【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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76話「いよいよ決戦! 水の都の危機を救え」

 ────夜、聖堂。

 

 

「な、何ですってー!?」

「そ、そんな馬鹿な!?」

「……」

 

 俺達はアイドルに仮面をとるよう促してみると、ソコには見知った修道女が居た。

 

 なんと……大人気アイドルリューちゃんの正体はイリューだったのだ。

 

「……本当に気付いてなかったんですね」

「いや、首から下は修道服だったじゃないこの娘。声と服で気付きなさいよ」

「あららイリュー、大変だったのねぇ。昨晩、ちゃんと探しに行くべきだったかしらぁ?」

 

 そうか、そうか。そう言えばレッサルでも妙に芸達者だったなイリュー。

 

 彗星のごとく現れた人気歌姫の正体。言われてみれは納得だ。

 

「それより、みんな聞いてくれ。伝えておきたい事がある」

「あら、どうしたの」

「アルデバランに会った」

 

 イリューの正体には驚いたが、今ソレはそんなに重要な情報じゃない。

 

 俺達にはもっと、共有すべき大事な話がある。

 

「……その顔、あんまり良くない知らせがあるのね?」

「ああ、まもなく首都が襲撃されるそうだ」

「……あらまぁ」

 

 そしてカールは、アルデバランと交わした話を皆に説明した。

 

 首都が襲われるのは数週間後であること、アナトについてはアルデバランは何も知らないとのこと、ユウリがもうすぐ此処に来ること。

 

「だから俺達は、アナトを守った後に首都に戻ってこないといけない」

「……ん、了解よ。何だかんだ、あの娘とまた共闘する事になりそうね」

「お互い不本意だが、仕方ない」

 

 見た感じカールは、アルデバランに苦手意識を持っている。信仰する女神の影響なのかもしれない。

 

 でも、戦力的に考えると最強の後衛(アルデバラン)最強の前衛(カール)の相性が悪いはずがないのだが。

 

 こんな非常時に、神同士で争うなよな。

 

「……俺達は、まずアナトへ向かうんだな」

「ああ。明日、武器を受け取ったらアナトに向かって出発するぞ」

 

 そしてとうとう、明日。俺達は新たな街へと向かって旅立つ。

 

「アナトに着く前に別れるつもりだったけど、首都が襲われるならイリューも着いて来た方が良いかしら?」

「そうですね、お供します」

「確かに、首都からは避難してた方が良いな」

 

 どうやら、まだイリューは俺達に着いてくるらしい。

 

「まぁ、いざとなれば私も闘いますよ! 修道女パンチで!」

「無茶すんなよ」

 

 イリューは無駄に強気だが、彼女は口だけのか弱い少女だ。

 

 もしも魔族と戦うことになるのなら、守ってやらねばならない。

 

「皆、寝る前に荷造りをしとけよ」

「……はーい」

 

 この日は聖堂の司教さんに挨拶をして、荷造りを行った後に床についた。

 

 首都ぺディアは滞在こそ短かったが、中々に楽しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で。あんた何ちゃっかりアイツとデートしてんのよイリーネ」

「そりゃあ、誘われたからですわ。友達として遊びに行こうと言われたのであれば、断る理由もありませんので」

「……ズルい」

「いや。あんたらが二日酔いじゃなければ、一緒に誘われてたと思うわよぉ?」

 

 因みにその夜。俺はカールとデートした件で微妙に槍玉に挙げられて。

 

「私が奴隷落ちして苦労している間に……」

「……イリューは、自業自得」

「わ、私は助けてあげましたでしょう?」

「おお、そうでしたそうでした」

 

 助けたアホの子から、感謝のキスを頂いたのでした。

 

 ……。ちょっとヘイト買っちゃったかな、注意しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 新たな装備を受け取った俺達は、アナトへ向かって出発した。

 

「おお、良い感じ!」

「……その鎧、格好いいわね。勇者みたい」

「本当に勇者だよ!」

 

