【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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77話「トラウマ、降臨」

「……ここだ」

「うっ。……無惨なもんだな」

 

 俺達のアナト到着と同時に、飛んできた急報。

 

 その製塩職人の案内で、俺達を含めた冒険者や警備は襲撃場所へと訪れた。

 

「……死屍累々」

「何て、酷い」

 

 海岸沿いに建設された製塩施設は無惨に破壊され、波は赤黒く血に染まっていた。

 

 そして見渡す限りに、屍の山が積み上がっていた。

 

「お、おお。おっ母ぁ! おっ母ぁが息してねぇ!」

「嘘だ、どうして! 誰がこんな残酷なことを!!」

 

 阿鼻叫喚が、海岸に響き渡った。

 

 被害者の遺族らしき人々は、涙ながらに死体に駆け寄って慟哭していた。

 

 

 

「……敵は群れをなしていた。一際でっけぇ、獣みたいな顔の奴が指揮を執っていた」

「武器は? ソイツはどんな方法で、人を殺した?」

「手だ。手1つで、皆の顔を握り潰した」

 

 塩職人は、青ざめた顔で話を続けた。

 

 見れば確かに、しばしば顔の潰れた遺体が転がっていた。

 

「ちっちゃい雑魚みたいな魔族は、剣を使ってた」

「剣を?」

「ああ、剣だ。手に持って振り回してた」

 

 その男の話を纏めると、こうだ。

 

 

 彼は何時ものように、塩を作りに海岸へと向かっていった。

 

 しかし、彼はうっかり弁当を家に忘れてきた事に気付いて、途中で取りに戻ったと言う。

 

 いつもより遅れること半刻ほど、職場に辿り着いた彼はまさに襲われている最中の仲間を見たのだとか。

 

 

「皆は囲まれて、一網打尽だった。俺ぁ、怖くてその場で叫んじまった」

「……」

「したら、魔族どもは俺に気付いて矢を射ってきた。ハリネズミみたいになりながらも、これは知らせなきゃなんねぇって必死に逃げ出した」

 

 男はそこまで言い終わると、フラフラしながら倒れている老人の遺体の傍に歩み寄った。

 

 そして、その老人の胸に手を置き、嗚咽して泣き始めた。家族なのだろうか。

 

 

 ……ふむ。

 

 この男は嘘を言っていない。今の話が、彼の見聞きした全てだ。

 

 

「道具を使う魔族……」

「恐らく、ゴブリンだろう。デカい奴はオークかもしれない」

 

 剣や弓を扱う魔族。それは、比較的人に近い形をした魔族だと推測できる。

 

 ゴブリンが敵に居ることは、分かっていた。ヨウィンで固定砲台付近に、死体が転がっていたからだ。

 

「ゴブリンと戦う時に気を付ける事、調べてるかマイカ」

「そうね。文献には戦闘力に乏しいって書いてあったけど……、ゴブリンは魔族には珍しい『統率されて行動してくる』敵だそうよ」

「……知能も高く、軍団として行動できる。動物というより、人間寄りの魔族」

 

 ゴブリンは太古より存在した魔族の代表格で、人を襲って繁殖する厄介な魔族だ。

 

 魔族の癖に、人間の遺伝子が混ざっているせいか知能は高い。中には、魔法を扱うゴブリンまで居るらしい。

 

「この地の領主様に連絡して、応援を寄越してもらおう」

「冒険者を集めろ。都心は何としても守るんだ」

 

 警備(ガード)の人々は、慌ただしく駆け回っていた。

 

 今回は人気の少ない製塩地区が襲撃されたが、次に魔族に襲われるのが都心であれば被害は凄まじい事になる。

 

 皆が、顔を真っ青にしていた。

 

 

「……俺達で良ければ力になりましょう」

「おお、心強い!」

 

 俺たちは警備に名乗り出て、共同戦線を張ることにした。

 

 勝手に応戦するより、地元の軍と共同戦線を張った方が戦いやすいことをレッサルで学んだからだ。

 

