【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く 作:まさきたま(サンキューカッス)
レヴちゃんが帰還して、本人確認が行われている頃。
「おお、甘いです。意外と美味しいです」
「躊躇なく口にしたぞ、この女」
イリューは悪党族饅頭の包みを広げ、中に入った饅頭を貪っていた。
迷いが無さすぎる。この不用心さが、悪党族に捕らわれる原因となったに違いない。
「……私は外傷専門だからね。毒の対処とか知らないわよぉ?」
「だよな、普通に考えて毒入りだよなそれ」
「兄ぃがそんな事するかな……? でも、確かにその可能性も……」
周囲の心配をものともせず、イリューは饅頭を美味しそうに食べている。少なくとも速効性の毒は入っていないらしい。
だが、ゆっくり効くタイプの毒を饅頭に混ぜてある可能性は十分に有るだろう。
なのでイリュー以外は、悪党族饅頭に手をつける素振りを見せなかった。
「あれ、皆さん要らないんですか? 私が全部食べちゃいますよ」
「持って帰った私が言うのもアレだけど……。イリュー、大丈夫? 体に違和感とかない?」
「きゃああ! レヴさんが私を心配してくれてます! 可愛い!!」
「……うわ、ウザ」
饅頭のカスで口を汚し、フヒフヒ鼻を膨らませてレヴに抱きつくイリュー。
やりたい放題かこの女。
「心配しなくてもホラ、普通のお饅頭ですよー」
「……じゃあ、全部食べれば?」
「はいな、言われずとも! もぐもぐ……。うっ!?」
やがて、イリューが饅頭の1つを口にした瞬間。
突然に彼女は口を押さえて、苦しみ始めた。
「……どした、イリュー。大丈夫か?」
「唐辛子……。唐辛子が、饅頭の中にギッシリ……はひぃぃいい!?」
「おお、流石は悪党族」
案の定。饅頭には毒?が仕掛けられていたみたいだ。
イリューが吐き出した饅頭からは、真っ赤な唐辛子が山盛り顔を覗かせていた。
「あー。そう言う悪戯は、兄ぃ結構好き……」
「唐辛子入りの饅頭か。何て悪い連中だ」
「はひー!! はひぃぃぃ!!」
悪党族からの土産を、迂闊に食べないで良かった。
やはり慎重に行動する事が大切な様だ。
「……アホは置いておいて。皆に、報告がある……」
「報告?」
「明日、悪党族から再度襲撃があるらしい」
「むっ」
イリューが口を腫らしてのたうち回っている間に、レヴちゃんから大事な話が出た。
「襲撃だと!?」
「うん。と言っても見せ掛けだけの襲撃らしいけど」
「……見せ掛けだけ?」
曰く、明日になると悪党族が攻撃してくるそうだ。
見せ掛けだけ、とはどういう事なのか。
「……兄ぃは、そこでカールを投降させろって言った」
「は? 何で俺が悪党族に下らなきゃならん」
「……よく分かんない。レッサルは死人だらけとか、とても危ない街だとか? 色々言ってた……」
……カールが悪党族に下る、なぁ。
こいつの性格的に、絶対にあり得んと思うが。
「……兄ぃは、カールと敵対するつもりは無いんだって」
「で? ……殺されたくなければ俺に、悪党族の配下になれってか?」
「多分。……ただ、兄ぃはその、騙されてる気がする」
「騙されてる?」
少し申し訳無さそうに、レヴちゃんは話を続けた。
「……兄ぃの言ってる事、とても事実とは思えなかった。レッサルはもう滅んでいて、レッサルに今住んでいる人は皆死人だとか」
「……何だ、そりゃ。滅茶苦茶じゃねぇか」
「でも、兄ぃは本気だった。本気でそう思い込んでいそうだった……」
……レッサルに住んでいる人は、皆が死人?
そんなバカな話が、あるか?
