【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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85話「決戦の前触れ」

 あまり楽しくなかった昼食会の後。

 

 俺達は午後もアルデバラン達としっかり訓練を行い、空に赤みが差すまで体を鍛えた。

 

 1日通して見たところ、やはりアルデバランパーティーで金髪君は強さが頭ひとつ抜けている様だった。

 

 アルデバランパーティーでは、金髪(イノン)中年槍(ラジッカ)(イリア)の順番で戦力っぽい。

 

 その遥か上に、アルデバラン本人が居るのだけど。

 

「よし、これから顔合わせである」

「おう」

 

 訓練の後は、いよいよ国軍との顔合わせだ。

 

 俺達は教会(アルデバランの借りたマクロ教会)に戻って水浴びして身を清め、ヨウィンで用意していた礼服へと着替えた。

 

 流石のアルデバランも、しっかり正装だ。その辺の常識は、カールよりあるらしい。

 

「では、ついてまいれ」

 

 そして彼女の案内で、俺達は首都ペディアの最奥にある鉄城門を潜り、貴族エリアへと足を踏み入れた。

 

 貴族である俺も、まだこのエリアに入ったことは無い。

 

「……アルデバランさん。我々はどこへ向かっているのですか」

「王宮へ向かっている。そこで、ガリウス様や国軍大将達が出迎えてくれる手筈となっている」

「お、王宮か……」

 

 聞けば今夜、アルデバランはガリウス様に呼び出しを受けていたらしい。

 

 国軍の顔合わせという名目なので、彼女のパーティーメンバーも全員参加しろとのお達しだった。

 

 俺達は急遽参加になったが、アルデバランのパーティーメンバー扱いなので問題はないだろうとの事。

 

 ただし、ガリウス様にしっかりアナトでの出来事を報告しろとアルデバランに言われた。

 

 あー。それ、多分俺の役目になるよなぁ。

 

 ……王族に挨拶をせにゃならんのか。胃が痛い。

 

「……国軍大将、ね。ひょっとして、ガリウス様の他にも大貴族な方々と顔合わせする感じか?」

「ええ、かなりの数の貴族が参加する予定だそうです」

「うげ……」

 

 そして、今回はガリウス様だけでなくそれなりの数の貴族も参加する模様。

 

 ヨウィンでやった予習が役に立てば良いが。

 

「ふふ、緊張は不要ですよ。その大将軍には私の父上、ロメロ・マッキューンが任ぜられたそうです。つまり、私の身内みたいなものです」

「それは、それは。ご就任おめでとうございますわ」

 

 成程。国軍大将に任じられたのは、今もなお親衛隊の長を務めるマッキューン家の当主か。

 

 面白くはないが、妥当な人選だな。

 

「祝辞はやめてください、イリーネ嬢。私と父は、それはそれは不仲ですので」

「……不仲なんですの?」

「ええ。まぁ、ね」

 

 金髪はただでさえ細い目をさらに細め、クックッと不気味な笑みを浮かべた。

 

「今から父上がどんな顔をするか楽しみです。あの人は以前『魔王なんぞいるハズがない』と叫んで、私を勘当してくれましたからね……」

「あー」

「アルの言うこと、一切信じてくれなかったもんね……」

 

 ほう、つまり金髪父は頭の固い人なのか。

 

 昔気質の武家貴族は、割とポンポン勘当すると聞く。

 

 イノンほどの剣士を勘当するあたり、かなり激しい気性の貴族なんだろうな。

 

「イリーネの親父さんとはえらい違いだ」

「おや。ではヴェルムンド家は、どのような対応を受けたので?」

「ヴェルムンド伯爵はちゃんと信じてくれたぞ。しかも、路銀くれるだけじゃなく娘のイリーネまで旅に付けてくれた」

「……それは、羨ましい限りです」

 

 まぁパパンのソレは、俺の嘘見抜き能力を信用しての話ではあったが。

 

 勘当といえば、イリアはどうなるんだろう。無断で家出してるから、イリアこそ勘当されても不思議じゃない。

 

「イリアは結局、まだお父様に何も言っていませんの?」

「う……」

 

 マッキューン家の話はともかく、貴族令嬢が家出して勝手に冒険者やるのはかなりマズい。

 

 パパンはクソ優しいが、普通なら勘当モノだ。実際、パパンがイリアにどんな裁定を下しているかわからない。

 

 俺も妹が平民落ちするところなんて見たくない。

 

