【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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70話「首都シュト修羅シュラバー」

 その日の朝食は無言だった。

 

 俺が並べた干し肉と、マスターが作った野草のスープを、皆が無言で食した。

 

「……」

 

 

 と、言うのも。

 

 明らかに機嫌が悪そうなレイが、カールに向け重圧を放っていたからだ。

 

 まったく。加入早々でパーティーの空気を悪くするとは、レイはいけない奴だなぁ。

 

「……ご馳走さま」

 

 ただ一人、機嫌良さそうなレヴちゃんは、カールの隣にチョコンと座り上目遣いで見上げていた。

 

 何処か、マイカに向けて勝ち誇っている雰囲気もある。

 

「カール……♪」

「お、おう」

 

 何せ彼女はやったのだ。ついに朴念神カールに、正面から思いを伝えたのだ。

 

 流石の彼も、言葉で思いを告げられたら理解するに違いない。

 

 そして、そのままレヴちゃんは夜の寵愛を────

 

 

「……ロリコンが居ますわ」

「ロリコンが居るわねぇ」

「違うっ!!」

 

 

 でもなぁ。いくら両想いったって、レヴちゃんに手を出すのはまだ早いと思うなぁ。

 

 前世基準だと投獄されるだろ。13歳って。

 

「で、結局のところ。昨夜、どうだったんだ?」

「……何があったかなんて、言えない」

「『何もなかった』と、証言して欲しいなレヴ!!」

 

 カールの腕を掴み、意味深で妖艶な笑みを浮かべる13歳。この場で最年少の少女が、一番大人びた表情してやがる。

 

 はてさて、実際のところはどうなのだろう。カールの性格的に、手は出してなさそうだが……。

 

 ……奴も、男だ。もしかしてヤった上で誤魔化してる可能性もあるか?

 

「本当かしらぁ?」

「信じてくれ、俺はその、本当に」

「ならカールさん、お手を拝借ですわ」

「え? あ、ああ」

 

 しどろもどろで誤魔化しているカールの、その掌を掴んでみる。

 

 さてさて、試してやるか。

 

「はい」

 

 そのまま俺は、カールの手をむんずと自慢の胸に押し当ててみた。

 

 どうだデカいだろう。

 

 

「……ほあああああ!!?」

「ふむ、顔真っ赤」

 

 いきなり俺の胸を掴まされたカールは、大声で叫んで手を振り払った。

 

 その後、真っ赤になって自分の手と俺の顔を交互に眺めて硬直している。ふむ、この反応……

 

「カールは、童貞(シロ)ですわね」

「何処触らせてるんだイリィネェェェ!!!」

 

 一皮むけた男の反応ではないな。やはり、レヴちゃんが意味深に悪ノリしているだけだろう。

 

「はぁ。イリーネ、慎みとか持ちなさいよぉ……」

「別に胸くらい構わないでしょう。サクラさんだって、ふざけて触ってくるではありませんの」

「私は同性よ。それに、治療の確認の為だしぃ」

 

 カールに胸を掴ませた事で、サクラが非難がましい目で見てきた。

 

 ……まぁ、確かに少し慎みが足りなかったかな。ちと暴走かもしれん。

 

「イリーネ。あまりカールを誘惑しないで……」

「あ、ハイ」

 

 久しぶりに、レヴちゃんから睨まれた。

 

 そういや初めて会った時も、こんな感じで言われたっけ。

 

「触っていいなら俺も胸触らせてもらいますぜ、イリーネのお嬢。誰にでも胸を触らせてる女、なんて噂が立っても良いんですかい?」

「あ、その」

「仲間内の悪ノリにしろ、一線はある。イリーネのお嬢は魅力的なんだ、男も理性が無限にある訳じゃない。気軽に、人に肌を触れさせるべきではねぇです」

 

 そして、マスターからガチ寄りの説教が入る。

 

 ……うーん、これは結構本気で怒られてるな。

 

「申し訳ありませんでしたわ」

「分かればよろしい。……改めて、貴方って箱入りお嬢様なのねぇ」

 

