【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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78話「イリュー覚醒!! 魔王降臨で大パニック!?」

「ひ、ひえええぇ」

 

 数分後。

 

 アナトを襲撃した盗賊どもは、見るも無残な姿で壊滅した。

 

「おろ、おろろろろろ……」

「サクラさん、しっかりなさって! 貴女が倒れたら、誰も治せませんのよ!」

 

 流石は勇者パーティというべきか、賊の殲滅に数分とかからなかった。

 

 カールだけでも十分強いのに、静剣レイまで加われば盗賊ごときに太刀打ち出来ようはずがない。

 

 トドメにマイカの残虐ファイトで、賊どもの戦意を奪い降伏させた。

 

「……に、人間性を疑う」

「兄ぃ、落ち着いて。マイカはいつもあんなもん」

 

 白目を剥いてビクビク痙攣している敵の首領フーガー。その隣には小悪魔的笑顔を浮かべて死体を蹴っ飛ばすマイカの姿があった。

 

 賊として戦ったことのある彼ですら、マイカの行いにはドン引きだった。

 

「何よ、皆して。全員皆殺しにするより、戦意を砕いて降伏させる方が人道的じゃない」

「その戦意の砕き方がなぁ!? お前、本当に一回バチ当たった方が良いぞ」

 

 ……そう言って笑うマイカの手には、ドス黒く血濡れた金槌が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「賊の首魁の睾丸を、100回以上砕いた? わざわざ回復術使って?」

「見せしめよ。ああいう手合いは、親玉が降伏したらおとなしくなるの」

「……付き合わされてるサクラが可哀そうだった」

 

 遅れて、爆発の様子を見に来たアナトの警備達がその場にやってきて事情を聞き始めた。

 

 その中には、イリューが助けた親子の姿もあった。きちんと、保護されたようだ。

 

「……間違いない。こいつは、賞金首のフーガーだ」

「略奪を魔族のせいにする為に、正体を騙ったのか。ふてぇ野郎だ」

「でも何でコイツ、白目剥いてダブルピースしてるんだ?」

 

 賊の一味は、フーガー共々大人しく連行されていった。

 

 カール達に勝ち目がないのを悟り、逆らった者にはどんな仕打ちが待っているかを知って、皆従順だった。

 

 ただ一人、首魁のフーガーは再起不能な感じだった。

 

「イリュー、お前は何でこんなところに!!」

「……ぞ、賊を誰より先に発見してお手柄を、と思いまして?」

「このお馬鹿!! もう少しで殺されるところだったんですわよ!!」

 

 そして人類の敵たる魔王様は、仲間に心配をかけた罪でお説教を食らった。

 

 もう少しカール達が駆けつけるのが遅かったら、イリューは殺されていたのだ。まあ、生き返るんだけども。

 

「あまり心配をかけさせないでくださいな。貴女も、大事な仲間ですのよ」

「……ごめんなさい」

 

 不意を突いてカールを殺す為に、仲間になったイリュー。

 

 そんな彼女がここまで心配されてしまうと、居心地が悪いことこの上なかった。

 

「でも私、泣いている人を見捨てられなくて」

「……そりゃあ、まぁ仕方ないけどよ」

 

 ポツリ、と零した魔王の言い訳にカールはため息を吐く。

 

「そういう時は俺を呼べ。何時だって助けに来てやるから」

「……私だって、誰かの助けになるくらいできます! 力はなくとも、心だけは負けません!」

「じゃあ、お前がピンチになった時だ。そん時くらいは俺を呼べ」

 

 カールはため息をついて、あんまり反省する素振りを見せないイリューの髪を撫でた。

 

「お前が助けを求めて来たら、いつだって助けに行ってやるからよ」

 

 いつかは雌雄を決し戦わねばならない相手、勇者カール。

 

「……」

「約束だぜ」

「……はい」

 

 そんなカールからかけられた温かい言葉に、イリューはひそかに唇を噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、どうするべきなのでしょう」

 

 イリューはその日の晩、宿のベッドの上で悩んだ。

 

「カールさんは、誠実な人間です。……信じてみても、良いのでしょうか」

 

