【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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49話「レッサル自警団」

 ……。

 

 ここ、は?

 

「あらイリーネ、おはよう」

「サクラさん……?」

 

 随分と長い時間、眠っていた気がする。

 

 サクラに声をかけられて重たい体を起こすと、俺は見慣れぬ室内の簡素なベッドで寝かされていた。

 

「……ああ。そうでしたわね、私……。やられてしまったのでしたっけ」

「そうよ。あとちょっと遅れてたら、失血で死んでたんだから」

 

 ゲシッ、と。サクラは半目で怒ったまま、俺の頭をチョップした。

 

 顔を上げれば、サクラの目元にはクマが出来ており、随分と疲れて眠そうな顔をしていた。もしかしたら彼女は、俺を付きっきりで看病してくれていたのかもしれない。

 

「サクラさんが、助けてくださったんですね。ありがとうございますわ」

「ええ、どういたしまして」

 

 開口一番に礼を言う。これで、サクラに命を救われたのは2度目だ。

 

 返しきれない恩が出来てしまった。

 

「ねぇイリーネ。寝起きに悪いんだけど、貴女には幾つかお説教があるわ。聞きなさい」

「は、はい」

 

 その恩人たるサクラは、かなり怒っている様子だった。

 

 いつものおっとり口調じゃなく、不機嫌そうなツンケン口調である。

 

 彼女のお説教の内容は、何となく想像がつくが。

 

「まず、最初に。魔法使いが最前線に出ないの!」

「痛っ」

 

 びし、とサクラは俺にデコピンする。

 

 それはまさしく、ド正論だった。

 

「え、ですがあのままだと彼は……」

「貴女は魔法使いでしょ、だったら魔法で援護なさいよ! 貴女自身が飛び出してドロップキックする理由は何もないわよね!?」

「あうー」

 

 返す言葉もない。

 

 俺は魔法の精密なコントロールが苦手で、カールを巻き込む可能性があったのも理由の1つだが……。

 

 でも確かに、少なからず接近戦をしてみたいという俺自身の欲望に負けた結果でもあった。

 

 巻き込むのが怖いなら、土魔法とか水魔法とか比較的攻撃性の低い魔法で援護すりゃ良い話だし。

 

「それだけじゃないわ。貴女、身体強化の魔法も使えたわよね」

「……使えましたわね」

 

 まぁ、男のロマンだからな。

 

「じゃあ、何でそれを発動してから突っ込まないの!? 何の為の強化魔法なの、本当に馬鹿なの!?」

「あうっ」

 

 サクラの2発目のデコピンが、俺の額を襲う。

 

 まさに、返す言葉もない。

 

 身体強化は戦闘が始まった瞬間、まず最初に詠唱しておくものだ。確かに俺は、それを怠った。

 

 実のところ、筋肉天国(マッスルミュージカル)を発動していたから詠唱出来なかったというのも大きいが。

 

「すみません、サクラさん。私は2重詠唱の技術を持っておりませんの。あの時は、筋肉天国(マッスルミュージカル)の発動で手一杯でしたわ」

「……むぅ」

「カールがやられそうになって慌てて飛び出しましたので、自身への強化(バフ)を忘れていました。振り返れば、実に恥ずべきミスですわ」

 

 全く俺としたことが情けない。

 

 発動出来るものを発動しないでいて、頚を斬られましたじゃ話にならない。

 

「まぁ、この2つは百歩譲りましょう。百歩よ、百歩! 物凄く譲ったからね!」

「は、はい」

「では最後の質問。貴女の右腕にはまってる……」

 

 む、右腕?

