【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く 作:まさきたま(サンキューカッス)
肌寒い朝風が、レッサルの郊外を吹ける。
「……」
「……」
全てが終わり、巨悪が堕ちた後。
悪党族の雑兵の肉体は、半日も持たずに朽ちていった。
『ありがとう、ありがとう』
『解放してくれて、ありがとう』
彼らは嗄れた声で礼を述べて、方々へ立ち去った。
死の間際まで神に祈る者、景色の良い死に場所を探しに行く者、その末期は様々であった。
「レイ、貴方────」
「……あぁ」
そう。人の骸は、放っておけばすぐに朽ちてしまうのだ。
そして死者となり、その御霊は女神の下へと導かれ行く。
これまでその身体を維持できていたのは、死霊術の恩恵に他ならない。
「……俺はもう、少し疲れた」
「そうですか」
……物言わぬ骸に囲まれて、剣士は独り言ちた。
死した魂は、女神によって救済される。それが、人間として生きた者の定め。
「────だがこれも、報いと言う奴なのだろう」
「……」
死霊術を受ければ、死者であろうと生きているかのように動け、話が出来る。
だから、例え
そして彼らと同じく、悪党族に堕ちボスに従っていた静剣レイは────
「……ヨイショ、ヨイショ」
「せめて服くらい着てはどうですの」
「……俺もそう思うのだ。是非、進言してくれないか」
『自警団』と記された赤ふんどし姿で、延々とレッサル郊外に穴を掘っていた。
「……ヨイショ、ヨイショ」
「ちなみに、それは何をしていますの?」
「墓地作りだ。奴に利用された憐れな骸を、眠らせてやる為のな」
「ああ、成る程」
静剣レイ。
悪党に心を操られ外道を成したその男は今、一人の少女の下僕であった。
「あの。私やサクラさんが土魔法を使えば一瞬で終わるのですが……やりましょうか?」
「俺としてはお願いしたいのだが。長が……」
「ダメです」
爽やかな汗を流し、一人で粛々と穴を堀り続ける男。
そのすぐ傍には、作業全体を指揮する女が立っていた。
「貴族のせいで悪党に堕ちたかもしれない人達のお墓です。それを魔法で作るなんてとんでもない」
「……はあ」
「イリーネさんを悪く言うつもりはありませんけど、私達はやっぱり魔法使いが嫌いなんです。ならせめて、お墓くらい手作業で作ってあげたいじゃないですか」
その少女は、ショートカットの黒髪を手拭いで纏めて。
照りつける太陽の中、自警団を指揮してレッサルの復興作業を進めていた。
「後、その格好は純粋な私怨」
「……私怨には飲まれないんじゃなかったのか」
「私怨で人は殺さないだけ。良いから働け、静剣」
言われてみれば、何故リョウガ────サヨリを女性と気付かなかったのか。
胸は皆無であるが、声や顔はボーイッシュな少女そのもの。
正体を知ってしまえば、もう少女にしか見えない。
「では、私に何か手伝うことは?」
「そうですね。お客様に手伝わせるのはなんですが、外壁の修繕などお願い出来ればありがたいです」
「心得ました」
自警団には、飯に寝床に世話になった。ここは、俺も手伝っておくとしよう。
それに今回の戦闘で、俺はずっと寝っぱなしだった。俺も手伝っておかないと『役立たず』の烙印を押されてしまうかもしれない。
「……兄ぃ」
そして同じく、今回の戦闘で『あんまり役に立たなかった仲間』のレヴちゃんは遠巻きにレイを見つめていた。
話しかけようとして、話しかけられない。そんな雰囲気だった。
「……妹には、嫌われてしまったみたいだな。まあ、これまでの俺の所業を思えば無理もない」
「いえ。純粋に『実の兄が赤ふんどしで穴掘りしている』から話しかけられないのでは」
レヴちゃんは思春期真っ只中の内気少女である。