 少なからずカール達と旅をして、イリューは感じていた。

 

 彼らは、決して傲慢で悪辣で残虐な『人間』のイメージではない。マイカ以外。

 

「でも、もう私達は何度も人間を襲っている。駆逐されない為に、生き残るために、私達は人間を侵略した」

 

 イリューにとって、人間は恐怖の対象だった。

 

 平気で信頼を裏切り、残虐非道に欲望を満たし、弱者に対して何処までも冷酷な存在だ。

 

 彼女はそれを、身をもって知っていた。だからこそ、人間を殺すことを躊躇わなかった。

 

「でも、優しい人もいる。それも、知っています」

 

 しかしイリューとて、人間全員が残虐で傲慢ではない事は知っている。

 

 彼女と心を交わし、親交を深めた人類だって居たのだから。

 

 

 

「……でも、そんなのは一部で。人間の殆どが、嘘をついて裏切って、そして────」

 

 

 

 イリューはカールを信じてみようとして、何かを思い出してしまった。

 

「……ひっ」

 

 修道女は一人、恐怖に震えて体を抱く。

 

 彼女自身に色濃く刻まれた『虐待』の記憶が、人間に対する憎悪を燃え上がらせる。

 

「ああ。今、助けてくださいよカールさん」

 

 植え付けられた恐怖で、イリューの唇が震えて止まらない。

 

 人間の冷酷で残忍な瞳が暗闇に浮かびあがって、ケラケラ彼女を嘲笑していた。

 

「私はどうすれば良いんですか、人間を信じればいいんですか? それとも」

 

 その声は、夜闇に消えゆき。

 

「人間を信じるのは、やはり愚かなんですか?」

 

 ……結局今夜も、イリューはカールを殺す踏ん切りがつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、大聖堂に?」

 

 次の日の朝。

 

 イリューは寝不足のまま、カールが興奮して話すのを聞いた。

 

「久しぶりに昨夜、女神様が夢に出てきてくださったんだ!! 今回の呼び出しにあの盗賊騒ぎは関係なくて、ただ勇者の力を強くしてくれる儀式をする為だって」

「力を強く?」

「ああ。よく分からないが、その儀式をするにはアナトの大聖堂に来なければならなかったらしい」

 

 カールの話を纏めると、今回の呼び出しは襲撃に対する対応ではなく純粋にカールのパワーアップイベントらしい。

 

 女神セファも、首都で魔王と決戦になる事は予知していたそうだ。

 

 なので決戦前にカールを勇者として強化するべく、自らの本殿のあるアナトに呼び出したとか。

 

「日数制限があったのは、引き返して首都に間に合うようにするためだってさ」

「成程ね。アナトに魔族が来るとか、そういう話じゃなかったワケ」

 

 セファ教の大聖堂は、水の都アナトにおける宗教の支柱。

 

 どうやらアナトは、この国で唯一『女神セファを崇める宗教都市』でもあるらしかった。

 

「あのマイナー女神様にも、ちゃんと大聖堂があるのですわね」

「せっかくの大聖堂だし、イリューも来いよ。アナトが襲撃されないなら、ここで就職しても良いんじゃないか?」

「……そうですね」

 

 そのカールの提案に、イリューは逡巡した。

 

 大聖堂に行けば、おそらく彼女の正体はバレるだろう。

 

 何故ならイリューと女神セファは、面識があるからだ。もし、セファが地上に降臨していればジ・エンド。

 

 彼女は魔王として即座に捕らえられ、封印されるだろう。

 

 

 

「……では、着いて行っても良いですか?」

「おお、俺からも紹介するぜ」

 

 

 

 しかし、彼女はそれを承知でカールに付いて行くことにした。

 

 それはイリューにとって、かなり苦渋の決断でもあった。

 

 

 

 ────もし、話し合いで解決が出来れば。

 

 ────もし、魔族がこれ以上虐げられずに済むのであれば。

 

 

 

 現状でイリューに、カールと戦って勝てる戦力も策も無い。

 

 のんびり力を取り戻そうと旅をしている間に、勇者達はどんどんと強くなっていく。

 

