【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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58話「悪党族の『手土産』」

「……あらら、ほんとに有るじゃない」

 

 昇ったお日様に照らされて、墓石が怪しく輝く。

 

 イリーネから得た情報を確かめるべく、マイカは一人で共同墓地に来ていた。

 

「ごめんなさい。ちょっと罰当たりかもだけど……」

 

 確かにソコに、墓が有った。

 

 情報の通り『自警団長リョウガの墓』が、何も供えられぬままに墓地の一角を占領していた。

 

「確かめさせてもらうわよ」

 

 そう言うと誰もいない墓地で、彼女は小さなスコップを手に持った。

 

 

 

 

 

 

「……棺が納められている。本当に、リョウガの墓みたいね」

 

 無論、流石のマイカと言えど墓を暴いたりはしない。

 

 彼女はただ、墓石の前に小さな穴を掘って棺が埋まっているのを確認しただけだ。

 

 ……生前に何かの理由で墓を作っていただけなら、棺まで埋葬する必要はない。

 

 間違いなく『この墓場は本物』だ。少なくとも『誰か』の死体が埋葬されていた。

 

 マイカは、そう結論付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁお嬢。前もって自分に回復術をかけておいて、怪我した瞬間に全回復とかできる?」

「そんな便利な魔法が有ってたまりますか」

 

 イリューの良く分からない復活を見てから、俺は混乱の極致にあった。

 

 あまりに非現実的な光景だったので、自分の正気を疑ってしまったくらいだ。

 

 自分ではとても抱えきれなかったので、俺はすぐさま回復魔法に詳しいサクラに相談に行った。

 

「……そうねぇ。古代魔法にそのような効果の魔法具があった。そんな記述をヨウィンで読んだくらいねぇ」

「そ、そうなのか。その魔法具はどんなモンなんだ?」

「詳しい資料が無いから何とも。花飾りの形をしているらしいけど、現存してる実物がないから『空想上のアイテム』の可能性もあるわ」

 

 ……ふむ。要するに眉唾なアイテムで、実在するのであれば『王家クラス』でないと知らない超貴重品と言う事か。

 

 だが、イリューがそれを何処かで入手していて身に着けていた可能性はあるかも。だとすれば、あの光景は説明できる。

 

 イリューってもしかして、かなりのお偉いさん……? 

 

「何でそんな話を急に?」

「いや、まぁ」

 

 いきなり変な質問をぶつけたからか、サクラは俺を不審な目で見ている。

 

 さて、どう誤魔化したもんか。さっき俺が見た光景を話してしまえば、頭の病気を疑われるかもしれん。

 

 でも、実際に見てしまったし。

 

「致命傷を受けた瞬間に、全回復する人が居たみたいな噂を聞いてな?」

「……へぇ? 興味があるわね、その噂」

 

 ここは俺が見た訳じゃなく、そういう噂を聞いたというだけに留めておこう。

 

 これなら、俺の正気を疑われないはず。

 

「それが事実なら、本当にその魔法具を持っていたのか、はたまた全く新しい治癒魔法か」

「もし、それが実現できるなら相当強力な魔法使いだよな」

「そうね。本当に、その術者が回復術師なら最高峰の術師でしょう」

 

 即座に致命傷を回復できる技術、と聞いてサクラは興味を示した。

 

 彼女の専門分野だもんな、そりゃあ興味もあろう。

 

「まぁ大概の場合、そう言った噂のオチはしょうもないけどねぇ」

「……オチ?」

「そう。前に伝記で読んだことあるわ、『即座にあらゆる兵士を回復させる最強の治癒術師』の冒険譚」

 

 ふぅ、とサクラは遠い目をした。

 

 ふむ、俺はそんな奴の話を聞いたことが無いが。

 

「へぇ、そんな凄い奴が居たんだな。そんな奴が居るなら、是非とも仲間にしたいもんだ」

「やめておいた方が良いわよぉ? この伝記にはオチがあるの」

「……おいおい。じゃあ勿体ぶらずに教えてくれよ、そのオチってのは何だ?」

 

 俺が尋ねると、サクラは悪戯っぽく笑って答えてくれた。

 

 

 

