【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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51話「堕ちた兄、失った妹」

「……」

 

 

 少女は一人、夜空を見上げる。

 

 届かぬ(ひと)に手を伸ばし、掴もうとして空を切る。

 

 

「……兄ぃ」

 

 

 あそこにいたのは、家族だった。

 

 仲間(イリーネ)を斬り、賊をまとめ、町を荒らそうとしたその男は血を分けた兄だった。

 

 

「……生きて、いた」

 

 

 死んだと思っていた。助かるはずが無いと諦めていた。

 

 

『レヴ、先に行け……』

『レヴちゃん、ここは僕達に任せて逃げるんだ!!』

 

 

 自分を庇い、怪物の前に立ち塞がった家族たち。

 

 

『……レッサルの、祖父ぃを頼れ。達者でな、レヴ』

『兄ぃ……』

 

 

 その命を懸けた時間稼ぎを、無駄にするわけには行かない。

 

 少女は走った。遮二無二走った。

 

 怪物は追ってこなかった。何か(かぞく)を補食しているのかもしれない。

 

 おぞましい、考えたくない。

 

 だから走る。魔族(アレ)から逃げ出そうと、現実から目を背けようと、少女は延々と走り続けた。

 

 

 

 

 ────やがて、力尽きて。息を乱し涙を溢し、少女が地面に座り込んだその瞬間。

 

 周囲の闇に、無数の『目』が浮かび上がった。

 

 

 不幸なことに、彼女が必死で走り込んで行った先は。

 

 

「ウォオォヴォっ!!」

 

 

 魔族の群れの本隊が待機する、デッドゾーンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レヴさんのお兄様……、なのですか?」

「ああ、間違いないらしい」

 

 その夜。

 

 カールは俺達を集めて会議を開いた。

 

 場所は自警団のアジト、俺達に与えられた大部屋だ。

 

「静剣のレイ……、昨日の襲撃における敵のリーダーの事ですかい」

「ああ。奴の剣筋、容姿、言動全てが兄で間違いないそうだ。だな、レヴ?」

「……ん」

 

 それは、また頭の痛くなる話だった。

 

 レヴの兄が奇跡的に生き残っていた。それ自体は、とても喜ばしい事なのだが……。

 

「兄ぃが、悪党族に身を落としていたなんて……」

「……」

 

 レヴは、大層に落ち込んでいた。

 

 実の兄が生きていて、イリューの服を剥ぎ鞭で打って笑っていた連中の仲間になったのだ。

 

 思うところが無いはずがない。

 

「な、何か事情があるのかもしれませんわ。きっと、やむにやまれぬ事情が」

「事情が有ったから、何だって言うのよ」

 

 消え入りそうな表情のレヴを何とか慰めようと声をかけたが、すぐさまサクラが俺の言葉に割り込んだ。

 

「事情すらなく悪党になるような人間なんて居ないわよ。悪党になんかならない方が、ずっと生きやすいんだから」

「サクラさん……」

「事情があろうと無かろうと、自分の罪に向き合わないといけない。悪党になったからには、因果応報を受けるまで図太く生きるべきなのよぉ。いつか来るその報いで、より惨めになるためにね」

 

 同じ、悪党だったサクラが言うと重みが違う。

 

 それは彼女なりの、ギャングの死生観なのかもしれない。

 

「とはいえ彼の事情もなんとなく予想はつきますがねぇ、お嬢。賊に堕ちざるを得なかった理由は、それなりに同情できるものかもしれませんぜ」

「……それは、俺もそう思う。以前までのレッサルの状況、コリッパの市政、そしてレヴの祖父の末路。命からがら此処に落ち延びた兄貴が、この地の施政者や民に怨みを持つなって方が難しい」

「成程、それで賊に堕ちたのでしょうか」

 

 レイはきっと妹のレヴの様に絶望したのだ。

 

 身寄りを失い、故郷は醜く変貌し、施政者には強い恨みしか抱けない状況。

 

