【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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7話「新たな敵!? 怪人ウサギ仮面襲来!」

「あら? あらあらあら?」

「……おや、これはどうも」

 

 俺達が拠点としている、宿屋の飯場。

 

 庶民向けの安いスープとパンを頬張りながら、今日もカール達と『魔族の情報をどう集めるか』話し合っていた矢先。

 

「話には聞いていましたが、本当に平民に身をやつしているのですねフォン・ヴェルモンド」

「あらサクラさん、ご機嫌よう。これも、目的の為を思えばですわ」

 

 ギャング令嬢のくすんだ茶髪が、風に揺れる。

 

 俺達カールパーティーは、店の視察にきた貴族サクラ・フォン・テンドーと邂逅を果たしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この店は、テンドー家の管理している店ですの?」

「ええ。宿泊・飲食系は大体私の家の関連店です。その方面が、私の実家の生業なので」

 

 話を聞いて、なんとビックリ。俺達が以前から利用していたこの宿屋は、彼女のグループが経営している店だったと言う。

 

 今日はそれで、たまたま視察にきたのだとか。そういや風俗を牛耳ってるギャングだもんなお前の家。

 

「それで。……ふむ、貴方がイリーネさんの仰っていた『魔王を打倒する者』カールですか?」

「あ、はい」

「……何か頼りない雰囲気ですわね。魔王復活の話は、本当の事ですの?」

「ほ、本当ですよ。俺自身、信じがたいとは思ってるんですけど」

 

 平民カールは、いきなり貴族に話を振られてテンパっている。この町の貴族はギャングあがりのエセ貴族だから、そんなに緊張する必要ないぞ。

 

「本人が信じがたい話を、私が信じられるとでも? まったく胡散臭い。この男は詐欺師ではありませんかヴェルムンド嬢」

「私は他人の戯言を鵜呑みにしたことはありませんわ。私の行動はすべて、自らの『人を見る目』を信じた結果です」

「そこまで仰るなら、何も言いませんが」

 

 サクラは半目で頼りなさげなカールを見下ろしている。

 

 まぁ、話だけ聞いてると完全に詐欺師だもんなコイツ。魔王復活するから資金カンパしろ、なんて普通信じない。

 

「……カールは、詐欺師じゃない」

「あらあら、詐欺師は皆そう言うものでしてよ」

「……む」

「レヴ、落ち着きなさい」

「子供のしつけもなっちゃいませんのね、これだから平民は。粗暴な方達とは、お付き合いしにくいわぁ」

 

 粗暴なのはお前の実家じゃい。

 

「貴族と言うのも家によって随分違うんですね。最初から平民を見下す人もいれば、きちんと話を聞いてくれる人もいる」

「あらあら。見下される人間には、見下されるだけの理由があると思わないかしら?」

「私達が何かしたとでも?」

「マイカさん、落ち着いてください」

 

 マイカは不機嫌そうに、サクラの顔を睨み付ける。

 

 うわっと、一触即発。何で喧嘩売るかなぁ、お互いに。

 

「魔族襲来の証拠を見せれば、私達に協力いただけるのでしょう? サクラ・フォン・テンドー。いずれまた、貴女のお顔を見に行きますわ」

「まぁそんな日が来るとは思わないですけど。精々お待ちしておりますわイリーネ・フォン・ヴェルムンド」

 

 そう言ってサクラは、含み笑いのままクルリと半回転した。

 

「ではご機嫌よう────」

 

 そして別れの挨拶も返せないままに、彼女はその場でスッと煙のように立ち消えた。

 

「……なっ?」

 

 ────瞬間移動、ないし透明化? 嘘だろ、超高度な奥義クラスの魔法じゃないか。

 

 これにはマイカ達も、目を見開いて驚く。ギャングまがいとはいえ、彼女も貴族なのだ。しっかり魔法は習得しているらしいが……、まさかこれ程の腕とは。

 