 まぁ、確かに社交界含めてパパンに死ぬほど守られてた感じはする。

 

 別に胸触らせるくらいどってことないが、ここは素直に反省しておこう。

 

「それはそれとして、私もイリーネさんのおっぱい触りたいです!!」

「お前今の話聞いてた?」

 

 イリューは何も話を聞いていなかったのか、ワキワキ手を動かして俺に近づいてきた。

 

 何だコイツ。

 

「同性ならセーフです!」

「殿方の前はアウトよぉ。ほら、カールを見なさい」

 

 サクラは相変わらず行動が読めないイリューに、背後で未だに顔を赤くしているカールを指さした。

 

「イリーネが胸を揉まれるのを期待して、ガン見してるわよぉ?」

「おお、エロ猿発見です!! 確かにアレは駄目ですね、やめときましょう」

「ガ、ガガガン見してねぇよ!?」

 

 アイツ本当にエロいなぁ。まぁ、胸触らせた俺が言う事じゃねぇけど。

 

「まぁまぁ、カールの旦那も若いんだ。期待しちまうくらい、許してやってくだせぇ」

「でも、ほら。あそこの静剣レイなんか、イリーネさんの胸に全く反応してないです!」

「……カールを殺す」

「徒に女性を性的に見ないで、硬派を貫くその姿。カールさんは、もっとレイを見習うべきですね!」

「殺意込めてカールさんを凝視するのが、健全と言えるのでしょうか……」

 

 アイツは妹を取られて赫怒しているから、俺の胸に目が行っていないだけでは。

 

 まぁ、そもそもレイはあんまりスケベじゃなさそうだけども。

 

「で、だ。結局、カールとレヴちゃんはくっつくんですかい?」

「ちょ、ちょっと待ってほしい。それはまだ、結論が……」

「むー」

 

 必死でお茶を濁そうとするカールに、不満げな表情のレヴちゃん。

 

 良いから私と付き合えよ、と言った表情だ。レヴちゃんはマイカの気持ちを知っているから、焦っているのかもしれない。

 

「もうすぐ首都に付きますし、そこでデートして決めればいいんじゃないですの?」

「おお、首都デート……」

 

 首都デート、と言う単語にレヴちゃんは乗り気になった。

 

 カールに向けて鼻息荒く、期待した視線を送っている。あれは、断れまい。

 

「わ、分かった。首都でデートしよう」

「……やった♪」

 

 カールの言葉を聞いて、頬を緩める少女。

 

 まぁ、俺としてはカールが誰とくっつこうと知った事ではないが。

 

 

「……」

 

 

 さっきから、マイカが無言を貫いているのが怖い。ここに来てなお動かないとは、何か策略でもあるのだろうか。

 

 冷静沈着、冷徹非情に目的を達成する彼女。そんな彼女が本気を出せば、きっと想像だにしない手段でカールの心をかっさらっていくに違いない。

 

 しかし、マイカはレヴちゃんと仲が良い。妹分のような関係ですらある。

 

 同じ男を取り合っているとはいえ、問答無用で奪っていいモノか逡巡しているのかもしれない。

 

「じゃあ行こ、カール。首都ぺディアに……」

「え、あ、ああ」

 

 仲良し少女2人の、男の取り合い。

 

 レヴちゃんを優しく握るカールの手を、マイカは無表情に見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の昼過ぎ、俺達は首都の門をくぐった。

 

 話に聞いていた通り、この国の首都は活気と栄華に満ちていた。

 

 門の周囲には強固なレンガの外壁が、色鮮やかに塗装されている。

 

 そして門を潜れば、四方に広がる近代造りの建築物の数々。

 

 街路はしっかり整備され、下水道が隙間なく配置してあり、何処を見ても祭りの日のような人混みになっている。

 

 ここが、首都ぺディア。

 

「入り口付近には宿屋が多いわ。旅人はこの辺で、宿を見繕うのだけれど」

「ふむ、成程」

「私達は聖堂に泊まる予定だから、この場所に用はないわ。さっさと奥へと進みましょ」

 