 そしてイリューには、カールを不意打ちで殺せるだけの覚悟もなかった。

 

 であれば、話し合いで解決する道を模索するしかない。

 

 

 

 ────もし、それで私が窮地に陥ったら。

 

 

『お前が助けを求めて来たら、いつだって助けに行ってやるからよ』

 

 

 そんな事を言ってのけたカールは、一体どんな行動を取ってくれるのだろうか。

 

 やはり、魔王であれば話は別で即座に切り殺されるのだろうか。

 

 それとも、

 

「……真摯にお願いすれば、話くらいは聞いてもらえるのでしょうか?」

「あん? 何かいったかイリュー?」

「いえ、何も」

 

 ……イリューは少しだけ、何処までもお人好しなカールを信じてみたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の昼。

 

 俺達は鼻息の荒いカールに先導され、女神セファの大聖堂へと向かった。

 

「わぁ……」

 

 それは、水の都で一等見晴らしの良い丘の上に建てられていた。

 

 真っ白な大理石で舗装された道。その先に、球面を基調とした独特の建築様式の聖堂があった。

 

「おお、凄い。レッサルの大聖堂よりでかくて、古い」

「なんかすごい石像がいっぱいですわ」

 

 その入り口には、小鳥を肩に乗せたいくつかの戦士の像が、俺達を出迎えるように立っていた。

 

 そして水路で彩られた大聖堂の入り口には、華やかな噴水が設置されていた。

 

「……あら、これは」

 

 その大聖堂の石像に刻まれた名前を見て、マイカはある事に気付いた。

 

「勇者像ね。多分、歴代のセファ教の勇者が彫刻されてるわ」

「へぇー。じゃあ魔王を倒した後、カールも此処に飾られちゃうのかしらぁ?」

 

 どうやら、ここに立っているのは歴代の勇者様の像らしい。

 

 なるほど、どいつもこいつも精悍な顔つきをしている。

 

「……あら?」

 

 ────そして俺は、その中で一際筋骨隆々な男の像に目を奪われた。

 

 

「……え?」

 

 

 その筋肉モリモリマッチョなその勇者像は、拳を突き出す格好良いポーズを取っていた。

 

 良い筋肉だ。だがしかし、俺が突っ込みたかったのはそこでは無く……。

 

 

「え、このお方って」

「ペニー・ド・セファール卿。現王家の開祖ねぇ」

「そうですよね、今の王家の始祖様ですわよね!?」

 

 

 飾られていたのがまさかの、王家の始祖様だったからだ。

 

 え、王家は元々女神セファの勇者だったの!?

 

「そう言えば、リタ様もガリウス様もセファールって姓ね。セファ教から名字を取ったのかしらぁ?」

「王家御用達の宗派かよ!! じゃあ何で、今のセファ教はこんなに廃れてるんだ?」

「それが『宗教と政治が関わるのは良くないから』って、初代様がまったくセファ教を布教しなかったらしいわ。で、民衆に人気なマクロ教が天下取っちゃった訳ね」

 

 衝撃の事実に、目を剥いて驚いてしまった。

 

 この国の王家は、あの女神に侵略されていたというのだ。

 

 流石、歴史だけはある古宗派。もしかしてあの女神、かなり凄い神だったのか?

 

「この人は雷魔帝イゲル、最古の勇者の1人ね。第一次対魔決戦で、魔王を討った張本人。史上最強の雷魔術師で、世界中の何処にでも雷を落とせたらしいわ」

「…こっちは、微笑みの勇者ユリィ。活躍したのは確か、第二次か第三次決戦のどっちか。……目立った戦果は上げてないけど、誰よりも優しかった勇者だった」

「で、最後のは土龍騎士ファレヴェロね。この人は四次決戦に参戦したんだけど、単独行動してたせいで全然情報が無くて地味な勇者よ。ただ土を鎧に変えて闘い、防御力は歴代でピカイチだった」

「へぇ、勉強になりますわ」

 

 ヨウィンで勇者伝説を勉強してきた二人の解説を聞きながら、大聖堂の門へと近づいて行く。

 

 石造の合間には、不自然な更地が幾つか開いていた。もしかしたらこの更地のどこかに、カールの像を建立するのかもしれない。

 