 

「そのブレスレットは何? 触ったら、滅茶苦茶に体が重くなったんだけど」

「……あっ」

 

 あっ。

 

「……それ、ヨウィンで見かけた運動不足解消グッズじゃない? 身体強化魔法を逆にして、擬似的な重力負荷をかける魔道具」

「あー、えっと。その」

「まさかとは思うけど。自らに身体強化(バフ)をかけるどころか、逆に身体負荷(デバフ)したまま、戦場に駆け付けた訳じゃないわよね?」

 

 そう問い詰めるサクラの顔は、般若の如く歪んでいた。

 

 ち、ちゃうねん。これはその、ちゃうねん。

 

「こ、これはですね。貴族として美を保つために、ヨウィンで買った後にずっと付けていまして、その」

「はい」

「体の一部みたいになってたから、すっかり忘れてましたわ♪」

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

「この、この、この!! あんたって馬鹿は!!」

「ご、ごめんなさいですわ! 本当にすっかり忘れてましたの!」

 

 サクラはガシガシと頭を叩いてくる。

 

 四六時中付けていたからか最近は負荷にも慣れてきて、殆どアクセサリーみたいなノリだったから忘れていた。そうだ、そういや俺って重力修行してたんだった。

 

「えっと、外しましたわ。おお、体が軽い」

「その状態で戦えおバカ!」

 

 久しぶりにブレスレットを外してみると、体が羽の様に軽かった。

 

 ピョンピョン飛んでみると、跳躍力は増している実感がある。確かにこの状態で戦えば、結果はまた違ったかもしれない。

 

「……本当に、心配したんだから」

「あ、その。ごめんなさい」

 

 やがて怒り疲れたのか。

 

 目を閉じたサクラは、俺に向かって前のめりにもたれ掛かってきた。

 

「ちょっとベッドを、譲りなさいよ。休むから」

「……ええ、わかりましたわ」

 

 俺はサクラをベッド上に寝かせベッドから立ち上がると、サクラはそのまま眠り始めた。

 

 相当に、疲労していた様子だ。

 

 

「本当に、バカ……」

 

 

 むぅ、胸が痛い。

 

 サクラには、無駄な心配をかけてしまった。男として、情けないことこの上ない。

 

 正直なところ、俺は実戦を舐めていた。

 

 勝てると思っていた。喧嘩なんてロクにしたことの無い、ただの貴族令嬢たる俺が。

 

 これまで殺しと喧嘩の世界で生きてきた賊を相手に、負ける訳はないと思い上がっていたんだ。

 

「……またレヴさんに稽古、つけていただかなければなりませんわね」

 

 俺と入れ替わるようにベッド上で、すぅすぅと寝息を立てる親友(サクラ)にシーツを掛けて。

 

 寝ていた部屋の扉を開き、俺は他の仲間の姿を探す事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、イリーネさん! 目が覚められたのですね、よかった!」

 

 廊下を歩くと、すぐに見覚えのある顔が見つかった。

 

 出会ったばかりのシスター、イリューだ。

 

「イリューさん、おはようございますわ」

「もう体は大丈夫なんですか?」

「ええ、サクラさんのお陰です」

 

 俺は肩を回し、快復をアピールした。

 

 もうサクラには、足を向けて眠れない。

 

「カールさん達はどちらでしょうか? 回復を告げに行きたいのですが」

「あ、えっと。カールさんは、その……事情があって折檻中でして。時間を置いた方がいいかもしれません」

「あっ」

 

 折檻、て。また何かやったのか、あの男。

 

「その事情なんですが……」

「言わずとも大体想像はつきますわ。いつもの事なので、とりあえずその場に案内してくださいませんか?」

「アレ、いつもの事なんですか!?」

 

 がびーん、とショックを受けるイリュー。

 

 うん、君は被害に遭ってなさそうだけど……。カールは息を吐くようにラッキースケベを起こす変態なんだ。

 

 被害者はレヴかマイカか、どっちかだろう。

 

「あの部屋の中です。えぇー、あの光景が日常茶飯事ってどういうコトなのでしょう」

「やれやれ。部屋に入りますわよ、カール────」

 

 軽くノックした後、俺はイリューの示した部屋の扉を開いて……

 

 

 

 

 

「むむぅー」

 

 

 

 

 

 何故かマイカが、部屋の中央で宙づりに縛られプラプラしていた。

 

 ……思考が真っ白になったので、とりあえず扉を閉めた。

 

 

 

 

 

「仮にも女の子に、あんな扱いをするのはどうかと思うんですが。アレがいつもの光景なんです?」

「待ってくださいまし全然状況が分からなくなりましたわ」

 

 え、何アレ。なんでマイカが吊られてるの?

 

 そのポジションはカールでしょ? もしかして、何かの罰ゲームとか?