そんな多感な年頃の彼女に、半裸赤褌の兄貴は辛いだろう。
よし。ここはパーティーの外交担当たる俺が、軽快なトークで場を盛り上げてレヴちゃんに話しかけやすくしてやろう。
「……にしてもレイ、良い身体をしていますわね貴方」
「む、どうしたいきなり」
「かなり、鍛え込んでいると見ましたわ。出来れば後で、格闘技術の指導をお願いしたく思いますの」
男を褒めるときは筋肉を褒めろ、これは俺の格言だ。筋肉を褒められて気分を害する奴は居ない。
それに実際、筋肉マイスターの俺から見ればレイの肉体は素晴らしい。純粋に剣術に必要な筋肉のみを鍛えてあるその肉体は、まさに芸術だ。
カールもそこそこ鍛え上がっているのだが、レイの肉質はレベルが違う。素朴で純粋な、筋肉美がそこにあった。
「……俺はまだ、修行中の身だ。それでも良ければ」
「よろしくお願いしますわ。敵がどんな猛者であろうと、一太刀に首を飛ばされない程度には鍛えて頂きたいです」
「……ああ、善処する。それが、貴様への贖罪になるのならば」
レイは、1度俺をぶっ殺しかけているのを気にしている様子だ。
あんなの、油断した俺が悪いんだから気にしなくていいのに。
「……しかし、お前。その、イリーネと言ったか」
「ええ」
「……お前も、相当に鍛えているだろう。お前の首を飛ばす時、スッパリ両断するつもりだった。思った以上に肉厚があって、首を残されたがな」
「笑えませんわね、そのお世辞は。……まぁ、貴族令嬢として美を保つ程度には、トレーニングもしておりますわ」
ふむ、コイツそんなに殺意高かったのか。
いやぁ鍛えていて本当に良かった、筋トレのお陰で命を救われた。
やはり、筋トレに勝る健康法は存在しないのだろう。
「美を保つ程度だと? ……その肉体、一流の女戦士に見えるが」
「……やめてくださいな、煽てても何も出ませんわよ」
「服の上からは分かり辛いが、なかなか引き締まっている。筋肉が偏重しておらず、全体のボディバランスも良い」
「あらやだ、おほほ」
えっ何? コイツすっごい誉めてくるんだけと。
もしかして口説かれてる系? 俺の筋肉にも春が来た?
「もう、そんな誉められましても困りますわ、おほほほ。いやもう、でも、分かってくださいます? 貴族であっても自己研鑽は必要ですし、それなりの努力はもう、おほほほ」
「……ああ、後は正しい身体の使い方を学べば優秀な
ベタ誉めですやん。これ口説かれてるのか? いや、だとしても嬉しいな。
そうなんだよ、結構これでも努力してるんだよ。お前に首飛ばされたり魔族に苦戦したりと、肉弾戦は負け続きで自信を失いかけてたけど。
俺の肉体、割と鍛えあげてるから強いはずだよな。
「ええ、ではご指導の程をよろしくお願いしますわ、おほほほほ。それよりレイさん、何かして欲しいことはあります? 後で紅茶でも淹れましょうか」
「……? いや、特に喉は渇いていないが」
「あらやだ、そうでしたか、やだオホホ」
レイ級の剣士に『肉体が完成している』なんて言って貰えたら、そりゃあ自信になる。
おお、俺の全身の筋肉も喜んでいるぞ。
ふふふ、今日は良い日になりそうだ。さっさと壁の修繕を終わらせて、レイに鍛えてもらおう。
「では、後程お時間をいただきに参りますわレイさん。楽しみにしておりますわよ」
「ああ、委細承知した」
ウキウキ鼻唄を鳴らしながら、俺はレイと別れた。
何か忘れてる気もするが、どうでもいいや。
よし。依頼されたレッサルの外壁、今まで以上に強力に作り直してやるぜ。
出血大サービス、魔法の大安売り。魔力が尽きちゃうかもしれないけど気にしない。
魔法なんて飾りなんですよ。偉い人にはそれが分からんのです。
「……カール。さっき兄ぃが、露骨にイリーネ口説いてた」
