【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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55話「邂逅、冥府の化け物」

 ────死者は二度と笑わない。

 

 ────いざ冥府の門は開かれた。

 

 ────大切なものを取り込まれる前に、戦士よ立ち上がれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この街には伝承がある」

 

 (レイ)(レヴ)の手を引いて、真っ暗な夜道を駆けていた。

 

「……伝承?」

「ああ。……ここはかつて、冥府への門が設置された地だそうだ。神話の時代、レッサルに来れば死んだ直後の者と会話することが出来たという」

「……聞いたこと無い」

 

 兄の話を聞いて、レヴは首をかしげた。

 

 地元の伝説などに興味無かったレヴは、今までそんな話を聞いたことが無かった。

 

「……ああ、レッサルがマクロ教に改宗して歴史書から消された話だ。女神マクロには関係ない伝説らしいからな」

「信じられない。……自警団の人も、村の人も、みんな生きてたよ?」

「ああ、この街の周囲でだけ彼らは生きて話せるんだ」

 

 兄はそんな妹に、噛み砕いて説明を続けた。

 

「この街の中に居る限り、彼等は生者として動き続ける」

 

 

 曰く、この街は呪われており「死者が死者として自覚を持たぬ」村になったらしい。

 

 太古の昔、死者が現世の友や家族と別れを告げる為の場所だったレッサル。何故か現代になって、突然にその性質が蘇ったのだそうだ。 

 

「理由は分からない。だが、そうとしか考えられないのだ」

「……どうして?」

「レッサル付近では、首を撥ね飛ばし殺した者であっても、次の日に元気に戦場に姿を見せるのだ。伝承の事を考えれば、それが一番しっくり来る」

 

 

 ……話を聞いて、レヴは困惑した。

 

 とても信じられる内容では無い。兄は、誰かに騙されているのではなかろうか。

 

 そう、疑いすらした。

 

 

「ところで、兄ぃ。どうして兄ぃはこんな夜中に、此処に?」

「囚われた仲間の救出だよ。数日前に仲間が下手をやって捕まって、レッサルに運び込まれたんだ」

「……」

 

 レイは仲間が捕まった、と言った。その仲間とやらに、レヴは心当たりがあった。

 

 数日前、イリューに卑劣な行為をした賊をレッサルに連行したのはカール達に他ならない。

 

 まさか兄の言う『仲間』とは、イリューを辱め笑っていたあの連中の事だろうか。

 

「この街で死ぬと、恐らく取り込まれることになる。そうなる前に、助けたかった」

「……その人達に、心当たりがあるよ。兄ぃ、そいつらは悪い奴」

「……ああ、悪い奴らさ」

 

 レイはそう言うと、僅かに顔を顰めた。

 

「知っての通り、俺は悪党族に身を寄せている」

「何故……」

「他に行き場がなかったからだ。何せこの街に見捨てられたからな」

 

 妹の純粋な目でまっすぐ見据えられ、レイは居心地悪そうにそっぽを向いた。

 

 奴等が悪い連中だという事は、彼も理解しているらしい。

 

「……でも」

「一応、話しておこうか。カインの最期を」

 

 問いただそうとするレヴの言葉を遮って。

 

 レイは半ば吐き出す様に、憎々し気に街を見つめ話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────命からがら、と言うのはまさにこの事だろう。

 

 レイとカインの二人は、重傷を負いつつも奮戦し、辛く魔族の群れから逃げ出した。

 

 

『レイ坊ちゃん、もう大丈夫っすよ』

『……無理に喋る必要はない。カイン、良いから俺の背中に』

『これでも師匠っすからね。坊ちゃんに背負われるなんて無様、晒すわけにいかないっす』

 

 

 疲労困憊で、歩くのも困難。服は血でぬかるみ、カインに至っては足を引きずっている。

 

 そんなボロボロの状態の二人は、医療器具もないので治療も出来ぬまま歩き続けた。

 

 地図を失い、食料も水もなく、よろよろと街を求めて歩き続けた。

 

 

『坊ちゃん。アレを……』

『おおっ!』

 

 

 そんな彼らは、幸運にも彼方地平の先に見覚えのある景色を見た。

 

 それは、レイタルの故郷『レッサル』のある平原だ。

 

