【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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75話「再会、紅の英雄」

 時は戻って、カール達が首都ペディアに到着したその日。

 

「では、一旦解散。それぞれ、自分に見合った装備を調達しましょう」

「はーい、ですわ」

 

 全員が聖堂に荷物を置いた後。

 

 来る魔族との戦闘に向けて、各々は装備を整えに街へ繰り出す事になった。

 

「イリューはどうするの?」

「そうですね。ちょっと路銀でも稼いでこようかと思うのですが」

「せっかくなら、就職活動でもしたら? もしかしたら、良い勤め先が見つかるかもよぉ?」

「はい。なら私は、そんな感じで街をブラついてきます!」

「頑張ってくだせぇ、イリュー嬢ちゃん」

 

 しかしイリューは戦力ではないので、装備を整える必要は無い。

 

 そんな彼女はサクラ主従に促され、仕事を探しに街へと繰り出したのだった。

 

 実際イリューの戦闘力は貧弱であり、魔王との戦いにおいて役に立たないだろう。

 

 ……本当に仲間だったとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むむ、何やら路地裏に怪しいお店がありますね」

 

 無論、イリューに就職するつもりは無かった。何せ彼女は魔王なのだ。

 

 今カールの旅に追従しているのは、弱点を探りあわよくば不意打ちする為。

 

 彼女は単に、遊びに街に繰り出しただけだ。

 

「おお、何やら楽しそうなお店です! 少し遊んでいきましょう」

 

 悲しいかな、今のイリューに攻撃手段はない。

 

 彼女はイリーネより膨大な魔力を所持しているが、攻撃魔法の適性がない。

 

 だから、勇者であるカールを確実に殺すために雌伏しているだけ。

 

「丁!! 今度こそ丁です!!」

「おいお嬢ちゃん、良いのか? もう有り金全部突っ込んだろ?」

「この一回が当たれば、すべて取り戻せるんです!」

 

 そんな彼女は、あわよくば楽してお金を稼ごうとチンピラの経営する賭博場で豪遊し……

 

 

「おかしいです!! イカサマです!! 5回連続で外れるだなんて、何かやってるに違いありません───」

「じゃかましい!! 現に外れとるやろがい!!」

 

 

 稼ぐどころか、熱くなりすぎて逆に多額の借金を背負う羽目になったのであった。

 

「アンタ性格はアレだが見た目は悪くないのう。良い稼ぎ口斡旋しちゃるからついてこいや」

「やめっ……やめてください! エッチなことをさせる気ですね!? 私が何をしたと言うのです!」

「借金」

 

 チンピラ共は慣れた手つきでイリューを拘束した。

 

 実際彼等は、普段からこうしてバカな小娘を風俗に落としている。

 

「もう頭に来ましたよ、人間め……」

「何だこいつ?」

「この私をコケにしたこと、冥府で悔やむがいいです。勇者にバレる危険もあるが仕方ない、貴様らは皆殺しにしてやりましょう」

「あ? やんのか小娘がぁ!!!」

 

 

 賭場で借金を背負ったなんて話になれば、きっとイリューは見捨てられてしまう。マイカとかは、間違いなく。

 

 こうなればすべてをうやむやにするしかない。

 

 魔王イリューは自らの龍の因子を覚醒させ、獰猛な瞳でチンピラを睨んだ。

 

 

「少し早いですが、貴様らの生命に終焉を───」

「上等じゃコラァ!!」

 

 

 曲がりなりにも、かつて世界を恐怖に陥れた魔王『威龍』。

 

 そんな彼女が賭場で負けたことにより、ついに本気となって人類に牙を剥いた。

 

 

 

「失せろ、人間ども」

「うおおおおおお!!!」

 

 

 

 しかしその力の大半は封じられ、イリューが世界をめぐり取り戻そうとしている最中である。

 

 というか、ぶっちゃけた話。

 

 イリューがかつての力を取り戻していればいざ知らず、今のイリューの戦闘能力は見た目通りでしかない。

 

 

 

 

 数分後、魔王(イリュー)人間(チンピラ)にボコボコにされ奴隷になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして古の大厄災『威龍』は人類に敗北した(数百年ぶり2回目)。

 

 敗北した彼女に待っていたのは、かつてない屈辱だった。

 

