【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く 作:まさきたま(サンキューカッス)
「……そうなんだよ!! 俺は、俺は!!」
「おうおう、飲め飲め。そして全部吐き出しちまえ!」
……カールが店に来て数分後。酒に弱いカールは、速攻で悪い大人達に潰されていた。
魔族の話をしようとしては鼻で笑われ、そのまま酒を飲まされ。気付けは彼も、猥談の世界に引きずり込まれていた。
「俺だって、俺だって性欲がある! 必死で我慢してるんだ! でもマイカはからかってくるし、レヴにそんな事出来ないし、イリーネはすこぶる無防備だし!!」
「おいおい女の子の名前が3つも出てきたぞ」
「さてはコイツ、女誑しか! 許さん、もっと飲め!!」
「頂きます!!」
この場は男しかいない、下品な空間だ。その雰囲気に飲まれタガが外れたのか、普段は紳士っぽいカールが大変お乱れになっていた。
彼が溜め込んでいただろうエロ方面の愚痴を振り撒かれる。俺が聞いてはいけない類いの話が連呼される。
……うーわ、ちょっと面白い。
「おし、最初から話していけ。マイカってのは、どんな女なんだ?」
「俺の幼馴染みで、親友! あと胸がおっきい!」
「そーかそーか、おっぱい大きいのはいい女の証だな!」
「巨乳で幼馴染みで親友だと? この野郎、良い立ち位置獲得しやがって!」
「優しくて頭も良くて、本当に良い女なんだ。だけど……っ!!」
カールは酒の前に突っ伏して歯軋りしながら、涙声になってゴニョゴニョ呻き始める。
「もうずっと前にフラれたんだぁ~……」
「あーっはっはっはっ!!! そうかドンマイ!! 飲め!!」
「いだだぎます!!」
……え、マイカにフラれてんの? めっちゃ脈ありそうに見えたけど。
「決死の覚悟で一緒に冒険者になって着いてきてくれって言ったのに……。マイカのやつ、笑顔で『お断り♪』だもん……」
「そりゃ根本的に脈が無かったな!」
あー。それ、告白のつもりだったのか。
「今は一緒に旅してるんだろ? もう一度アタックしたらどうだ?」
「良いんだ、俺はもうフラれたんだ。フラれ虫なんだ……」
「こいつ酔わすと面白ぇな、ダハハハハ!!」
ダメだ、完全にフラれてると勘違いしている。マイカの真意は『冒険者なんて危ない仕事はやめて、故郷で私と一緒に暮らそうよ』なのに。
この男、さては鈍感系だな?
「他の女はどうなんだ? パーティーに3人女がいるんだろ?」
「レヴってどんな娘だ? エロい?」
「エロくねーよ!! レヴは、レヴはなぁ! 俺の大事な娘みたいなもんだ!!」
マイカの誤解をどう解こうか考えている間に、話題が流されてしまった。まぁ、機会を見て誤解を解いてあげよう。
「レヴはまだ未成年だ。年も5つ下だし、保護しているようなもん。そういう対象じゃない」
「5歳差くらいならアリじゃねぇの?」
「レヴはそういうのじゃないってば。親を失ったアイツを、たまたま俺が保護しているだけ。そんな弱味につけこんで関係迫ったら、レヴも断れないだろ。そんなの、男のやることじゃねぇ!!」
「まぁ、端からそんな男を見つけたらぶっ殺すわな」
「レヴは大人になるまでは俺が面倒を見る。そして、俺が見込んだ男と結婚させて、何不自由なく幸せに一生を暮らしてもらうんだ」
「こりゃダメだ、完全に父親目線だ」
……親、失ってたのかレヴちゃん。そういや、マイカもレヴちゃんは重い過去背負ってるって言ってたしな。
うん、なるべく優しくしてあげよう。
「そう言うの抜きにしたら、レヴって娘は可愛いのか?」
「そりゃあもう! 目元がくりくりしていて、顔立ちも整ってて、笑顔が輝いてる。将来は絶世の美女になるに違いない! ちょっと内気だけど優しい性格だし、何より裏表がない素直な子だ」
「ほう良いな、今度俺に紹介してく────」
「レヴに手を出したら殺す」
「うーわ、目がマジだ」
冗談でナンパしようとした男を、氷の様な目で睨み付けるカール。
やっぱこいつ、酔うと仲間誉めマシーンになるみたいだな。あと若干親バカだ。
「今は、レヴには俺だけいればいいの! 将来は涙を飲んで他の男に任せるから、今だけは俺の可愛いレヴでいて欲しいの!」
「これは気持ち悪い」
「レヴは可愛いんだぞ? 寝てると、怖い夢を見たっていって俺の布団に潜り込んで来たりとか、まだまだ甘えん坊でな」
「……ん? レヴちゃんって何歳?」
「13歳だ。本当に、可愛いさかりでな!」
だよな、レヴちゃん結構成長してるよな。
え、そんな歳の子が怖くて寝床に潜り込む……か? 流石に年齢的におかしいだろ。
「レヴはまだ一緒に水浴びしようとか、寝る前に抱っこしてとか、子供らしいところが多々あってな。それが本当に癒されると言うか、可愛くてな!」
「……いや、10歳超えてそれはねーだろ」
「レヴにはまだまだ俺が必要なんだ。絶対に、良い男を見つけてやるからな!」
……その年頃って、親に甘えたいというより異性を意識し始める思春期真っ只中では。
それ、レヴちゃんなりの不器用なアピールじゃないのか?