 表情の固いマイカ曰く、入り口の付近には宿屋が多く営業しているようで、旅人はまずここで拠点を見繕うのだとか。

 

 奥に行くとそれぞれ信仰エリア、鍛冶エリア、食事エリア、物販エリア、兵士エリアと細かく居住分けされている。

 

 そして街のその最奥に、『ペディア城』が建築されており。街の中に城壁で囲まれた第二の『城門』が有るのだとか。

 

「ペディア城の城壁の中が、貴族エリアなんだ。あの中に、大物貴族たちの居住区が有る。基本的に、王族ばっかりらしい」

「……では私みたいな伯爵家では、入れませんわね」

 

 街の奥を見ると、豪華で荘厳な石造りの城がそびえたっているのが見える。

 

 あれが、ペディア城。王の住む、この国の権威の象徴。

 

「ガリウス様に挨拶をと思ったけど、許可証がいるし厳しいかな」

「面会は無理でしょうね。手紙くらいなら、許されるんじゃないかしらぁ?」

「……冒険者からの手紙が、ガリウス様に届くかも微妙ですわ。まぁ、無理して面会する必要もないでしょう」

 

 あっちは何か凄い議会の議長さんで、今代の王様の直弟。俺達木っ端冒険者が、そう簡単に会えるわけがない。

 

「信仰エリアって、あの辺?」

「いかにもっていう感じの服装の連中ねぇ。全員修道服を着てまぁ」

 

 なので俺達は面会を求めず、ペディアに数日滞在して装備を整えるだけにした。

 

 具体的には、俺やカール、レヴちゃんの鎧など防具の新調である。

 

「レッサルで結構、防具も傷んでしまいましたからね」

「斬りまくったから、剣も研いでもらわなきゃなぁ」

 

 俺のビキニアーマーは、もう傷だらけになっていた。レイに首を飛ばされた時の衝撃で、仕込まれた鉄網もズタズタになっている。

 

 もともとレーウィンで買った、あまり品質のよくない防具だ。そろそろ、換え時だろう。

 

「鎧なら3日もあれば、出来るでしょ」

 

 鎧を購入する場合、既存品を調整して貰うだけなら数日で済む。

 

 その数日間だけ首都を観光し、仕上がり次第湾岸都市に向けて出発するのだ。

 

 女神様の期限まであと10日強もある。ここで数日滞在しても、余裕で間に合うだろう。

 

「……カール♪」

「あー、その」

 

 つまり、その数日間はカールはレヴちゃんとデートし放題。

 

 この色男は小動物系少女を侍らせて、たっぷり首都の街を観光するのだ。

 

 うら……いやらしいですわ。

 

「にしても、セファ教の聖堂ってどこかしらねぇ?」

「右見ても左見ても、マクロ教の建物ばっかり。やはり、最大宗派は違いますわ」

 

 このエリアには色んな宗派の聖堂が集まる、と聞いていたが右を見ても左を見てもマクロ教の施設ばかりだ。

 

 セファのセの字も見当たらない。やはり、セファはマイナーな神様に違いない。

 

「ああ、ここはマクロ教の区域なのさ。宗派が違う施設が隣接してると争いが耐えないからね」

「あら、そうなんですの」

「宗教エリアの中でも、宗派毎にこまかく区域分けされているよ。セファ教の人は……確か、東奥の区画だったかね」

 

 と思ったが、単に宗教エリアの入り口にマクロ教の区画が配置されていただけだった。

 

 セファ教信者の区画も、ちゃんとあるらしい。通りすがりの優しそうなおじさんに、そう教えてもらった。

 

「他の宗派の人に言うのは微妙だけど、君達にマクロ様のご加護のあらんことを」

「貴方のご厚意に、感謝いたしますわ」

 

 さてさて、場所は分かった。いよいよ我らが主女神の聖堂に向かおう。

 

「セファ様の聖堂……、か」

「どんな人が出てくるんでしょう」

 