 

『あそこまで歩けば、助かるっす』

『1週間もあれば、故郷に辿り着ける』

 

 

 その景色はどれだけ二人に希望を与えただろう。

 

 道も分からずさ迷っていた彼らに、明確なゴールが出来たのだ。

 

 

『歩けるか、カイン』

『勿論っス』

 

 

 二人は俄然やる気を出して、レッサル目指して歩き始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『おい、カイン』

『大丈夫っすよ、坊ちゃん』

 

 歩き始めて数日、レイタルの兄貴分カインが高熱を出した。

 

 見れば腕の付け根、魔族に噛まれた部分が赤く化膿していた。

 

『これは、重症だ……。カイン、何処かで休まないと』

『いえいえ歩きましょう』

『……でも!』

 

 痛々しく腫れあがった腕を見て、レイは動揺した。このままでは、カインが死んでしまうかもしれないと。

 

 しかし顔色の悪いカインは、笑顔を作ってレイタルを諭した。

 

『こりゃあ、放っておけば悪くなる一方っス。むしろ俺は、助かるために歩き続けないといけないんス』

『……カイン』

『確かレッサルには、でかい聖堂があるって話じゃないですか。治癒術師だって常駐してるんでしょう? ますます、レッサルに急ぐ理由が出来たって話です』

 

 もう何日持つか分からない。

 

 そんなカインが命懸けでレッサルへ急行を提案したのだ。

 

『……なら、急ぐぞカイン』

『ええ、坊ちゃん』

 

 ここで躊躇っている時間はない。

 

 レイタルは覚悟を決め、足早にレッサルを目指した。

 

 

 

 ────食料は無い。

 

 空腹で腹と背がくっつきそうだ。

 

 

 ────照り付ける陽が憎い。

 

 喉がカラカラで目は霞み、油断すれば倒れ込みそうになる。

 

 

 ────足が棒の様だ。

 

 極度の疲労と脱水で、何度も足が悲鳴を上げた。

 

 

『カイン、カイン!!』

 

 道半ば、ついにカインが倒れた。

 

 呼吸も浅くなり、全身が燃えるように熱く、皮膚はカラカラに乾いている。

 

『くそ、お前を死なせない……』

 

 レイタルは、意識を失ったカインを背負って歩き続けた。

 

 このままではマズイ。顔に死相が浮かんでいる。

 

 最後に水場に巡り合えたのは2日前。脱水だけでも死ぬ可能性がある。

 

 カインは、本当に限界なのだ。

 

 

『皆死んで、お前だけが唯一生き残った肉親なんだ……っ!』

 

 

 ……自分自身も、とっくに限界だろうに。

 

 家族想いのレイタルは、気力を振り絞り寝ずのまま歩き続けた。

 

 その先に、レッサルの都市を見据えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日後。

 

 身も心も限界だったレイタルは、重い足を引き摺りながらとうとうレッサルの街に到着した。

 

『助けて、くれ……』

 

 枯れ果てた声を張り上げ、レイタルは叫んだ。

 

『カインが死にそうなんだ。誰か、助けて────』

 

 

 ……しかし、その声は誰にも届かなかった。

 

 道行く人々は、誰もレイに手を貸そうとしない。

 

 

『く、そ……』

 

 

 この街に人情は無いのか。こんなに冷たい街だったか。

 

 激高する気力も起きず、レイは助けを諦めて大聖堂に向かっていった。

 

 高熱のカインを背に背負ったまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『料金は20000Gになります』

『……は?』

 

 それが、治療を求めたカインに告げられた言葉だ。

 

『そんなバカげた法外な────』

『では、お引取ください』

 

 ボッタクリも良い所である。大聖堂とは本来、ヒーラーに掛かれぬような貧困者を救う施設の筈だ。

 

 そんな額なら、その辺の医者の方がよっぽど良心的な額を提示する。

 

『このレッサルの土地に、医療機関はここにしかありませんよ。どうします』

『……っ!!』

 

 聞けば町医者や民間のヒーラーはみな出て行ったという。

 

 医療を貴族が独占し、収入源とする。それが、今のレッサルの政策だそうだ。

 

 レイタルはふざけた話だと思った。だが、

 