 何もかも失った彼には、最早『復讐』しかなすべきことが無かったのかもしれない。

 

「妹が俺達に保護されていると知れば、きっとレイも大人しく投降するだろう。話を聞いている限り、レヴは兄貴から命懸けで庇われるほど大切にされていた筈だ」

「その可能性は高そうですわね」

「そして頭を失った賊を一気に攻め滅ぼす。レヴの兄貴は、俺達が何とかして庇う。この方針でどうだ」

「……ま、良いんじゃない」

 

 カールの作戦は、体の隅々に縄目くっきりなマイカも賛成した。

 

 彼女が反対しなかったのであれば、それなりに成功率は高いのだろう。

 

「ただ、上手くいかなかったときのことも覚悟しておきなさいよ。例えば、レヴの兄が投降に応じなかった時とか」

「……ふむ」

「カール……、と言うよりこの場合はイリーネかしらね。貴女、合図があればレヴの兄を消し炭にする覚悟はある?」

 

 少し試すような目で、マイカは俺を見てくる。

 

 ……俺が、レヴの兄を殺せるか、か。

 

「それは、その。それが、民を守るのに必要なのであれば」

「良い返事ね。イリーネの性分からして、その言葉が出るならやってくれるでしょ」

「そんな事には、させない……」

 

 正直な事を言えば、仲間の家族を手に掛けるなんてまっぴらごめんだ。

 

 しかし、それでカールや皆が窮地に陥るのであれば……。俺は、躊躇ってはいけない。

 

 

「────ねぇ、少しお伺いしてもいいですか?」

 

 

 そんなこんなで話が纏まりかけていた時。

 

 無邪気な声で、修道女がカールに質問を投げかけた。

 

「どうした、イリュー」

「いえ、その。少し空気が読めてないのは承知で、ご質問いたしますが」

 

 彼女は昼間と打って変わって、修道女らしい真面目な顔でカールに問うた。

 

 

 

「レヴさんの兄『だけ』を救う理由は何ですか?」

「……」

 

 

 

 それは、まさしく。

 

 俺達と出会って間もないイリューだからこそ、投げかけられた疑問なのだろう。

 

「レヴさんの兄の他にも、きっとやむにやまれる事情で賊に堕ちた人も多いのではないでしょうか」

「……む、む」

「もしカールさんがレヴの兄(レイ)さんのみを救いたいのであれば。それは正義ではなく、私情ではありませんか?」

 

 その言葉に、カールは口をつぐんで押し黙った。

 

 イリューの言葉は正鵠を射ている。レイが、レヴの兄だから俺達は救いたいと思ったのだ。

 

 レイがその辺の、俺達に何の関係のない賊ならば救おうと考えたりしなかっただろう。

 

 それは正義なのではなく、私情に他ならない。

 

「アンタ、その言葉で何が言いたいわけ?」

「空気を悪くしたならすみません。ただ、ソコをどう考えているのかが大変興味ありますので」

 

 イリューは大層真面目な顔で、カールを覗き込んでいた。

 

 彼女なりに、そこは絶対に確認しないといけない事らしかった。

 

「……ああ、そうかもしれないな」

「カール」

「俺は、私情で兄貴(レイ)を救いたいと思った。俺はレヴに、哀しい顔をしてほしくないんだ」

「そうですか」

 

 カールはあっさりとそれを認めた。

 

 その答えを、イリューはどう感じたのだろうか。

 

 

「本当、修道女ってのは馬鹿ねぇ」

「……どういう意味でしょうか、サクラさん」

「正義って言葉、どういう意味か知らないでしょ」

 

 

 その問答を聞いたサクラは、呆れた表情のまま頬杖をついた。

 

 彼女にとっては、馬鹿らしい話みたいだ。

 

「正義とは、誰からも認められる正しい行いで────」

「その正しさとは、個人の主義思想に依るモノよ」

「む……」

 

 そう言うと、サクラはふん、と鼻息を鳴らして腕を組みなおす。

 