「私も口添えいたしますから、せめて手紙はお書きなさい。それが筋ですわ、イリア」

「わ、わかりました」

「後、サラにはしっかり謝ること。自らの勝手で従者に迷惑をかけるなんて、貴族失格です」

「……うぐぐ。わ、分かりました」

 

 それに自分一人で出ていくならともかく、旅に出てからの身の回りの世話に平民のサラに任せているのがいただけない。

 

 まだ若く自分の結婚適齢期もあるだろうに、サラの人生を何だと思っているのか。

 

「イリーネお嬢様。私はどこまでもイリア様にお仕えできる事に、無上の喜びを感じておりますよ」

「ああ、サラありがとう。貴女が居てくれて、妹は本当に助かっていたでしょう」

 

 サラは優しいからこう言ってくれてるけど、それに甘えちゃいかんよ。

 

「うー、うー……」

「何を唸っているのです、イリア」

「いえ、その、何というか。猫をかぶりやがってと言いますか……」

「……?」

 

 説教を受けた妹は、何とも微妙な表情をしていた。

 

 コラ、しっかり反省しなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇者一行の、ご入場!」

 

 

 王宮に入った後、俺達は案内の兵士に大広間へと連れられた。

 

 その扉を開くと、きらびやかなパーティー会場にいくつものテーブルが並べられ、既に豪華絢爛な料理が用意されている。

 

「勇者様に、礼」

 

 そして号令と共に、華美な衣装に身を包んだ貴族が一斉に貴族礼を俺達へと向けた。慌てて礼を返しておく。

 

 あ、これガチのヤツだ。

 

「全員、平伏!!」

「ははーっ!!」

 

 パーティーの詳細を聞いておらずど呆気にとられていると、大広間の前に設置された舞台の兵士が再び一喝した。

 

 それに従い使用人達が、その場で四つん這いになって最敬礼を始めた。

 

 パーティーに参加している貴族達も、速やかに片膝をついて屈みこんだ。

 

 これ、遅れたらヤバい奴だ。俺は周囲のメンバーに目配せした後、同じようにその場で片膝を付いて頭を伏せた。

 

 

 平民は土下座、貴族は片膝ついて頭を下げるのが所謂『最敬礼』に当たる。

 

 しまったな、これを事前にカール達に教えておくべきだった。

 

 ……お、良かった。空気を読んでカールもちゃんと平伏してる。

 

 他の面々も、スムーズに最敬礼に移行している様だ。

 

 

「国王の、おなり!!」

 

 

 そして、遂に来た。

 

 俺達の中にはヴェルムンド家の令嬢、マッキューン家の師範代などかなりの面々がそろっている。

 

 そんな俺達が最敬礼を求められるほどの相手となると、王族くらいしかいない。

 

 ガリウス様かと思ったが……まさかの、国王のお出ましか。

 

 

「全員、傾聴せよ!!」

 

 

 ───この国の最高権力者が、この場に現れる。

 

 

 

 

 

 

 

「……顔を上げ」

 

 緊張でほんのり額に汗を浮かべている間に、頭を上げる許しが下りた。

 

 恐る恐る顔を上げると、ガリウス様を背後に従える白髪交じりの壮年が腕を組んで座っていた。

 

 あれが、国王。

 

「……ガリウス」

「はっ」

 

 国王は、静かにガリウスの名を呼んで目を閉じた。

 

 ───その言葉を受け、ガリウス様が俺達の前へと一歩進んだ。

 

「勇者アルデバランよ、よくぞ参った。勇者殿のこの度の参戦、痛み入る」

「……光栄、です」

「そして、勇者カールも此処に来るとは思わなかった。まだ評せていなくて申し訳ないが、ヨウィンでの貴殿らの功績は測りようもない」

 

 王族のオーラが半端ない。あのアルデバランですら、若干緊張して声が上ずっている。

 

 ガリウス様だけでも、結構オーラあったからな。

 

「我らペディア帝国は、貴殿らを歓迎する」

「光栄にございます」

「……本日は、我らが誇る精強なペディア軍を諸君らにお披露目したく会を設けさせてもらった」

 

 ガリウス様はそう言うと、パチリと指を鳴らした。

 

 それと同時に、使用人達が銅鑼の前に立つ。

 

「我らが誇る、武勇に優れた猛者達を紹介しよう。……王よ」

「うむ」

 

 国王はガリウスの言葉を受けて立ち上がり。

 

 彼が片手をあげるや、壮大な銅鑼の音が大広間に響き渡った。

 

「ペディア3将よ、参れ!!」

「……ペディア3将?」

 

 お、おお。将軍は、3人もいるのか!