『他の街に行く時間は無い!! その値段でいい、カインを救ってくれ!!』

『では料金を』

『後で払う! 何としても用意する、だから!』

 

 それでも大聖堂に頼み込んだ。カインを、唯一の肉親を救ってくれと。

 

『────即金ですよ。そのように言って、踏み倒されたら大赤字です』

『今は用意が出来ない』

『ならば申し訳ありません。お金を用意して、出直してきてください』

 

 その言葉に、レイタルは言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

『祖父ぃは何処だ!! 何処に行った!!』

『ああ、この家の人かい? たしか先月、肺炎で亡くなったよ』

『何……』

 

 レイタルは、必死で金策に走った。

 

『ほら、良い防具だろう!! これを買ってくれ!!』

『……100Gかね』

『そんな筈はない!! 鍛冶都市アナトで買った最新鋭の────』

『この街でそんな高級品、仕入れてもだれも買わん。買って欲しけりゃその額だね』

 

 大事な武器防具を手放しながら、街中を走り回った。

 

『誰か、助けてくれ! 本当に、このままじゃ本当にカインが死んでしまう!!』

 

 しかし、20000Gなんて大金を手に入れる手段は無かった。

 

 何処へ行っても、カインは鼻で笑われあしらわれた。

 

『お金を貸してくれ!! 何としても返すから!!』

 

 とうとうレイタルは、カインを抱きしめながら大聖堂の前に座り込んで絶叫した。

 

『奴隷に堕ちたって良い、やれと言うなら靴だって舐めるから!!』

 

 道行く人に懇願するように語り掛けた。

 

『俺に、家族を救う金を貸してくれ!!』

 

 掠れた声で、重傷者を抱きしめ、男は叫び続けた。

 

『カインを助けて────』

 

 

 

 

 

 その悲痛な少年の叫びは。

 

 その日の夕暮れ、抱きしめていた男が冷たくなるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────』

 

 カインは見捨てられた。

 

 せっかく間に合ったのに、彼が息のあるままレッサルにたどり着いたのに。

 

 街の誰も彼を救おうとせず、カインは見殺しにされた。

 

 

『────』

 

 

 カインの死を悟った瞬間、レイタルの心が折れた。

 

 彼自身も、とっくに限界だったのだ。レイタルは、家族の後を追うように弱って行った。

 

 

『死体が二つ。邪魔ですね、街の外に捨てましょう』

 

 

 ほとんど動けなくなったレイタルを見て、大聖堂の職員はそう言った。

 

 そしてカインとレイタルを台車に乗せ、街の外の死体置き場に放り出した。

 

 

 カインと同様に、レイタルも街に見捨てられたのだ。

 

 

『……』

 

 

 カインは魔族に殺されたのではない。

 

 レイタルは、魔族に依って死ぬのではない。

 

『……ふぐっ』

 

 カインは、レイタルは。レッサルに、殺されたのだ。

 

『ちくしょう……』

 

 掠れた嗚咽が、平野に溶け消え。

 

『ちくしょぉぉぉぉぉぉ……』

 

 恨みに染まった手をレッサルの門に伸ばして。

 

 やがて、レイタルは意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』

 

 次に彼が目を覚ましたのは、簡素なテントの中だった。

 

『……?』

 

 生きている。

 

 見ればレイタルの身体には、簡素であるが治療が施されており。

 

 誰がやったのか、体を拭いた後すらあった。

 

『……もしや、誰かに救われたのか』

 

 レイタルは、ゆっくりと体を起こした。

 

 空腹で死にそうではあったが、倒れる直前よりかは活力がある気がした。

 

 ────見れば、近くに桶と湿らした布が有った。

 

『そうか、水を含ませてくれたのか』

 

 どうやらレイタルは、誰かに命を救われたらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

『起きたかい、兄さん』

『……貴女が』

 

 目を覚ましたレイタルがテントを出ると、近くに女がいた。

 

『……俺の命を救ってくれたのは貴女か。礼を言う』

『礼なんか要らないっつー話。ワシがアンタを助けたのは、お前を利用しようって下心有ってのこと』

『ああ、なら何でも言ってくれ。俺に出来る事なら、何でも力になろう』

 