「何ぃ!? おいゴラァ、ちょっと面貸せや静剣」
「えっ」
……何か俺の背後が騒がしいけど、気にしないでおこう。
「……これより、訓練を行う」
夕刻。墓地作りや外壁補修も一段落した頃、俺は約束どおりレイに呼ばれ訓練してもらう事になった。
近接戦闘のスペシャリストの指導だ、この機会にみっちり鍛えてもらおう。
「よろしくお願いしますわ!」
「よろしく頼むぜ、静剣」
「……」
レイの剣技の凄さはよく知るところ。静剣レイと訓練する旨を伝えたら、カールやレヴちゃんも参加すると言い出した。
善き哉、善き哉。みんなで一緒に強くなろう。
「……ねぇ。兄ぃは何でまだ赤ふん────」
「カール。貴様は自分なりの剣術をもう持っているな?」
「あぁ、我流だがな」
「ならば実戦あるのみ。乱取りをしながら、貴様の剣の改善点を見つけていこう」
既にある程度強いカールは、実戦訓練を重ねるらしい。
良いなぁ、俺も早くその段階に進みたいぜ。
「イリーネ。お前はまだまだ体捌きが未熟だ、しばらくは型稽古を続けろ」
「……了解ですわ」
「今から俺の流派の徒手型を4つ教える。……これは我が一族の秘伝なので、なるべく他に伝授しないでくれ」
「おお……、そんな貴重なモノを」
俺は、何かレイの一族の秘伝流派的なものを教えてもらえるらしい。
え、マジで。良いの?
「……兄ぃ。何それ、私まだ習ってな────」
「この型はある程度身体が出来てないと難しい。しかし、貴様なら耐えうるだろう」
「分かりました! 是非、よろしくお願いします」
おお。本当に、何か凄いのを教えてもらえるみたいだ。
これで、俺も戦士を名乗れる感じになるのだろうか。
「そして最後にレヴ」
「……むすー」
「何を膨れている……」
最後に、静剣はレヴちゃんに向き合った。
「お前とは、今まで通りやるか。型合わせ、基礎鍛練、そして最後に組手だ。父が居ないので、総括は俺とやろう」
「……ぶー」
「何故そんなに機嫌が悪い」
……さっきから、露骨に無視してたからではないだろうか。
多分、都合が悪かったら流したんだろうけど。
「……兄ぃ。イリーネが習う型、私知らない」
「お前にはまだ早い」
「父ぅも、兄ぃもいつもそればっかり。私だって……」
「身体が出来てない間から強力な型を身に付けてしまうと、それに頼って無茶をするようになる。レヴ、貴様の体格ではまだ扱えん」
……レヴちゃんは、そう言われると何も言い返せないらしい。彼女は黙り込んで、ムスッと頬を膨らませた。
ふむ、レヴちゃんは兄とこう言う感じの関係だったんだな。師弟とまではいかないが、上下関係は有るらしい。
「じゃあ、最後に1つ。何で兄ぃは赤ふん────」
「よし、では稽古を始めよう」
レヴちゃんの質問は再び流され、少女は頬を膨らませる。
でもレヴちゃん。彼が赤ふんどしなのは、遠巻きに訓練を眺めて微笑んでいる
やがて、日は暮れて。
「カール様、イリーネ様、レヴ様。訓練お疲れ様でした、ここにタオルをご用意しております」
「お。サンキュー、リョウガ。……じゃなくて、サヨリちゃんか」
自警団の団長リョウガ改め、サヨリ。
彼女は何が面白いのか、ずっと俺達とレイの訓練に張り付いていた。
「サヨリさんは、訓練に参加されなくて良かったんですか?」
「私は今更、新たな流派を習得する理由もないですし。後、本来指揮官は後方で指示を出すものですから」
亡き兄さんの後を追って、今までは最前線に出張ってましたけどネ。
彼女は照れたように、そう笑った。
「やっぱり私は、兄さんほど強くは在れなかった。『リョウガ』という化けの皮がはがれた今、きっと私は戦士たり得ないでしょう」