 

 聞いたことがある。この国には戦争時、それぞれ役割の違う3人の猛将を『ペディア3将』と任じ国防に当たらせたらしい。

 

 前回は異民族との戦争の時に設置され、『剣士』と『魔法使い』、『軍略家』がそれぞれ任じられたとか。

 

 3将は互いに苦境を支え合い、弱点を補いあって異民族を撃退したと聞く。

 

 因みにその戦いに下っ端として参加し、武功をあげ伯爵位を得たのが元祖ヴェルムンド卿である。

 

「戦略と外交の専門家、リチュアート侯爵だ」

「よ、よ、よろしく」

 

 ガリウスの紹介と共にペコリ、髪の長い女性が深々と礼をした。ふむ、今回も居るのね軍略家。

 

 ちょっと幸薄そうな雰囲気だが、頭のよさそうな女性である。

 

「魔法剣の達人、マッキューン伯爵」

「ご紹介どうも、です」

 

 次に立ち上がったのは、胡散臭い笑顔を浮かべた金髪糸目のヒゲ貴族。

 

 ああ、老けてはいるが顔がそっくりだ。間違いない、コイツが金髪(イノン)の父親。

 

「上級魔法のプロ、ヴェルムンド伯爵」

「ははは、よろしく」

 

 

 ……。

 

「以上3名が、貴殿ら勇者と共に剣を取り魔を砕く帝国の『刃』である」

「お、おおお?」

「今宵は大いに食べ、飲み、親睦を深めてほしい」

 

 

 国王は、そんな挨拶と共に杯を掲げた。

 

 それとほぼ同時に、俺達も使用人から酒の入ったグラスを手渡される。

 

「───我らが勇者に、乾杯!!」

 

 その掛け声と共に、場の全員が王と同じように杯を掲げる。

 

 この国における最高権力者たちの宴が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し無視出来ない名前があったが、俺はまずガリウス様の席へと挨拶に伺った。

 

 アナトでの1件を、報告するためだ。

 

「ほう……そのような」

 

 俺はつまびらかに、数日前の出来事を報告した。

 

 仲間と思っていたイリューが魔王だったこと。

 

 イリューに、勇者としての力を奪われてしまったこと。

 

「魔王と旅していたとは気付かず、お恥ずかしい限りですわ」

「いや、よくぞ報告してくれた。勇者ユリィ、か。さっそく文献を探させよう」

 

 報告を聞いたガリウスは、渋い顔をしていた。

 

 俺達が魔王を取り逃がしたから怒っているのだろうか。

 

 ────いや、違う。ガリウス様はイリューの過去の話を聞いて、やり場のない怒りを感じているのだ。

 

「……辛い経験をしたな」

「ええ、本当に辛かったでしょう。彼女という存在を作り上げたのは、我々人類と言えましょう」

「いや、貴殿らの話だ。……それは紛れなく、前王家が残した負の遺産である。王家が、迷惑をかけた」

 

 ガリウスはそう言って、俺達に謝った。

 

 

 

 

 その後、俺達は知りうる情報を全てガリウスに伝えた。

 

 

 魔王の正体が、セファ教の勇者であったこと。

 

 彼女は、攻撃魔法を使えない支援魔術師であること。

 

 そして、ユリィは誰よりも優しい女性であったこと。

 

「イリーネ・ヴェルムンド。あまり悩むな」

「……はい」

「ユリィ様……。いや魔王ユリィは、魔族と共に有る事を選んだ。いくら偉大な先人勇者であり、彼女が被害者であったとしても、それが彼女の選択」

 

 ガリウス様は、俺を見つめたまま静かに首を振った。

 

「魔王ユリィには、人類と争わずに済む道があった。魔族を見捨て、再び人間に歩み寄り、共に生きる選択肢も取れた」

「……」

「しかし彼女は、魔族を見捨てなかった。そして、人類が滅ぶことを良しとした。ならば……」

 

 ガリウスは、あえて非情な目で俺へ忠告した。

 

「人類を餌とする魔族を、我々は受け入れるわけにいかぬ」

「……仰る通りです」

「ユリィは、わざわざ人類を滅ぼす道を選んだのだ。ならば同情も不要、全力で迎え撃つのみ」

 

