達はヨウィンにもう一泊だけ滞在し、街をブラリと見聞する予定となった。

 

 なった、のだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツだ! あの胸の大きなお嬢様風の女!」

「見つけたぞ! 本物の精霊魔術師だ!」

「新たな勇者伝説の幕開けだ!」

 

 俺達が街へ出ると、周囲にどよめきが走った。

 

 どうやら街中に、俺達の噂が広がっているらしい。

 

「精霊の声が聞こえたって、本当かい!?」

「あの、強大な魔法結界は何なんだい!? 術式を書いて論文にしてくれないかな!」

 

 昨日のあの巨大な魔力砲撃は、街の住人みんなが知るところであった。死の覚悟を固めた者も多かったという。

 

 しかし、街は守られた。あの魔法攻撃を見事防いだ者は誰かと、探りに来た人間が見た者は『筋肉天国を発動する俺』の姿だったという。

 

 その後、ガリウスのアナウンスで『勇者と精霊術師が魔族を撃退した』という情報が知れ渡ってさあ大変。

 

「勇者、勇者だって?」

「まさか、俺達は今新たな伝説をこの目にしたというのか!?」

 

 ガリウスとしては、勇者伝説に詳しいこの街を研究が拠点にして魔王軍対策を練るつもりらしい。だから敢えて情報規制をせず、事実をそのまま周知したのだそうだ。

 

 だが、そんな噂が立ってしまうと……

 

「お嬢ちゃん、髪の毛をちょっと毟らせてもらって良いかな! その、1本の髪の毛でどれだけ研究が捗るか……。お願いだ、後生だ!!」

「血! 血液! わしは精霊術師の血液が欲しいのお!! 大丈夫、痛いのは一瞬じゃ! 完璧な治癒魔法で癒してやるからのぉ!」

 

 俺は、この街の住人にとって格好の実験動物(モルモット)と認識されてしまったらしい。

 

 街ゆく研究者は俺を見て、目の色を変えて話しかけてきた。

 

「カール! た、助けてくださいまし!」

「おいお前ら、イリーネに危害を加えるな! 俺が相手になるぞ!」

「出たぞ勇者だ! 最高級の研究素材だ!」

「科学の発展には犠牲がつきものデース、あの勇者を釜茹でにして成分を抽出してしまいまショー!」

「何だこの連中!?」

 

 獲物を狩るような目で、カールを見てハァハァする研究者。

 

 コイツらの頭はどうなっているんだ。魔王と戦うって時に勇者を釜茹でにして何になるんだろう。

 

「こいつら、目が本気よぉ? 一旦逃げ出さない?」

「賛成ですわ! 正直言って怖いですもの!」

「うーん。ユウリって、実はかなりまともな研究者だったのですわね」

「そうだな……」

 

 波のように押し寄せてくる、マッドサイエンティストの群れ。

 

 罪のない町の人間をぶっ飛ばすわけにはいかない。しかし、このままでは命に関わる。

 

「私達で足止めするわぁ! 貴方達は、とっとと逃げなさいな!」

「ヘイ了解です、お嬢」

「……あっち。人が少ない」

「すまん、恩に着るぜ!」

 

 俺とカールは迫りくるキチガイどもから逃れるべく、仲間に足止めをして貰っている間に全力で逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、はぁ。どこまで追ってくるのでしょうか」

 

 数分後、路地裏。

 

 俺はカールの指示で小さな木箱に隠れ、何とか研究者の目をやり過ごしていた。

 

『イリーネ、俺が奴らを引き付けるからお前はここに隠れておけ。俺1人なら、いざとなれば撒けるからな』

『カール、ありがとうございます』

 

 飛び込んだ空の木箱の中で、こっそりと周囲の様子をうかがってみる。

 

 研究者共の大半はカールに付いて行った。しかしまだ何人かは、俺を探して路地の周囲をうろうろとしていた。

 

 いつまで隠れていれば良いのだろう。まさか、夜になるまで此処にいないといけないのだろうか。

 

 

「くそ、見失ってしまった。どんな筋繊維をしているのか知りたいだけなのに」

「ちょっとくらい科学の発展に協力してくれたっていいじゃないデスか」

「コーホー。コーホー、毒ガスに耐性はあるのかな? コーホー……」

 

 

 恐ろしい会話が聞こえてくる。やはりあの連中、正気を失っている様だ。

 

 自分たちがずっと研究してきた本物の『勇者』を目の前にして、理性のタガが外れてしまっているのかもしれない。

 