「……だけど、貴女は兄とは違う強さを持っていた。個人としての武は兄が優れれど、軍団としての武は貴女が優れていた。そう、自警団の方からお聞きしましたわ」
「まさか、兄さんはきっと両方を私以上にこなしていましたよ。……私に流れる兄さんの血が、私に力を貸してくれただけです」
……そこには今までのリョウガとは全然違う、柔和な笑みを浮かべた少女がそこにいた。
これがきっと、サヨリ本来の『地』なのだろう。
「皆さんに感謝を。貴方達のお陰で、レッサルは守られました」
「……私は、その礼を受け取れませんわね。むしろ、貴女に救われた身です」
「いえ、イリーネ様。貴女がいなければ、あの悪党を滅ぼす事は叶いませんでした。それに、」
サヨリは、目一杯の笑顔を浮かべてカールに向き合い、
「……私も、カール様に救われたんです。おあいこですよ」
はにかみながら、カールにタオルを手渡した。
……その目には、何処か熱烈なモノを感じる。
あ、そっかぁ。
「……」
レヴちゃんもサヨリの熱烈視線に気付いた様で、やや目付きが険しくなった。
そういやカール、たった一人で悪党族に切り込んでサヨリを助けたんだもんな。そりゃフラグくらい立つわ。
……まぁ、普段の奴のエロバカっぷりを知れば、そのフラグはへし折れるだろうけど。
「もう風呂場は開いております。良ければこのままご利用ください」
「お、サンキュー」
そして案の定、カールはサヨリの熱烈視線に全く気付いていない。
安定感あるな。流石、幼馴染みの気持ちを曲解して勝手にフラレた奴は違うぜ。
「イリーネ達が、先に入ってくれ。後で、俺と静剣が最後に湯を貰う」
「……いえいえ。私は後からでも新鮮な湯を出せますので、カールさんこそお先にどうぞ」
「……む、良いのか?」
「なるべく新しい湯の方が良いでしょう。こう言う時、魔術師は後回しで良いのですわ」
……うん、これで良いのだ。
適当にこじつけたけど、本当はサヨリとカールを二人きりにしたら、レヴちゃんの目付きが怖くなるんだ。
「じゃあ、行くか静剣」
「レイで構わん」
俺の説得を受けて、男二人は風呂場へと歩いていった。
……男同士、二人きり、密室。良いなぁ、きっと馬鹿話で盛り上がるんだろうなぁ。
男子の馬鹿なノリは、久しく体験していない。サクラの店でバイトしてた時以来だろうか。
また、ああいうノリで騒ぎたいモノだ。
「赤ふんどし姿の兄ぃは、見たくなかった……」
「見ないふりをして差し上げましょう。それに、男子はそう言うノリ結構好きですわよ?」
「……兄ぃは、糞真面目だから」
まぁ、それは確かにそんな気がする。
「貴方の兄は、あんまり騒ぐタイプでは無いのですね」
「うん。多分、カールと二人でお風呂しても、事務的な事しか言わないんじゃないかな」
「……そんなものですか」
まー、確かにそうか。いくら男二人とはいえ、カールとレイが馬鹿話で盛り上がるとは考えにくいか。
下手したら、風呂でずっと無言とかありそう。
「ま、それも青春ですわ」
「……青春?」
風呂場で盛り上がったかどうか、後でカールに聞いてみよう。
女の前では格好つけてるだけで、レイも実は結構砕けた性格かもしれないし。
もしそうなら、猿仮面を被って飲みに誘っても良いかもしれない。
「レヴさん。私達は部屋で、湯浴みの準備をしておきましょうか」
「……うん」
まぁ、何にせよ。
カールに同年代の男友達が出来たのは良いことだ。
────その一方、風呂場にて。
「……おい、今何て言った、静剣」
「聞こえなかったのか、カール」
全裸の男は二人、浴槽で目を吊り上げて睨み合っていた。
一触即発。その時浴槽では、二人が敵対していた時のような緊迫感が漂っていた。
「ならばもう一度、言ってやろう」
「何ぃ!?」
静剣と呼ばれた男は目を伏せて。
何かを決意した顔になり、再びハッキリ宣言をした。