「なんとその魔法使いは回復術師じゃなく、死霊術師でした。彼は部下の兵士を皆殺しにして、自分の従順な手駒にして冒険をしていたのです」

「……えっ」

「彼が使っていたのは回復魔法ではなく『死体の修復魔法』でしかなかったのです。それがバレた彼は、国に指名手配されて失踪、今もなお大陸のどこかで死体を弄んでいると聞きます。おしまい」

 

 

 ……。

 

「嫌な気分になるジョークはやめてくれよ、お嬢」

「ジョークじゃないわぁ。本当に伝記に書いてあった話よ? 創作や都市伝説の類かもしれないけどね」

「そうであってほしいもんだ」

 

 おいおい勘弁してくれ。もしそうなら『イリューはとっくに死んでいて誰かに操られている』事になるが。

 

 しかし、イリューと話しても『操られた人間』なんて印象は受けなかったぞ。彼女は間違いなく、一人の人間として生きている感じだった。

 

「ま、噂は噂でしかないわ。深く考えない事ねぇ」

「そう、だな」

 

 俺はサクラに諭されて、一度考えるのを止めた。

 

 ……リョウガの墓。蘇生したイリューに、死霊術師の噂。

 

 俺は今、何か重大な事を見落としている気がする。イリューの件も、後でマイカに相談した方がいいだろうか。

 

 聡明な彼女なら、きっと俺の中のモヤモヤしたモノに答えを出してくれる気がする。マイカはとても頼りになる女性だ。

 

「まぁ何だ、相談に乗ってくれてありがとサクラお嬢」

「ええ、また何時でも来なさい」

 

 よし、難しい事はマイカに任せよう。

 

 俺が今やるべきことは、イリーネに戻る算段を立て直すのみだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……猿か」

「おう、カール」

 

 イリーネに戻る作戦を練るために部屋に戻ったら、カールが暗い顔で真ん中に座っていた。

 

 うわ、怖っ。

 

「どうしたんだお前」

「何か、メシが喉を通らなくてな」

「おいおい、しっかり食えよ。悪党族の根城が分かった時に、すぐに戦えないと話にならねぇぞ」

 

 見れば、カールはかなりやつれていた。頬はこけ、目も落ち窪んでいる。

 

 大事な仲間を二人も攫われたのだ。仲間想いの彼からしたら、今は凄く辛い状況なのだろう。

 

「それは分かってるんだがな。今、レヴやイリーネがどんな目に遭ってるかと思うと、気が気でなくて」

「心配なのは分かるよ、俺だって(レヴちゃんは)気がかりだ。だが、それでいざという時に戦えなきゃ本末転倒だぜ」

 

 彼がこうなっている原因の半分は、変装している俺である。

 

 ぐぬぬ、責任感じるなぁ。もう、ここでカールにだけ正体明かそうかな。

 

「レヴやイリーネは、とても魅力的な娘だ。悪党族の兄がついているレヴはともかく、貴族であるイリーネが何もされていないとは考えにくい」

「もしかしたら、少女レヴが静剣レイを通じて上手く庇ってるかもしれんぞ」

「そうだったらどれほど良いだろうな。でも、もし彼女が汚されていたらと思うと……」

 

 カールはそう言うと、メソメソ泣き始めた。

 

 う、うわぁ。これは良くない。

 

「……俺が不甲斐ないばっかりに」

「お前の責任じゃねぇだろ、カール」

「俺がもっと早く現場に駆けつけていれば。俺があの時、賊に追いつけていれば────」

 

 ……カールは落ち込むと、自分をけなす癖があるらしい。

 

 うん。前からそんな気がしていたけど、カールって結構内向的な性格だな。

 

「……うん、よし」

「何が、よしだよ猿」

「立てカール、ちょっと面貸せ」

 

 彼がこうなった原因は、俺にある。

 

 ここは俺が一肌脱いで、元気づけてやろう。

 

「……何をするんだ?」

「決まってるだろ」

 

 カールの肩を抱いて無理やり立たせ、俺はその手を引っ張る。

 

 彼は怪訝な顔をしているが、抵抗せずついて来てくれた。

 

 

「カール。今から夕日を背景に、殴り合おうぜ!!」

「……は?」

 

 

