【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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80話「死亡跳躍」

 ユリィが人間に捕まって、数百年。

 

 それは、屈辱と絶望にまみれた地獄の年月であった。

 

『おお……』

 

 それでも、彼女は生き続けた。

 

 いつかくる終わりの日を信じて、その苦痛に耐え続けた。

 

『なんと、なんと美しいんだ』

 

 

 しかし。彼女が考えていたよりずっと早く、その地獄は幕を引く事になる。

 

 それは、ユリィが囚われてから400年ほど経っての出来事。

 

 

『ああユリィ。私と結婚してくれないか』

『……え』

 

 

 

 代々、ユリィを拘束して受け継いできた貴族の末裔。

 

 その子孫の一人が、ユリィに恋をしたのである。

 

 

『貴女のような美しい人を、こんな目に合わせるなんて』

 

 

 その男は、有り体に言えばボンクラであった。

 

 貴族としての礼儀作法を身に付けず、ただ民からむしり取った金を浪費し、享楽的に日々を生きるダメ貴族の典型。

 

『ああ、美しいよユリィ』

 

 そんな彼は何度もユリィを手籠めにし続ける中、いつしか彼女に惚れ込んでしまった。

 

 屈辱を堪え忍ぶ聖女の姿に、得も知れぬ興奮を抱いたらしい。

 

 

 

『駄目ですって!! 落ち着いてください、あの女は魔族ですよ!』

『そんな筈があるか、どう見ても人間じゃないか』

 

 その男は、親にも内緒でユリィを妻にすると決めた。

 

 彼は何度も何度も彼女の囚われた檻に出向いては、ユリィを連れ出そうとした。

 

『いやああぁっ!?』

『これもダメか! くそ、ここの封印はどうなっているんだ!?』

 

 しかし、ユリィを捕らえた魔法陣がそれを許さない。

 

 無理にユリィを地下牢の外へと連れ出そうとすれば、耐え難い苦痛が襲ってくる仕組みになっていた。

 

『ほら、この女を解放することは不可能なんですって』

『ぐぬぬ、いやしかし。何か方法が……』

 

 

 その男の執念を見て、修道女は歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

『ええ、そうです』

 

 ユリィはその男に、上目遣いで頼み込んだ。

 

『サイコロ水晶に、百合草の粉末。黄灰の煮込み、魔力の通る蔦と鴉のスープ。これだけあれば、封印が解けるのだな?』

『ええ』

 

 彼女は400年、この魔法陣と共にあった。当然、その魔法陣の解析はとっくの昔に済んでいた。

 

 ユリィは封印を解く方法を、何度頭に思い描いただろう。

 

『ここから出してもらえれば、貴方の婚約を受けましょう。私は、一生涯貴方に尽くします』

『嬉しいぞ、ユリィ』

 

 ユリィは男に、封印を解くための素材を集めさせた。

 

 そして、監視の無い夜伽の瞬間を狙ってそれを決行した。

 

 

『闇よ闇よ、その帳は幕開けん』

 

 

 ユリィを優しい光が包み込む。

 

 長年彼女を苦しめ続けた魔法陣が、ついに音を立てて崩れ去っていく。

 

 

『今、囚われの聖女に解放を────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────ユリィ?』

 

 その日。

 

 400年以上に渡り、ユリィを苦しめ続けたその貴族の一族は滅んだ。

 

『ユリィ、これは一体』

『くすくす。念のため、この家には全滅していただきましたの』

 

 この屋敷に囚われていたのは、ユリィだけではない。

 

 本来飼育するのは違法な筈の、魔族達が地下に幽閉されていた。

 

『もうこれで、追手は来ませんよ』

 

 自由になったユリィは、それら魔族を解放して回った。そして魔族と共に貴族を皆殺しにし、家を焼き払ったのだ。

 

 囚われていた魔族は皆、ユリィの命令によく従った。ユリィを群れの王と認め、臣従していた。

 

 何故なら、その魔物達は……

 

『見てください、貴方。このゴブリンは、50年前に私が産んだ仔です』

『う、あ』

『こんなに立派に育って、母は嬉しいです。ああ、この仔は私の20年前に私の相手をして……』

 

 ユリィ自ら産んだ、血族であったからである。

 

 ふざけ混じりに魔族と交配させられていたユリィは、何度も魔族を出産した。

 

 最初はおぞましかった魔族も、体を重ねるうちに仲間意識が芽生えてきて。

 

 ユリィが人間へ憎悪を抱くようになってからは、いつしか魔族達に深い愛情を注ぐようになっていた。

 

『見てください、この愛くるしい目を』

『ヴぉおぉ……』

 