「てか、そんな年頃の女の子と一緒に水浴びしたのか?」
「いや、大体はマイカがそのまま引き摺っていく。そんなことしたらレヴが大きくなって色事を知った時、恥ずかしい思いをさせるからな」
いや、もう十分わかってる年齢だろ。誘われてるだけだろソレ。
「……まぁ、本人にその気は無さそうだから捨て置くか。コイツにロリコンの素養は無さそうだ」
「もし何か仕出かしたら殺すのは俺に任せろ。誰にもバレずに仕留めてやる」
「レヴは誰にもやらん! 俺が認めた男以外には触れさせん!!」
んー。頭が痛くなってきた。
カールは割とマトモな男だと思ってたけど、コイツ結構なアレだ。
「で、最後。イリーネって娘だっけ、残ってるの」
お、とうとう俺か。カールは俺の事をどう思っているんだろう。
「イリーネって娘はエロいのか?」
「エロい」
真顔で即答すんな!
え、エロい? 俺ってエロい要素有ったか!?
「イリーネは最近仲間になったところなんだが……。もう既に尋常じゃなくエロい」
「ほー、良いなぁ。俺もエロエロな女の仲間が欲しいぜ」
待て待て、待て。了見を聞こうか、俺がエロいってどういうことだ。
清楚オブ清楚な猫かぶりモードの俺は、他人から見れば完璧おしとやかお嬢様の筈。下ネタなんぞ言ったこともなければ、女の子にセクハラした事もない。
俺がエロいはずが────
「貴族で箱入りのお嬢様だからか、男の視線に無防備でさ。裸見られても気にする素振りがない。こないだなんか、水浴びを覗いちゃったのに褒められて……」
「水浴び覗いたのかよ」
「それは、エロいな。てか、かなり世間知らずじゃねーのそれ」
「多分イリーネは、家族以外の男と話した経験がないんだと思う。男に裸を見られる意味を理解していないみたい。普通、全裸見られたら怒るよなぁ……」
「無自覚系のエロお嬢様か。やばい、それは凄く羨ましいぞ」
────ああ、そう取られちゃうのね。
いや、男と話した事普通にあるぞ? 付き合いのある貴族の子息とか、社交界でよく喋るし。なんならお見合いまでしてるし。
「イリーネは何と言うか、浮世離れした雰囲気のある令嬢なんだ。ミステリアスな雰囲気もありつつ、親しみやすくもありつつ、しかも凄腕の魔法使い」
「はぁー。今までで一番羨ましいぞ、その娘。俺のパーティにくれよ」
「そればっかだなお前……。絶対に嫌だ」
言うほどミステリアスか、俺? マッスルテリアスなのは認めるが。
「貴族って言えば嫌味ったらしくて取っ付き難い印象だけど」
「いや、イリーネは物凄く親しみやすい。旅の最中は平民扱いしてくれって言い出して、一度も偉ぶったことが無い」
「マジ!? そんな貴族居るんだな」
「家がちゃんとしていて、育ちが良いんだろうな。蝶よ花よと育てられた娘は、無垢で素直な妖精みたいな女になるんだ」
「ああ、本当そんな感じ。イリーネは、妖精みたいな人なんだ」
……その妖精さん、ここで猿のお面被って下ネタで盛り上がってるけど。
カール、貴族令嬢に夢見過ぎじゃないか。あいつら大体は腹黒だぞ?
「きっとスプーンより重い物持ったことないんだぜ」
「重い荷物を持とうとして、『きゃっ』って言いながら尻餅ついたりしてさ。そこで男の俺が代わりに荷物を持って力強い所をアピールすればワンチャン……」
家では100㎏のダンベル(妹製)をフンフン言いながら持ち上げておりましたが。
「で、その娘は狙うのか? 他は対象外なんだろ?」
「えっ……? いや、イリーネは俺なんかとは釣り合わないし」
「男1人に女3人のパーティなんだから、全然ありだろ。むしろ、そのイリーネが別のパーティに彼氏作っちゃって、お前のパーティ抜けるとか言い出したらどうするんだ?」
「……、それは困る」
「だろ?」
え。こいつら、俺を口説くように話を持っていってないか?