 

「ちょっと内臓を分けて貰うだけなのに、なんとケチ臭い勇者どもだ」

「生きたまま標本を作るデース」

 

 

 冗談じゃない、内臓を取られてたまるものか。なんとしても、ユウリの屋敷に生きて戻らねば。

 

 

 ……。

 

 いや、待てよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うおぁっ!?」

「おい、どうし……、うーわっ!?」

 

 そうだ、そうだ。

 

 よく考えたら、俺にはこれがあるじゃないか。

 

「ふ、不審者だ。本物の不審者がいるぞ、通報しないと」

「いや待て、そんなことをしていたら勇者を見失ってしまう」

「そうだそうだ、ここは街の治安よりも自分の研究を優先せねば」

 

 俺は堂々と街を闊歩する。

 

 変にコソコソしていると怪しまれるからな。こういうのは堂々としている方が怪しまれにくいのだ。

 

「えっ、何アレ。目を合わせないようにしよう」

「この前歩いていたウサギ怪人の仲間か? 関わらないでおこう」

 

 仮面を持ち歩いていてよかった。やはり、いつでもお洒落できるように気を使わないとな。

 

 流石に鎧は屋敷に置いてきたが、空いた木箱に体を突っ込めば代用できる。

 

 これで簡易版猿仮面の完成だ。鎧じゃなく木箱から手足を生やしているのも、パンクでイカす感じだぜ。

 

「きっと、可哀そうな人なんだろう。そっとしておこう」

「人に迷惑をかけている訳じゃねぇ。優しくしてやれ」

 

 

 さぁ、このままユウリの屋敷に帰るか。

 

 仮面を付けるだけで正体を隠せる、こんな簡単な事に気付かなかったなんて笑えて来るぜ。

 

 後は、仲間に俺のこの仮面姿を見られぬ様に気を付けねばな。それさえ気を付ければ、他に気にする事なんて────

 

 

 

 

 

「もしもし、そこの猿の仮面。少し話を聞かせてくれないか」

「あうー?」

 

 あ、警備(ガード)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ、危なかった……」

 

 研究者共に目を付けられなくなったのは良いが、今度は警備(ガード)に追われるようになってしまった。

 

 くそう、何で俺ばっかりこんな目に。

 

「ここは……街の郊外か。こんなところまで逃げてきてしまったか」

 

 無我夢中で逃げ回って何とか警備を撒いたが、ユウリの家からかなり遠くの場所に来てしまった。

 

 ここからどうやって屋敷に戻ろう。

 

「うーん……。やはり、夜の闇に紛れて帰還するしかないか」

 

 こうなってしまえば仕方がない、安全第一で考えねば。

 

 夜までここに潜伏して、闇に紛れてこっそり帰る。それが、一番安全だ。

 

 後はこのまま、この木箱の中に潜伏して────

 

 

 

「ふぅ、酷ぇ目に遭ったぜ……。お?」

「む?」

 

 

 その場にどさりと腰を下ろすと、近くから聞いたことのあるボヤき声が聞こえてきた。

 

 思わずそっちの方向を向いて、俺は表情を凍りつかせた。

 

 

「あ、猿仮面じゃねぇか」

「……げ、カール」

「げって何だよ」

 

 

 どうやらよりによって、仲間のリーダーに遭遇してしまったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな猿。お前、何でこの街に居るんだよ」

「ん、ああまぁ。野暮用」

 

 あっちゃー。これはどうすっかなぁ。

 

 カールもどうやら俺と同じように、研究者から逃げてここに辿り着いたらしい。人気の少ない方へと移動してきた結果、同じ場所に着いた様だ。

 

「にしても猿、以前に増してエキセントリックな出で立ちだな。何で木箱から手足出してんだ?」

「どうだ、お洒落だろ?」

「相変わらずだな、安心したぜ」

 

 俺のイカした姿を見て、カールは曖昧な笑みを浮かべた。

 

 なんだその微妙な顔。どうやらコイツ、俺のお洒落を理解していないな。

 

「……なぁ、猿。実はお前の事を探してたんだ、会えてよかった」

「何だと? 俺に何の用だ」

「ん、まぁ色々とな。前回、お礼も言えてなかったし」

 

 あん? お礼だと?