 既にユリィは、正気ではない。

 

 愛おしい目でゴブリンを愛でるユリィに、男は恐怖した。

 

 とんでもない化け物を、解放してしまったのだと男は実感した。

 

『ねぇ、貴方。これから何処へ行きます? さあ、愛の逃避行ですよ』

『ユ、ユリィ』

『あ。この仔達も、一緒に行って良いですよね? 大事な大事な、私の子供ですもの』

 

 ユリィは、自らを解放した男に笑みを向けた。

 

 いくら人間が憎いとはいえ、この男は別だ。

 

 数百年ぶりに自分に愛を向けてくれた男性と、ユリィは添い遂げるつもりだった。

 

『皆で幸せな家庭を築きましょう』

 

 ……しかし。

 

 残念ながらユリィを解放した男に、そこまでの度量はなかった。

 

 

『うわあああ!! た、助けてぇ!!』

『えっ』

 

 

 恐怖心に囚われた男は、すぐさま逃げ出した。

 

 彼はユリィを、か弱い乙女と勘違いしていた。美しく気高く、おとなしい傀儡と勘違いしていたのだ。

 

 しかしユリィは、囚われていたこの聖女は────

 

 

『……ふぅん』

 

 

 人類に対する憎悪に染まった、化け物なのだ。

 

 

『貴方も、嘘をつくのですね』

 

 

 ……やがて男は、逃げ切れずユリィに捕まった。

 

 その屋敷で秘密裏に飼われていた魔族達に囲まれ、惨殺された。

 

『ああ』

 

 一度は愛するつもりだったその男の血を啜りながら、ユリィは嘆息した。

 

 その目に、色濃い失望を浮かべて。

 

『やっぱり、人間ってクソです』

 

 

 

 こうして。

 

 数百年の時を経て、魔王は再び世に放たれたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして久し振りに外に出てみたら、魔族はもうほとんど絶滅の危機に瀕していました」

「……」

「私が囚われている間に、何度も魔族は立ち上がって、その度に人類(ゆうしゃ)に打ち倒されて来たからです」

 

 ユリィが復活した後。

 

 彼女は魔族達の住む領域を探し、保護してもらおうとした。

 

 しかし、もうとっくの昔に魔族領なんてものは無く、魔族の大半は人間に滅ぼされていた。

 

「魔族と人間は敵同士。このまま人間の住む世界をあの仔達と放浪していても、いつか討伐されるだけでした」

 

 ユリィは考えた。どうすれば、自分の仔や夫である魔族達を守れるかと。

 

 彼女の仲間の大半であるゴブリンは、ひ弱な魔族だ。まともな戦力として大型魔族であるコング(さるがお)、トロールなどは数体しかいない。

 

 ちょっと強い冒険者パーティーであれば、ユリィ達を全滅させることができるだろう。

 

「だけど、私は気付いたんです」

 

 そんな折、とある冒険者パーティーにゴブリンを引き連れている所を見つかり。

 

「今の時代の冒険者さん、ものすごく弱いって」

 

 殺されるかもしれないと、全力で支援(バフ)を行い必死の抵抗を仕掛けた結果。

 

 冒険者達はひ弱なゴブリンにすら手も足も出ず、袋叩きに殺されてしまったのだ。

 

「私が守ってあげながら闘えば、きっと人間を滅ぼせる」

 

 これなら何とかなると考えたユリィは、解放されて数年間、仲間を増やすことに専念した。

 

 大型の魔物も何とかして受け入れ、せっせと仔を儲けた。

 

 魔族同士でも仔を生ませ、いつしかその軍勢はすさまじい数となった。

 

「そして、やっと。やっと人を滅ぼせるだけの戦力が整ったのに────」

 

 静かな森に隠れながら、兵数を整える事数年。

 

 そろそろ人類を滅ぼせると、ユリィがいよいよ侵略を開始した瞬間。

 

 

『これは、勇者の気配?』

 

 

 ────人類の窮地を敏感に察した女神により、勇者が世に現れたのだ。

 

 

 

 

「これは生存戦争なんですよ、カールさん」

 

 ユリィは、敵意を目に浮かべカールを睨んだ。

 

「私達は死にたくない、封印されたくない。あんなに辛い思いを、もう二度としたくない」

「……」

「だから、戦います。私は私の自由のために、魔族みんなの命のために、人間に復讐するために」

 

 カールに胸ぐらを掴まれたまま、修道女は暗い嘲笑を浮かべた。

 

 その瞳には『もう人間には期待しない』という覚悟が、はっきり浮かんでいた。

 