「危ない薬でもやってんじゃねぇか、静剣は」
「で? それを俺達に伝えてどうしたいんだ?」
「兄ぃは、西門前に迎えに来ると言ってた。ソコで、兄ぃを捕らえたい」
レヴちゃんは、真っ直ぐリョウガを見つめて頭を下げた。
「レヴちゃん、良いのか?」
「……うん。どんな事情があるにしろ、兄ぃを悪党族に置いたままに出来ない。だから私は、兄ぃを捕らえて助けたい」
レヴちゃんは、兄の話を全く信じていない様子だ。
カールを連れ出しに来た兄を、逆に捕らえるつもりらしい。
「よくぞ知らせてくれた。……ふむ、じゃあそこでレイを生け捕りにしよう」
「……その後は、私から説得する」
「頼んだぜ、レヴちゃん」
こうして、レヴは再び俺達の下に帰ってきた。
勝負の日は明日。そこで俺達は静剣レイを捕らえ、悪党族を一網打尽にする。
レイが、説得に応じてくれると良いが。
そんなこんなで結局、敵のアジト捜索計画はお流れになった。
予想外の状況だが、レヴちゃんも帰ってきて実に良い流れだ。後は明日、レイを何とかして捕らえれば万事解決と言えるだろう。
だが、ここに大きな落とし穴が潜んでいた。
「イリーネ……? 居なかったよ、こっちには」
「えっ」
「……捕まってない、はず。捕まってたら、絶対に兄ぃの部隊と合流する筈だもん」
俺が悪党族に捕らわれていないことを、レヴちゃんに暴露されたからだ。
やばいですわ。
「じゃあ、イリーネは何処に行ったと言うんだ?」
「悪党族じゃなく、案外レッサル内のチンピラに監禁されてるかも知れん。街を探してみるか」
「そうねぇ」
「そうかもねぇ」
「お前らなんかやる気無いな」
このままだと、無駄にイリーネを探す労力を使わせることになる。
その挙げ句、猿仮面の正体が俺だとバレたら大顰蹙だろう。
「……あの、マイカさん、その」
「はいはい。協力したげるから」
流石に俺の手に余る状況になったので、マイカの力を借りて解決することにした。
彼女に任せておけば、きっと上手いことやってくれる。
そして翌日の朝一番、猿仮面は不思議な躍りをしながらリョウガの部屋にやってきた。
「おうおう、俺は誰にも縛られない猿だ! だから俺は、1人で悪党族のアジトを捜索するんだぜ!」
「……お、おお。好きにしろ」
なんと猿仮面は、たった一人で悪党族のアジトを探すというのだ。
イリーネ捜索とレイ捕縛の準備をしていたリョウガは微妙な顔をしたが、まぁ猿のする事だしと気にしなかった。
「今日の猿仮面、何か雰囲気違ったな」
「昨日より怪しく無いよな……。あんなに怪しく無いなんて、あの猿仮面は怪しくないか?」
「何だ、結局怪しいんじゃねぇか。ならいつも通りじゃね?」
と、猿仮面は普段より怪しくなかった事を不審がられたが、そのせいで怪しまれて事なきを得た。
「何か女拾ったぞ! ホラ」
「あ、イリーネ!?」
そして速やかに、猿仮面は目を回し気絶している
彼女はどうやら、山の中で眠っていたらしい。
「イリーネたん! 無事だったのか!」
「ふふ、俺にかかればこんなものよ。では俺は引き続き、悪党族のアジトの探索を行うぜ! じゃあな!」
「……お、おお。頑張ってくれ」
そう言うと猿仮面は、再び街の外に去っていった。
そんな猿の後を追うものは居なかった。
「お久しぶりですわ」
「久しぶり、じゃない。イリーネ、今まで何処に行ってたんだ」
「それが……」
3日ぶりに姿を見せた俺は、集まった皆の前で事情を話した。
何故、俺が今まで失踪していたのか。それは、
「実は私、レヴさんが連れ去られるのを見て、悪党族を追いかけていたのです」
「何と」
実は俺は捕まったのではなく、自主的に悪党族を追っていたのだ!
