【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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82話「勇者がいなくなったパーティー」

 けたたましい獣声が、夜の湾岸都市を切り裂いて。

 

 俺達は再び、アイツと邂逅した。

 

「ヴゥうヴォぉッ!!!」

「ヴぁっ!! ヴぅぉっ!!」

 

 ああ、聞きたくもない獣声。

 

 俺はかつてたった一匹を相手にして、何とか勝ちを拾ったその化け物。

 

 そのマントヒヒ顔で、巨躯を軽やかに操り疾走する魔族どもが……。

 

 

「……化け物だ」

「うわあああっ!! 魔族だ、本当に魔族が攻めてきたぞぉぉっ!!」

 

 

 俺達の寝るアナトに向かって、群れをなし疾走してきたのであった。

 

「おいおい。イリューの奴、逃げろって言っといて殺意が高すぎるだろ」

「……今日中に逃げろって事だった、のかも」

「あるいは……私達の話を盗み聞きしていたのやもしれませんわ。私達が戦う決意を固めたからこそ、イリューさんも襲撃を決意した」

「その方が自然ねぇ。古代魔法の使い手だし、そういう技術もあるのかしらぁ?」

「ドサクサで俺達に盗聴魔法を仕掛けて立ち去ったとすれば、相当強かですぜあの女。俺達と居た時のポヤポヤした態度は、爪を隠してたって事になりますなぁ」

 

 イリューはかなり過大評価された。

 

「なら、盗聴対策が必要ね」

「次から、会議の時は盗聴対策に筋肉天国(マッスルミュージカル)を発動するとしましょう」

「……だな。だけど今はそれよりも」

 

 だが、今は盗聴されていたかなどどうでもいい。状況の把握が最優先だ。

 

 俺達は急いで街の入り口付近へと駆け出した。

 

「逃げろぉぉぉ!! 足の続く限り遠くに走れ!!」

「馬鹿者、船を出せ! 水路を使って逃げるんだ!」

 

 街門付近では、アナト市民が大混乱でごった返していた。

 

 叫ぶ者、喚く者、喧嘩する者、見渡す限りの地獄絵図が広がっていた。

 

「……奴らですわ」

 

 そして平野の方を見れば、アナトの郊外に黒光りする獣の群れが雄叫びと共に迫ってきていた。

 

 ……ああ、なつかしの怨敵。

 

「まだ、距離がありますわね。挨拶代わりに『精霊砲(エレメンタルバスター)』を1発ぶちまけます」

「頼む、イリーネ」

 

 俺は心を研ぎ澄まし、悠然と杖を握りしめた。

 

 かつて俺の精霊砲は、奴等の強靭な肉体を撃ち抜くに至らなかった。

 

 しかし、今の俺は違う。ヨウィンで杖を作り、精霊砲の火力が跳ね上がっている。

 

 精霊が見えるようになって、よりこの魔法への理解も深まった。

 

 

 

 つまり、俺は以前の俺じゃない。

 

 

 

 

 

「────炎の精霊、風神炎破」

 

 久々の、我が家の伝統芸。古代より伝承され現存する、現代最強の攻撃魔法。

 

 勇者を失った俺達パーティに出せる最大火力を、お目に見せよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 詠唱はつつがなく完遂した。

 

「……当たった!」

 

 そして俺の先制精霊砲(エレメンタルバスター)は、見事に魔族の群れへと命中した。

 

 爆音とともに夜闇が精霊の光で吹き飛ばされ、数百メートルにおよぶ爆炎が魔族を包み込んだ。

 

「おお、凄まじい!」

「いえ、駄目ですわ」

 

 撃ち終えた後、俺は溜め息をついた。……あれは、ダメだ。

 

「……む」

 

 俺の砲撃は、当たりはした。おそらく、何体かは仕留めただろう。

 

 

 ……だが。

 

「魔族ども、ぶっ飛ばされてもピンピンしてるわよ」

「……おそらく、爆心地以外の奴には耐えられましたわね。奴等の肉体は凄まじく強靭、爆風程度では死なないみたいですわ」

 

 俺の全魔力の約半分を使ってぶっぱなした精霊砲。その戦果は、おそらく数体の敵を屠ったに留まった。

 

 ……魔族の数はまだまだ唸るほど居る。

 

