【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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5話「初めての社会経験、箱入り貴族令嬢編」

「成程……、つまり貴方は……」

「おう」

 

 不審者は拘束された。

 

 先程までは誘拐された貴族令嬢サクラ・フォン・テンドーを救出するドサクサで、チンピラ達に仲間っぽく認識されていた。

 

 しかしよくよく考えれば『仮面で顔を隠したフル武装の不審者』を、治安維持も業務である貴族が見逃す訳にはいかないのだ。

 

 俺だって、実家に居たらそうする。少なくとも事情聴取は絶対にする。

 

「顔に少々コンプレックスの有る、普通の小人族の戦士であると?」

「俺は仮面をつけていないと、大騒ぎされちまうんだ」

「はぁ。では、仮面は取っていただけないので?」

「無論。断固として、拒否する!!」

 

 このままでは、逮捕されて仮面を剥がされる。このサクラという女は、俺がヴェルムンド家の令嬢と知っている。

 

 仮面を剥がされる訳にはいかない。今日の蛮行がバレる訳にはいかない。俺は必死で嘘をついた。

 

「聞いてくれ。俺は一子相伝の暗殺拳の使い手だったが、弟の卑劣な罠で顔面に大火傷を負ってしまい伝承者の道を断たれてしまったんだ。付けている仮面は火傷の痕を隠す為、そして旅をしている理由は憎き弟を見つけ復讐する為!」

「怪しさがそろそろオーバーヒートしてきたわ」

 

 こんなことで、実家の家名に泥を塗りたくない。それは笑顔で俺を送り出してくれたパパンへの背徳だ。

 

 イリーネは誇り高き貴族でいなければならない。

 

「どうか見逃してくれ、俺は敵じゃない。それは分かってくれるだろ?」

「えぇ、まぁ。私を助けてくれたのは、本当だし?」

「ただ困ってる人間を見過ごせなかった。それだけだ」

 

 幸いにも、現状ちょっと恩を売れている。

 

 俺が裏切り者を看破したからこそ、この短期間でサクラ令嬢を救出できたのだ。

 

 ここを主張して上手く言いくるめれば、見逃してもらえる気がする。

 

「……じゃ、次は貴方の目的を教えてくれるかしら? どうして、小人族がこんなタイミングでこの街に来たの」

「出稼ぎだ。俺は色々な街を渡り歩いて金を貯め、次の街を目指す根無し草。この街に来たのも、より遠くに旅立つための足掛かりに過ぎない」

「風来坊、と言う訳ね~。まぁ確かに、貴方みたいな目立つ人間は今までこの街で目撃されていないし? 貴方が最近この街に来たばかりというのは、納得してあげる」

 

 ジッと胡散臭そうな目で、サクラは俺を見ている。

 

 まだ、疑いは晴れ切っていなさそう。敬語調をやめたら、何か間延びした喋り方するなぁこの娘。

 

「で、貴方の勤め先は? 出稼ぎというからには、もう仕事にはついているんでしょう」

「……いや、就職先を探しているところだ。そんな折に、お前らに絡まれて今に至る」

「……ふーん」

 

 そうなんだよなぁ。結局、今日は就職先を見つけられなかった。

 

 このまま資金が無くなったらどうしよう。おとなしく、顔出して給仕とかやった方が良いんだろうか?

 

 ……仮にも貴族が、なぁ。

 

「私が雇うと言ったら、貴方はどうする?」

「ふァっ!?」

 

 仮面の下で少し困った顔をしていたら、サクラは俺に向かってそんなことを言い出した。

 

「そうね、今日のカチコミで貴方がかなり腕が立つのは分かったし。夜間の飲食店の用心棒はどうかしら、それなりの給金は出すよ~?」

「……願ってもない! 良いのか、本当に」

「乗り気ねぇ。勿論、助けてくれたお礼も兼ねて奮発するわよ」

 

 どういう心境の変化なのか、俺は彼女に雇ってもらえるらしい。

 

 なんと、幸運この上ない! 顔を隠したまま雇って貰える店が有るとは思いもよらなかった。

 

「お嬢、こんな怪しい猿仮面を雇うつもりで?」

「逆よ。こんな怪しいの、手元に置いておいた方が安心だし?」

「恩に着る!」

 

 よし、よし! 貴族の雇われともなればそこそこに高収入が期待できる!