「ですが……森の中で敵を見失い、道に迷ってしまい。今まで森の中で遭難しておりました」
「おお、そうだったのか」
「土地勘の無いところで、一人になるのは良くないぞ。気を付けろ、イリーネたん」
「面目次第もありませんわ」
と、まぁこんな感じに。
俺はマイカの用意した完璧な言い訳で、無事イリーネへと戻ることが出来たのだった。
「……2度とあの仮面を被るのは御免よ。これっきりにしてよね、イリーネ」
「恩に着ますわ」
ネタバラしすると、先程まで猿仮面を被っていたのはマイカだ。
俺が拐われていない説明も、居なくなっていた理由も納得のいくもの。流石はマイカ、完璧なプランだ。
「じゃあ、今から私はレイをケチョンケチョンにする罠を仕掛けてくるわ」
「……程々になさってくださいね」
マイカは今から、悪党族対策の罠を仕掛けにいくらしい。
……忙しそうだが、1つ耳に入れておかねばならぬ事がある。
「あの。マイカさん、もう一つ内密な話があるのですが」
「……何? まだあるの?」
「イリューさんの件ですわ」
そう、俺が見たイリューの冒涜的な治癒だ。
あれは一体、何だったのか。サクラにそれとなく聞いてみたが、そんな回復魔術はかなり希少だと言う話だったが。
「……イリューが死にかけて、勝手に治癒した?」
「えぇ。私も目を疑ったのですが」
「む……」
俺の話を聞いて、マイカは再び考え込んだ。
「周囲に人影はなかったのね?」
「ええ。私とイリューさんだけでしたわ、それはしっかり確認しました」
「……何か、見落としてる気がするわね」
マイカは深く考え込むと、耳をピクピク動かす癖があるらしい。
彼女は暫く無言で、思案を続けていた。
「その、前に相談したリョウガさんのお墓の件もありますし」
「ああ、リョウガの墓ね。……アレについては、もうちょい時間を頂戴」
「分かりました。しかし死人が復活する、と言うのはあり得るのでしょうか」
「そうね。私は魔法に詳しくないし、回復魔法の専門家に聞かなきゃ分からないけど」
マイカは俺の疑問に、きっぱりとこう答えた。
「どんな勇者伝説を読んでも、死人が生き返ったなんて話は見なかったわね。そんな逸話を書いてるの、宗教書くらいじゃない?」
「それでは、作戦をおさらいするぞ」
レヴちゃんが教えてくれた襲撃時刻の直前。
俺達は最後のブリーフィングを行っていた。
「まずカール達は、悪党族に投降する振りをする。悪党族に向かってカールを先頭に、ゆっくり歩いていく」
「敵意が無いことを示すために、剣は抜かないでおくんだったな」
「そして、出来るだけ近付いた後……レイを拳で昏倒させる」
そう言ってリョウガは、カールに縄を渡した。
「それは、勝手に絡み付く魔法が掛けられた縄だ。不意をついてレイを昏倒させた後、これで身動きを封じろ」
「……分かった」
「その直後、周囲に隠れていた俺達が一斉に悪党族を捕縛する。上手く奇襲出来れば、一網打尽に出来るだろう」
俺達の作戦はシンプルな奇襲だった。
それは下手に大掛かりな事をせず、周囲に自警団を伏せておいて賊を包囲するというもの。
「この作戦の肝は、カールがレイを昏倒させられるかにかかってる」
「……ああ」
「一応、イリーネたんも自分に
「分かりましたわ」
リョウガは敢えて、かなり単純な作戦を提案した。
それはあまり大掛かりな事をしてしまうと、小回りが効きにくくなるかららしい。
「敵も、盲目的にカール達を信用しないと思う。おそらく半信半疑で、投降に応じてくるだろう」
「だろうな」
「その際に、想定外の事がありそうなら作戦を変える。全員、俺の指揮に従ってくれ」
つまりこれは、リョウガの判断能力と指揮能力を信頼しての策だ。
敵が何をしようとして来ても、即座に対応できる体制で静剣レイを迎え撃つ。
その為に、策をとことんシンプルな形にした。
「この作戦に嵌ってくれれば楽なんだがな」
「そうなる見込みも、結構高いと思ってるぜ?」
リョウガは、案外楽観的に事を考えているようだ。
悪党族は基本的に馬鹿の集まりだから、作戦勝ちしやすいのだとか。
「もうそろそろ、約束の時間だな」
「……うん」
レヴちゃんの話を信じるのであれば、まもなく悪党族が姿を見せる頃。
後は俺達が、上手くレイを騙しきるのみ。
「……おかしら! 見えましたぜ、悪党族が!」
「おうし、全員配置に着け! 陽動部隊、迎撃に当たる振りをしろ! 奴らに罠を悟られるな!」
「承知です!」
ちょうど、見張りからの報告が来た。
俺達の出番の様だ。
「レヴ、行くぞ」
「うん、カール」
ここでレイを捕らえて全てを終わらる。
このレッサルの街に、平和を取り戻す。
「レッサル自警団、出撃! ここで全てを終わらせるぞ!」