 

 俺、猿仮面の時になんかカールにお礼言われることしたっけか。

 

「サクラ、俺の仲間になったんだ」

「ああ、お嬢様か。元気にやってるかい?」

「元気にやってるよ。そんで、お前の魔族との戦いぶりも聞いた」

 

 カールはそう言うと、俺に真っすぐ拳を突き出した。

 

「お前が時間を稼いでくれてなけりゃ、俺は魔族に食われて死んでいただろう。ありがとな、猿」

「……ありゃ、自分の身に降りかかる火の粉を払っただけだ。そもそも魔族の群れを追い払ったのはテメェだろカール、そのお前に礼を言われる筋合いはねぇ」

「それでも受け取ってくれ」

 

 カールは真っすぐ俺を見つめて、視線を外そうとしない。

 

 こうなると、この男は頑固だ。俺は根負けして、奴と拳を合わせた。

 

「あいあい、これで良いか」

「ああ」

 

 そう言うとカールはニッカリと笑った。

 

 まったく、無邪気な男である。

 

「なぁ、猿。お前への用事ってのは、これだけじゃなくてだな」

「まだ何かあるのか?」

「……少し失礼な事かもしれねぇが。確かめておかないといけない事があるんだ」

 

 そう言うと、カールは少し真剣な顔になり。

 

「お前の手、綺麗だよな」

「あ?」

 

 付き合わせた俺の拳を、カールはそのまま握って持ち上げた。

 

「なぁ猿。お前は小人族だから声も高いって言ってたけど」

「そ、それがどうしたよ」

「……小人族だとしても、声が妙に高い。それに手だって、こんなに綺麗だし」

 

 カールは真剣な目で、俺の手を凝視している。

 

 む、何だコイツ。何が言いたい────

 

「もしかして猿仮面、お前女か?」

「……」

 

 ……。

 

「は、何をバカげたことを。そんな訳ねーだろ」

「俺の知ってる猿仮面は、女扱いなんてされたらブチ切れる奴なんだが。そんな引き攣った声で誤魔化したりしない」

「ば、お前、何言って」

 

 何だコイツ、本当にカールか!? 俺の知ってるカールはもっとアホで無能だぞ!?

 

 嘘だろ、何で今日に限ってそんなに鋭いんだよお前。まさか、俺の正体を探る気かコイツ!?

 

「……やっぱり、そうなんだな猿仮面。その男口調も、演技の一環なのか」

「い、いや。違────」

「もう、誤魔化さなくてもいい」

 

 お、おいおいおい。

 

 やべぇよやべぇよ、完全に油断してたよ。コイツの事だから絶対に俺の正体に気付かないと思ってたわ。

 

 ど、どうする! どうすればここから誤魔化せる? 俺は由緒正しきヴェルムンド家の令嬢イリーネ、風俗で働いていたなんて醜態を世に知らされるわけには────

 

「安心しろ、これ以上何も探るつもりはない。俺はお前を信用している、だからこれ以上の誤魔化しは不要だ」

「……」

「ただ、お前に渡したいものがある。黙って受け取って欲しい」

 

 あふん。

 

 これ、まさか正体バレてる感じか?

 

 カールは俺の体面に気を使って気付かないふりをしている感じで、本当は俺の中身がイリーネだって気が付いている系のヤツか!?

 

 もしそうだったらどうしよう。カールは信用できるし黙ってもらえるなら放置で良いのか? それとも、ここで正直に全部話して土下座で黙ってもらえるよう頼み込むのが筋なのか!?

 

 俺は、どうしたら────

 

「これ、お前のだろ?」

 

 

 

 

 カールは俺に女モノのパンツを手渡した。

 

 それは黒いレース、ピンク色のリボンがあしらわれた透け透けだ。

 

 

 

 

「……」

「あんな巨大な砲台を壊せる魔術師なんて、そうはいない。猿、今回もお前が力を貸してくれたんだろ」

「……」

 

 

 

 パンツは絹の肌触り。ほんのりいい臭いがした。

 

 

 

 

「ていっ!!」

「あぶっ!!」

 

 とりあえず、カールの顔面にパンツを投げ返しておく。

 

 要らんわ、そんなもん。

 

「え、猿仮面。どうし……」

「違うから」

「何が違うんだ?」

「俺は何もしてねーっつってんだよ!! アホか!!」

 

 成程この野郎、そういう勘違いか!!