 カールは以前と比べ、ゴツゴツした肩当ての付いた勇者っぽい装備になり。

 

「イリーネさんは、その。それ魔法使いの装備……ですか?」

「ええ、ほら杖を持っているでしょう」

 

 俺はビキニアーマーを服の下に仕込むスタイルのまま、鋼で出来た手甲と膝当てを買ってもらった。

 

 今までは見た目は貴族令嬢だったが、これで大分戦士よりになった。

 

 因みに夢だったフルプレート鎧は、徒手空拳と相性が悪いのでレイ(ししょう)に却下された。ちくしょう。

 

「そもそも魔術師はローブを着るものだ。魔力の伝導が良いし、ローブ内に魔道具を仕込めるからな」

 

 フルプレートは重い武器を振りかぶる重戦士だからこそ有用なのであって、拳で戦う戦士には無用の長物らしい。

 

 実際、レイは軽装備で強いし。

 

「……そもそも、魔法使いは極力前に出るな。詠唱するより殴る方が早い距離でだけ、教えた技を使え」

「えー……、ですわ」

「そもそも武術は、魔力が無い者の為の技術だ。魔力が使えたならば、遠くから魔法を詠唱した方が仲間の役に立つ」

 

 とまぁ、これ以上無いド正論を受けてしまったのでおとなしく従った。

 

 ……戦士と殴り合いがしたいと言うのは、思い上がりなのかなぁ。

 

「だけど過去には魔法戦士と称された、武技と魔法を扱う者も居たらしいわ」

「おお! それですわ!」

「……なら、まずは基本の武術を修めろ。今のイリーネの技は、素人に毛が生えた程度にすぎない」

 

 マイカの話によると、過去に魔法を使って近接戦闘するタイプは結構いたらしい。おお、俺の目指す先が見えたかもしれん。

 

「……魔法戦士は、どちらかと言えば魔法の適性もあった戦士がなるものだ。昔は今より、魔法使いは多かったそうだし」

「あ、それは聞いた事がありますわ」

 

 それはパパンも言っていた。

 

 近年は魔法の素養を持つ者が減り、まともに魔術を行使できるのは一握りの貴族のみだ。平民の大半は、魔力すら持っていない。

 

 だけど昔は、人口の3-4割に魔法の適性があったという。

 

「このままだと、数百年後に魔法の使い手は居なくなるかもしれない。だから、貴族の血を繋いでいく事は大切なんだって教わりました」

「へー。じゃあ魔法に関しては、昔の人の方が凄かったのかな」

「過去の魔術師はスケールが違いますからねぇ。トップクラスの使い手だと、砲撃で大陸割れるらしいですし」

 

 それは流石に眉唾な話と思うが。

 

「……古代の勇者伝説は作家により脚色されていて、実際は今の方がレベルが高いんじゃないかって言ってる人もいたよ」

「まぁ、流石に誇張は入っているでしょう」

 

 そんなヤベー奴が居たら、魔王とか瞬殺できただろうしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「足運びが甘い。股を開き過ぎだ、重心が揺れているぞイリーネ」

「……はい、ですわ!」

「お前の筋力は十分にある。あとは、動かし方を体に刻みつけろ」

 

 道中も俺は、レイにみっちり教えを請うた。

 

 何せ、俺の魔法技術はカンスト済なのだ。ここから成長できる余地があるとすれば、魔法戦士になるくらいしかない。

 

 俺が鍛えるべきは、魔法ではなく格闘術なのだ。

 

「……にしても、その歳で既に魔導を極めているのか」

「魔導は技術で極めるものではなく、いかに精霊と仲良くなれるかがミソですわ。……こういう言い方は嫌いですが、私は運が良かった。魔術は才能が全てですの」

「……まぁ、それは事実だろう。魔法の行使は上手くなれど、魔力量や魔力の質は生まれ持つしかない」

 

 幸いにも俺は人類でトップクラスの魔力量を持った上で、精霊に溺愛されている。

 