「……イリーネ、今の砲撃は何発撃てる?」

「後1発。……それで、魔力切れになりますわ」

「そうか」

 

 杖で威力上がった筈だし、結構行けると思ったんだけどなぁ。

 

 これじゃ、大した被害は期待できん。

 

「これじゃあ、どうしようもねぇですぜ」

「どうする。諦めて逃げるか」

「今から船を借りられないでしょう。ここで迎撃する他ありませんわ」

「……だな。イリーネ、精霊砲は魔力効率が悪いから封印しておけ」

 

 ……レイは、俺にそう忠告してきた。精霊砲は消費魔力に対して、戦果が少なすぎる。

 

 俺も、同じ意見だ。

 

「具体的にどうするつもりぃ?」

「……俺が、奴等の目を引く。その隙に、イリーネが何とか急所を探し仕留めてくれ」

「急所?」

 

 静剣レイはそう言うと、短剣を手に俺達の正面に立った。

 

 どうやら、囮役をやってくれるらしい。

 

「生物である以上、奴等もどこかに急所は有るだろう。少なくとも前に邂逅した時、目潰しは有効だった」

「ふむ」

「それで敵が苦しんでいるうちに、何とかして魔族を仕留めてくれ。魔法は分からん、手段はイリーネに任せる」

「……」

 

 ……魔族の急所を突く、か。そもそも急所が何処か分からんけど、それしかなさそうだ。

 

 精霊砲以外の魔法で魔族を仕留められなければ、勝ち目はない。

 

「なるべく魔力消費の少ない魔法で、仕留めなさい。貴女が魔力切れ起こしたら終わりよ、イリーネ」

「私も、土魔法で色々やってみるわぁ。ただイリーネに比べて魔力は貧弱だから、あまり期待しないでよね」

 

 サクラも、協力してくれるらしい。

 

 前の決戦の時は、彼女の罠のおかげで勝てた部分も大きかった。

 

「じゃあ、頼んだぞイリーネ」

「えっと……」

 

 

 さて。ご注文は魔力消費が少なくてそこそこ火力の有る、攻撃魔法。

 

 ……この前教科書を読み直したけど、そんなの有ったかな?

 

「……後ろは、私が守る。イリーネは、安心して魔法を唱えて」

「俺も体くらいは張りましょうかい。お嬢、どこまでもお守りいたしやす」

 

 俺とサクラの周囲を、パーティの皆が固めてくれる。

 

 この期待に応えて、何とか良い感じの魔術を思い出さねば。

 

 

 

 まず火力と言えば火魔法だが……。アイツら爆風に耐えたってことは火に強そうだし、やめておこう。

 

 水だと碌な火力にならん。水の最大魔法は洪水を起こせるらしいが……俺には水弾を打ち出すくらいしか出来ない。

 

 風魔法使えば空を飛べるようになるけど……。上を取っても魔法を多重起動できないから、敵を見下ろしながら魔法撃てないんだよなぁ。

 

 土は……俺もサクラと同じ事しか出来ない。何なら土魔法限定だと、サクラの方が巧者まである。

 

 ……あれ? 俺ってばアイツに効きそうな魔法、精霊砲しか持ってないような。

 

「私は目潰しでもしとく。アイツらの眼球、矢で針山にしてやるわ」

「……全員で一丸にならないと勝てないぞ、覚悟は決まったか」 

「各自できる事をしっかりやる事。……仕留めるのは、イリーネに任せたわよぉ?」

 

 回りの仲間は着々と、奴等を撹乱する準備を進めていた。

 

 俺は一人、ぽかんとその様子を眺めるのみであった。

 

 

 ……ちょいと待って。俺、どうすりゃいいの?

 

 

 

「よし……」

 

 そして。

 

 先ほどからずっと黙りこくっていたカールが、ようやく口を開いた。

 

「俺も、イリーネと一緒に仕留める役をやらせてもらおう」

「……カール?」

 

 この男は、何を考えているのか。

 

 既に勇者ではなくなり、何処にでもいる普通の冒険者に戻ったその男は不敵な笑みを浮かべ。

 

 

 

 

「────行くぜ魔族ども」

 

 俺達が制止する暇もなく。

 

 たった一人、魔族の群れに突っ込んでいった。

 

「ちょ、カール!? あのバカ何を!!」

「……危険ですわ、せめてもうちょっと肩を並べて────」

 

 囮役を務める筈だったレイが呆然としている。

 

 自分よりも遥か先に、馬鹿が単騎で突っ込んでいったからだ。アイツ、自分が勇者の力を失ったって気付いてるよな?