 ガリウスの意見は、徹底抗戦だった。

 

 それは現実的で、国を守るためには最善の手段であるといえた。

 

「貴殿の奮闘に期待する。イリーネ・フォン・ヴェルムンド」

「ありがとうございます」

「では、貴殿も3将と顔を合わせて参れ。特にヴェルムンド伯爵は、貴殿に会いたがっていたぞ」

「は、はい」

 

 こうして、俺はガリウス様への報告を終えた。

 

 礼をした後、そのまま自分の席へと戻った。

 

 父の待っている、その席に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イリアには困ったものさ。姉にべったりだからもしやとは思っていたが……本当に追いかけて行ってしまうとは」

「ええ、私も驚きましたわ。まさか、黙って家を出ていたなんて」

 

 父は相変わらず、困ったような笑みを浮かべて笑っていた。

 

 俺が家を出た時と何も変わらぬ、優しい顔がそこにあった。

 

「……あう」

 

 父の隣には、縮こまって顔を伏せているイリアが座っている。

 

 流石にばつが悪いようだ。

 

「その、父様。私は……」

「はっはっは、流石の僕も怒ってるよイリア。君を捜索するのにどれだけ手間暇が掛かったと思ってるんだい?」

「う、うぅ」

「それなりの処分は覚悟しておくことだね。だが安心しなさい、僕が君を見捨てることはないから」

 

 どうやら、イリアはキツめのお説教を受けたらしい。

 

 まぁ、それは仕方ない。俺だって、説教したくなるくらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 にしても、ヴェルムンド大将軍か。父も出世したものである。

 

 改めて父に詳細を聞いたところ、有力貴族とは言えないパパンが3大将軍に任じられた理由は『純粋な我が家の軍事力』らしい。

 

 魔族復活の報をカールから聞いて以来、父はコツコツ軍備を拡張し続けていたのだそうだ。そのお陰で、父はそれなりの軍勢を動かせるようになっていた。

 

 そして軍事貴族は数あれど、上級魔法『精霊砲』を扱えるのは一握り。そしてパパンもしっかり精霊砲を扱える最高水準の攻撃魔導師。

 

 かつての武家の名門というのも加味され、総合的に父は一躍『大将軍』に抜擢されたのだそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あのマッキューン家も、大将軍だそうですね。我が家とは少し軋轢がありますが」

「昔の小競り合いなんか気にしちゃいけないよ。ふふ、僕らの家系は権力争いするより田舎でのんびりが性に合ってる」

「マッキューン様は妥当な任命ですが、お父様はかなりの大抜擢です。やっかみは買われませんか?」

「買うだろうねぇ。まったく、憂鬱な限りさ」

 

 父は嫉妬の話題になると、頭が痛そうな顔になった。

 

 実は父も大将軍の大任を受けた時、やっかみを恐れて断ろうと思ったらしい。自分の家では他の家を牽引するだけの権勢が無いので、もっと大貴族にやって貰いたいと。

 

 しかし、ガリウス様から他の貴族軍の惨状を聞いて引き受けることを決意したそうだ。

 

「まともな手勢を連れてきたのが、僕らだけなんだそうだ。他の貴族は訓練度の低い百余の小勢が精いっぱい。武装すらせず単身駆け付けただけの家まである」

「それは……、何と言うか」

 

 それもそのはず。

 

 まともに軍隊と呼べるだけの戦力を以て参上したのは、我がヴェルムンド家くらいだったというのだ。

 

「……それで、今までよく領地を守っていけましたわね」

「殆どの街が平和を謳歌していたのさ。自分の領地の治安を維持できる兵が居れば良かった」

 

 父はガリウス様の召集に呼応し、千人程を率いて首都へ到着したと言う。前の戦争では殆どの家が数千単位で兵を率いていたので、ヴェルムンド家の規模を考えれば妥当な兵数だろう。

 

 しかし前回の戦争で異民族の討伐が終わり、数十年も平和な時代が続いていた。そんな中で、たった半月で兵をかき集める事が出来た家は少なかった。

 

「大半の家が、自分の家の警邏部隊を引き抜いて連れてきたらしい。それでやっと、その人数だそうだ」

「まぁ、咄嗟に言われても兵は出せませんわね」

 

 父はカールから魔王復活の話を聞いていたお陰で、他の家より準備期間が長く取れた。

 