 これがどれだけ幸運な事なのか実感できないが、持たぬものからしたら嫉妬を抑えられないだろう。

 

「イリーネ。お前に魔法の才能は有れど、武術の才能は凡人だ」

「……う。ちょっとそんな気はしていましたが、やっぱりですか」

「全体的に反応が鈍い。だから、俺の攻撃を避けきれずガードするしかなくなっている」

「むぅ」

 

 レイ曰く、俺は反射神経があまりよろしくないそうだ。

 

 攻撃に対する反応がワンテンポ遅れているので、その場でのガードするしか手段がなくなる。

 

 それは、一撃が致命傷になる猛者との戦いでは、凄まじい弱点となる。

 

「先手必勝だ、イリーネ。お前が敵の接近を許してしまった場合、先制攻撃で黙らせるしかない。受けに回ると、一瞬で持っていかれるぞ」

「……」

「お前に教えた4つの型は、当てさえすれば一撃必殺。……後々、お前に向かってくる相手に当てる修行も取り入れていく」

 

 全体的に反応が鈍い、かぁ。そういや、前レイに斬り飛ばされた時も反応が遅れたからだもんなぁ。

 

 身体強化魔法でも、反応速度は上がらんし。体の動きが早くなるから、遅れてもガードできるようになるけど。

 

「では、残りの時間は型稽古だ。それぞれ、100回素振りしておけ」

「はいですわ」

「さっき教えた通り、股を開き過ぎないように注意しろ。重心が乱れていたら、最初からやり直しだ」

 

 ちなみに、有り難いことにレイの修業はかなりスパルタだ。

 

 ここ数日で、かなり鍛え込まれた実感がある。彼に頼んで良かった。

 

「……兄ぃ、そろそろ、休憩……」

「馬鹿を言うな、お前は今から俺と組み手だ。お前、基礎をサボっていただろ? 体幹の筋力が十分に成長していないぞ」

「うえええええ……」

 

 スパルタ過ぎて、実妹は死んだ眼になっているけど。

 

 溺愛しつつも甘やかさない、良い関係の兄妹らしい。

 

「えい、や、とぉ!! ですわ!!」

「……兄ぃの鬼ぃ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浸透掌(マッスルボンバー)!!」

「イリーネ、貴様はソレが好きだな。……気に入ったのか?」

「すっごい気に入りましたわ!!」

「そうか」

 

 首都を出発し、女神により指定された3日前。割と余裕をもって、俺達はアナトに到着した。

 

 レイに教わっている4つの型はまだ全て習得しきれていないが、そのうちの『浸透掌』は結構モノになってきた。

 

 この技は、前世で言う中国拳法のアレと酷似していた。相手にゆっくり掌を当てて、一瞬だけ全身の筋力を込め一気に衝撃を加える打撃技。

 

 地面に当てると1m弱の穴が開く威力で、鎧を貫通する特性を持っている。まぁ、大概の相手なら1発でノックアウトだ。

 

「まぁ、確かにその技は貴様と相性がいいかもしれない。ソレは敵の技を避けきれず、取っ組み合う形になった時に絶大な威力を誇る技だ」

「おお」

「……得意技は有って損がない、馴染むならよく極めておけ。ただ、他の型の研鑽も怠るな」

 

 レイも、この浸透掌だけは合格点をくれた。

 

 今後、この型を用いた実戦訓練を導入していくことになるらしい。

 

「……ただし」

「何ですの?」

「勝手に変な技名に変えるな。我が一族の秘伝技だ、浸透掌は」

 

 ……。マッスルボンバー、格好いいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇ! 街中に水路が張り巡らされてる」

「おお、流石水の都」

 

 湾岸都市アナト。

 

 潮のぶつかり合う海に面したこの街は、古くより貿易や製塩・漁業の中核都市としてこの国を牽引してきた。

 

 特色すべきは、街の中に張り巡らされた水路だ。

 