「お、俺の石像が飾られるのか。ちょっとドキドキするな」

「魔王に勝てれば、ですけどね」

 

 その荘厳で立派な勇者像を見て、カールはテンションが上がっていた。

 

 その気持ちは分かるが、ちょっと落ち着け。

 

「じゃあ、入りますわよ」

「ああ」

 

 

 

 カールは緊張した面持ちで、ゆっくりと大聖堂の扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくぞ参りましたのです、勇者カールよ~」

 

 

 

 

 

 

 大聖堂の扉を開けると、やはり奴が居た。

 

 少し胡散臭い、おっとり口調のふくよかな女神様が。

 

「苦しゅうない、近うよるのです~」

 

 再び女神は、地上へと降臨したらしい。

 

 そんな自らの主女神様を見て幸せそうに、聖堂職員の全員が女神を囲って平伏していた。

 

 

「お、お久しぶりです!! 女神様!」

「ええ、久しぶりなのです。……いろいろと経験を積んだようですね」

 

 その様子を見て、慌ててカールは平伏した。

 

 ……正直まだ信用しきれてはいないが、周囲に合わせて俺も平伏しておく。

 

「よくぞここまで辿りつきましたね。勇者としての力も、だいぶ使いこなせてきているのです~」

「も、勿体ない言葉……」

 

 ニコニコと笑う女神は、どこか面白がっている表情をしていた。

 

 ……その笑顔にカールは見惚れ、呆ける。

 

「では、こちらに来るのですカール。夢で話した通り、儀式を始めましょう」

「は、はい!!」

 

 

 だが俺は、その笑顔の裏にどうしようもない胡散臭さを感じていた。

 

 ……嫌な予感がした。

 

 とてもとても、嫌な予感が。

 

 

 

 

 

 

 

「では、カール。紹介したい者が居るのです」

「……紹介、ですか」

「貴方もこちらに来るのです、ノワール~」

 

 その女神の言葉を聞いて、大聖堂で平伏していた者の一人が立ち上がった。

 

 そして、設置された祭壇らしきモノの上に上がり、カールと肩を並べた。

 

「……?」

 

 ……ソイツの歳は俺達とそう変わらない、精悍な顔つきの男だった。

 

「初めまして、お会いできて光栄です勇者カールさん。俺はノワールと言います」

「は、はぁ。はじめ、ましてノワールさん」

 

 カールは顔に疑問符を浮かべながらも、挨拶を返す。

 

 ……ノワールと言われたその男は、快活な笑みを浮かべてそのままカールと握手を交わした。

 

「それではカール。手を出しなさい~」

「は、はい。女神様、何をなさるおつもりでしょうか」

「ああ。一度、貴方に貸した力を返してもらうのですよ~」

 

 

 女神が、カールに差し出された手を取ったその瞬間。

 

 ふっ、とカールを覆っていた『何か』が消えた。

 

「へ?」

「いままでよく頑張ってくれたのです、カール。貴方のおかげで随分と、勇者の力は『育ってくれました』」

 

 カール自身も気が付いたらしい。

 

 自分にとって大切な何かが、無くなってしまったことに。

 

「え、あの。女神、さま?」

「カール。貴方にお願いがあるのです、貴方にしか出来ない事が」

「は、はい」

 

 ……ああ、そっか。分かった。

 

 この女神が何故、こんなにも胡散臭いのか。

 

 それは────

 

 

「貴方の全てを、このノワールに譲って欲しいのです」

「え……?」

 

 

 ────この女神、最初からカールの事なんかまったく気にかけてやがらなかったんだ。

 

「どういう、ことですか女神様」

「そこにいるノワールは、魔術の才能に優れ深く私を信仰し、人類の為なら命もいとわない人間です」

「……あ、あの」

「そしてカール。貴方は剣の才能に優れ、誰よりも優しかった」

 

 カールの顔が、少しずつ青ざめていく。

 

 何を言われているのか理解できぬまま。

 

「そんな貴方たち二人が『一人の勇者』になれば、さぞかし強いはずなのです~」

 