 

 用心棒の仕事なら、そんなにややこしい事を覚えなくても筋肉でどうとでもなるだろう。

 

 まさに、俺の天職ではないか。

 

「……じゃ、今日は遅いからまた明日。夕暮れ前に、顔見せにいらっしゃい」

「わかった」

 

 やったぞ。ついに、念願の仕事を獲得したぞ!

 

 わーい、今日はサービスで筋トレを3割マシだ!

 

 

 

「……本当にあんなの雇って良いんですか、お嬢」

「彼処まで怪しいと、逆に怪しむのが馬鹿らしくなっちゃって。それに、行動から敵ではないことは確かよ」

「まぁ、怪しいだけでまだ実害はないですが」

 

 そんな鼻歌混じりに帰る不審者を、サクラ・フォン・テンドーは呆れ混じりに見据えていた。

 

「それに、案外ああ言うのがカギを握ってたりするのよね……」

「何のですか?」

 

 ただ、その目に浮かぶのはただの呆れだけでなく。

 

「この私が覇者となる、その足掛かり♪」

 

 面白い玩具を見つけた狩人のような、獰猛な光だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

「イリーネさん、今日は夕方からバイト?」

「ええ、稼いでまいりますわ」

 

 俺はドヤ顔で、自身の就職決定を自慢していた。

 

「貴族が……、バイト……」

「今の私は平民のイリーネですもの、バイトくらい致します。後ろ盾のない権威に、1Gの価値もありませんわ」

「そういう、地に足が着いた考えは好きよ。頑張ってねイリーネ」

「ええ、マイカさん」

 

 この日も昼間は全員で聞き込みを行ったが、魔族の情報はどこにもなかった。

 

 こうも何もないと、カールは女神を語る何かに騙されたんじゃないかという疑問も沸いてくる。

 

 まぁ、今は考えてもセンの無い事だ。

 

「夜には、帰ってまいりますわ」

「頑張ってね」

 

 それより、今は金を稼ぐことを考えよう。

 

 今日は俺のバイト初出勤だ。飲食店の用心棒とは聞いたが、実際にどんな仕事をすればいいのかよくわかっていない。

 

 まぁ、店に行ってから教えて貰おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄さん、ちょっと一杯どうです?」

「可愛い子、揃ってますよ~」

 

 俺が、サクラから指定されたお店に行くと。

 

「あ、本当に怪しい人が来た!」

「お猿さんだ、面白~い」

 

 妙に露出の高いお姉さま方が、俺を見つけて面白そうに手を振ってくれた。

 

 彼女達が手を振る店の看板に標された名前は……「魅惑の渡り宿・フォーチュン」。そのテカテカした装飾の看板は見るからに、

 

「えっ。ここって、その、そういうお店?」

「どういうお店だと思ったの~?」

 

 どう見ても風俗店でした。横乳見えてますやん貴女、寒くないの?

 

 

 

 

「この店は、飲食もやってるから飲食店に違いはないぞ」

「そういうのもやってる店だって言っといてくれよ、驚いたじゃねーか」

 

 中に入ると、昨日見たチンピラの一人がマスターっぽい格好で立っていた。彼が、店長らしい。

 

 俺は男口調に切り替えながら、店長らしき男の前に腰かけた。

 

「テンドー家って、貴族じゃなかったっけ? 風俗店なんて運営してて家名は大丈夫なのか?」

「テンドーって言えば、元はこの辺で有名なギャングファミリーだよ。風俗を運営して傷付くような家じゃねぇ」

「お前らギャングだったのかよ……」

「この街は、他の貴族も似たようなもんだぞ? プーンコ家だって麻薬カルテルだし、ソミー家も裏カジノやって債務者嵌めてるって話だ」

 

 ……そっか、そもそもの治安が悪いのかこの街。道理で、パパンが全くこの街の貴族と関わろうとしなかった訳だ。

 