 

「ま、まぁ。見間違いかもしれませんわ」

「いや、見間違いじゃなかったですけど」

 

 俺はもう一度ノックして、扉をゆっくり開いた。

 

 うん、きっと見間違えだ。吊られているのはカールの筈だ……。

 

 

 

 

「むぅむぅ」

 

 

 

 

 ダメだ、やっぱりマイカだアレ。

 

「ま、マイカさん!? どうされたんですの?」

 

 マイカが吊りあげられているのはどう考えてもおかしいだろ。一体何が有ったって言うんだ。

 

「お、起きたかイリーネ。良かった、怪我は無いか」

「カールも居たんですのね。……ちょっと、何でカールではなくマイカさんが縛られてるんですの!?」

「まぁ落ち着けイリーネ、アレは自業自得だ。……俺じゃなく、って何?」

 

 カールはいたって落ち着いた表情で俺を出迎えた。

 

 この野郎、なんてヤツだ。幼馴染の女の子が吊りあげられているのに、救いもせずのほほんと────

 

「その女の子、カードでイカサマやりまくって荒稼ぎしたんだよ」

「で、そのイカサマをお頭に見破られてお縄に着いたワケ」

「アンタらは街を救ってくれた恩人パーティだからな。あの娘も逮捕せず、1日宙づりで勘弁してやるって話になったのよ」

「むぅぅ」

 

 何やってんだ、マイカ。

 

「お前らのリーダーは凄いな、よく見破ったもんだ。マイカが看破されて窮地に陥った姿なんざ初めて見たぜ」

「おいおい、イカサマを黙認してたわけじゃねーよなカールの旦那」

「馬鹿言え、俺はヤツの幼馴染だぞ? これまであの悪魔(マイカ)に、どれだけカードで巻き上げられたと思ってる。一番の被害者に向かってなんて口の利き方だ」

「ご愁傷さまだな。今のうちに胸くらい触ってもバチは当たらないんじゃねぇか?」

「そこまでやると絶対報復される。怖いからヤダ」

 

 マイカは結構、お金にがめつい。

 

 おそらく小銭稼ぎのつもりで自警団メンバーにカードで勝負を挑んだのだろう。その結果が、お縄(アレ)だという事か。

 

「まぁ、傷も癒えたみたいで良かったよイリーネ。ごめん、俺が不甲斐ないせいで」

「や、やめてくださいまし。頭なんて下げないでください、私のミスですわ。むしろ、足を引っ張って申し訳ありませんでした」

「いや、俺が……」

 

 カールは俺の顔を見ると、真面目な顔になって頭を下げてきた。

 

 身体負荷(デバフ)状態で戦場に突進していった俺が悪いのに、そんな顔で謝られると居た堪れなくなる。

 

「カールの旦那はよくやってくれたよ。俺達が駆けつけるまで、あの『静剣』率いる賊を相手して、半分以上やっつけたんだ。そのお陰で、俺達も楽に勝てた」

「ああ、アンタらは街の英雄さ。誇っていい」

 

 そう言うと、筋肉質な自警団のオッサンは豪快にカールの肩を抱いた。

 

「生まれ変わったレッサルの英雄に、乾杯! お嬢ちゃんは、酒は飲める口かい?」

「え、私でしょうか。飲めなくはないですが、その」

「ほう、じゃあ飲め飲め! コリッパの屋敷にあったクソ旨ぇワインだ、楽しく飲んでやらなきゃ勿体ねぇ」

 

 ふむ、オッサン達は宴会をしているらしい。

 

 賊とコリッパへの戦勝祝い、と言ったところだろうか。

 

「光栄ですが、酔ってしまうより先に『お頭さん』にご挨拶をさせていただこうかと思いますわ。窮地を助けていただいたあなた方は、まさしく命の恩人。酒精を浴びる前に謝辞を申し上げたいのです」

「……ほう、真面目だねぇ」

「なぁ、さっきから随分堅苦しい口調だが。もしかしてお嬢ちゃん、貴族か?」

 

 ピシリ、と空気が変わる。

 

 人懐っこい笑顔を浮かべていたオッサンが、急に鋭い目つきになって聞いてきた。

 