 やがて女神様は、得意気にそんな事をのたまった。

 

 その言葉に俺達は全員、呆気に取られる。

 

 何を、言いたいんだこの女神は。

 

 

「ノワール。手を出しなさい」

「光栄です、女神様」

 

 

 やがて、ノワールと呼ばれた男は女神の手を取って『何か』を渡された。

 

 それはきっと、今までカールの中に在ったものだろう。

 

 

 ────今。ノワールと呼ばれたこの男が、勇者の力を継承した。

 

 

「カール、私の言っている意味が分かりますか」

「え、あ……」

「今、このノワールが貴方の育てた力を受け取りました。今この瞬間から、彼こそが真の勇者なのです。しかし……」

 

 女神は冷酷な顔で、カールを見つめて笑って言った。

 

「彼には勇者としての経験も記憶もない」

「……」

「だからカール。どうせなら貴方の『記憶と経験』も、ノワールに譲ってください。貴方はノワールと人格が統合され、真の勇者になるのですよ」

 

 

 ……嗚呼。

 

 こいつは悪神だ。アルデバランの奴が言っていた通り。

 

 女神セファは人間の味方の振りをした、悪魔みたいな存在だ────

 

 

「それをしたら、俺はどうなるんです……?」

「貴方の身体は廃人になります。けれど貴方という存在は、ちゃんとノワールの中で生き続けるのですよ」

「で、ですが」

「聞き分けてください、カール。魔王という存在は、常に化け物染みた実力を持っています。正直な話、貴方だけの力では心もとない」

 

 どくん、どくん。

 

 俺の胸が早鐘を売っている。あの女神は、カールを殺すつもりだ。

 

 カールを殺して、あのノワールとかいう青年と合体させ、魔王との戦いに挑ませるつもりだ。

 

「ノワールも受け入れてくれました。貴方という存在が精神に侵入り、自らが別人格になってしまう事を」

「……」

「彼の身体は魔力に溢れて強靭で、間違いなく今のカールより強いのです。そんな体に勇者としての経験と技量を持った貴方が入れば、まさに鬼に金棒」

「そ、そうなの、ですか」

「ええ、そうなのです~」

 

 それがどういう意味を持っているか、あの女神は気付いているのか?

 

 カールがこの世から居なくなるんだぞ。馬鹿でお人好しで、誰よりも優しいカールという男がこの世から────

 

「駄目よ。ダメに決まってるでしょこのクソ女神!!!」

 

 俺がキレるより早く、マイカが絶叫した。

 

 カールがこの世から居なくなる。そんな話を、彼女が受け入れられるはずもない。

 

「そうですわカール、何を考えているのですか!! 要は、貴方だけ記憶と人格を抜かれて廃人になるという話じゃないですか!!」

「外野は黙っているのです~、決断するのはこの男なのですよ~」

「これが黙っていられるか!!」

 

 俺やマイカだけじゃない。

 

「……そんな人を馬鹿にした話があるかっ!!」

「……カールを、……返せっ!!」

 

 パーティの全員がその場で立ち上がり、激高していた。

 

「……だから、決めるのはこの男だと言っているのです」

「ふざけんな!!」

 

 いい加減、我慢の限界が来たらしい。

 

 その言葉と同時にマイカは女神に向かって駆けだして、

 

「……壁!?」

「そうなのです。今、私の周囲には勇者として祝福を与えた者以外は入れなくしているのです」

 

 何かにぶち当たり、弾き飛ばされた。

 

 よく見ればうっすらと、祭壇の周囲に魔術の障壁が形成されていた。

 

「っこの!! 中に入れなさい!」

「勇者としての能力の受け渡しの儀式。これほど無防備な瞬間もないですからね、障壁を張らせてもらったのですよ」

「カール!! アンタも何棒立ちしているの、早くこっちに戻ってらっしゃい!!」

 

 見たことのない魔術だ。

 

 魔術師として何とか解除できないか調べてみるも、見たことのない術式でわけがわからない。

 

 女神の技術とかなのだろうか。

 