「お前に稼ぐチャンスをやる」

「覚えてろー、人間どもー、ぐすんぐすん」

「ちょうど今日、奴隷どもの博覧会が開かれるんだ。そこで上手にアピールできれば、良い人に買って貰えるかもしれんぞ」

「お捻りが貰えれば、それを返済金にしてやってもいいぞ」

「……ぐすん、ぐすん。舞台?」

 

 そう。敗北して縄目についた魔王は、人類どもに屈辱的な舞台で晒し者にされてしまうと言うのである。

 

 その話を聞いた魔王は────

 

 

 

「それは良いですね……舞台かぁ」

「あん?」

 

 

 

 舞台に上がって注目を浴びると言うシチュエーションに、目を光らせた。

 

 魔王様は、とても目立ちたがりなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イリューの舞台は、信じられないほどの大盛況となった。

 

 彼女の持ち前の芸人スキルがすさまじかったのか、歌を聞いた皆が多額のお捻りを投げ入れたのだ。

 

 イリューはたちまち人気者となり、彼女の負け分は僅か1日で完済となった。

 

「今日の稼ぎはどんなものです、人間。これで私も解放されるでしょう」

「馬鹿を言え、利子ってものを知らんのか。後、舞台を使う手数料など込みで、まだ半分も行ってない」

「そんな馬鹿な!? 今日のお捻りだけで、私の借金の倍は払えるはずですよ!?」

 

 しかし、チンピラがこんな金の成る木を逃すはずがない。

 

 イリューは何かと理由をつけられ解放して貰えず、引き続き奴隷生活を続けさせられる事になった。

 

 

 

 因みに彼女の頼れる仲間達は、当時カールがイリーネに誤爆告白したせいで全員大パニックになっており、イリューの事なぞコロッと忘れていた。

 

 サクラとマスターだけは彼女が帰っていないのに気付いたが、就職が上手く行ったのだろうと考え気にしなかった。

 

 結局イリューは、翌日カールとイリーネに見つかって助け出されるまで、ずっとチンピラどもの言いなりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リューさんって、歳はおいくつくらいですの?」

「え? あーっと。4~500歳くらい?」

「あ、そう言えば魔王って設定だったなお前。……その設定、大丈夫なのか?」

「一応、バレても大丈夫なように顔を隠しているので」

 

 帰り道、二人はまったくイリューの正体に気付く様子が無かった。

 

 何せ天然(イリーネ)朴念仁(カール)のコンビだ。気付けるはずもない。

 

「いやでも魔王が復活したのは本当だぞ。だから、結構シャレになってない」

「冗談でも、そう言うのはやめておくべきですわ」

「ご、ごめんなさい」

 

 魔王は、勇者に魔王と名乗った事を怒られた。

 

「そういえば気になったのですが、魔王が復活したというのはもう周知されていますの?」

「ああ、観客がそんなこと言ってたな」

「えっと。私もチンピラさんに聞いただけなんですが、ガリウスという方が民に警告して回っているようです。魔王が復活したから注意しろと」

「ああ、ガリウス様ですか」

「成程。それを利用しようと、アンタもそんな馬鹿な設定を作ったのね」

 

 実はイリューは深く考えていないかったが、ややこしいことになるので黙って首肯した。

 

「あのお方、仕事が早いですのね。リタ様もご壮健でしょうか」

「懐かしいな、ガリウス様の娘さんか。……あのお転婆が落ち着いているといいが」

「え、貴方達王族と知り合いなんですか!?」

「まぁ少しな」

 

 勇者が王族とコネを形成している事を知り、イリューは少し焦った。それは、魔族対策に国軍が動くことを意味しているからだ。

 

 平和ボケしているとは言え、この国の軍隊が丸ごと敵に回ると面倒くさい。魔族は人間に比べ強力無比といえど、勇者には蹴散らされる程度の戦力でしかない。

 

 勇者以外の人類でも、上位陣であれば十分に太刀打ちできるだろう。現に勇者でなく戦闘訓練すら受けていなかったイリーネですら、魔族を撃破している。

 

 魔族の群れをけしかけても勇者を殺せない以上、魔王イリューが力を取り戻すのが現在の急務だ。しかし、国軍に協力されてしまえばそれも難しくなる。

 

「ガリウス様はしっかり対策を練ってくださっているらしいな。ありがたい」

「あのお方は、見るからに優秀そうですもの」

「はわわ」

 

 のんびり旅を続けている間に、だんだんと魔族が詰み始めている事にイリューはようやく気付いた。

 