 ふむ、その問いに対する答えは決まっている。

 

「ええ、貴族ですわ。私はイリーネ・フォン・ヴェルムンド、ヴェルムンド家の長女にしてカールの仲間」

 

 俺は、この家名に恥じることは何もない。いついかなる場でも、俺はヴェルムンド家に生まれたことを誇りに思っているからだ。

 

 しかし、俺が貴族だと気付いて周囲の見る目が変わった。視線に、露骨な嫌悪感を感じる。

 

 ……そっかぁ、平民ってこんなに貴族が嫌いなものなのかぁ。

 

「ま、待ってくれ。イリーネは貴族だが、この娘は悪い娘じゃない!」

「……まぁ、旦那がそう言うのなら」

「この前も水浴びを覗いてしまったが、笑顔で許してくれた優しい子なんだ!」

 

 そのフォローの仕方はどうなんだ、カール。

 

「え、嬢ちゃん覗かれたの?」

「ただの事故ですので、笑って水に流しましたわ。私はイリーネ・フォン・ヴェルムンド、悪意無き行動に悪意を持って返すことはないのです」

「ほーう、懐が深ぇのな」

 

 カールの微妙な擁護のせいで、俺を見る目が変な感じになった。

 

 おいやめろ、エロい目で見るな男ども。

 

「なぁカール、デカかったか?」

「え、何が」

「そりゃおっぱいだよ。貴族様の生乳なんて早々拝めるもんじゃないぜ」

 

 む、卑猥な表情。カールに顔を赤らめて話しかけているその兵士は、俺を妙な目で見ている様だ。

 

 やっぱりそういう方向に行くよな、男の会話って。

 

「身体見られても気にしないならさぁ、此処で脱いでくれよ!」

「お、おい! 酔い過ぎだぞお前」

 

 その兵士は貴族が嫌いなのか、発情してるのかはわからんが妙に攻撃的な口調で命令してくる。

 

 いくらこの街の貴族に嫌な思いをしたとはいえ、これは……。

 

「コルセットだの何だので誤魔化してるだけで、意外とたれ乳がっかりおっぱいじゃねぇのか? 見せろよ貴族様!」

 

 どうだろう。流石に、怒っても構わんよな俺。

 

「見るだけでいいなんて。そんなシャイな事を言わずに、もっと甘美な事をしてあげましょうか」

「お、良いのか!! うっひょぉ、話が分かるじゃん!」

 

 ニコニコと、余所行き用の作り笑顔で俺はその兵士に近づいた。

 

 俺が内心キレてるのに気付いたのか、カールの額に冷や汗が滲んでいる。

 

「令嬢奥義、三角締め!!」

「くぺっ!!!」

 

 俺はそのまま油断している男に組みついて、足で首を三角締めにしてやった。

 

 悪意無きセクハラは許すが、こういう露骨なのはNGだ。

 

 人間はこのように、頸動脈を圧迫されると数秒で意識を失ってしまう弱点がある……。

 

「オ、オイ!! 今ゴキって言ったぞ!!」

「メディック、メディッーク!!」

「……あら?」

 

 ん、(力加減を)間違えたかな?

 

 おかしいな。この間ミスって盗賊の首をへし折った時より、かなり弱く締めたぞ今。

 

 そりゃあもう、腫物を触るように────

 

「首が折れてるぅ!!」

「な、なんて股関節だ!! 貴族の股関節は伊達じゃねぇ!!」

「ええええええ!?」

 

 ……そういやさっきから、妙に体が軽い。

 

 そっか、あのブレスレッド外して身体能力があがってんだっけか俺。

 

「ご、ごごごめんなさいですわ! やり過ぎました!!」

「サ、サクラを呼んできてくれ! 彼女なら治せるはずだ!!」

「でも何か幸せそうな顔してるぞコイツ!」

 

 首をへし折られた哀れな酔っ払いは、何故か鼻血を出して恍惚としていた。

 

 いかん、鼻腔まで出血が上がって来たらしい。

 

「え、えっとえっと。まず、首を元の角度に戻してみましょうか」

「ちょっとイリュー、詳しくないなら触らない方が……。もっかい、ゴキっといったよ今!?」

「はわわ」

 