 

 それは、どう考えても無謀な突進だった。

 

「かかってこいやぁ!」

「ぅおヴぉ!?」

 

 しかし、俺達は信じられない光景を目にする。

 

 

「ヴぉぁ────」

 

 

 魔族は突っ込んできた矮小な人間(カール)を見て、獰猛な笑みを浮かべた。飛んで火にいる夏の虫とでも思ったのだろう。

 

 そして魔族は、巨大な体躯を支えていた4足歩行の、その前足を振り上げて────

 

「秘剣」

 

 カールに向かって叩きつけようとした瞬間。

 

 既に元勇者は、魔族が振り上げた足に剣を突き立て、勢いよく宙へ跳んでいた。

 

魔物薙(マハラギ)

 

 思わず『あっ』と嘆声が漏れる。

 

 敵の力で空中に放り出されたその男は、空中で何回転もしながら大剣を振るい────

 

「チェストぉ!!!」

 

 頭蓋を一刀両断した。

 

 

 

「ヴぉヴぉヴぉヴぉヴぉ!!」

 

 しかし、カールに息をつく暇はない。

 

 彼が魔族から剣を引き抜く最中、同胞を仕留められ激怒した魔族がカールに飛び掛かった。

 

「ふん」

 

 それを見たカールは、その場でぐるぐると回転しながら大剣を振り上げ────

 

顎刈(アギト)

 

 重力を乗せてカールに叩きつけられたその拳を。

 

 彼は大剣で回りながら車輪の様に駆け上がり、魔族の首の下から脳天まで力づくに割いてしまった。

 

 

 それは、御伽噺に出てくるようなありえない剣術。

 

 創作の世界でしか伝承されていなかった、魔族狩りの流派。

 

 

 

「まだまだ行くぜ」

「ヴぉ、ヴぁ……?」

 

 

 

 瞬く間に2体。カールは、何の支援も受けていない普通の冒険者の肉体で魔族を屠った。

 

 貴族(おれ)があんな苦労し命懸けで倒した、アイツを。

 

「ちょっと、どういう事よぉアレ!? カール、勇者の力を失ったんじゃ……」

「……見誤っていた。そうか、アレがあの男の本領か」

 

 レイは、呆然とカールの無双を見守って感嘆していた。

 

 ……待て。カールって、何処にでもいる平凡な冒険者じゃなかったか。

 

 平凡な冒険者が、何であの化け物を圧倒出来るんだよ。

 

「レイさん。どうしてカールさん、勇者の力を抜きに魔族を圧倒しているか分かりますの?」

「ああ、あの動きは対魔族の最適解を示している様なものだ。体の使い方が上手すぎる。なるほど、全身をバネに……あんな動きがあるのか」

 

 カールが突っ込んで、魔族の進撃は止まった。

 

 彼の危険さを理解したらしく、周囲の魔族はジリジリとカールから距離を取っている。

 

 ……いや。この魔族どもはかつてこの男に蹂躙され、壊滅させられたのを思い出したのかもしれない。

 

 

「そうよねぇ。本当にカールがただの凡人なら、女神もわざわざカールの剣術を真勇者に継承しようとしないわよねぇ」

「そ、そうですわね」

「完璧に理詰めされた型だ。あの動き、自分より大きく獰猛な生物を相手にする為に特化した剣術……」

 

 ……そうだ。確かアイツは、もともと魔族を殺すために特化した型を身に付けていてのだ。

 

 幼少の憧れを形にするべく、かつての勇者の剣を模倣して身に付けた。

 

「アレ、師匠もなしにカールが一人で造り上げた動きらしいわよ。本だけ読んで」

「それが本当なら、凄まじい剣才だぞあの男」

 

 人間や小さな魔物相手には真価を発揮できず、平凡な冒険者止まりだった男カール。

 

 そんな彼は、本来の想定敵(まぞく)を相手にこれ以上ないほど元気に立ち回っている。

 

 

 魔族を殺し、人類を守る為だけの剣。それが、彼の剣術の本質だった。

 

 既に世界に殆ど魔族が居なくなり、対魔族の流派は廃れた。

 