 だから、ガリウスの呼び掛けに応じて首都へ参上した家で最大勢力になったそうだ。

 

「正直、大人数を率いて戦うなんて僕のガラじゃあないんだけどね。ガリウス様に期待されたら、断れないよ」

「ええ、そうですわね」

「本当はイリーネ達にも、僕の軍に合流してほしいんだけど。偉大な勇者パーティを引き抜くわけにはいかない」

 

 父はそう言うと目を細め、ゴシゴシと俺とイリアの頭を撫でた。

 

「活躍しろとは言わない。死なないで帰ってきてくれ、二人とも」

「……ええ、分かりましたわ」

 

 そうか、パパンもこの場で戦うのか。

 

 これは……負けられないな。俺達が下手を打てば、父まで死んでしまう可能性があるのだから。

 

「では、他の家にも挨拶参りに行こうか。まずは、揉めたくない相手……。マッキューン家あたりからかな」

「そうですわね────」

 

 俺はカールやアルデバランと共に、先陣を切って戦う。

 

 俺の後ろには守るべき民や、大事な家族がいる。

 

 こうして決意も新たに家族の絆を確かめ合った俺達は、マッキューン父子に挨拶に行くべく席を立って────

 

 

 

「────ご注進!! ご注進!!」

 

 

 兵士の怒号がパーティ会場に木霊し、ビクリと立ち止まった。

 

 

「む、何事」

「どうか、外を! 窓の外をご覧になってください!!」

 

 兵士は額に汗を流し、大声で国王に向けて騒ぎ立てている。

 

 窓の外を見ろ。その兵士の言葉に倣って窓際へと歩き、街の方向を見ると────

 

 

 

 

 

 

 

 ────巨大な人影が、夜の闇に包まれた空に映し出されていた。

 

 

 

 

 

「あれは、何だ……?」

「空が、闇に食われたのか!」

 

 パーティ会場に動揺が広がる。正体不明の闇が、街を覆ったのだから無理もない。

 

「……精霊、が」

 

 他の皆には見えていない様子だが、俺には何が起きているかよく見えた。

 

 精霊だ。ありえない数の精霊が、楽し気に闇を形作り夜空を彩っている。

 

 つまりアレは人為的な、魔術によるモノ。

 

 

「あっ」

 

 

 その言葉は、誰が漏らしたのだろう。

 

 やがて、その感嘆を皮切りに人影は色づいて行き、

 

 

 

 

『くすくす……』

 

 

 

 

 徐々に輪郭がはっきりとして、夜空に見覚えのある女性の姿を映し出した。

 

 女は嗤う。悪戯な笑みを浮かべ、声を町中に反響させながら。

 

 その、空に映し出された女性は────

 

 

 

 

「……イリュー!! あいつ!」

「む、まさかアレが────」

 

 

 

 今代の魔王。

 

 堕ちた微笑みの聖女、ユリィその人であった。

 

 

 

 

『こんにちは、人類の皆さん。夜分遅くに、失礼しますね』

 

 その透き通るような声は、スピーカー越しに聞くように遠くから聞こえてきた。

 

『私は魔王。魔王ユリィと申します、以後お見知りおきください』

 

 彼女はただ淡々と、夜空から街を見下ろして話を続ける。

 

 その眼には、しっかりとした敵意が込められていた。

 

 

『早速ですが、本題です。ああ、残念です皆さん』

 

 

 芝居がかった口調で、いつかの弾き語りでもしているかの如く大げさなポーズを取りながら。

 

 ユリィは、祈るように首都全体に向けて宣言した。

 

 

 

 

 

『本日より3日後の夜明け。それを機に、私たち魔王軍は首都を侵略します』

 

 

 

 

 

 ……それは、宣戦布告。

 

 なんとユリィは、堂々と俺達に向けて侵略する日時を示したのであった。

 

「何だって!!」

「3日後、だと。もう殆ど時間がないでは無いか!!」

「待て、迂闊に信じるな! 敵の言う事だぞ」

 

 パーティに参加していた貴族たちが大騒ぎをする中、俺は彼女の顔を見て確信した。

 

 違う、嘘じゃない。イリューは、こんなところで嘘を吐く女ではない。

 

 

『逃げてください、命の惜しい皆さん。私達は、逃げるものを追いはしません』

 

 そんな狂乱はどこ吹く風、彼女はそのまま演説を続けた。

 

 

 

 

『3日間の猶予を与えます。3日後に首都に残っている者は、全員敵対者とみなして皆殺しにします』

 