 司教も、あのフワフワ間延びした感じで話しかけてくるんだろうか。

 

 ので~、です~とか媚び媚びした口調で、偉そうに色々説教してくるのだろうか。

 

 やだなぁ、殺意沸いたらどうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お会いできて光栄です、勇者様。貴方の事は子細、我が神より聞き及んでおります」

「えっ、あ、どうも」

 

 その聖堂は、古いながらしっかり手入れされた建物だった。

 

 外壁に蔦が巻き付き放題になっているが、本館はきっちり清掃されており。

 

 くすんだ石作りの、落ち着いた雰囲気の聖堂であった。

 

「当方は当聖堂を取り仕切っております、アルドレイ・ミーシャと申します。以後、お見知りおきを」

「めっちゃカッチリした人が出てきたぞオイ」

 

 その聖堂の門戸をたたいてみると、ビシっとしたスーツ調の服を着た女性が俺達を出迎えてくれた。

 

 ……これが、セファ教の方なのだろうか。

 

「貴女は、カールが勇者って知ってるんですか?」

「我が女神より神託を賜っております。まもなく、女神様に力を託された勇者がこの教会を訪れると」

「はえー」

 

 なるほど、あの神様は俺たちが此処に寄ることを見通していたのか。

 

「カール様達が此処を訪れたなら、最大限の助力をせよと仰せつかっています。残念ながら当聖堂は裕福とは言えず、あまり資金面での援助はできませんが」

「い、いえいえとんでもない。ただ、宿泊をさせていただきたいな、とは」

「無論、喜んで。皆々様に個室をご用意することはできませんが、この聖堂の施設でよろしければ何でも自由にご利用ください」

 

 ハキハキと受け答えをする、司教らしき女性。何となく、仕事ができそうなオーラが漂っている。

 

 セファ教って、もっと間延びしたイメージだったけどな。女神的に。

 

「では、ご案内します。幸い今は誰も宿泊者がいないので、宿舎はカール様の貸し切りになりますよ」

 

 まぁ、話が早いのは助かるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───その日は、聖堂に荷物を預けて防具屋を回って一日が終わった。

 

 俺たちはそれぞれ体に合う防具を選び、調整を依頼した。

 

「へぇ、いいじゃない」

 

 聖堂の宿舎は、思ったより快適そうだった。

 

 それは前もって聞いていた『大広間の雑魚寝』ではなく、ベッドが十数個ほど並べられた部屋でそれぞれ小さなカーテンで仕切りが出来るようになっていた。

 

 荷物は聖堂内部の鍵付き倉庫でまとめて預かってもらえるし、希望すれば朝食にパンとスープを出してもらえるそうだ。

 

 俺たちは無料で良いそうだが、別に普通の旅人としてきても30Gで済むらしい。レッサルの聖堂の十倍以上安い。

 

「当聖堂はマクロ教と同じ値段で、よりサービスを良くしてるんですよ。宿泊者にベッドが付くなんてサービス、向こうはやってませんからね」

「ほう」

「そうすれば、宗派にこだわらない冒険者はセファ教の聖堂を利用するようになるでしょう? そういう人を少しずつ取り込んで、信者を増やしていくのです」

 

 この微妙な待遇の良さは、信者を増やすための戦略らしい。

 

 何やら、マイナー宗派の司教はマイナーなりに色々考えている様だ。

 

 

「じゃあ、明日はいよいよ……」

「わ、わかったわかった。二人で出かけよう、レヴ」

「うん……」

 

 

 こうして、俺たちの首都での1日目は終わった。

 

 防具が完成するのは、3日後だそうだ。つまりあと2日間、俺たちは首都を観光することができる。

 

 俺は、カールとレヴちゃんのデートの邪魔なんて野暮をするつもりはない。二人にはしっかり楽しんできてもらいたい。

 

 となると、静剣を誘って訓練に明け暮れるか。はたまた、サクラを誘って街を回ってみるか。

 

 サクラも首都は初めてといっていたな。ならば、マイカあたりも誘って案内してもらうのもありか。

 