 流し目で修道女を見たまま、彼女は言葉を続けた。

 

「10人いれば10通りの正義がある。何なら悪党にだって、正義は有るわよぉ?」

「それはっ。悪党の正義なんか、正義と呼べるものでは……」

「むしろ法の規律が無い分、悪党の方がその辺うるさいくらい。ある程度は空気を読まないと、敵もろとも共倒れになる世界だし」

 

 確かに、悪党の正義は俺達の正義とはかけ離れているだろう。

 

 しかしギャングやヤクザの方が、仁義だの人情だのにうるさいイメージはある。それはきっと、ギャングの世界では最低限の『マナー』を守らないと、無法地帯になるからだ。

 

 それも、彼らにとっての正義と言えるのかもしれない。

 

 

「思想が変われば正義が変わる。でもね、いつだって正義の根幹にあるものは変わらない」

「根幹、ですか」

「ええ。何時だって、正義の根幹にあるものは……」

 

 サクラの茶髪が、軽く揺れる。

 

 艶のある唇を、自分の指でなぞって。

 

「いつだって熾烈なまでの、何かを『守りたい』っていう強い感情なんだから」

 

 彼女は、そう言葉を締め括った。

 

「正義ってのは、私情に根付くもんなのよ。正義と私情を区別するなんて、ナンセンスだわ」

「むむむ……」

 

 その意見を聞き、今度はイリューが押し黙った。

 

 サクラの言葉にも、一理あると感じたらしい。

 

「マイカはどう考える?」

「正義だの私情だの考えるのは馬鹿らしい、そこはどうでも良いわ。ただレヴの兄って言う剣士、見るからに強いじゃない。降伏を促して仲間にするのは大賛成よ? 状況的に、主導権握れそうだし」

「ああ、お前に倫理観とか無かったな」

「どういう意味よ!!」

 

 マイカはいつものマイカだった。

 

「イリーネ、お前はどう思う?」

「……そうですわね。本来であれば賊に堕ちた悪党なぞ、討伐の対象でしかないと考えていましたけれど」

 

 カールは、俺にも意見を求めてきた。

 

 その問いに対する答えは決まっていた。

 

「それは、私が愚かだったかもしれませんわ。民を脅かす者は容赦すべきではありませんが、一方的に討つのではなく、まず事情を確認するべきでしょう」

 

 悪党に堕ちた側の心情も、思いやる余地はある。

 

 特に、今回みたいな『施政者のせいで根は善良でも堕ちざるを得ない』ケースなら尚更だ。

 

 貴族のせいで民が悪党に染まったのであれば、貴族が彼らを救うべきである。

 

「そうですわよね、賊にも家族はいらっしゃるのですわ。悪党族の中に救える人間がいるのであれば、話し合いで解決策を模索して救いたいものです」

「……そっか」

「多分だけど、マクロ教の教えって本来そんな感じの意味よね。民が悪に走ったならただ罰するだけでなく、政策を見直せよって話」

 

 ふーん。それを聞くと、教え自体は悪くないよなマクロ教。

 

「……じゃあ、それとなくリョウガに頼んでみるか。あの様子だと、レイを捕らえたらすぐに首を飛ばすぞアイツ」

「そうですね。首は功績の象徴として重要ですが、いくらでも代用が効きます。コリッパの私兵の首のどれかを、貴族である私が『レイだ』と偽証すれば一発ですわ」

「おお、意外。イリーネって、そう言う裏工作は嫌いだと思ってたわ」

「嫌いですわよ。でも、レヴさんの方が大切です」

 

 うん、とりあえずレヴの兄を救う手立ては見えてきた。

 

 後は自警団と擦り合わせを行い、生け捕りにする手筈を整えるのみ。

 

 レヴの姿を見せれば、きっと降伏してくれる。生け捕りは、そんなに難しい話ではない筈だ。

 

「じゃ、リョウガの所に行くか。イリーネも、ついてきてくれ」

「偽証担当ですものね」

 