 よっしゃ!! じゃあちょっと、青春するとしますか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猿跳蹴(サッチッチー)!」

「ぐ。ふざけた名前なのに蹴りは鋭い!」

 

 そして俺は、カールを訓練所に連行して組み手を始めた。

 

 

 

『くよくよしている暇が有れば、己を高めて決戦に備えるべきではないのか軟弱者!!』

『────っ!! い、一理あるな猿仮面!!』

『身体を動かせば、クヨクヨした感情なぞ吹っ飛ぶ。そして腹も減る、飯も食える!! まさに良い事づくめだ!!』

 

 

 

 と、そんな感じに俺は、カールに筋肉式説得術を行った。

 

 悩んでいる時は体を動かした方がいい。気分が間違いなく前向きになれる。

 

猿連打(ラッシュ)!」

「うおおおお!! こんな怪しい奴に負けて堪るか!!」

 

 

 無論カールには、剣を置いて素手で戦って貰っている。

 

 彼には『絶対切断』の異能が有るので、剣ありで戦ったら俺が細切れにされてしまうのだ。

 

「もうちょっと普通の格好しろやぁ!! 毎回庇うの大変なんだぞお前ぇ!!」

「痛ったぁ!! よくもやったなこんちくしょう!!」

 

 しかし、素手でもカールはかなり強かった。

 

 どうやら勇者は、女神様の加護でえげつない倍率の身体強化が施されているらしい。

 

 俺が使用している身体強化魔法の倍率は1.2~1.3倍。これは、実家でバーベル(妹産)上げしながら検証したから、割と正確な数字だろう。

 

 だが恐らく、カールに施された身体強化の倍率は俺なんかの比ではない。

 

 以前聞いた話だが、カールは女神様に選ばれる前は重くて持てなかった大剣を、片手で軽々持ち上げられるようになったそうだ。

 

 この情報だけで少なくとも、2倍以上のバフはかかっていそうである。

 

「全力全開、猿パンチ!!」

「甘いぞぉぉぉぉ!!」

 

 つまり、カールは力勝負では負ける相手。

 

 現に俺は今、身体強化状態の全力パンチが受け止められ、そのまま力押しされている。

 

 

 勝てないのは、分かってはいたけど。

 

 それでもマッスルで負けるのだけは、無茶苦茶悔しいな。

 

「うおおおお、身体持ってくれよ!! 身体強化(けぇおうけん)、3倍だぁぁぁぁ!!」 

「む、重ね掛けか」

 

 常道であれば、力で勝てない相手には技で勝つべきだろう。

 

 だが、俺はいかなる相手であっても力で勝つことを諦めたくない。その敵がたとえ、女神に選ばれた勇者であっても!!

 

「これが、俺の全力だぁ!!」

「ぐ、流石に馬鹿力……」

 

 よし、なんとか押し留めたぞ。

 

 カールとは基礎筋肉量が違うのだ。強化魔法を重ね掛けをすれば、俺は勇者の身体能力に引けを取らない!

 

 

「食らえや、このモテモテ野郎ぉ!!」

「負けて堪るか、不審者野郎ぉ!!」

 

 

 ここから先は、意地のぶつかり合いだ。敵は選ばれた勇者と言えど、筋肉は譲れない。

 

 俺は筋肉だけは、どんな奴にも負けたくないのだ────

 

 

 

 

 

 

 

「……あら。アイツら、何やってるのかしら」

 

 やがて日暮れ前、マイカが自警団アジトに戻ってきて。

 

「マイカさん、お帰りなせぇ」

「あの二人、喧嘩でもしてるの?」

「いいや? アレが青春だって、馬鹿みたぁい」

 

 そんな男臭い3文ドラマのような殴り合いは、俺の『夕暮れを背景に殴り合いたい』と言う願望により陽が沈むまで行われたのだった。

 

 更に念のため、俺やカールが怪我をした時の為にサクラ主従に待機して貰った。

 

 長い時間付き合わせて申し訳ない。

 

「……まぁ、でもちょっとマシな顔色になってるわねカール」

「そうねぇ」

 

 日暮れを合図に、その日のカールとの訓練は終了した。

 

 心なしか、汗だくのカールの目に力が戻っている気もする。良きかな、良きかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようし集まったな、お前ら。今からレヴたんイリーネたん奪還会議を行う」