「うーん、俺はギャングの片棒担いじまったのか」

「まぁ、ウチはこの街で一番良心的なギャングだから安心してくれ。ウチはやってることは風俗だが、無理やり体売らせてる女は居ないよ。借金した馬鹿は別だが、基本的にはみんな本人の意思で働いてる」

「……ギャングに良心もクソもねぇだろ」

「違ぇねぇ。だがこの街で女が高収入を得るには、うちの店で働くのが一番だって言われてる。実際、かなり給料は出しているぞ」

「ほーう、額面幾らだ? 確かに、イヤイヤ働いてる女は居なさそうだが」

「あんまりデカい声出すなよ? ……くらいだな、稼いでるやつは」

「そ、そんなに!?」

 

 売れっ子の嬢が稼ぐ額は、俺の手取りの数倍の額だった。嘘だろ、俺の給料でも冒険者稼業よりずっと多いから喜んでたのに……。嬢ってそんなに儲かるのか。

 

「そんな高額で女を雇って、赤字にならねぇのか?」

「本人の意思で水商売してるやつは、指名を稼ごうと努力して『いい女』になる。すると、客も上質な女を抱けて満足する、そしてリピーターが増えてうちの利益も上がる。嬢を優遇するのは、別に間違った方針じゃねぇ」

「成程な」

 

 どうやら、この店は優良店の部類らしい。値段はやや高いが、嬢も積極的で楽しんで仕事をしているっぽい。

 

 ……。本当に、みんなエロいな。

 

「興味があるなら、誰か抱いてくか? 身内割で安くしとくぜ」

「あー、魅力的な提案だが俺は稼ぎに来てるんでな。割引してくれるったって、素の値段が高いんだろ? 無駄な浪費はしたくねぇ」

「まぁな。1人抱けば、お前の今日の護衛料金は吹っ飛ぶな」

「馬鹿にしてやがる」

 

 女を抱いたらタダ働き、ってそんなの割に合わん。

 

 そもそも、今のボディには棒が生えていない。最初から、そういう目的の行為は出来ない。

 

 筋トレの方法次第で生やせるんじゃないかとこっそり考えているが、今の所はその方法は分かっていない。何を鍛えれば生えるんだろうか。

 

「で、用心棒って何すりゃいいんだ? 俺は何処で待機してればいい?」

「カウンター座って客の振りしててくれ、その方が次の客が入りやすい。サービスで、飲み物は出してやる。泥酔されても困るから、アルコールは薄い奴な」

「バナナシェイクで。水で薄めんなよ」

「あいよ、2杯までは奢るがそれ以上は自腹だ。ペースはよく考えとけ」

「ケチくせぇ……」

 

 飲食なんてオマケ要素なんだから、好きに飲ませろよ。

 

「あ、それと客に酒が回ったら、嬢を一晩買うよう勧めてみてくれ。上手くやれたら、もうワンドリンク無料だ」

「あー、営業もしろと?」

「用心棒っても、そう揉め事なんて起こるもんじゃねぇからな。何もしねぇより、適当に仕事振られた方が暇を持て余さねぇだろ」

「まー了解。誰がお勧めか聞かれたら、店長に振るぞ」

「ああ」

 

 うーん、思ったより仕事が多いな。待機中に筋トレでもしようかと思ったけど、そう言う訳にはいかんらしい。

 

「じゃ、もうすぐ本営業が始まる。タチの悪い酔っぱらいが出てきたらハンドサイン出すから、客の振りしたまま追っ払え。お前が店側の人間だと知られるな」

「何でだ?」

「客同士の諍いにした方が、処理が楽だ」

「……はいはい」

 

 さて、仕事頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かるか、猿仮面!! 俺だって、俺だってなぁ!」

「分かるよ、辛ぇよな」

 

 ……その日の仕事は、用心棒というよりホステスしている気分だった。

 

「俺は必死で、命を懸けて、日々働いているんだ!! レッサーウルフを狩るのだって、文字通り死の危険と隣り合わせなんだぞ! それを、アンナは全く理解してくれない!!」