余計なことをするな!
「いや、貴族と平民は身分差的にまずい様な」
「馬鹿、よく考えろ猿仮面。イリーネってのは、聞く限り箱入り世間知らずの純粋お嬢様だぞ? あっさり悪い男に騙されて、持ち帰られちゃうかもしれないんだぜ」
「そうならないためにも、カールがイリーネのハートを射止めて悪い男から守るんだ」
「そ、そうか? そういうものなのか?」
カールがちょっと説得されかかっている。余計なこと言うなこのクソ客共! 男からの好意なんぞ要らんわ!
「まずは『平民の冒険者同士、裸の付き合いが必須』とか適当な嘘並べて一緒に風呂に入ってだな」
「そこで油断したイリーネを情熱的に抱きしめて、押し倒し────」
「それ殺されても文句言えない奴だろ!?」
ほぼ強姦じゃねーか!!
「いい加減にしろよ、イリーネにそんな真似出来るか!!」
「えー、ノリ悪い奴だな」
おお、よく言った。当り前だよなカール。
「イリーネは、貴族の令嬢という身分を捨ててまで俺について来てくれた人だ。その信頼を裏切るくらいなら死んだ方がマシだ!」
「ちっ、生真面目な奴め。上手くノせれば面白いことになると思ったのに」
「じゃあ3人ともダメじゃね? お前は誰と付き合いたいんだよ」
「今は、まだ……。誰かを好きになってから改めて考える」
「しばらくは曖昧にお茶を濁して、ハーレムを堪能するつもりって訳ね。ちっ、お零れを口説き落とす作戦が……」
「お前らそんな事狙ってやがったのか!」
よし、よしよし。口説きに来られても困っていたところだ、良く我慢した。褒めてやるぞカール。
「まぁ冗談は抜きにしても、イリーネって娘はよく注意して見といてやれよ。箱入り娘ほど騙されやすいもんはねぇ」
「わかったよ。そういわれると心配になって来たな……。彼女、自分の部屋の代金は自分で支払いたいとか言ってバイト始めちゃったし」
「え、貴族が平民の下働きしてんの? それ大丈夫?」
「てか、ダメだろそれ。絶対騙されてひどい目に遭うぞ」
「今頃、『これが平民の仕事なのですね……』とか言って風俗で働いてるかもしれん」
「そ、そんな事は流石に……」
……。
別に騙されてはいないけれど、確かに風俗店で働いているな。
「いや、大丈夫。イリーネは、人の嘘を見破るのが得意だ。そう簡単に騙されたりなんか……」
「今までろくに男と話したことが無い貴族令嬢が、社会に出て悪い男の餌食にならないとでも?」
「もしかしたら、今誰かの上で腰を振ってたりするかもな?」
「……。明日、イリーネにどこで働いているのか聞いてみる。大丈夫、イリーネの事だから大丈夫だとは思うけど」
「ちょっと不安になってんじゃねーか」
ゲッ。
問いただされたらヤバい、下手にボロ出したら俺が風俗で働いてるのがバレる。
「本当にその無自覚お嬢様、どっかで働いてたりしてねぇかなぁ」
「貴族令嬢を汚してみてぇなぁ」
「大丈夫……、イリーネは大丈夫、うん」
よし、何か適当に考えておくか。
貴族が働いていて違和感のない仕事ってなんだ? どういえばカールを安心させることが出来る? まぁ、明日までにはなんか思いつくだろう。
「案外、この近くで働いてたりしてな。うーむ、こっそりイリーネちゃんが働いている事にかけて、ちょっと女買おうかな」
「本当にそうかもしれねぇぞ、買ってけ」
本当にそうなんだよなぁ。
だいたい同時刻。
「……」
「お嬢様、顔が真っ青ですが」
風俗街のある通りの、入り口付近。そこに何やらペンダントを握りしめ、顔を真っ青にしている小さな貴族令嬢が居たそうな。
「その、本当にこの先にイリーネ様が?」
「……」
「この道の先って、風俗街では?」
「そ、そそそそんなハズが……」
そのペンダントの示す、姉の所在は風俗店の中。時刻は深夜、ばっちり営業時間中である。
「姉様。ね、ねねね姉様ぁぁぁ!!?」
「イリアお嬢様!! どうか、お気を確かに!!」
「いやあああぁ!? 姉様が、姉様があああぁ!?」
「イリア様ぁぁぁ!! お、おいたわしや……」
想像だにしていなかったその事実に、妹は目をぐるぐる回しながら錯乱していた。尊敬する姉が、風俗などという汚らわしい場所にいるのだから無理もない。
「とうとう姉様が女を買いました!! 姉様が兄様になってしまいましたぁぁぁ!!」
「……え、そっちですか!?」
ただし、彼女はイリーネが体を売ってると全く考えていなかった。