「俺も力を貸すぜ」

「アナトを守るぞ、テメェら!!」

 

 俺たち以外にも、冒険者は次々名乗りを上げていく。これで、それなりの戦力は確保できた。

 

 ……後は、魔族との決戦に備えるのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冒険者の方々は、この宿舎をご利用ください」

 

 最終的に、アナトを守ろうと名乗りを上げた冒険者は100名近くに上った。

 

 主に、アナト土着の冒険者達らしい。地元愛が強い。

 

 彼らは、警備の用意した宿に滞在して出番を待つこととなった。

 

「魔族と遭遇したら、ご助力願います」

「……分かった」

 

 魔族の捜索には、土地勘のある警備や冒険者が当たるそうだ。

 

 俺達は、出撃までしっかり休んでいてほしいとの話。

 

「あ、あの。私は、申し訳ないんですけど」

「ああ、イリューは町中に隠れていてくれ。絶対守って見せるから」

 

 俺達パーティーは、イリュー以外決戦に全員参加だ。

 

 敵に魔王の姿も有る。ならばここが、最終決戦になる可能性が高い。

 

 女神様の言っていた期限を鑑みるに、恐らく決戦は3日後となるだろう。

 

「そ、そわそわ……」

「落ち着きなさいカール。……また、力みすぎてポカをやらかしますわよ」

「そ、そうか」

 

 逆に言えば、3日間は安全ということだ。

 

 俺達は来る決戦に備え、静かに覚悟を決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔王って何なんでしょうか」

 

 一方で、勇者一行と別れた今代の魔王様はと言えば。

 

「……ゴブリンさん達が、先走っちゃった? でも、あの子達は結構素直だしなぁ」

 

 魔王襲撃の報に、首を傾げていた。

 

 自分以外に魔王はいない筈だし、アナト襲撃の命令なんて出していない。

 

「もしかして、私達以外にも魔族が生き残っていたのでしょうか。そして、私達が決起した事を知って、立ち上がってくれたのかも!」

 

 とは言え、人類が危機に晒される展開はドンと来いだ。

 

 何処の誰の仕業か知らないけれど、人類虐殺グッジョブである。

 

「ただ、その魔族さんが非友好的だと困るなぁ。どっちが真の魔王か勝負! みたいな魔族だったらどうしよう」

 

 問題は、その魔族の方と手を取り合えるかどうか。イリューも、それなりの同胞を束ねている身である。

 

 一度、向こうの自称魔王と話をする必要があるだろう。

 

「いざとなれば、魔王の位とか譲って付き従いましょう」

 

 何にせよ、まずはコンタクトを取る事が不可欠だ。

 

 と言う訳で、イリューも街の外を探索することにした。自分が殺されるかも、なんて心配はしていない。

 

 何せイリューは自己治癒能力を持っており、ぶっちゃけ不死身であった。

 

「私はMA☆王! ヘーイヘーイ!!」

 

 彼女自身が望まぬ限り、基本的にイリューが死ぬことは無い。なので、魔王イリューを倒すには封印する以外の方法がない。

 

 それだけ聞くと強そうであるが、彼女は封印に対する耐性を全く持っていないので、一般人による奴隷契約すら回避できなかったりもする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早速イリューは街を抜け出し、魔族が撤退していったという方へ向かっていった。

 

 できれば、この街の警備や冒険者たちと戦闘になる前に『自称魔王』と共同戦線の密約を取り付けたいものである。

 

「あら、きれい」

 

 アナトの郊外は、のどかな平原が広がっていた。

 

 しばしば山や林があるモノの、整備された広い道が通った開けた大地だ。

 

 こんな広々した所で一体、どこに魔族が隠れる場所があったのやら。

 

「やはり山の中、ですかね?」

 

 アナト郊外に、隠れられる場所は少ない。

 

 多量の魔族が潜伏できる場所があるとすれば、山の中にこっそり拠点を作っているくらいしか考えにくい。

 

 もっとも、山自体もそんなに多くないので、冒険者が総当たりで探せばすぐにアジトは見つかりそうである。

 