「ねぇカールさん。私は、悪ですか?」

「……それ、は」

「あんな屈辱を受けて、復讐したいと思うのは滅ぼされるべき業なのですか?」

 

 ユリィを掴んでいたカールの、その手が離れる。

 

 カールの表情には、確かな迷いが浮かんでいた。

 

 彼女に何か声をかけようとして、声をかけられない。そんな顔で、カールは黙り込んだ。

 

「違うんだ、イリュー。人間は、全員が全員そんな悪魔みたいな奴じゃない……」

「……へぇ?」

「確かに、悪いやつは居る。でも、それだけじゃなくて……、お前らを受け入れてくれる優しい奴はちゃんと……」

 

 カールは絞り出すような声で、言い訳がましくユリィを説得しようとする。

 

 しかしそんな薄っぺらい言葉で、彼女の心が収まるはずはなかった。

 

「少なくとも、400年。私は、そんな優しい人間には出会えませんでしたよ」

「……でも! 少なくとも、ここには居るぞ! 俺だってイリューの力になりたいし、ここに居る俺の仲間は……」

「では、そこにいるマイカさんはどうです」

「あれも、特殊な例だ!!」

 

 どさくさでマイカは、腐れ貴族と同じ扱いを受けた。

 

「ちょっと待てカール、今のは聞き捨て────」

「それに、レヴさんにレイさん。そこのお二人の気持ちはどうです?」

「……」

「聞きましたよ? 貴方のご両親の最期……。本当に、私を受け入れて許してくれるのですか?」

 

 その言葉に、拳士少女はブルリと肩を震わせた。

 

 ────そうだ。レヴちゃんのご両親は、家族は、魔族の群れに殺されてしまったのだ。

 

「そうか。お前が……、父ぅや、母ぁを」

「ええ、よく覚えていますよ」

 

 ユリィの話には同情できる部分も有った。

 

 しかし、それ以上に……、愛すべき家族を奪われた彼女には、恨みの方が深かった。

 

「何故。何故もともと人間だったくせに、父ぅを母ぁを殺した!!」

「今の私は、魔族ですよ? 人間なんて食料なんです」

「……っ!!」

「年の割にはしっかり鍛えられてて、食べごたえが有りましたねぇ。貴方のお父さん」

「……きさ、ま────っ!!」

 

 激怒という言葉も生温い。

 

 家族の直接の仇を見たレヴは、死んだ女神の残した結界に張り付いて怒鳴った。

 

「返せ!! 父ぅや、母ぁや、カインを返せ!!」

「……ふふ。そう思うなら、私を殺しに来てください」

「殺す……!! 殺してやるっ!!」

「レ、レヴ……」

 

 我を忘れるとはこの事か。

 

 普段は大人しい彼女が感情をむき出しに絶叫している姿は、ひたすらに痛ましかった。

 

「見ましたか、カールさん」

「……」

「誰だって復讐心は、簡単に抑えられない。だったらもう」

 

 ……そんな、少女に憎悪に満ちた目で見つめられたユリィはニタリと嗤って。

 

「殺し合うしかないじゃないですか」

 

 そう、カールの説得を切って捨てた。

 

 

 

 

「……1つ、聞かせてくれ魔王」

 

 そして、同じく親を殺された男がゆっくりと口を開いた。

 

「何ですか、レイさん」

「……見事なものだな、見事に貴様に騙された。お前は見事に俺達の仲間として溶け込み、不意討ちするその直前まで敵意を匂わせなかった」

「……くす」

「だが、教えてくれ」

 

 静剣レイは、レヴちゃんと違って冷静だった。

 

 内心は腸が煮えくり返っているだろうに。

 

 彼は冷静に、そして冷酷に。ユリィを既に『敵』と割り切って、話を続けた。

 

 

 

 

「────魔王本人が、何故わざわざ『私はMA☆王』と歌ったのだ……?」

「今はその話は、置いておきましょう。さてカールさん」

 

 ユリィはレイの質問を流した。

 

「カールさんの言う通り、優しい人も居るでしょう。しかし、悪魔のような人も間違いなく居る」

「……でも」

「平行線なんですよ、この手の話し合いは。どっちにも譲れない主張があって、抑えきれない感情があって、そうなったらもう戦争するしかないんです」

 

 魔王ユリィは十字架を手に握り、顔を凍り付かせているカールに付きつけた。

 

「これから、やっと私の復讐が始まるんです。今まで受けた仕打ちの報いを、人類に突き付けねばならない」

「……無差別に、人間に復讐しなきゃダメなのか? 直接の仇……例の貴族を滅ぼしただけじゃ、気が済まないのか?」

「ええ。確かに私や魔族さん達を苦しめてきた、にっくき貴族の血族は誅殺しました」

 