「ねぇ、カール。貴方は今、勇者としての経験と記憶だけを持った凡人なのです」

「……」

「まったくの、無駄ですよね? 貴方が、勇者としての力の振るい方を知っていることは。今、その知識が必要な存在はノワールの方なのです」

「……女神様。聞いていいですか」

「何ですか。カール」

 

 カールは思いつめた顔をしていた。

 

 まさか、自分が勇者としての力を奪われ、あげく廃人にさせられようとは想像だにしていなかったらしい。

 

 ……しかし。

 

「俺は最初から、誰かに力を受け継がせるための勇者だったんですか」

「えぇ。貴方は剣のセンスは良いですが、身体能力や魔力に光ったところはなかった。しかし、自己犠牲を厭わないその魂はこれ以上ない適任でした」

「そっか。だから、俺なんかが選ばれたんですね」

 

 カールは何故か、女神の顔を真摯に見つめたままだった。

 

 その顔は、どこか悲哀に満ちつつも。

 

 納得した、と言った諦めの表情であった。

 

「ずっと疑問だったんです。何で俺なんかが、って」

「貴方の魂の高潔さに、敬意を示しての選出なのですよ~」

 

 そして。

 

 カールはゆっくり、女神の下にかしずづいた。

 

「……あのバカ、まさか!! やめなさい、あんた自分が何をしようとしてるか分かってるの!?」

「みんな、今まで一緒に旅してくれてありがとな。すっごい助かったよ」

「カール。……この大馬鹿、あんた、あんたぁ!!」

 

 やがて、カールは何かを決意した顔になった。

 

 その男が何を口に出すつもりか、容易に想像がついた。

 

「カールさん、おやめなさい!! 貴方……っ!!」

「セファ様。俺なんかで良ければ、どうか世界の平和のためにお使いください」

「馬鹿、バカぁぁぁぁ!!」

 

 ───言った。

 

 カールは、女神に向かってはっきりと自ら死んでも構わないと宣言してしまった。

 

「ありがとう。貴方ならそう言ってくれると思っていましたよ、カール。何せ……」

 

 その言葉を聞いて、にんまりとほほ笑む悪魔(めがみ)

 

 ソイツは、目を細めてカールの頬を撫でながら、

 

「そう言ってくれるであろう人を、最初の勇者に選んだのですから~」

 

 

 そんな、ふざけたことを宣った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 女神の障壁が、俺とカールを隔てる。

 

 俺達の悲鳴に近い叫びは、カールに届くことはない。

 

 

 

 

「カールさん。どうして、そこまでするのです」

 

 その時、イリューだけが落ち着いた声を出していた。

 

 半狂乱になってカールを思いとどまらせようとしている俺達と違い、彼女だけは冷静だった。

 

「私がピンチになっちゃったとき、呼んだら助けに来てくれるんじゃなかったんですか?」

「悪いイリュー、その約束は守れないや」

「……ですね。やっぱり人間は嘘吐きです」

 

 そうだ。俺たちは半狂乱だった。

 

 カールのバカが本気で、人類のために死ぬことすら厭わないのを知っているから。

 

 今この瞬間を逃せば、二度と彼に会えなくなると悟っていたから。

 

 だから、気づくのが遅れてしまった。

 

「……」

 

 女神の前に傅いて、祈りをささげる二人の男。

 

「ああ」

 

 女神セファの障壁の中、誰にも邪魔できぬはずのその祭壇の上に───

 

「やっぱり、人間ってクソです」

 

 

 

 顔を伏せた()()()が、いつの間にか立っていた。

 

 

「へ? お前、何でこの中に入れて……」

 

 女神は、その乱入者の存在に目を丸くする。

 

 イリューは、まるで女神の構築した壁なんて存在しないかのように、当たり前のように女神の壇上に上ったのだ。

 

「……ああ、美味しそう」

 

 止める暇もなかった。

 

 割り込む余裕なんて無かった。

 

 イリューはそのまま、スタスタと()()()()()()の背後へ歩いて、

 

 

 

「がペッ!?」

 

 

 

 ───背後から、勇者ノワールを頚をねじ切り。

 

「イタダキマス」

 

 ボリボリと、骨ごと食い始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

「────っ!!?」

 

 

 