「「おう!」」
……だが、何なのだろう。何か、違和感がある。
大切な事を見落としている様な、感覚。
凄く不吉な事が起こりそうな、この嫌な予感は一体────
「兄ぃ!! ……約束通り、カールを説得して連れてきたよ!」
「……おお、レヴ。上手くやったのか」
街の外に出ると、見覚えのある顔が俺達を出迎えた。
それは数日前に俺の首を跳ね飛ばした男、『静剣レイ』率いる盗賊部隊だ。
「正直、説得が上手くいくとは思わなかった。……よくやったな、レヴ」
「……だって、レッサルは危ないんでしょ?」
「ああ、その町は本当に危険だ。その町に住み続ければ、いつか取り込まれ死者と区別できなくなる」
俺達の姿を見て、レイは頬を綻ばせた。
そして両手を上げながら投降する俺達を意外そうに眺めていた。
「……お前がカールか。あの時は、悪かったな」
「いや。お前にも、事情があったのだろう」
カールとレイは遠くから言葉を交わし合い、会釈を交わす。
……まだ、俺達が不意打ちを企てていることには気づいていなさそうだ。
「よく理解して、下ってくれた。歓迎するぜ」
「悪党に歓迎されたくはねぇんだが」
「まぁそう言うな」
少しづつ、歩いて行く。
敵意を見せず、表情を隠し、平静を装いながら。
「レヴちゃんの頼みじゃ無ければ、お前らに投降なんてするモノか」
「……おお。妹を大事にしてくれているらしいな、ありがたい」
「当り前だ。レヴちゃんは、大事な俺の仲間だ」
カールとレイの対話は続く。
その背後から俺やマイカ、サクラにイリューが後に続いている。
「安心しろよ。悪党に堕ちた俺と違って、お前らはお日様の下を歩ける人間だ」
「……」
「一生悪党族に入れなんて言うつもりはない。この地を抜けたなら、何処なりへと好きに行くといいさ」
レイとの距離は、後20歩ほど。ハッキリと、お互いの顔が目視できる距離。
カールが全力で踏み込めば、一瞬で詰められる距離。だが、確実にレイを昏倒させるのであればもう少し接近する必要がある。
「おっと、ストップ。悪いが、念のためその辺で武器を捨ててはくれないか。カール、お前の強さはよく把握している」
「何だ、案外信用されねぇのな」
「何事も安全第一、俺達からしてもお前の剣は怖いのさ。納得してくれ」
そう促され、俺達は武器を置くことにした。
元々、カールは素手でレイを昏倒させる予定だ。武器を置く事自体は、何ら問題がない。
「捨てたぞ」
「後ろの奴らも、一応捨ててくれ。特に魔法使いはな」
「この杖、とても高いのですけれど。丁重に扱ってくださるんですわよね?」
「ああ、丁寧に運ばせるさ」
カールの奇襲の邪魔をするわけにはいかない。それに俺は、杖なしでも十分な威力の魔法を使える。
なのでカールに倣って、俺も杖を捨てようとして────
「……あ、イリーネちょい待って」
「マイカさん?」
むんずと、マイカにその手を掴まれた。
「カールもストップ、ちょいと待って。時間を頂戴、1分……いや30秒でいいから」
「ど、どうしたマイカ?」
「ごめん、すぐ結論を出すから」
何やら彼女は、俺に杖を捨てるなと言いたいらしい。
この土壇場で、一体どうしたというんだろう。
「おい、カール。何をやっている?」
「すまない、レイ。俺の仲間の一人が、急にゴネだしてな」
「おいおい、パーティ内の意見の統一くらいやっておいてくれ」
マイカの目が、どこか遠くを見つめている。
それはレイでもカールでもない、彼女は何か、ずっと遠くを見つめていた。
「と、なると。……だから、で……」
「……おい、早くしろ。おまえら、おとなしく投降するのかしないのか」
「む……うん、そっか。よし、決めたわ」
やがて、ポンとマイカは手を打った。何やら、彼女の中で結論が出たらしい。
「カール、こっちに戻ってきなさい。アンタはイリーネを護衛して」
「おい、マイカ?」
「イリーネは今すぐ、あの……何とかいう、魔法無効空間を作って。ここらをスポッと覆えるくらいのサイズ」
「
「そう、それ。早く、今すぐに!!」
「え、あ、はい!!」
何だかよく分からないけど、俺は筋肉祭りを執り行わねばならないらしい。
まぁ、俺はあの魔法大好きなんで構わないけども。身体強化が解けてしまうのが痛いが。
「
「お、おい! そこの魔法使い、一体どういうつもりだ……! すぐに、その詠唱をやめろ!」
「これは、別に敵対的な呪文じゃないわよ? ただ、魔法を使えなくするだけの呪文」
「そんな訳の分からん呪文が有るか! 攻撃魔法だろう、それ以上続けるなら全員で攻撃するぞ!」
まぁそうなるよな、目の前で魔法使いが良く分からん呪文を詠唱し始めたら敵対行為にしか見えないよな!