「よっしゃあ!」

 

 夕食の後。俺達カールパーティーは再びリョウガの部屋に召集された。

 

「朝は取り乱してすまなかったな。まぁ安心しろ、俺達にはレヴたんを害するつもりはない」

「………ああ、信じるさ」

 

 リョウガにとって『肉親の仇』の身内であるレヴ。

 

 そんなレヴが、向こうに拐われた。もしかしたら兄の説得に応じて、悪党族に下ってしまったかもしれない。

 

 だと言うのに、リョウガはレヴを害さないと宣言した。これは彼なりの漢気なのだろう。

 

「……まず俺達は、敵のアジトを特定しないとならん。今日も探索を進めていたが、やはり成果は芳しくない」

「まぁすぐ分かるような場所に、アジトを作らないわよねぇ。奴等、指名手配されてる訳だし」

「その通り。なので明日から、捜索につぎ込む兵力を増やすつもりだ。無論、お前らにも協力してもらいたい」

 

 ふむふむ、明日から俺達もアジト探索に参加するのか。

 

 レヴちゃんを助け出す為に自警団は動いてくれているんだ、協力しない理由は無いな。

 

「俺達の仲間の話なんだ、無論協力するさ」

「おう、頼んだぜ。自警団としても、出来ればお前達が居る間に悪党族と決着を付けたいんだ」

 

 カールは乗り気だった。明日と言わず今からでも、カールはすっ飛んでいきそうだ。

 

 俺との殴り愛(せいしゅん)で、いくらか前向きになってくれたらしい。

 

「で、だ。意気揚々としてるとこ悪いが、敢えて嫌な話をさせてもらう」

「……何だ?」

「怒るなよ? 敵は悪党族だ、今イリーネたんやレヴたんがどうなっているかは分からん。はっきり言うと、酷い目に遭わされた挙げ句もう殺されてる可能性もある」

「……」

「そうなった場合を想定して、冷静に対処できるようシミュレーションしておけ。それはあり得る未来だ、間違っても感情に飲まれて暴走するな」

 

 ……リョウガは、随分と厳しいことを言った。

 

 レヴちゃんが酷い目に遭わされて、殺されている可能性もある。確かに、それは事実だろう。

 

 もしそうなっていた時、果たして俺は冷静で要られるだろうか?

 

「……そんな事、考えたくもねぇ」

「考えておけ。イメージしておけ、想定しておけ。お前がこのパーティーの頭張ってると言うなら、それはお前の仕事だ」

 

 思わずカールは顔をしかめたが、リョウガは止まらない。

 

 ビシ、と自警団の主はきつい目付きでカールを指差して話を続けた。

 

「甘えるな。リーダーを名乗る人間が、自分の感情を御せずしてどうする」

「だ、だが……っ!」

「……それがどんだけ辛いかは、知ってるけどよ。今お前の隣に居る仲間が大切なら、ちゃんとしろ」

 

 

 

 ────その言葉には説得力が有った。

 

 何せ俺達は、ちゃんと見たのだ。リョウガがどんなに苦しい思いをしても、それを堪えてリーダーとして振る舞い続けてきた姿を。

 

 悪意や嫌がらせをもって、彼はそんな事を言い出したのではない。組織のリーダーを買って出た先達として、リョウガはカールに助言しているのだ。

 

「……お前には敵わねぇな、分かった。やっておく」

「頼んだぜ」

 

 それはきっと、カールにとってこの上なく辛い事だ。

 

 だがカールは逃げ出さず、その可能性に向き合うことを決めた。

 

「いつまでも、そんな汚れ仕事をマイカに任せる訳にはいかねぇからな」

「ん、まぁね。そう言う所は私が引き受けてたけど、そろそろカールは自立して良いかもね」

 

 もし何の対策も立てぬままその最悪の想定が的中していたとしたら、指揮官はマイカになっていただろう。

 

 このパーティーにおいてそんな一番冷徹で苦しいその仕事を、マイカは一人で背負い続けてきた。

 

「本来は、リーダーのカールの仕事だもんね」

 

 ……知らず、俺もマイカに助けられていたんだろうな。

 

 