「おや、この辺にも住居は有るんですね。もしかしたら、魔族の目撃情報があるかも」

 

 そして、街を出て平原よりの郊外に、しばしば小屋のような建築物が見られた。

 

 イリューは知らないが、これは商人たちの森林資源の保管場所だったりする。

 

「もしもーし」

 

 なので、中には誰も住んでいる筈がない。商品の備蓄がされているだけだ。

 

 しかしイリューは、誰か住んでいるものと思いその小屋を窓から覗き込んだ。

 

「誰か中にいませんかー……?」

 

 

 

 そんな彼女が、窓の外から見たものは。

 

 

『……うっ、うっ』

『オラ良い声で泣け』

 

 

 ガラの悪い男たちが、女子供をいたぶりながら宴会を楽しむ姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 イリューは声を潜め、小屋の中の様子をうかがう事にした。

 

 中では、機嫌が良さげな大柄な男を中心に男どもが下卑た顔で囚われていたのであろう女性を凌辱していた。

 

『大成功ですな、フーガー兄貴』

『アイツらのビビりようったら、笑えたぜ』

『まったく、王家もありがたいお触れを出してくれたもんだ。今だったら、何をやっても魔族の仕業に出来ちまうぜ』

 

 話を聞いていると、どうやらこの男たちは野盗であるらしかった。

 

 魔族襲来の報がアナトに来て、今なら盗賊行為をしても魔族の仕業に出来ると考えたらしい。

 

『この小屋の持ち主は殺したから、此処に調査の手が伸びることは無い。ほとぼりが冷めるまで潜伏して、悠々と帰還するぞ』

『ガッテンです』

 

 そして彼らは製塩地区で殺した男の持っていた鍵を奪い、倉庫小屋を占領した。ついでに、製塩地区にいた若い女性を攫って楽しんでいた最中だった。

 

『見ろよ、この大量の塩! このアナトが暫く塩造り出来なくなれば、値段はかなりつり上がるぞ』

『これでもう、一生安泰ですね俺達!!』

 

 塩を奪い、塩職人を殺して値段を吊り上げる。

 

 鬼畜の所業とはこのことだ。彼らに、情や道徳は存在しないらしい。

 

 ……しかし。

 

 

「まぁコレ、魔族(わたし)にとって好都合なのは変わりないんですねどね」

 

 

 ここで彼らが魔族を名乗り暴れてくれたら、これ以上無い陽動になる。国軍をくぎ付けにすることもできるかもしれない。

 

 自称魔王が生き残った同胞で無かったのは残念だが、少なくとも悪い事ではない。

 

 魔王として、この件に関わる必要は無いだろう。イリューは、そう判断した。

 

「……帰るとしますか」

 

 この魔族を騙る連中が、捕まろうと逃げ遂せようと知った事ではない。

 

 魔族にとって、人間同士が争ってくれるだけでありがたい。

 

 

 

 ……そう、思った。

 

 

 

『何でもしますから、その子だけは』

『おう。じゃあ床が汚れているから、舌でなめとって掃除しろ』

『は、はい』

 

 

 小屋の中からは、聞くに堪えない声が続いている。

 

 

『お母さん、お母さん!』

『騒ぐなこのガキ。生皮剥ぐぞ!』

『やめて、その子に酷い事をしないで』

 

 

 イリューとて、女性である。

 

 それがどれだけ、囚われた女性にとってつらい事であるか想像に難くない。

 

 何ならつい最近、彼女自身も似たような目に遭っていたくらいだ。

 

 

『噛みつきやがったな、クソガキ!』

『お母さんに酷い事しないで!!』

『やめて、お願い、やめて!!』

 

 

 ……イリューは、人類を憎んでいた。

 

 悪魔の様に残酷で、傲慢で、猟奇的なヒトが怖くて仕方なかった。

 

 いつ裏切るか分からないその狡猾さが、気持ち悪くてならなかった。

 

 だから、イリューは血の繋がった同胞を守るため、人類を駆逐するべく立ち上がった。

 

 