「消えた……」

「……あれって魔法? 瞬間移動? イリーネも出来るの……?」

「私には出来ませんわね。ああいった系統は苦手分野ですし、適正もない。そもそも奥義レベルの魔法ですわ、アレ。平野で見せた、ああいう攻撃系統の魔法は得手なのですが」

 

 というか魔法そんなに勉強してない。

 

 ガァーってしてドッカーンな攻撃魔法はフィーリングで習得できたが、他のややこしい魔法理論が必要な奴はサッパリだ。

 

 本物の魔法使いはめっちゃ頭がいい。サクラと比較されて、脳筋がバレないようにしよう。

 

「まぁ、でもみんな。あんな奥義クラスの魔法が使える人が、魔族の証拠さえ見つければ協力してくれるんだ。前向きに考えよう」

「うーん。協力はありがたいけど、私はあの人嫌いだな。すっごい見下された気がした」

「貴族なんて、あんなもん……」

 

 ……嫌悪感を持ってしまったか。

 

 うーん、サクラはむしろ、この街で一番まともな貴族なんだけどな。

 

 やっぱ平民と貴族って、根本的に相性悪いのね。搾取する側とされる側だし。

 

「イヤな事は忘れて、改めて今日の予定を立てようか」

「そうね。冒険者として多人数の依頼を受けて、旅の道中で仲間から情報集めるのはどうかしら。まだまだイリーネさんの実家の援助で余裕があるとはいえ、金銭面の事も考えていかないと」

「依頼は、全員で受けなくてもいいよね……? 私は情報収集専門で動きたい……」

 

 ま、今はそんな事を忘れて情報を────

 

 

 

 

 ……カサカサ。

 

 

 

 

「……ん、虫?」

「イリーネさんどうかした?」

「いや、その」

 

 今、どこかで虫がカサカサしている様な音が聞こえた。仮にもここは飯場なのだ、不用意な発言は避けよう。

 

 周りを見渡して、ゴキでも居るならこっそり駆除しておこうか────

 

 

「あっ」

 

 

 ────宿の入り口付近に、彼女が居た。先程高慢な態度で色々言っていた令嬢サクラは、テーブルの陰に隠れて耳を真っ赤にしながらカサカサ移動していた。

 

 ……彼女はどうやら魔法で瞬間移動していたのではなく、何もない所で音もなくコケたらしい。

 

「……何でもありませんわ。気のせいでした」

「ああ、そう」

 

 サクラはそのままコソコソと陰に隠れて、無事に宿屋を出て行った。あんな振る舞いをした直後にコケて、恥ずかしくて立ち上がれなかったようだ。

 

 貴族というのはプライドの生き物である。武士の情けだ、見なかったことにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、良いじゃない」

「マイカもそう思うか?」

 

 その日の昼頃。

 

 俺達は、兼ねてからの悲願だった新装備を購入した。

 

「うーわ、しっくり来る。昔から故郷で振ってた剣と、まるきり同じ感覚」

「ちょっとカールさんの背丈からは、長めの剣に見えますが」

「良いんだ、このずっしり来る感じが」

 

 カールの安い収入では購入できなかった、ロングソード。武骨で飾り気の無い、無機質な美しさの剣をカールは購入した。

 

 カールは自らの剣を眺めて頬を染め、うっとり興奮している。この男、武器オタクの気も有りそうだ。

 

 俺の裸体を見た時は顔を真っ青にしたくせに。

 

「マイカ達は何も買わなくて良いのか?」

「矢が補充できたし十分よ。それに、レヴ曰く品質はそんなにみたいだし」

「……そう。どれも中の下くらいの品質だから、あまり過信しない方が良い」

 

 マイカとレヴは、新しく装備を購入しなかった。お金の節約という意味もあるが、何より彼女達の自前の武器の方が品質が良いらしい。まだ劣化していないので、今まで通り使用するそうだ。

 

 つまり今回装備を購入したのは、俺とカールだけ。

 

「で。イリーネ、新しい装備はどう? 着れそう?」

「余裕で着れますわ。……もっとガッシリした鎧を想像していたのですが」

「……あんまり重いのは疲れる。女性はビキニアーマーが基本」

「筋力強化出来ますのに……」

「女性にフルアーマーは向かないわよ」

 

 そして、その俺の装備というか防具だが。

 

 急所守れるだけのビキニアーマーって、どないやねん!!