 こうなっては仕方がない。破れかぶれではあるが、イチかバチかカールを闇討ちする事を視野に入れるべきか────

 

 

 

 

 

 

「……む。懐かしい顔だな。貴様らも首都に来ていたのか」

「お?」

 

 

 絶体絶命の窮地を助けて貰った恩人(カール)の暗殺計画を練っていたイリューは、いきなりかけられた声に反応しビクリと振り返った。

 

「あ、貴女は」

「ふん」

 

 イリューの表情筋が、思わず引き攣った。

 

 何せそこには、お人好しカールなんかより恐ろしい存在が仁王立ちしていたのだから。

 

「久しぶりですわね! お元気でしたか?」

「どわー! いきなり抱き着いてくるな」

「おほほ、私ったら。ごきげんよう、ヨウィンではお世話になりましたわ」

 

 それは全身を赤で染めた、魔炎の勇者。

 

 おそらく、ある意味でカールよりずっと『勇者らしい』今代の魔王討伐のキーパーソン。

 

「おう、アルデバラン。相変わらずちっこいなお前」

「よう、カール。相変わらず情けないな、貴様」

 

 勇者、アルデバランとその一行が偶然カールの横を通りかかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カールとデートの帰り道、随分と懐かしい顔に出会った。

 

 それは、学術都市ヨウィンで会った時と変わらぬ出で立ちの、赤髪の勇者少女だ。

 

「貴様らは、こんなところで何をしている? 他の仲間はどうした」

「今日はイリーネとデートでな。他の仲間は、セファ様の聖堂で休んでいるよ」

「はっ!! 色恋にうつつを抜かしているとは、やはり貴様は情けない」

 

 相も変わらず、彼女はカールとは相性が悪い様子で。

 

 数週ぶりに出会うなり、皮肉を交えてお互いに睨みあうのだった。

 

「そう言うお前等こそ、勢ぞろいで何をしている」

「魔王を名乗る奴が、民を扇動していると情報を受けてな。事実を確かめに来た」

「へぇー」

 

 ふむふむ。何か心当たりあるなぁ、ソレ。

 

「もし本物であれば、始末を付けねばならない。民を洗脳し、国家に仇なす前に」

「あー、確かに本物ならヤバいな」

「ひ、ひえええ」

 

 話題の張本人である歌姫ちゃんは、大層びびりながら俺の後ろに隠れた。

 

 魔王なんか名乗るから、こう言う事になる。

 

「ちなみにソイツは、どんな風貌なんだ?」

「鬼の様な仮面を被り、リズミカルな音楽を得意とする、女性だと聞いたぞ」

「へぇー」

 

 カールも察したらしく、かなり適当に相槌を打っていた。

 

 さて、どうしてくれよう。

 

「そんな事より姉……イリーネさんとデートとか妄言が聞こえてきたんですけど」

「あ? 何だウサギ野郎」

「デートってどういうあれですか、ちょっと会ってない間にどういう感じになってるんですか、ちょっと顔剥いで良いですか」

「何だこの危ない奴!?」

 

 何やらウサギの仮面がカールに絡んでいるが、他のアルデバランパーティの面々は俺の背後の歌姫をキツい目で睨みつけていた。

 

 さてさて。ま、コイツが魔王じゃないのは確定的に明らかだし、庇ってやるか。

 

「ところで、ですがイリーネ様。貴女の後ろに隠れてらっしゃる方も紹介していただけますか?」

「ええ、よろしくてよ。彼女は、リューさんと言うらしいですわ」

「……なんか鬼みたいな仮面被ってるな。怪しくないか、ソイツ」

 

 アルデバランの得ていた情報の通り、リューちゃんは鬼の仮面を被って魔王を名乗り民を扇動していた。

 

 そこは、事実だ。

 

「アルデバラン。貴女のおっしゃる通り、彼女は魔王を名乗って歌姫としてお金を稼いでいたそうですわ」

「む、本当か」

「ええ、その歌は私も聞かせていただきました。何と言うか、筆舌に尽くしがたかったですわ」

 

 本当に、意味不明だった。久しぶりに、真顔で歌を聞いた気がする。

 

 俺の言葉を聞いて俺の背中でリューが、ビクリと肩を震わせた。怖がっているのだ。

 

「ですが、私は彼女が危険な存在ではないと知っております。ご安心ください、アルデバラン」

「ほう。それはどういうことだ」

「何故なら彼女は、この地の無法者に奴隷として囚われていたのですわ。その芸を見込まれたのか借金漬けにされ、利用されていたところを私達で救い出したのです」

「……ふむ?」

 