 マイカは放っておくと、カール達の邪魔をしそうな気もするし。

 

 そんなことをボンヤリ考えながら、俺は聖堂のベッドの中で微睡に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いこ、カール♪」

「わかった、わかった」

 

 朝一番。

 

 幼女と勇者は、華やかな首都ペディアの街道へと出発した。

 

「いってらっしゃいませ」

「ちゃんとエスコートしなさいよぉ」

「妹に何かしたら斬る」

 

 その微笑ましい光景を、俺たちは笑って見送った。

 

 若干、妹に絡みすぎてビンタを貰った(レイ)は、不貞腐れた顔をしていたが。

 

「さて、私たちはどうする? 一緒に物販エリアでも回らないかしらぁ?」

「良いですわね。では、準備しましょうか」

 

 俺から声をかけるまでもなく、サクラが俺をウインドウショッピングに誘ってくれた。

 

 誘われたからには断る理由もない。友人と気楽に店を回るのも悪くない。

 

「レイにマイカ、貴方たちはどうする?」

「……無論、カール達の追跡を───」

「あ、私たちと一緒に来るんですわね? 賢明ですわ」

 

 レイは迷わずストーキングしようとしたので、むんずと首根っこを捕まえておく。

 

 この野郎、行かせるか。

 

「解せぬ」

「はいはい、シスコンも度が過ぎると嫌われますわよ。では、マイカさんはどうされます?」

「……どうしようか」

「あら、予定がないのね? なら、一緒に来なさいよぉ」

 

 マイカは、特にやることはない様子。よかった、マイカまで2人をストーキングとか言い出したらどうしようかと思った。

 

 流石に彼女は、理性的だ。

 

「ねぇ、私どうすればいいと思う?」

「いや、だから。私達と一緒に街を回りましょ?」

「……その、だから」

 

 このまま皆でウインドウショッピングというのも悪くない。旅の良い思い出になるだろう。

 

 それで、デートから戻ってきたカール達を、夜にからかうのだ。きっと楽しい1日になる。

 

 

 

 

「……このままじゃ、カール取られちゃうかもしれないんだけど!! 私、どうすればいいかなぁ!?」

「えぇ……?」

 

 

 突如マイカは、見たこともないほど取り乱しながら俺の肩を抱いてゆすり始めた。

 

 ……えぇ?

 

「ちょ、マイ、かさん、ゆすら、ないで、ですわ!!」

「ど、どうしようどうしよう! まさかレヴが、えええ!?」

「お、落ち着きなさいよぉ。貴女らしくない」

 

 テンパっている。尋常じゃなく、マイカはテンパっている。

 

 昨日から口数が少なかったのは、まだ再起動を終えていなかったかららしい。

 

「こ、こここのままじゃカールが!! レヴとくっついちゃうわ!!」

「……ええ、まぁそうなるだろうけど。告白したもの勝ちよねぇ」

「何か、作戦があって黙ってたんじゃありませんの? マイカさんの事ですから、あえて行動しなかったのかと」

「あんな状況から、私はどうすれば良かったのよ!?」

 

 ……追い告白でも、すればよかったのでは?

 

「無理、無理無理無理!! 私から告白とか、無理!!」

「……どうしてですの?」

「無理なの!! だってそんなの、そんなのってぇ!!」

 

 

 ……。

 

「じゃあ、おとなしく引っ込むしかないんじゃない?」

「い、いやよ!」

「少なくとも、レヴちゃんは正々堂々告白したみたいですけど」

「……。うあーん、やられたぁ!!」

 

 マイカはそう叫ぶと涙目になって、その場で頭を抱えて崩れ落ちた。

 

 ……おう、つまり。

 

 

「……マイカさんって、かなり恋愛下手?」

幼女(レヴ)に完全敗北する程度には下手っぴねぇ」

「うるさいわよ。分かってるわよ!! 10年かけても進展しなかったんだもん、そんな急に距離を詰めるとかできないわよ!!」

 

 ───そういや、マイカがカールを容易く落とすことができるなら、とっくに決着はついてるか。

 