 皮肉なことに、ずっと前に廃れどんな道場の門を叩いても学ぶことが出来なかったその技術を、もっとも精密に描写して後世に伝えていたのは『御伽噺』だった。

 

 勇者の英雄譚に出てくる描写が、現在唯一残された『対魔族剣』の資料。カールはそれを徹底的に研究し、技へと昇華した。

 

 

 そう。カールこそ現在唯一の『古流対魔剣』の使い手なのである。

 

 

 単純な勇者としてのスペックなら、ノワールがカールを圧倒している。

 

 しかしカールの身に着けた剣術は、奇跡と言っていいほど稀少で効果的であった。

 

 だからこそ女神セファは悩み、両取りしようという暴挙に出た。

 

 つまりカールもまた、使い捨て要員ではなく立派な勇者候補だったのだ。

 

 女神が魔族と戦う勇者を選ぶにあたって、彼はノワールの次の第2候補に挙がってくる人傑であった。

 

 

 

「一瞬でも、あの方を足手まといと考えたのが恥ずかしい。カールが、私達を守るための戦いで弱かったことなんて一度もなかったというのに」

「……ふ、負けてられんな。イリーネ」

「ええ」

 

 よし、と俺は両頬を叩いて気合を入れる。

 

 カールが強いとはいえ、肉体的にはただの凡人。貴族である俺の方が、色々と恵まれている筈。

 

「俺も、迎え撃つ。あの男だけにいい格好はさせん」

「ええ、カールだけを孤立させません」

 

 幸いにも、魔族は困惑して立ち止まっている。今が好機。

 

 そして俺達はカールと肩を並べ、魔物狩りに参戦した。

 

 

 ……因みに。

 

 

 

浸透掌(マッスルボンバー)!!」

「ヴぉヴぁぉ!!?」

 

 特に有用な魔法を思いつかなかったので、身体強化してマッスルボンバーしたら滅茶滅茶効いた。

 

 どうやら、この魔族は体皮が異常に強靭らしい。つまり、常時重装の鎧を身に着けたような生物だったのだ。

 

 そのせいか、浸透掌(よろいどおし)で脳天を殴ると楽に仕留めることが出来たのだ。流石は静剣の秘拳、すげぇわこの技。

 

 身体強化ならほとんど魔力消費もしないし、ご注文通りの仕事は出来るだろう。

 

「……すげぇなイリーネは、結局素手かよ!!」

「カールこそ、魔力もないのに素晴らしいですわ!」

 

 俺はレイに隙をカバーして貰いながら、マイカやサクラがかく乱した魔族を仕留める事に注力し。

 

 カールは縦横無尽に、俺達に近づく魔族をどんどんと仕留めていった。

 

「うっ! く、この」

「イリーネ、一旦下がりなさい! 腕を処置するわぁ!」

 

 戦闘中、俺は2回ほど反応がうっかり遅れて骨をへし折られたが、即座にサクラに治して貰って戦線復帰できた。

 

 やはり後衛に回復術師がいると安定するなぁ。高火力の魔法アタッカー(アルデバラン)も欲しい所だが……居ないものはしょうがない。

 

「おお、魔族の連中引いて行くぞ!」

「ふ、ふぅ。良かった、何とかなりましたわね」

 

 ……結局レーウィンの時の苦戦が嘘みたいに、俺達は魔族を圧倒した。

 

 いや。あの時も、カールさえいれば楽勝だった。

 

 この男は……、カールは、強い。

 

「それ、レイに習ってる技か。良いな、凄い便利じゃねーか」

浸透掌(マッスルボンバー)は私の一番のお気に入りですわ。……この技があれば、あの時ももう少し苦戦せずに済んだのですが」

「え? あ、そうか猿仮面だったか。……まだ受け入れきれてねぇなぁ、俺」

 

 一方で、俺は少しくらい強くなったのだろうか。

 

 この旅を通して、何か成長しただろうか。

 

 ……俺は、勇者の力を抜きにしたカールにも追い付いていない。もっともっと精進せねば。

 

「兄ィ。……私もあの技使いたい。まっするぼんばー」

「……違う。断じてそんなダサい名前ではないっ!」

「……え、格好良いよ……?」

 

 そんな俺達の後ろでは、妹が兄に技のおねだりをしていた。

 

 

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