 

 てか冒険者の女って、本当にこんなの装備するんだ? エロいって感想しか出てこないんだが。

 

「フルプレートの鎧は本当に重いよ。普段から金属装備に慣れておかないと」

「結構、肌荒れるから気を付けてね。荷重がかかるところはスレてすぐ真っ赤になっちゃうから」

「……まぁ、今回はこれで納得しますわ。ですが次こそはフルアーマーを……」

「や、そもそも魔法使いが重装備するのはおかしいからな? 軽い防具つけてる人は多いけど」

 

 俺なら全身鎧くらい余裕なんだが。でも、モリモリマッチョウーマンだとバレると家の品位がなぁ。

 

「部屋に戻ったら1度着けてみて。もし重すぎて装備出来そうになかったら返しに行くわ」

「……了解ですわ」

 

 むー、しばらくはこれで我慢するか。

 

 全身鎧を着たかったなぁ……。きっと、すんごく良いトレーニングになったのになぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶぅぅぅぅっ!!」

 

 俺は部屋に戻ると、言われた通りに買ってもらった装備に着替え、仲間に見せに行った。

 

「イリーネ!! 何て格好しているの!?」

「えっ。いや、戴いたビキニアーマーを装備しようかと」

 

 やはり、ビキニアーマーは露出が多い。

 

 しかし今度からこの格好でうろつかないといけない訳で、慣れていかないと。

 

「お、おー……」

「……痴女」

「隠して、前! 前!」

 

 しかしニュー装備で部屋に入った俺の姿を見た瞬間、マイカが顔を真っ赤にしてブチ切れた。

 

 俺、また何かやっちゃいました?

 

「インナー!! インナー付けなさいよ、ビキニアーマーだけ装備する訳ないでしょう!?」

「え、そうなんですの?」

「見えてる、際どいところが色々と見えてるから!!」

「……そういや世間知らずのお嬢様だったな。いいかイリーネ、ビキニアーマーってのは下にタイツ型の服を────」

「ガン見しながら冷静に解説するな!! アンタは後ろを向いてろカール!!」

 

 どうやら、裸にビキニアーマーという痴女スタイルはこの世界ではおかしいらしい。うーん、前世のイメージに引っ張られ過ぎたか。

 

 そうだよね、横乳見えてるしほぼ下着だしこんなの痴女だよね。良かった、俺の感性はおかしくなかったんだ。

 

「……ビキニアーマーのつけ方、教える」

「あ、ありがとうございます」

 

 『どーしたもんかなぁ』と、流石の俺も恥ずかしくて頬を掻いていたら、呆れた目でレヴちゃんが俺の手を引いてくれた。

 

「部屋に来て」

「はーい」

 

 小動物的な彼女に引っ張られ、俺は部屋を後にする。

 

 まさか彼女が俺に話しかけてきてくれるなんて。ちょっとは打ち解けてきてくれたのかな?