 その女の年齢は、良く分からない。喋りは古風な気もするが、若々しく美しい見た目をしていた。

 

『ん、じゃあお前はワシの部下ね』

『部下……?』

『そ。まぁ、周りを見てきなよ』

 

 ニシシシシ、と女は困惑するレイタルに悪戯な笑みを浮かべ。

 

『お前さんが、何に拾われたか分かる筈さ』

『む……?』

 

 そう言って、テントの中に姿を消した。

 

 

 

 

 

『ひゃっははは! 酒だ、肉だ!!』

『女を出して良いか? ちょっとムラムラしてきたぜ!!』

『さっきヤった直後だろう。まったくお前は!!』

 

 

 周囲には、見るに堪えない光景が広がっていた。

 

 

『お、兄ちゃん起きたのか』

『ちゃんと強いんだろうな? ボスはお前が役に立つから、拾ったと言ってたぞ』

『お前等、一体……!』

『ああ、何も聞いてねぇのか。俺達は、この世に蔓延る悪の代名詞』

 

 粗暴で、荒々しい男たちは愉快げに名乗りを上げた。

 

『────人呼んで、悪党族さ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はその日から悪党族に身を寄せた」

「……」

「俺は思った。その場で悪党族を一網打尽にして、レッサルの守衛に突き出す義理があるのだろうかと。命の恩人たる彼らへの恩義を通し、悪に堕ちる事はそんなに悪いことなのかと」

 

 レイはソコまで語ると、静かに街の外壁を指さした。

 

「話はここまでだ。脱出するぞ、皆」

「……待って。まだ、カールが街の中に」

「後で、必ず接触する機会を作り出す。俺を信じろレヴ、まずは仲間とお前の脱出を優先したい」

 

 レイは気を張り詰めながら、周囲を警戒している。

 

 その間に部下がテキパキと、縄の脱出路を作り上げていく。

 

「ここの外壁は、朽ちて亀裂があるんでさ。ソコにこうして鍵爪をひっかける、と」

「門を通らすとも、行き来できる道となる。さぁレヴ、行け!」

「え、えっと」

 

 レヴは迷った。

 

 最愛の兄に再会できたのは嬉しい。しかし、悪党族に身を寄せる事になるのはどうなのだ。

 

 それに、街にはカール達が残っている。レヴは、彼らと離れたくない。

 

「……兄ぃ。私、その」

「何を逡巡している? 早くしろ、この街では何が起きるか分からん」

「でも、やっぱり私、カールと……」

「後から何とかする。今は早く脱出するんだ、この街の『夜』はヤバいんだ!」

「あ、その」

 

 そういってレイタルは妹を急かす。

 

 その鬼気迫る表情に、なかば流されるようにレヴは頷いた。

 

「よし行け! さっきから嫌な予感がするんだ。最悪、冥府の魔物が出てくるかもしれんぞ!」

「う、うん……」

 

 果たして、レイタルの嫌な予感は正しかった。

 

 それは、レヴが脱出用の縄に足を駆けた直後。

 

 恐ろしい妖気と共に、怪物が悪党族の前に姿を現したのだから。

 

 

「……ぐ、来たぞ!!」

「な、なんだアレは!!」

 

 

 ノソリ、ノソリと無言で歩く『化け物』。

 

 それはレイ達を見つけると、足を速めて真っ直ぐ近づいてくる。

 

 

「くそ、お前らは早く行け! 俺が足止めするから────」

「────ムキャアアア……」

 

 

 やがてその化け物は、這い寄るようにレイタル達の前に姿を現した。

 

「……ひっ!?」

「な、何だ!?」

「キッキッキ……」

 

 

 暗闇の中で、賊どもは見た。

 

 

 ────ボロボロの、軽装な皮鎧。

 

 不気味に笑う、猿の顔面を持つ不審者。

 

 異様な高い声色で、謎のポージングを取って迫りくる『異形の生命体(おさるさん)』。

 

 

「宵闇からレッサルの街を守る守護神、小人族の……『猿仮面』見参!!」

「ウワアーーーーー」

 

 

 現れた怪物のあまりの怪しさと不審さに、レイは思わず叫び声をあげた。

 




???「治安の悪い街で、貴族令嬢が夜に出歩くのは危ないな……。せや!」

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