「覗きをするぞ、カールッ!!」
「アホか貴様ッ!!」
……風呂場では、イリーネの想像を遥かに超えた馬鹿話が展開されていた。
「まぁ、聞けカール。話の枕も聞かずに怒鳴られては、進まない」
「そんな話を進める気は無いんだが。お前ぶっ殺すよ? 俺の仲間を覗くとか言い出したらくびり殺すよ?」
大真面目な顔で、最低な計画を語ろうとするレイ。
実の妹も風呂に入るというのに、こいつは何を考えているのだろうか。レヴが聞いたら、絶縁でも食らうんじゃないか。
「無論、貴様の仲間を覗くつもりはない。妹も混じってるし、悪いしな」
「……当たり前だ」
静剣レイが仲間に手出しをする気がないと知り、いったん怒りを収めるカール。
彼の表情からは、呆れが強くなってきた。
「俺の仲間を覗かないなら、誰覗くんだよ。男にでも興味あるのか、お前」
「無論、サヨリだ」
「……それも大概悪いだろ」
レイは、どうやらサヨリを覗く心積もりらしい。
彼は、サヨリに相当負い目が有る筈だが、それを気にしないのか。
「……俺は、あの女に忠誠を誓った。それが、贖罪になるならと」
「おう、そう聞いたぜ」
「だからと言って……あの辱しめはどうなんだ」
「……ん。まぁ」
静剣は、風呂場で静かに涙を溢した。
実の妹の前で、赤ふんどし姿を強要される事。それは、一応クールな感じの兄貴だったレイにとって耐え難い恥辱だったのだ。
「……だが今後一生、俺が奴に尽くさねばならぬのは事実」
「まぁ、そうだな」
「ならばせめて……奴の風呂を覗くのさ」
「そこが分からない」
カールは、この時悟った。
レイは、結構なアホだと。
「そんな馬鹿なことに俺を誘うな。女の身体を盗み見るなんて、人間の風上にも置けない」
「妙だな。貴様は、新たに女の仲間が入る度に全裸を確認していると聞いたが」
「……してません」
確かに、(自分から確認は)していない。
「それに、もうサヨリとも一緒に風呂に入ったと聞いたぞ」
「……」
「俺は生まれてこの方覗きなどしたことがない。なので貴様に、その手腕をご教授願いたかったのだが」
「勝手に人を覗きのプロにしないでくれ」
どうやら今夜が覗きデビュー戦のレイは、その道のプロに指導してもらいたい様子だった。
……カールは、頭が痛くなった。
「それに、貴様にもメリットがある」
「……何だよ」
「恐らく、これで貴様のラッキースケベ体質は良くなるぞ」
「何ぃ!?」
しかし、続けて出てきたレイの言葉に、カールは興味を示した。
「女の身体を意図的に覗く。そんな男に、今後ラッキーが起こるはずもない」
「……いや、でも」
「それにサヨリ自身が今日、冗談混じりに自警団の仲間に笑ってこう言った。『私を覗いても構わないが、バレないようにしろ』と」
「……っ!!」
「そう。あの女、覗かれるのを気にしないタイプなんだ」
ここで、衝撃の新事実。
何と、サヨリは自警団に覗きOKを宣言していたというのだ。
「どうだ、カール。やらないか」
「いや、待て、でも」
「あの女自身が構わないと言っていたんだ。俺自身も軽い怨みがある、お前は妙な呪いが解ける」
「うぐ、うぐぐぐぐ」
「ここで攻めずして、何が男だ。覚悟を決めろ、戦士カール」
静剣による迫真の説得で、カールの心が揺らいだ。
カールだって男の子。女性の体に興味がない筈がない。
「奴は、一番最後に風呂を浴びるつもりだ」
「……」
「今夜、日没後。作戦を開始するぞ」
そう言って差し出されたレイの手を、
「そこまで言われたら……行くしかねぇか」
「ふ、分かってくれたか」
カールは、悩みながら握り返したのだった。
夜。
闇がレッサルを覆い、出歩く者もなく、静寂が場を包む中。
浴槽に火が焚かれ、女が一人入っていった。