「そっかー」

「『え、今日は1匹しか狩れなかったの?』じゃねーよ!! マジで強ぇんだぞあの狼!! 久しぶりに死線くぐったのに、家に帰ると俺は甲斐性なしのダメ亭主扱いだ! あげく、ヘトヘトだってのに『家に帰ったんなら家事手伝え、お前の稼ぎだと家でも働くのが当然』と来た!! もう、本当に何で生きてるか分かんねぇよ!!」

「そりゃあ酷ぇなぁ。流石に怒ったのか?」

「当然、『はい分かりました!』って怒鳴ったよ」

「立場が弱ぇ……」

 

 今日はタチの悪い客は来店せず、ショボくれたオッサンの愚痴に相槌を打ってやって半日を終えた。

 

 結構、この店は繁盛しているらしい。引っ切り無しに客が入っては、たまに嬢が指名され2階の宿へと消えていった。

 

 俺はその合間の、飲食席でオッサンの愚痴を聞いては嬢へ繋ぐ仕事を数時間続けた。

 

「猿仮面、アンタの事は気に入ったぜ。また会おうな」

「おう、気をつけて帰れよ!」

 

 楽しく下品に騒いで、酒を楽しむ。貴族に生まれてからは出来なかった、庶民的な娯楽がここにはあった。

 

 貴族の酒と言えば上品で高価な少ない酒を大層な料理と共に酌み交わす、社交界の潤滑油。そこには大騒ぎして下ネタや愚痴を振りまく下品な人間はいない。

 

「猿仮面!! 次はお前を指名するぜ、尻の穴を洗って待っておけ!」

「冗談じゃねぇ、男に掘られるなんてお断りだ」

「あっはっは。まぁ半分くらい冗談だ」

 

 だが、ここは治安の悪いレーウィンの風俗店。上品な人間なんてものは来店せず、品の無い客が大騒ぎするのが当たり前の場所。

 

 前世でも、ここまで馬鹿なお店に来たことはなかった。それくらい、この店は派手でエキセントリックだった。

 

「時間だ、もうバーは締める。猿仮面、帰っていいぞ」

「そりゃどーも。給金は?」

「ちょい待て、ホラ。帰りにスられたりすんじゃねぇぞ」

 

 時間一杯まで酔っぱらいの相手をした俺は、夜遅くなってから解放された。手には、たんまりバイト代が入っている。

 

 これで週に3回ほど働けば、少なくとも個室は維持出来るし装備に回す金も得られる。確かに、割りの良いバイトだ。

 

「疲れた……。早く帰って筋トレで癒されよう……」

 

 だが、精神的な疲労がそこそこ来ている。筋トレの心地よい疲れとは違う、ずっしりとした疲労感だ。

 

 うう、早く筋トレしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イリーネさん、おはよう。……少し疲れてる?」

「ええ。働くと言うのは、なかなか疲れるものです」

 

 貴族として生きてきた今世、労働はあまりしてこなかった。その弊害なのか、大した労働はしていないのに疲れを引き摺ってしまった。

 

 ……だが、健全な肉体は健全な精神に宿る。これも精神修行と思えば何のその。

 

「イリーネさん、今日は冒険者として依頼を受けようと思うんだけど大丈夫? 私達も、路銀が尽きる前に働かなきゃだし。周囲の探索を兼ねて、採集依頼をやろうって話」

「問題ありません。私は数時間働いたくらいで音を上げる様な、柔な貴族ではありませんわ」

「無理はしないでね。戦闘とかは無いし、お使いみたいなものだから大丈夫とは思うけど」

 

 マイカは少し心配してくれているが、むしろこの疲労感こそ成長の証だ。

 

 人は疲れから回復した時に、より強靭に成長する。この精神修行も繰り返せばきっと、将来のより良い筋肉の為になる。

 

「では、参りましょうマイカさん」

「そうね。その前にカールの馬鹿を起こさないとだけどね」

 

 やはり旅に出て良かった。貴族として日々優雅に暮らすより、余程健全である。

 

 ちなみにこの日も幾つかの薬草を採集すべくレーウィン周辺を探索したが、やはり魔族に出会うことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次のバイトの日。

 

「でよぉ、猿仮面。俺は言ってやった訳だ、お前の口はゴブリンの尻穴より臭ぇってな」

「ひでぇ事言いやがる。怒ったろソイツ」

「激怒して息を吐きかけてきやがった。あまりの臭さに失神したね俺は」

 