マイカの剣幕に押されて詠唱始めちゃったけど、これって本当に大丈夫なのか?
「マイカ、お前何を考えている!?」
「カールは黙って私に従いなさい。多分、もうすぐ静剣が突っ込んでくるわよ」
「そりゃあそうだろうなぁ! 何でいきなり喧嘩売ってんだよ、説明しろよ!」
カールは喚きながらも、きちんと俺の前に立って護衛についてくれた。
理由も聞かされずに従うとは、マイカとカールの力関係は歴然らしい。
「……攻撃を開始する。全員矢を放て、あの女を止めろ」
「おうさ! あの女をぶっ殺して犯してやるぜ!」
「上物揃いで、ムラムラしてたんだ! やったぜ!」
レイの号令と共に、無数の矢が飛んでくる。このままでは、俺は矢で針鼠にされるだろう。
カールはすぐに剣を拾い、俺に降り注ぐ矢を捌き始めた。
「
「ナイスよ、サクラ!」
まもなく、サクラの援護で俺の目の前に土の壁が形成される。
これで、矢に対する盾が出来た。
「……そりゃどうも。で、マイカ、これはどういう了見かしらぁ?」
「まぁ、見てればすぐわかるわ」
「
そう言うとマイカは、目の前を真っすぐ指さして。
「────罠を張ってたのは、お互い様みたい」
その言葉と同時に、マイカはレヴの頬を張り飛ばした。
「……は?」
「囲まれてるわ。この周囲一帯に、凄まじい数の悪党族が潜んでいる。もうちょっと進んでたら、一網打尽にされてたわね」
間髪入れず、マイカはレヴちゃんの腹に蹴りを入れた。レヴは不意打ちを食らって、思わず倒れ込んでしまう。
────唖然。そのマイカの行動に、誰も反応が出来ない。
「大人しくしてもらうわよ」
「マイ、カ────」
レヴが、腹を押さえ苦しんでいる今が好機。
カールが貰った捕縛縄を使い、マイカはレヴを拘束しようとして、
「……私を舐めすぎ」
「……っ痛ぁい!! くっ、カール、フォローを! イリーネを守って!」
「守るって、はぁ!? イリーネを誰から────」
「まだ分かんないの!? その子が……」
レヴの実力を、マイカは把握していなかった。
レヴとマイカは付き合いこそ長いモノの、一緒に実戦を行った経験が無いのだ。
『戦闘』に関しては素人のマイカは、レヴの戦闘能力を過小評価しすぎていた。
「カール、ごめん」
「がっ!?」
それは、最小限の動きで無駄なく振るわれた手刀。それは、鮮やかにカールの後頭部に吸い込まれる。
パーティーでカール以外の唯一の近接戦闘職レヴ、彼女は比較対象がカールなので実力を過小評価されていたが……。
「ちょ速……!」
「ぐ、お嬢! 俺の後ろに!」
彼女は、その辺の冒険者パーティーの前衛職よりよっぽど強い『超優秀』な拳士なのだ。
いきなり仲間割れが起こり混乱の極致に合ったカールが、戦闘巧者のレヴの攻撃に反応できるはずもない。
「レヴ、貴女まさか!!」
「……口下手な私じゃ、説得は無理だったから。ごめん、絶対に悪いようにはしないから」
「────
こうしてカールの護衛を振り切ったレヴは、詠唱中で無防備な俺の背後に回って喉を締めあげた。
脳に血がいかず、目の前がブラックアウトしかける。
詠唱の最後の節は途切れ不発に終わり、そして魔法の維持に失敗した。
ああ、しまった。
「皆、動かないで。兄ぃの言う事を聞いて」
「……あぁ、そういうコト。私達、レヴの掌の上で転がされてたって事かしらぁ?」
「ごめん、後でいっぱい謝る……」
そのままレヴは、静かに俺の喉元に冷たいモノを突き付けた。
それは、この前に皆におねだりして、ヨウィンで買って貰ったばかりの『レヴの剣』。
「イリーネを殺されたくなければ、おとなしく投降して……っ!」
レヴちゃんは、泣き出しそうな声で。
声を震わせながら、懇願するように俺達に向かってそう叫んだ。
「……」
その剣を握る、少女の手は震えていた。