 俺がテンパってる間に、ひっそりとイリューがセクハラ野郎にとどめを刺す。

 

 あ、男が白目を剥いてガクガクし始めた。これはヤバい。

 

「落ち着け、冷静になれ! 取り敢えず冷静に、もう一度頚を折られた角度に戻すんだ」

「違うそうじゃない、それやったら次こそ死ぬぞコイツ!」

「傷薬だ、傷薬持ってこい! そんで誰か、聖堂で回復魔法の使い手がいないか聞いてきてくれ!」

「馬鹿野郎、聖堂は昨日焼き討ちしただろ!?」

 

 流石にヤバいのを悟ったのか、俺以外の人もテンパり始めた。

 

 阿鼻叫喚、収拾が付きそうにない。

 

 

 

 

 

「あーもう!! 寝てたのに何よ、急患は何処よぉ!」

「さ、サクラさん!」

 

 

 

 

 

 ……この後もう一回、スゴく説教された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イリーネ、取り敢えず自警団のリーダーに会いに行こうぜ」

「おお、了解しましたわ」

「宴会なんかより、そっちの方が優先事項だ」

 

 無事にサクラの治療が終わり、場が落ち着いた後。

 

 俺はカールに手を引かれ、そっと宴会を抜け出した。

 

「すまん、実はイリーネが寝てる間に決まったんだが。俺達は暫くこの町、レッサルに滞在することになった」

「滞在、ですか? 1泊するのではなく、滞在しますのね」

「事情が変わってな。あの賊を打倒するまで、自警団に力を貸す事になったんだ」

「……おお! それは素晴らしいお考えですわ。力を持つ者は、弱き者を守る義務がある。自警団と共闘するのであれば、比較的安全でもありましょう」

 

 聞けばどうやら、カールは自警団にあの賊を討つ協力を申し出たらしい。

 

 それを聞いて自警団は手を打って喜び、宴会でカールをもてなしたそうだ。

 

 なるほど、あの宴会はそれか。

 

「何でそんな事になったかは、後で詳しく話すよ。今は、自警団の長に顔を通しておこう」

「承りましたわ」

 

 賊を討ち、民を救うは貴族の本懐。

 

 これぞまさしく、ノブレス・オブリージュ。

 

「じゃあ入るぞ」

 

 そして、カールは屋敷の一番奥の部屋の前で立ち止まった。

 

 カールは俺の手を引いたまま、少し緊張した面持ちで一番奥の部屋に入り────

 

 

「貴族美女発見っ!! 乳、尻、フトモモォ!!!」

「俺の仲間に手を出すなっつってんだろ、このタコォ!!!」

 

 

 間髪入れず突っ込んできた、小柄な男の顔面を蹴飛ばした。

 

 え、何今の。

 

「いてぇこの野郎! ちょっと胸に顔を埋めようとしただけだろうが!」

「俺の仲間にそんなことしてみろ、細切れにするぞエロチビ!」

「チビで悪いか、エロで悪いか!」

「エロは悪いだろうがよ!」

 

 カールに蹴飛ばされたその男(少年?)は、忌々しそうな顔で立ち上がった。

 

 その手をワキワキと、卑猥に動かしながら。

 

「あの、カール。彼は一体……」

「こいつが、あの自警団のリーダーだそうだ。全く、世も末だぜ」

 

 カールの心底呆れた口調が、その人物の全てを物語っていた。

 

 コイツは……、やべぇ奴だ。

 

「おっす、おっぱい貴族ちゃん! 初めまして、性交してください!」

「えっ、あの」

 

 この町の領主も頭がおかしいが、この町の自警団まで頭がおかしかったのか。

 

 レッサルはもうダメだな。

 

「イリーネ、コイツの顔は覚えたな? いきなりコイツが近付いてきたら、迷わず蹴り飛ばすんだぞ」

「そ、その為に顔見せをしたんですのね……」

 

 カールが最優先で、俺に目通りさせた意味がわかった。こいつは、町一番の危険人物に他ならない。

 

 俺がかつて遭遇したことの無い変態に戦慄している最中、目の前の男は「ふむ、蹴り飛ばされるも一興」と小さく呟いていた。

 

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