 それでも、カールは対話を諦めない。

 

 ここで説得しないと、どれだけ悲惨な結末が待っているか分からないから。

 

「じゃあ、それで……」

「ですがまだ、現王家……。私が囚われているのを知りながら、ずっと黙殺してきたこの国に対する復讐はまだ終わっていません」

 

 みしり、と聖堂の床に亀裂が走る。

 

 怒りで魔力が漏れ出たのだろうか。純粋な魔力が、物理に影響を及ぼす瞬間なんて初めて見た。

 

 

「分かりますか? 私の復讐の相手は、この国そのものなんですよ」

「……イリュー」

「400年前、私達勇者が命を懸けて守り抜いた筈の国。そんな功労者の筈の私に対する仕打ちが、あれですか。利用するだけ利用して、用が済めばポイですか!!」

 

 

 修道女の顔が憤怒に歪んだ。悲哀、屈辱、絶望、それらの感情全てが表情にこもっていた。

 

 彼女の言い分は、真っ当だ。アレだけの目に遭えば、誰だって人類を恨むし復讐心も芽生える。

 

 ……ただ、ひとつ突っ込むなら。

 

「次の私達の目標は、首都。いよいよ皆で、王家に復讐をするのです。奴等こそ、まだ生きている私達の直接の仇」

「あ、あの」

「あの連中が生きている限り、私の心は休まらない。400年越しに、きっちりと落とし前をつけて────」

「当時の王家ペトフィ家はクーデターで滅んでますわよ? 現王家はセファール家ですわ」

「ほえ?」

 

 そうなのだ。

 

 ユリィを虐げていただろう当時の王家は、色々あってもう滅んでいるのである。

 

 100年前の魔族決戦のゴタゴタでクーデターが起きたそうだが……まぁ、詳しくは忘れた。

 

「えっ? 滅……。え?」

「100年前の闘いで、この国はセファール王家にとって替わられてますわ。なので、その……」

「あ、あれ? じゃあ当時の王家はどうなったんです?」

「えっと、確かもう一般貴族に格落ちになって……。血族が途絶えたんじゃなかったでしたっけ」

「そうそう、旧王家がクーデターの神輿にならないようにお家断絶になったのよねぇ」

「はえ?」

 

 国名こそ変わっていないが、100年前を機に制度とか法令とか一新されてほぼ別国家になってるんだよなこの国。

 

 ……それでも、まだこの国はユリィの復讐対象なのだろうか。

 

「や、山に籠ってたから知りませんでした……。そんな事になってたんですね」

「そもそも、入り口で話してたじゃない。現王家の始祖、セファール様の像があるって」

「……聞いてませんでした」

 

 やはり、ユリィは知らなかったらしい。

 

 しばらく潜伏生活を送っていると、時世に疎くなるから仕方ないか。

 

「自分の仇の話くらい聞いておきなさいよぉ」

「……だってこの聖堂の入り口、私の像が飾ってあったんですもの!!」

 

 ……ああ。確かに、微笑みの勇者ユリィ像も有ったな。

 

 それがどうかしたのか?

 

「アレ、結構私に似ててビビってたんですよ!?」

「言われてみれば、似てるなアレ」

「あそこで気付かれたらどう言い繕おうとか、そんなんで頭一杯でした。他のオッサン勇者の話とか聞いてる場合じゃなかったです……」

 

 入り口に置いてあったユリィ像を思い出してみる。

 

 髪型といい、顔付きといい、イリューそのものであった。

 

「似てるとは思ってたけど、修道女さんなんて髪型も衣装も似たり寄ったりだしねぇ」

「ぶっちゃけ気にしなかったわ」

「……そんなに似てるのか。ちょっと並んでみてくれないかイリュー」

「え、あ、はい……。いや、やりませんよ!?」

 

 カールに手を引かれて結界の外に出されかけ、ユリィはハッと手を振り払った。

 

「ああ、別に無理にとは言わん。ただ一旦、気持ちを落ち着けて話をだな」

「落ち着ける筈がありますか!!」

 

 ……どうやらカールは、話題を変えて一旦ユリィを落ち着けようと画策しているらしい。

 

「……まったく狡猾な! 口車に乗せて私を結界の外に出すつもりだったんでしょう!」

「え!? や、その」

「やはり人間は嘘つきです! 卑怯で狡猾!!」

「すまん、そこまで考えてなかった……。と言うか、全盛期の力が戻ってるならお前の方が強いんじゃ無いのか? 結界から出て何か困るのか?」

「はい残念!! 私は全盛期でも、アンデット成仏させる系の攻撃しか出来ませーん!! 人間相手には何も出来ないので、イリーネさんとかレイさんに普通に負けちゃいまーす!!」