 

「ひえー、遅刻ですー。ご飯食べてましたぁー」

「これで今日の議題は終わり。明日の朝にもう一度来てくれ、探索する場所の指示を出す」

「ありがとうリョウガ。じゃあ、今日はこれで解散だな」

「ひえー。来た瞬間に会議が終わりました、くすん」

 

 こうして、カールはリーダーとしての覚悟を固めた。

 

 リョウガは、組織の長としてはかなり理想に近い能力を持っている。彼から色々と刺激を受けて、カールも一回りでかい人間になって貰いたいもんだ。

 

「それとカールに猿、お前らかなり汗臭いぞ。ちゃんと風呂に入っとけよ」

「ああ、今から入るつもりだ。猿仮面、一緒にどうだ?」

「実は俺、お湯を浴びると体が女に変化する体質なんだ。だから一人で風呂に入らせてくれ」

「……あくまで仮面を取るつもりはねぇのな、お前。分かったよもう」

「あ、1番風呂は私が貰いますね。最初に風呂に入るのは、常にこのイリューです!」

 

 ふぅ、危ない危ない。

 

 風呂に入る時に今度こそイリーネと入れ替わるつもりなのだ、カールと一緒に風呂に入る訳にはいかない。イリューは先に入るみたいだし、一番最後に入ろうかな。

 

「にしても、レヴやイリーネが殺されていた場合を想定しておく、か。……もし静剣レイが二人を殺していた時、俺はどう行動すべきかかね? 即座に斬りかかってしまう気がする」

「敵が許せねぇことをした時こそ、冷静に場を見据えるんだ。より確実に『敵を潰す』為にな」

「おっふろー、おっふろー……、あ痛。ごめんなさい、ぶつかってしまいました」

「……痛い」

 

 カールは汗臭いまま、リョウガと話を続けている。まだ話は長くかかりそうだ。

 

 一方で強欲修道女イリューは、風呂と聞いて我先にと走りだした。そしてその勢いのまま、廊下で人にぶつかっている。

 

 ……ちょっと、落ち着きが無さすぎる。言動もかなり幼いよなぁ、イリュー。

 

「後が閊えてるしね、私達もイリューと一緒にお風呂戴いちゃいますか」

「そうねぇ。じゃあ、女性陣で先にお風呂貰うわぁ。覗かないでよ?」

「おう、行ってこい」

「……たんこぶ出来た」

「はわわ! ごめんなさいレヴさん、大丈夫ですか!」

 

 イリューはあの性格で冒険者やってて苦労しなかったのだろうか。俺はそんなに気にしないが、結構腹を立てる人も多い気がするぞ。

 

 そういや、彼女の前のパーティは仲違いで解散したって言ってたっけ。

 

 彼女自身も、パーティ解散の原因の一人なのかもしれない。

 

「あ、カール。ただいま……」

「おーい、サクラさん! 風呂に入る前に、レヴちゃんのたんこぶ見て貰えませんか?」

「あ、分かったわぁ。……その、えっと」

「別に、かすり傷だから大丈夫……」

 

 女性陣が先に風呂に入ってくれるなら都合良い。カールとリョウガ辺りも、議論したまま一緒に風呂浴びてもらえないかな。

 

 そしたら、俺は一人で悠々と湯船に────

 

「……あれ、みんな何で固まってるの?」

「…………」

 

 …………。

 

 

 おかしいな。レヴちゃんが、普通にリョウガの部屋に入ってきたぞ?

 

「えっ。あ、レヴちゃん、無事だったのか」

「……うん。無事に帰ってきたよ」

「あらあら。……本人、みたいねぇ」

 

 サクラは困惑しながらも、レヴちゃんを撫でて本人か確かめていた。

 

 よ、良かったけども。何で戻ってこれてるの?

 

「兄ぃに帰りたいって言ったら帰してくれた」

「えぇ……」

 

 ……それで良いのか静剣レイ。

 

「後これ、お土産。悪党族饅頭……」

「悪党族饅頭」

 

 微妙な空気の中、レヴは袋から『悪こそ華』と銘された謎の包みを取り出した。

 

 ……悪党族の静剣レイ、礼儀作法もしっかりしてるとは侮れない。

 

 


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