 相も変わらず、下品すぎる話が飛び交うバーで俺は健気に働いていた。

 

 本物のお嬢様がバイトしてたら卒倒していたな。働いたのが俺でよかった。

 

「おぅい、猿仮面と……ジョージも居るのか。お前らこっち来い、新入り連れてきたぞ」

「ほう、どんな奴だ?」

 

 前に喋った客と歓談していると、更に別の粗野な男が会話に割って入ってくる。礼儀もマナーも有ったもんじゃない。

 

 だが、この下品な感じも慣れれば悪くない。最初は戸惑ったモノの、よく話してみれば客は気が良い連中が多い。

 

 貴族特有の嫌みったらしい牽制もないし、作法で怒られることもない。

 

「今日は気分が良い、お前らの酒も奢ってやる!! あ、女は別だぞ」

「微妙にケチ臭い奴だな~。女も奢ってくれよ」

「高いんだよ、それは流石に!」

 

 あと、客同士が仲良くなるのが異様に早い。まだ数回しか会ったことのない人間同士、楽しく会話して酒を楽しめるのもこの場所の特異性だろう。

 

「聞いてくれマスター、俺は今日はコイツに危ないところを助けられてな。コイツの支払いも俺の奢りだ」

「あいよ、ツケは拒否だからな」

「分かってるって」

 

 こうして、今日も一人新たな人と出会う。

 

 一期一会、もう二度と顔を合わさない奴も居るだろう。この先、何度も顔を合わす奴も居るだろう。

 

 それが、この風俗バーと言う特異な空間の醍醐味の1つなのだ。

 

「さ、猿!?」

「だははは!! 初見はビビるよな、でも気にするな! この猿はいい猿だ」

「面白いぜ、この猿の兄ちゃん」

「初めましてウキ」

 

 さて、今日はどんな出会いが────

 

 

 

 

「ど、どうも。初めまして、俺は冒険者のカールと言います。こういうお店は初めてで────」

「ウキャァァァァア!?」

「うわぁぁぁぁぁあ!?」

 

 俺の隣に緊張した面持ちで腰かけたのは、物凄く見覚えのある男だった。

 

 というかカールだった。

 

「どうした猿仮面!」

「い、いや何でも無い。ちょっと人生の危機に陥っただけだウキ」

「それは何でもないで済ましちゃマズくないか」

 

 待ってヤバイ。それはヤバイ。

 

 お面を被ってはいるけれど、鎧の下の布服とかはカールにも見せたことがある普通のやつだ。

 

 てか、そもそも声と髪で一発でバレる。急拵えの変装だ、さすがに一緒に旅した仲間に気付かれてしまう。

 

 ど、どうする────

 

「ふむ、何か困りごとか? 俺で良ければ力になるよ」

「……そいつは、どうも」

 

 カールは、心配そうに初対面のはずの猿仮面(オレ)を気遣っていた。

 

 あ、コイツ気付いてないっぽい。

 

「いや、もう解決した。俺の人生は救われた、ありがとう」

「この短期間で何があったんだ」

 

 ま、まぁそうか。普段は清楚オブ清楚で通している貴族令嬢(イリーネ)が、こんな怪しいお店で男装して働いているなんて想像だにしないだろう。

 

 認知バイアスという奴だ。

 

「まぁ、座れ。今日は色々と楽しもうや」

「ああ、ご相伴に預かる。俺も、聞きたい話があるしな」

「おお、何でも聞いてくれ。この店の客は、この街の風俗事情に一番詳しいって噂だぜ」

「ふ、風俗事情は別に聞かなくて良いかな。まぁ、後で聞くよ」

 

 ……成る程。カールは風俗に来るキャラに見えなかったが、魔族の情報を集める為に付いてきた訳ね。

 

 その情報収集の手段は間違えている気がする。エロいお店に何の魔族の情報が有るっていうんだ。

 

「じゃあ、俺達の出会いに乾杯!!」

 

 ……。こいつらどーせ股間の魔族(隠語)の話しかしなさそうだが、まぁ付き合ってやるか。


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