「……それに、今から私に告白されても迷惑に決まってるもん……。レヴとアイツ、仲良いし……」

「いじけちゃいましたわ」

「……うぅ。ずっと前からアイツを助けてやってたのに。小さなころからずっと一緒だったのに。私に勇気がないばっかりに」

 

 やがてマイカは涙声になり、その場にうずくまってスンスン泣き始めた。

 

 ……う、うわぁ。

 

「サクラさん、どうしましょう……?」

「どうしたもこうしたもないわよぉ」

 

 お互いに見合って、困り顔になる。

 

 まぁ、二人の女が一人の男を好いたら、どっちかがこの結末になるのは分かりきっていたけども。

 

「……あの。差し出がましいようですが、マイカさんは今からでもカールさんたちを追いかけるべきですわ」

「へ?」

 

 さて。俺はレヴちゃんと大事な友人であるが、同じくマイカも仲間であり大切な人間だ。

 

 ここで俺がとるべき道は、コレだろう。

 

「貴女も、告白なさいマイカさん。レヴさんが勇気を示した今、貴女が勇気を示さぬ限り勝ち目はありません」

「イリー、ネ……」

「ここで黙って泣きべそをかいていたら、きっと一生後悔しますわよ。たとえ選ばれなかったとしても、思いを告げると告げないとでは大違いですわ」

 

 レヴちゃんにとっては都合が悪いかもしれないけど、ここでマイカに発破をかけないときっと彼女は後悔するだろう。

 

 そして軋轢が生まれ、パーティの不和のもとになる。

 

 ここは、マイカにも告白させて正々堂々カールに2人から選ばせた方が良い。

 

「行きなさい、何をボンヤリしているんですかマイカさん!」

「え、は、はい!!」

「即断即決の貴女らしくない。今、覚悟を決めねばいつ決めるのです!!」

 

 俺の怒声に、マイカはハッとした顔になる。

 

 おお、いつものスイッチの入ったマイカの顔だ。

 

「……ありがと、イリーネ」

「どういたしまして、ですわ」

「行ってくる。フラれた時は、良い酒を買ってくるから付き合ってよね」

「よろこんで、ですわ」

 

 こうしてマイカは決意に満ちた顔になり、颯爽と聖堂の外へと駆け出して行った。

 

 うむ、良きかな。

 

「……行ったわねぇ」

「いやはや、若いですねぇ。俺も、青春時代の青臭い感情を思い出しちまいましたぜ」

「居たのですね、マスター」

 

 いつのまにか、サクラの後ろに控えていたオッサンがシミジミと青春を語っていた。

 

 もう、食事の後片付けが終わったらしい。

 

「私たちは普通に観光でもしましょうか。行きましょイリーネ、レイ」

「……俺も、カールを追いかけたいのだが」

「両手に花の首都デートですわよ? 静剣レイ、男ならエスコートして見せなさいな」

「……む。いや、そこにマスターが居るのでは」

「マスターは年代が違いすぎるじゃない」

 

 こうして、俺はサクラ達と共に町へ繰り出すことになった。

 

 マイカは、きっとカールに追いつくだろう。そして、覚悟を決めてちゃんと告白するに違いない。

 

 その結末は、夜にたっぷり聞いてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ───この時は、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってくれ!!」

 

 背後から、強く抱きしめられる。

 

「一回しか言わないから聞いてくれ!!」

 

 俺は目を白黒させ、ゆっくりと振り向いて。

 

「俺が本当に好きなのは───」

 

 見慣れたカールの、真っ赤な顔を後ろ目に捉えた。

 

 

 

 

「───お前なんだ!!」

 

 

 

 

 街中、人が大量に行き来する商店通りのど真ん中。

 

 俺は突然背後からカールに抱きしめられて、愛の告白を受けていた。

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 そんな俺を、見知った顔2名が裏路地から壮絶な目線で見つめてくる。

 

 俺はパーティ崩壊の危機を、肌で感じ取っていた。

 

 


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