「……」

 

 ……。

 

「はっ!? 今、言わなくていいことを言った気がします」

「そうだな」

「また口が滑りました……、本当に人間は卑怯です!」

「え、今のは自爆では」

 

 

 ……成る程。イリューは昔からイリューだったんだな。

 

 そら、当時の枢機卿とやらに簡単に騙されて捕まるわ。

 

「もうこれ以上私は何もしゃべりません!! ふーん!!」

「……何とか、俺達と和解できないか」

「和解は必要ないです。もう、私の意思は変わりません。人間って最低です!!」

 

 見るからに人の好いイリューは、何度も何度も騙されて痛い目を見たのだろう。

 

 ……おそらくもう、口先で何とか言いくるめるのは無理だ。

 

「……ですが。私にだって感情はあります。本音を言うと、貴方達と殺し合いなんてしたくない」

「イリュー?」

「カールさん、貴方はもう勇者ではなくなりました。……遠く、出来れば大陸の外に逃げてください」

 

 イリューはそっぽを向いたまま、カールに背を向けてそう呟いた。

 

「貴方達の中に昔馴染みの末裔も居ますし、出来れば死んでほしくありません。この大陸を私たち魔族に譲っていただけるなら、深追いして世界征服しようだなんて思っていませんから」

「そ、それは」

「丁度、ここは湾岸都市。船を借りて、どこか遠くの大陸に移住していただけませんかカールさん」

 

 その言葉には、真摯な感情が載っていた。

 

 いや、そもそも最初からイリューには、人を騙そうとする気配なんてほとんどなかった。

 

 もしかしなくても、イリューが俺達の仲間をやっていた時に、嘘なんてほとんど────

 

「私本人は、とっても弱いですけど」

「……」

「これでも私、『史上最高峰の支援術師』と当時謳われた勇者なんですよ。私の仲間達は、支援さえすれば勇者だって殺せるレベルに能力が跳ね上がります」

 

 この言葉にも、嘘はない。

 

 イリューは、本当に最高峰の支援術師なのだろう。

 

「勇者の力を失った貴方では、どうあがいても殺されるだけです」

「そうかも、しれないが」

「無駄に命を散らす必要はありません。先程の、貴方が死を覚悟したときの仲間の顔を思い出してください。貴方はまだ、死にたいと口に出せますか」

 

 そう言ってカールを諭すイリューは、本当に聖女の様だった。

 

 いや、実際。彼女はれっきとした、心優しい聖女だった。

 

 人類が彼女を裏切り、魔王にしてしまっただけ。

 

「……では、私はもう行きます。本当の仲間(まぞく)が待っている場所へ」

「イリュー? な、何を」

「この時代では再現できないでしょうが、私の時代には転移魔法なんてものもあったんですよ? ほら、こんな感じに」

 

 ユリィが十字架を軽く振ったその瞬間、巨大な魔法陣が床に浮かび上がった。

 

 ……見たことのないくらい、巨大な魔法陣だ。

 

「さようなら、カールさん。出来れば、貴方が賢い選択をしてくれることを願っています」

「待て! イリュー!!」

「そして、レイさんレヴさん。……ごめんなさい、ね」

 

 ほろり、と涙を浮かべ。修道女は、やがて光に包まれていく。

 

「……待て。行く前に、最後に聞かせろ」

「何です、レイさん」

 

 その、色々な感情が混じった謝罪を受けて、レイが再びユリィに問うた。

 

「何故お前は『私はMA☆王』と……?」

「いやですから! それは置いておきましょうって」

 

 静剣レイ的に、ソレは凄く気になるところだった様だ。

 

「何のメリットもなくないか……?」

「兄ぃ、違う。今はその質問するタイミングじゃない」

「ああもう! そう言うド天然なところ、あの人にそっくり……!!」

「あの人?」

「もういいです、質問には答えません、私はもう何もっ────きゃっ!?」

 

 レイの天然がさく裂して慌てたのだろうか。

 

「あっ」

 

 魔王は修道服の裾を踏み、その場で思いっきり転倒した。

 

「あうあう……」

「イリュー! 危なっ────」

 

 

 

 そしてそのまま、放り投げた十字架が顔面に直撃した。

 

 

 修道女の顔が潰れてグロ画像になり、だくだくと血が噴き出し始める。

 

「え、あっ」

「あっ……」

 

 しかし、転移魔法はしっかり発動したみたいで。

 

 魔王様は死亡しながら、仲間たちの下へと死亡跳躍(デスルーラ)していった。

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