 俺の言葉を聞いて、アルデバランは眉をひそめた。

 

 うんうん、そのままゆっくり話を聞いてくれ。

 

「成程。確かに、その娘が奴隷商人の主催するショーに出ていたとの情報がありました」

「彼女はお金を稼ぐため、民衆の気を引くためにそんな壮大な嘘を吐いたのです。手っ取り早く注目されるしか、彼女に生きる道はなかったのでしょう」

「……だからといって、魔王を名乗るか? 本当にそいつが魔王で、民を洗脳していた可能性は無いか?」

「それも、無いと思いますわ」

 

 俺の背中で震えている歌姫の背を、優しくさすってやる。

 

 安心しろ、ここは俺に任せておけ。

 

「本当に魔王に与するものが、わざわざ公の場で魔王を名乗る意味がないでしょう」

「……む」

 

 まぁ、当たり前の話だ。

 

「民を扇動したいのであれば、適当な神でも宗派でも名乗った方がよっぽど警戒されにくいですわ。魔王が本当に『魔王だ』と名乗ってライブをしたというのであれば、どれだけ底抜けのアホなのでしょう」

「ほえ?」

「……い、言われてみれば確かにそうだ」

 

 そう。この娘が本当に国家転覆を企んでいるなら、魔王を名乗るなんて危ない橋を渡るはずがない。

 

「それはむしろ、多少国家に睨まれようが何が何でも名前を売りたい『奴隷』の行動でしょう」

「まぁ、それは我々も考えておりました。本当に魔族に与する者であれば、どれだけ頭が抜けているんだと」

「ええ、私も同意見ですわ。この時期にそんな不謹慎な手段で名前を売ったことについては、しっかりお説教をいたしましたが」

「……」

 

 俺の弁解を聞いて、アルデバラン達も疑念の目が覚めてきた。

 

 まぁ、常識的に考えて魔王が魔王を名乗らんだろ。

 

「それに、彼女に刻まれた奴隷紋は本物でしたわ。彼女が魔王であれば、街ゆく無法者に敗北した最弱の魔王と言う事になりますが」

「……」

「それが事実なら、弱すぎるな……。そんな雑魚が魔王を名乗れる筈もないか」

「頭が超絶悪くて戦闘もできない魔王(笑)ねえ。確かに、そこまで残念な奴が存在するとは思えん」

「その通り。なので、彼女が真に魔王に与するものでないのは明白ですわ」

 

 ソコまで言うと、ようやくアルデバラン達は納得の顔になった。

 

 ふふ、どうだ俺の見事な弁舌は。お嬢様たるもの、知的でクールに事を解決することが出来るのだ。

 

「疑念が晴れたようでよかったですわ。リュー、貴女ももう疑われるような真似をしてはいけませんよ」

「……ソウ、デスネ」

「あれ? 何か目が死んでません?」

 

 急にどうしたんだろう。アルデバランが怖かったのだろうか。

 

「じゃあその女は不問でいいや」

「アリガトウゴザイマス」

「それで? 貴様らも首都に来たって事は、まもなくここに災厄が訪れる事は把握してるんだよな?」

「え?」

 

 アルデバランは、さも当たり前のようにとんでもないことを言い出した。

 

 首都に……災厄!?

 

「……まさか、また貴様らの女神は何も言って無いのか?」

「お、俺達は湾岸都市アナトに向かえと言われた。多分そこで、襲撃があるんだと思うが」

「首都に寄ったのは、その通り道ですわ」

「ふむ」

 

 ちょっと待て、それマジ? 首都に災厄がって、まさか魔族の襲撃……。

 

「私が聞いたのは、数週間後に首都へ魔王軍が侵攻してくるという話だ」

「……その話は聞いておりませんでした。数週間後、ですか」

「ああ。まだまだ先だが、早めに首都に来て情報を集めている最中だ。貴様らも何か知ってるんじゃないかと期待したが」

「……ごめんなさい、何も存じ上げませんわ」

「いや、構わん。貴様らは貴様らで、何か別の用があるみたいだからな」

 

 そう言うアルデバランの顔に、嘘はなかった。

 

 首都進攻は、捨て置けない情報だ。やはり、アルデバランの女神様の方が有能なのでは?