 

 ビキニアーマーは失敗だったけど、これを機にレヴちゃんと距離を詰めたいな────

 

「それとあんまり、カールを誘惑するな……」

「あっハイ」

 

 違った、牽制だった。

 

 やっぱり三角関係なんですねぇこの人ら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう。イリーネ、少し聞いておきたかったんだけど」

「何ですのカール?」

「その。イリーネが働いている場所ってどんな場所なのかなって……」

 

 その日の晩。いつもの如くバイトに出かけようとしたら、カールが引き留めてきた。

 

 ふむ、例の質問だな。ちゃんと答えは用意しているぞ。

 

「サクラという貴族令嬢が居たでしょう。彼女の紹介で、飲食店の店員をやらせてもらっていますわ」

「あ、ああ成程。そういう感じなんだな、良かった」

「申し訳ありませんが、私が働いていることはサクラさんには内緒にしていてくださいね。彼女には『知り合いを推薦する』という体で仕事の紹介いただきましたので」

「分かった、了解。そっか、イリーネ本人が働いてたら外聞が悪いのか」

「そういうことですわ」

 

 こういう時はあまり嘘を言わず、一握りの嘘と真実を塗り固めて喋るのがコツだ。まるっきり嘘を言うより破綻しにくく、態度にも出難い。

 

「では行って参ります」

「うん、頑張ってね」

 

 これでカールは上手く誤魔化した。さぁ、今日も仕事を頑張ろう。

 

 

 

 

 だがしかし、この時の俺はまだ想像だにしていなかった。

 

 この時、出かけた先でまさかあんな奴と出会うことになるなんて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの如く、歩む夜道。

 

 猿の仮面をかぶり、安い皮装備で変装した俺は、その連中と出会った。

 

「……なっ!?」

 

 その得体のしれない存在は、夜の街にひっそりと佇んでいた。

 

 人影が二つ。それは篝火に照らされて、フワフワと民族衣装のようなローブをはためかせて。

 

 ────まっすぐに、俺の姿を見据えて立っていた。

 

「……っ」

 

 ギャングの連中ではない。それは一目でわかる。

 

 あいつらは、こんなにヤバそうな雰囲気の衣装を身に着けたりしない。

 

「────」

 

 向こうの人影も、俺の姿を見て幾分か動揺を見せた。

 

 俺の奇天烈な姿に驚いたのだろうか。だが、どう考えても怪しいのはお前らの姿だ。

 

 

 ニンマリと口元を歪めわらう、ウサギの仮面。

 

 何故か片方だけ千切れて短くなっている、2本のウサギ耳。

 

 人参の紋様が全体に描かれた、異様な雰囲気のローブ。

 

 

 ────この世の怪しいという言葉全てを詰め込んでも、この連中の異様さを表現できる言葉を知らない。

 

 まさに不審者・オブ・不審者と言った感じだ。

 

「さ、猿の仮面……?」

「な、なんて怪しい人。あんなに怪しい人がこの世に存在するのですか……?」

 

 数秒ほど、睨みあう。

 

 こいつらの目的はなんだ。見た感じは人間に見えるが、実は変装した魔族とかありえるかもしれない。

 

 俺は、一応はサクラに雇われた用心棒。この街の治安を守るためにも、少し職務質問させてもらおう。

 

「そこの怪しい二人。一体何者だ!?」

「お前に言われたくないです!!」

 

 むぅ、猪口才な。俺の姿よりおまえらの方が100倍は怪しいわ!!

 

「私達は事情があって世を忍ぶ姿を取っているだけ。貴方こそ、どんな事情でそのような姿をしているのですか」

「世を忍びたいならもっと目立たない姿を取ればいいだろ!! そんなザ・不審者みたいな姿をする理由になるか!!」

「わ、私だってそう言ったのですがお嬢様が────、ゲフン、ウサギちゃん戦士1号がどうしてもこの姿をしろと!!」

「お前らウサギちゃん戦士とか名乗ってるの!?」

 

 夜闇に照らされる、笑顔のウサギの仮面が不気味で仕方ない。その、道化のような台詞回しに会話の主導権が握れない。

 

「何ですか、いきなり話しかけて来て! 警備(ガード)を呼びますよ、猿の不審者!! 不気味で怖いんですよお前!!」

「上等だ、どちらが怪しいのか警備(ガード)に判断して貰おうじゃないか!」

 

 俺はこの日、今後の『人生の宿敵』になる不審者二人と出会ったのだった。

 


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