「……船が行き来してる」

「あ、魚ですわ!」

 

 これこそアナトが水の都と呼ばれる由縁。昔の水魔導師が集って地形を弄り、今の街の形を作り上げたそうだ。

 

 故に、この街は水魔法使いの聖地としても扱われている。

 

「借りボート屋……? 船を借りられるのか、この街」

「ええ。この街、商品を運搬するのにボートが便利なの」

 

 この街で商品の運搬は、主にボートを介して行われている。

 

 何せアナトの道は狭く細い。そして、高低差も急だ。

 

 それは、元々海岸だった場所を無理矢理都市に変えた弊害なのだとか。

 

「陸上を移動するより、水路を渡った方が色々とスムーズなのよね」

「お洒落なもんだなぁ」

 

 キラキラと光を反射する水路、活気溢れる商人達。雰囲気の良い街だ。

 

 一生に一度は訪れたい、人気の観光地というのも納得だ。

 

「セファ様の指定した日まで、3日ある。それまで俺達は、宿を取って情報収集だ」

「今は、平和そのものって感じねぇ」

「……ふむ、地形の把握が必要だな。この街は入り組んでいて、乱戦になると危ない」

 

 途中でかなり道草食った割には、余裕のある到着となった。

 

 後は、事前に魔族の気配を察知できるかどうかだ。

 

「宿を取ったら、各自別れて情報収集だ」

「……了解」

「分かりましたわ!」

「ただしイリーネ、アレは封印しろ。言わずとも分かるな?」

「……えー、ですわ」

「アレを使うとややこしくなるんだよ!! 良いから返事!」

「は、はいですわ」

 

 久々に猿仮面になって遊ぼうと思ったら、カールに釘を差された。

 

 ……駄目なのかぁ。楽しいのに。

 

「じゃあさっさと、寝床を────」

「大変だ!! みな、話を聞いてくれ」

 

 

 

 そんなこんなで、俺達が宿を探し始めた折。

 

 今潜ったばかりのアナトの入り口から、野太い叫び声が聞こえてきた。

 

 

「え?」

「あ、アイツは塩売りのビョンキだ!」

「何があった、凄い怪我をしてるぞ」

 

 のどかで平和だったアナトの街に、突如現れた血塗れの男。

 

 彼は肩を押さえながら、皆の中央に座り込んで涙混じりに絶叫した。

 

「魔族だ。中央の連中が言ってた通り、本当に魔王が現れやがった!!」

「……は?」

「製塩地区は全滅だ!! 俺以外、皆、皆が殺されちまった!!」

 

 血反吐を撒き散らしながら、一大事を伝えるべく叫び続ける男。

 

 優しいサクラは、そんな彼に早くも駆け寄って行った。

 

「……落ち着け、何があったかゆっくり説明しろ」

「あ、ああ。俺は、いつものように塩造りに行ってだな。そしたら、そしたらアイツらが攻めて来て」

「アイツらってのは、本当に魔族なのか?」

「ああ。間違いない、禍々しい獣と龍が混じった様な顔付きで、馬鹿みたいにデカかった。そして守衛どもを鎧袖一触、惨殺して回ったのさ」

 

 心底怯えた表情で、今あったことを話し続ける男。

 

 ……俺達はどうやら、街で情報収集する必要は無くなった様だ。

 

「な、なんだよその化け物は」

「そいつは……魔王を名乗った! これから人類を滅ぼしてやると、そう言ったんだ!!」

 

 

 そのあまりの剣幕に押され、ザワザワとどよめきが広がる。

 

 だが、俺達パーティに動揺はなかった。むしろカールは、来るべき時が来たかと戦意を高ぶらせていた。

 

 どうやらこれが、俺達が女神セファに任された仕事らしい。

 

 

 

 

「……えっ」

 

 

 

 ただ、彼女だけは覚悟が固まっていなかったのか。

 

 イリューは1人、素っ頓狂な声を上げて目を丸くしていた。


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