 

「わ、私達も首都に残るべきでしょうか」

「いや、私達は湾岸都市アナトで何が起こるか知らんからな。そちらの女神がアナトを目指せと言うのであれば、従うべきだろう」

 

 俺の提案に対し、アルデバランは鼻を鳴らして答えた。

 

「首都は我々に任せて、貴様は貴様の責務を果たせカール」

「……おう」

「おそらく敵は、2方面作戦でも仕掛けてくるのであろう。宗派的に我々が共闘するのは好ましくないからな、別れて戦えるならそれに越したことは無い」

「ああ、そうだな。じゃあ、遠慮なく首都はお前たちに任せる」

 

 そうか、俺達が此処に残るとアナトを見捨てる事になるのか。

 

 ……首都も心配だが、ここには頼りになるアルデバランが出張ってくれている。ここは、彼女を信頼し任せるのが得策か。

 

「我々は、来週までにアナトに来いと言われておりました。首都への襲撃が数週間後なのであれば、アナトでの襲撃が片付いた後そちらに救援に向かえるかもしれませんわ」

「いや結構だ。我々で十分」

「……ヨウィンでは、イリーネの力なしではどうしようもなかった癖に」

「何か言ったか、ヨウィンで全く役に立たなかった勇者よ」

 

 バチバチ、と視線で火花を散らし合う二人。

 

 これこれ、喧嘩すんな。

 

「まぁ、だが……そうだな。貴様らの知り合いが、もう少ししたら首都を訪ねて来るそうだ」

「俺達の知り合い?」

「寝ぼけた顔をした占い娘よ。なので、アナトでの仕事が終わったら首都に戻って来るのは良いかもしれん。あの娘、貴様に会いたがっていたぞ」

 

 ……寝ぼけた顔の、占い少女。

 

 俺の頭に、ドMなボクっ娘の笑顔が浮かび上がった。

 

「……ああ、ユウリか。アルデバラン、お前どこかでユウリに会ったのか?」

「修行で立ち寄った火山都市サイコロで、偶然な。話を聞くと、王弟ガリウスに呼ばれて予知魔法を披露するそうだ」

「成程、魔王軍対策か。ガリウス様、かなり本気らしいな」

 

 ユウリか、懐かしいな。あの娘はまだ元気にしているだろうか。

 

 また、父親に対する心労で胃を痛めていないと良いけど。

 

「じゃあ、結局首都には戻ってきた方が良いですね」

「個人的には、貴様らにはユウリを護衛してほしい。私にとっても、ユウリは友人だからな」

「は、別にお前が護衛で、俺が魔王を倒してやっても構わねぇぞ」

「つまらん冗談だな、貴様にはちと荷が勝ちすぎであろう」

 

 一瞬、勇者二人の視線が交差する。

 

 その言葉を皮切りに、アルデバランとカールは互いに背を向けた。

 

「じゃあな、しくじるなよ」

「貴様こそ、よく仲間を守るがいい」

 

 言うべきことは言った、交わすべき情報は交わした。

 

 だからもうこれ以上慣れ合うつもりはない、という事らしい。

 

「おいお前話は終わってませんよ。イリーネさんとデートって、そんなお前、今まで誰にも靡かなかったイリーネさんをこの野郎」

「なぁ、誰かこのウサギ引き剥がしてくれねぇ? ウザい」

「だーれがウザいですか!! 私はウサギですよ!!」

「ど、どうどう。1号、よければ私がベッドでお慰めいたしますのでここはお引き取りを」

「離せこの淫乱レズメイド!!」

 

 むしろ、凄い勢いで喧嘩を売りに来ている奴まで居る。

 

 あー、俺としては二人に共闘してほしいんだけどなぁ。この関係じゃあ厳しいのかなぁ。

 

「では、またどこかでお会いしましょう勇者カール。そして、フロイライン」

「ま、またねカールさん、イリーネさん!」

「ちぇー、こっそりあの娘狙ってたのに」

 

 他のアルデバランの仲間は、割かし好意的だけど。

 

「あの男のタマ袋をカチ割る仕事が私には────」

「すまんなカール、そこのウサギは年中発情期でな」

「ウサギってそんなもんだろ。じゃあなアルデバラン」

 

 最終的に、アルデバランが杖でウサギを強打して気絶させ連れ去った。何ともまぁ、何時会っても嵐みたいな連中である。

 

 そんなこんなで、少しグダグダしつつ俺達はアルデバランと別れたのであった。

 

 


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