 戦争だから、イリューは人類を殺し続ける。

 

 そんな魔王の心の根底にあるものは、

 

 

 

 

 

「そこまでですよ!! この悪党ども!!!」

「……あ!?」

 

 

 

 

 魔族(よわいもの)を守りたいだけの、歪み切った優しさであった。

 

「何者だ貴様!」

「ふ、旅を続けて東西南北。信じる神は無けれど修道女を名乗り、戦う力は無けれど天下を望み、この身一つで大地に立つ。我が名はイリュー!!!」

 

 彼女は、ハッキリ言って頭の良い魔族ではない。

 

 その時々の感情を優先し、目先の事だけに囚われ、何度も何度も痛い目を見てきた筋金入りの馬鹿。

 

「そこで泣いている者を、助けに来ました!!」

 

 苦しみ、悲しみ、歪みきったイリューの心の根底にあるものは……、子供じみた汚れ無き善性であった。

 

 ……未だ力が戻っていない彼女(バカ)は、勝てる見込みもないままにその小屋へと殴り込んだのだった。

 

 

 

「へっへっへ、貴方がたのアジトは見つけました。まもなくこの小屋には警備と冒険者さんが大挙として押し寄せますよ」

「……ちっ!! もう見つかったか、畜生」

 

 

 イリューはバカなりに、ハッタリを利かせた。

 

 本当は通報する時間とかなかったので、ここが盗賊のアジトで有る事を知っているのはイリューしかいない。

 

 なので、誰もこの場には駆け付けない。

 

 

「今すぐ私達に降伏しなさい!! 今なら、悪いようにはしませんよ!」

「馬鹿言え、あれだけ殺しておいて何ともなしに済むはずが有るか!」

 

 だが、イリューは見るに堪えなかったのだ。

 

 罪のない人が、ただ力に蹂躙されている様は『彼女にとって無視できないトラウマ』であったから。

 

「どうやら、力の差をわからせる必要があるみたいですね。……必殺☆聖女ブラスター!!!」

「な、なんだ!?」

 

 彼女は、その親子を助けることにした。その結果イリューは魔王であることがばれる事すら、厭うつもりは無かった。

 

 力のほとんどを封印され、かつての一部の能力しか使えない彼女であるが……。

 

「……火薬だ!!」

 

 魔力はしっかり持っているので、魔道具を起動させることはできるのだ。

 

 何かの役に立つかもと、レッサルの武器庫でくすねてきた魔導式の爆弾。イリューはそれを倉庫の壁に向かって投擲し、

 

「聖女ボンバァァァ!!!」

「こいつ正気か!? 家が崩れるぞオイ!!」

 

 ……盗賊どもが根城にしていた倉庫を、爆散させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あとは、私が時間を稼いでおきます!! 貴方たちは町に戻って、応援を呼んできてください!!」

「え、ええ。ありがとうございます」

 

 幸いにも、その爆風が人質を傷つけることはなかった。

 

 これは、本当に幸いだった。イリューは何の考えもなしに爆発物を起動したので、運が悪ければ人質もろとも爆死もあり得た。ここら辺が、彼女の頭の悪い由縁である。

 

 しかし助けられたのは事実、母親は子を抱えながら礼を言って走り去った。

 

「このクソアマ!! ブチ殺してやろうか!!」

「へっへーんだ! そんな脅し文句、怖くも何ともありませんよーだ!」

 

 逃げ行く親子を守るように、賊どもに立ち塞がるイリュー。

 

 その姿は実際、聖女っぽくはあった。

 

「あ、アニキ、怖ぇよ。あの女、ヤバい物もってましたぜ。ドッカーンって」

「ビビってんじゃねぇ、この世界はビビったらおしまいなんだよ!! あのアマにどう落とし前付けるか考えやがれ新入り!!」

 

 イリューが持っていた爆弾は1つだけ。もう同じ手は使えない。

 

 しかし、あの大爆発は賊を動揺させるのに十分だったらしい。

 