「────行ったぞ、カール」
「────ああ、確認した」
アホが二人、男部屋からサヨリの様相を確認する。
……彼女は間違いなく、この深夜に湯浴みを開始した様子だ。
「ではマスター、後は頼みます」
「若ぇですなぁ、旦那」
二人は既に、マスターと口裏は合わせていた。
これで、男二人のアリバイは証明される。
「……作戦開始」
やがてレイとカール、二人の剣士は夜闇に紛れて出陣した。
「……サヨリの胸は、皆無だった。以前風呂で見た時は、完全に男だと思っていた」
「そうか。服の上から見てもそんな感じだな」
「だから、俺は愚かにも下を確認していなかったんだっ!」
「な、何て愚かなんだ、貴様は」
最低な会話を続けながら、二人は無駄に洗練された動きで浴場に忍び寄っていく。
カールもレイも、一流の剣士だ。その練度は、そこらにいる一般的な覗きと比べ物にならない。
彼らは、訓練された変態なのだ。
「間も無く目標地点に到達する」
「周囲の警戒を怠るな。しっかりと、足音を消して慎重に忍び寄れ」
やがて、彼らは浴場の目の前に到達した。
目標は目の前だ。カールはいよいよ、風呂場の排水口の傍へと近付こうとして────
「今夜は~こんなにも~月が綺麗ですから~」
「……っ!」
謎にハイテンションな女の声を聞き、咄嗟に身を伏せた。
「ニャンニャンニャンニャン、お月さまニャン♪ 猫も歩けば棒に当たるぅ」
それは、カールには聞き覚えの有る声だった。
そう、それはパーティーで一人戦場を離脱した修道女……。
「カールっ! あの女は誰だ!?」
「イリューだ! くそ、最も行動が読みにくい奴が出てきやがった」
小声で、カールとレイは叫び合う。そこに、目がイッてる頭のおかしい修道女が居たからだ。
何故、あの女は深夜に一人で歌を歌っているのか。
何故、月に猫が居るのか。
お月さまニャンって何なのか。
────全てが、常人の理解の範疇を逸脱している!!
「見かけないと思ったら、こんな所で奇行に走っていたとは!」
「……あのキャラの濃さ、お前の仲間だな! くそ、どうしてくれる!」
「別に俺の仲間はキャラ濃くねーよ! アイツが群を抜いて濃いだけだ」
「……そんな事はどうでも良い! カール、どうするつもりだ、この状況!」
「むっ……」
「あの女の目的は何だ? 何でこんな時間に彷徨いている?」
「分からん。イリューだけは、全てが何も分からん」
楽しげに唄う修道女を尻目に、カールとレイは口論する。
綿密に練った計画を、理解できぬ奇行でぶち壊されたのだ。それはもう、ヘイトも溜まろう。
「落ち着け、冷静になれカール。ここは潜伏し、奴が立ち去るのを見守るんだ……」
「そんな事をしたら、目標が風呂から上がるぞ! 目の前に、裸体が有るんだぞ!」
「悔しいが、耐えるしかない。ここは、雌伏の時なんだ」
しかし、修道女は歌をやめる気配がない。
実に楽しげに、イリューは月夜の下で舞い踊る。何かの儀式なのかもしれない。
「……もう、限界だ。これ以上は……」
「ああ。流石に、サヨリもそろそろ風呂からあがるだろう」
「ちくしょう、イリューめ。……とうしてあんなにも、風呂場は遠い────」
やがて、数十分が経ち。イリューはまだ、気持ちよく歌い続けていて。
修道女に場を離れるつもりが無いことを、二人の男は悟った。
「悔しいぞ、レイ……」
「帰ろう。帰れば、また来られるから」
ここで見つかってしまえば、女性陣からの評価が終わる。
二人の戦士は涙を飲んで、再戦を誓い立ち去った。
思えば、これがカールにとって初めての「スケベへの敗北」であった。
「……くしゅっ。カール様、まだかな……?」
そして。
「……くしゅっ」
いつまでも現れぬ覗き犯を待ち続け、軽い風邪を引いたという。