 

 

 

 大聖堂に、勇者の血が滴る。

 

 女神から与えられる神聖なる力が、ムシャムシャとイリューの中へと消化されていく。

 

「……」

 

 無言だ。まだ誰も、その光景を受け入れられていないらしい。

 

 行動は奇天烈だが、優しく愉快な修道女だったイリュー。

 

 しかしそんな彼女は、勇者ノワールを頭から丸齧りにして殺してしまった。

 

「え、あ、あー!?」

 

 血濡れて脳髄をすする修道女に、女神すら動揺を隠せない。

 

 ただクチュクチュと、粘っこい水音が聖堂に響き続けた。

 

「……な、何をしているのです!!」

「……」

「お前、何者……!? まさか魔族の……、でもそんな気配なんか!」

「んふ? ……うふふ。さて、どうでしょうか」

 

 やがて。

 

 やっと声を絞り出した女神が、目を吊り上げてイリューを睨み付けた。

 

「お前、魔族なのですね。どうして、何故魔族が私の結界の中に……?」

「……嗚呼。やっぱり私に気づいてなかったんですね、女神セファ」

 

 その言葉に、失望を露にする血濡れの修道女。

 

 いや、それは失望なんて生易しいものではない。明確な『人類に対する絶望』が、その瞳には籠っていた。

 

「貴女はもっと、自分の勇者に興味を持ってはどうです」

「は、はいー?」

 

 ボリボリと、勇者の頚を咀嚼するのを止めず。

 

 修道女は頬に血を零し、無表情に女神を見据えた。

 

「ああ、懐かしい」

「……?」

「貴女に選ばれて、魔を払うべく奮闘したのは何年前の話でしたっけか」

「……へ? あ、いや。ま、まさか貴女は」

 

 やがて何かを思い出し、女神は息を飲んだ。

 

 イリューと女神セファは、知己である。

 

 それも、知り合ってから数百年になる古い関係だ。

 

「嘘なのです。で、でもー、え、嘘?」

「何が、でしょうか?」

 

 数百年前。イリューはセファと出会った。

 

 そして、イリューはセファから『力』を授かった。その代償して全人類を救うべく、身を贄にして戦う覚悟を誓った。

 

 そう。つまりイリューは、生まれつき魔族だった訳ではない。

 

 魔族に堕ちざるをえなかった、人間の成れの果て。

 

「貴女は、勇者。勇者、ユリィ……なのですかー?」

 

 びちゃん、と音が響き。

 

 イリューはもう食べるのに満足したのか、髄液の無くなった頭蓋を床に打ち捨てた。

 

「もう、その名で私を呼ばないでください」

 

 その修道女は、言葉に何の感情も載せないまま。

 

 かつて自分の崇拝した女神に、『何か神聖な力を纏った』十字架で斬りかかった。

 

「これからは魔王ユリィ、と。そう呼んでください」

 

 

 

 

 ───絶対切断。

 

 それは、神がカールに与えたとっておきの権能。

 

 敵が切れるものであれば、どんなものでも両断できる『セファ自身の持つ最強の能力』。

 

 その、今代の勇者に与えられるべき超常の力は、

 

 

「ああああああああっ!!?」

「ふふふ。やっぱり女神の力なら、貴女も斬れるんですねぇ」

 

 勇者を補食した、魔王の手に渡ってしまった。

 

 その結果、女神セファは自ら渡した力で胴体を真っ二つに両断される事になり。

 

 

「身が、私が、裂ける!? ああぁあ!?」

「……」

「何でなのです? あ、やだ、消えたくない……」

 

 その悪神は、涙声で取り乱しながら。

 

 上半身だけでもがき苦しみ、カールに向かって手を伸ばして────

 

「誰か助けっ……」

 

 自らを祭る大聖堂で、光の粒子となって消え去った。

 

 

 

 

「女神様が、堕ちた────」

 

 

 

 

 これは、過去の大戦を含めても初めての、

 

「魔王だ。本物の魔王がセファ様を殺した!!」

「うわぁぁあ!!? セファ様ぁあ!?」

 

 魔王が直に女神を殺した瞬間だった。

 

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