 

 あの砲台をぶっ壊したのが俺だと思ってやがったのか。それで女物の下着が落ちてたから、俺を女と勘違いした訳ね。

 

「その下着も俺のじゃない、要らん。てか何で持ち歩いてんだよお前」

「いつ、お前に会えるか分からんからな。会って返そうと思ってた」

「残念だがハズレ、それは別の誰かのだ」

 

 ふん、と鼻息荒くして俺はカールの妄言を一蹴する。

 

 まったく、何考えてんだコイツ。

 

「……じゃあこれは預かっておくが、良いんだな?」

「いやだから。本当に俺のじゃねーから」

「そっか」

 

 カールはそう言うと、何かを察したような顔になってパンツを自らの懐にしまった。

 

 てめー、まだ勘違いしてねぇだろうな。

 

「ま、じゃあそう言う事にしておくよ。ところでだな、猿仮面」

「何だよ」

「事情があってしばらく、街に帰れなくてな。旅用に買った酒が有るんだが、ちょっと付き合わねぇか」

 

 そういうと、カールは酒と小瓶を取り出した。

 

 おいおい、酒に弱いお前がそんなもん持ち歩いて大丈夫か。

 

「……ふん。酔っぱらっても送っていく気はねぇぞ」

「おう、サクラ特製の酔い覚ましがあるから平気だ。俺が潰れそうになったら、この薬瓶を口に突っ込んでくれりゃあ良い」

「便利なもん持ってんだな」

 

 カールは、そう言うと懐から妙なマークの薬瓶を取り出した。よくみると、サクラ家の家紋が付いている。

 

 ……サクラの奴、そんな良いモンをカールに渡してたのか。

 

 いやまぁ、カールには必須品だけど。

 

 

「またお前と一杯やりたかったんだ」

「……ま、俺も暇をしてたしな。少し付き合ってやるよ」

 

 

 俺はカールに手渡された小瓶を受け取り、カールが自分で買ったという酒を煽いだ。

 

 それはアルコールのひどく薄い、甘いジュースのような味付けの酒だった。

 

「ん、飲みやすいな」

「これなら、そんなに酔わねぇんだ」

 

 成程、酒の弱いこの男なりに考えていたようだ。

 

 いつもいつも潰れるわけにはいかないと、自分用に弱い酒を用意しておいたらしい。

 

「まぁ聞いてくれよ猿仮面、これは俺の仲間の話なんだがな」

「はいはい」

 

 そして始まる、仲間自慢。カールが勝手に喋ってくれるならボロは出まい、俺は聞き役に徹しよう。

 

 

 ────その日。

 

 結局俺は、夜になるまでカールと飲み明かした。

 

 

「サクラの妖艶な雰囲気には時折ドキリとするんだがな! やっぱり色気で言うとイリーネでな!!」

「だはははは!!」

 

 

 カール青年も久々に、男同士のゲスい話で盛り上がることが出来て嬉しそうだ。

 

 パーティは女所帯で、唯一の同性は二回りほど年上のマスターのみ。

 

 きっとカールは、同性の友人に飢えていたのかもしれない。

 

 

「レヴが最近、反抗期と言うか。髪を撫でようとすると、プイと何処かに行ってしまうんだ」

「照れてんだろ、そりゃ」

「マイカはいつも、レヴの髪を撫でてるのに」

「その二人はもう、姉妹みたいなもんじゃねぇの?」

 

 

 こうやってサシで話していると、俺達を導く女神に選ばれた男カールは。

 

 

「怖ぇよな、魔族って奴は本当に。何でこんなやべぇ奴らと戦わないといけないんだって、たまに考える事がある」

「……そんなすげぇ力貰っといて、何を言う」

「怖ぇもんは怖ぇんだよ。悪いかこの野郎」

 

 

 

 ……清々しいほどに、何処にでもいる一般人だった。

 

 

 

「そんで、何よりもさ」

 

 

 そんな普通の男、カールは。

 

 

「守れなかったらどうしようって、ずっとずうっと怖いんだ」

「ん」

「俺がヘマをやらかしたら。どれだけの人が犠牲になるんだろって考えると頭が狂いそうになる」

 

 

 普通の人ではとても背負い込み切れないモノを、背負わされていた。

 

 

「今回だって、アルデバランやイリーネが居なければみんな死んでた。俺一人じゃ、結局何もできなかった」

「おいカール。何だってお前は、そんなに自分に自信がないんだ」

「自信がないとかじゃない、事実なんだよ」

 

 

 とうとう空になった酒の瓶を転がして。

 

 少し頬に赤みを帯びたカールは一人、静かにその場で俯いた。

 

 

「何で俺なんだろうなぁ」

 

 

 

 ポツリと零れるように、その呟きは大地に溶け。

 

 しかしてその問いに、答える声は無かった。

 

 

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