「お、俺はどうすれば……」

「強がりでも何でもいいから、堂々としてろボンクラ!」

「よくみれば可愛いじゃねぇか、アイツ。『げへへ、いい顔してやがる』とか言っとけばいいんだよ!」

 

 あとは虚勢でもハッタリでも何でも駆使して、時間を稼げばいいだけだ。

 

 あんな大きな爆発音が、聞こえないはずがない。きっとじきに、この地の警備が駆けつけてきてくれるはず。

 

「人質は居て損がない。あの女を確保するぞ!!」

「ヘイ、フーガー兄貴!」

 

 盗賊の中でひと際大柄で、残忍そうな男が号令をかける。

 

 おそらく彼が、この盗賊団のリーダーに違いない。

 

「調子に乗って俺達をコケにしたこと、後悔させてやるからよぉ!!」

 

 

 フーガーと名乗ったその男は、残忍な笑みを浮かべてイリューに肉薄した。

 

 

 

 

 

 

 実はこのフーガーという男は、名の知れた悪党であった。

 

 『100人殺し』の異名を持ち、民を虐げることを何とも思わず、残虐と暴虐の限りを尽くしてきた本物の悪党である。

 

 常軌を逸した怪力で知られ、彼と正面からぶつかり合ったらどんな人間でも粉微塵にされてしまう。

 

 

 そんな彼が最も好む『殺害方法』が、握殺だ。

 

 その自慢の怪力で被害者の顔面を掴み、断末魔を聞きながら顔を握り潰す。その瞬間に、彼はこの上ない快感を感じていた。

 

 彼にとって、イリューは人質だ。殺すわけにはいかない。

 

 だが、もし警備が人質を無視して攻め込んできたのであれば、イリューの顔を握り潰すつもりだった。

 

 

「……捕まえたぁ」

「ぎゃあああ!! やめ、やめてください!!」

 

 

 

 抵抗むなしく、イリューはあっさりと捕らえられた。

 

 所詮今の彼女は、か弱い女性の筋力しかない。怪力無双で知られる悪党に勝てるはずもない。

 

「さて、ズラかるぞお前ら。そろそろ、警備の連中がここにきてもおかしくない」

「顔が、顔がああああああ!!」

「ヘイ」

 

 ミシミシ、と顔の骨が不思議な音を立てている。

 

 捕まったイリューは、苦痛で絶叫するしかない。

 

「それ以上でかい声を出したら、顎から砕く」

「……ひっ!」

 

 

 死なないとはいえ、痛いのは怖い。

 

 治るとはいえ、骨を砕かれるのは辛い。

 

 先ほどの勇気はどこやら、イリューは恐怖で表情を凍り付かせた。

 

「塩は持ったな? じゃあ、出発を───」

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、そんな大悪党フーガーにも弱点はあった。

 

 いや、それは弱点というべきか、トラウマというべきか。

 

 

「……見つけたわ!!」

 

 

 この町の、爆発への反応は早かった。

 

 いや正確には、爆発音を聞きつけたとある冒険者パーティが『異常なスピードで』反応して駆けつけたのであった。

 

 

「イ、イリュー! 何でアイツが此処に……!」

「いけませんわ、捕まっております!! あいつらは魔族……ではなく、賊!?」

 

 

 それは、魔族との決戦を今か今かと待ち続け、この上なく戦意の高ぶった『勇者』の一行。

 

 

 そして、フーガーにとって……。

 

 

「あ、あ、あ」

「あら、確かあいつ。レーウィンで暴れてたチンピラじゃない」

「100人殺しのフーガー。ソミーの、元用心棒やってた奴じゃねぇですかい」

 

 

 ネコ目の悪魔(マイカ)は、どうしようもない精神的外傷(トラウマ)の対象だった。

 

 

「ぎゃああああああああああ!! あ、悪魔女ぁぁぁぁ!!!!」

「うわぁぁ!? 兄貴が股間抑えてメスの顔になっちまった!」

「げへへ、良い顔してやがるぜ」

「今じゃねえんだよボンクラ!」

 

 

 マイカの登場で、盗賊は阿鼻叫喚に陥った。


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