 後は自警団を上手く説得できるか否か。

 

 そこに、全てがかかっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうお前ら、何の用だ?」

「ちと頼みが有ってな。今、忙しいか?」 

「仕事はいくらでもあるが、今は休憩中さ。別に話くらい聞いてやるぞ」

 

 部屋を出てリョウガの執務室へ行くと、彼は部屋の隅に座り込んで休んでいた。

 

 言葉通り、休憩中らしい。

 

「そんな所で何してんだ、リョウガ? 部屋の隅の方が落ち着くのか?」

「ああいや、野暮用だよ。大した用事じゃねぇ」

 

 そう言うと、彼はゆっくり立ち上がりこっちを向いた。

 

 よし、時間があるなら話をさせてもらうとしよう────

 

 

 

「……? それ、髪の毛ですか?」

「目ざといな。ああ、妹のモノさ」

 

 

 

 俺はふと、気になるものが見えて口に出してしまった。

 

 それは、リョウガが先程まで座り込んでいた場所にあった、長い毛髪が纏められたモノだった。

 

「これは、俺の妹の遺物(かたみ)だ。絶対に触れないでくれ、俺の逆鱗みたいなもんだから」

遺物(かたみ)……。では、妹さんは」

「死んだよ。殺されちまった」

 

 そっか。レッサルの今までの状況を考えれば、そんな事もあるか。

 

 疫病が流行し、治安も乱れ、悪党がのさばっていたんだ。そりゃ、死人くらい────

 

 

 

「妹は、あの野郎……。『静剣レイ』に殺されたんだ」

「えっ」

 

 

 

 ……。

 

 えっ。

 

 

「実はレイ────お前らと戦ったあの男は、妹の仇なのさ。本音を言うと、今すぐにでもあの糞野郎をぶち殺してやりてぇ。だが憎たらしい事に、ヤツはすこぶる強ぇんだ」

「……そ、そうですわね」

「今の戦力で無理に仕留めようとすれば、きっと大勢の犠牲が出る。自警団の皆を、俺のエゴで犠牲にする訳にはいかねぇ。だから俺は、ずっとずっと堪えてきた」

 

 

 ぷるぷる、とリョウガは肩を震わせた。

 

 その顔に、昼間に見せたひょうきんなエロチビの雰囲気はない。

 

 それはまさに復讐に取り付かれた、悪鬼の様な表情であった。

 

「だがよ。先の戦いでお前らの力を見て、歓喜したぜ。やっと、時が来たと」

「時、ですか」

「おうとも。あの男を殺す、その時だ」

 

 

 ……。

 

 …………。

 

「お前たちの力添えがあれば、俺はやっと『レイ』を殺せるんだ。今から、奴の断末魔の声を聴くのが楽しみでたまらない」

「お、おう」

「はっ、笑えるよな。レッサルの為、皆の為、貴族に気に入られる為。いろんなお題目を掲げはしたが、結局のところ『復讐』こそが俺を突き動かしていた動機って訳よ。情けねぇ」

 

 そう言ってリョウガは、自嘲的に笑った。

 

「でも安心してくれ、俺ぁ恨み骨髄で判断を誤るような不細工な真似はしないからよ」

「そ、そうか」

「今の今までずっと、耐えてきた。レイを殺せるかもと思ったタイミングでも、被害の大きさを鑑みて堪えてきた。今更それを台無しにするようなことは絶対にない」

 

 半分泣きそうな顔で、リョウガは優しく部屋の隅に置いてあった妹の髪を撫でた。

 

「もうちょっとだ。もうちょっとだけ待ってくれよ、サヨリ……」

 

 そう言って遺物を愛おしむように撫でるリョウガを前に。

 

 

「それで? 話ってなんなんだ、お二人さん」

「あ、えっと、そのだな」

 

 

 俺もカールも、とてもじゃないが「レイを助けたいんだぜ」と言い出すことは出来なかった。

 

 

 

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