『命乞いも聞きません。降伏も恭順も不要です』

 

『人類よ、貴方達は私達の餌なのです。だから、逃げてください』

 

 

 

 そのユリィのいきなりすぎる演説は、民の動揺を誘うには十分だった。

 

 徐々に町の外が騒がしくなり、道端で怒号が飛び交い始めている。

 

 このままでは、大パニックだ。

 

 

『ああ、それとこれは……私を良く知る人に向けての言葉です。聞こえていますかー、カールさん』

「……俺?」

 

 避難勧告を終えた後、ユリィは思い出したかのように話を続けた。

 

『私は、貴方に謝らなくてはいけません。ごめんなさい、私は嘘をついていました』

「嘘……?」

『私は攻撃魔法を使えないと、前にそう言いましたね。ごめんなさい、どうやらそれは嘘みたいです』

 

 くすくす。

 

 修道女は含み笑いを浮かべたまま、ゆるりと片手を掲げた。

 

『いやぁ、知らなかったです。勇者の力って、魔法に乗るんですね』

「……?」

『では、貴方達の居る首都の東部────、ペヂュ山をご覧ください』

 

 ……。勇者の力が、魔法に乗る?

 

 それは、どういう意味だ。ユリィは、何を言って────

 

 

 

 

 

 

『……滅せよ魂魄。浄化せよ』

 

 

 

 

 

 

 

 そのユリィの短い詠唱と共に。

 

 首都の東に聳え立っていた山が、凄まじい勢いで切り裂かれ無残に吹き飛んだ。

 

 

 

『凄いでしょう? これ、ただの呪霊退散の初級魔法なんですよ』

「……え」

『絶対切断の能力を乗せただけで、この威力。くすくす、攻撃力がないという私唯一の弱点が無くなっちゃいました』

 

 

 ……その言葉を聞いて、俺は絶句した。

 

 初級魔法に、『絶対切断』が乗る?

 

 どんな悪夢だそれは。つまり、彼女はただの支援術師ではなく最強の攻撃魔法使いへとクラスチェンジしたってことか?

 

 あの弱かったイリューはもう、切り裂けぬものは何もない攻撃力最強の魔法を連発する不死の化け物に変貌したというのか?

 

 

『正直、凄い能力過ぎてまだ完全に扱えてないのですけど。それでも、この威力です』

「……」

『断言します。貴方達人類に勝ち目はありません。どんな奇策を以てしても、私に勝てる事はあり得ません』

 

 ユリィはそこまで言うと、静かに目を伏せた。

 

 そして、

 

 

『だから、どうか逃げてください』

 

 

 

 そう、締めくくった。

 

 

 

 

「……あ、その、イリュー……」

「ちょ、ストップ!! 目を開けてイリュー!」

 

 そこまでは、まぁ良かったのだが。

 

『……あれ?』

『ぎぃ!!』

 

 彼女は自分で言っていた通り、まだ絶対切断の能力を扱えていなかったらしい。

 

 先ほど山を吹き飛ばした折。彼女は能力の制御を誤り、

 

 

 

『きゃあああああ!? スカートが!!』

『ぎ、ぎい』

 

 

 

 ユリィは綺麗にスカートがずり落ちて、パンツ丸出しになっていた。

 

 その光景は、首都の夜空に放送されていた。

 

『ちょ、服! 私の服持って来てください』

「あ、良かった気付いたぞイリュー」

『それと一旦映像ストップです!! それ止めてください、ゴブリンさん!!』

 

 大慌てでパンツを隠し、しゃがみ込む元勇者様。

 

 彼女の言っていたことはかなりヤバいのに、こうも締まらないのはイリューらしいと言うかなんというか。

 

『止め方が分からない? 映像水晶に詳しい映ゴブさんは?』

『ぎー』

『今日に限って休暇ですか!! あうあう、間が悪い……。ですが休暇は権利ですし……』

 

 どうやら魔王軍は、思ったより休暇を取りやすい環境らしい。

 

『多分そこのボタンです!! 適当に押してください』

『ぎっぎー』

 

 ゴブリンの返事と共に、やがて夜空に星が戻って映像が切れる。

 

 どうやら、放送事故でユリィの番組は終了らしい。

 

 

 

「……あれ、また付いた」

『あー。もう、何でいつもいつも失敗するんでしょうか』

 

 

 

 

 ……と思ったら、再び夜空に映像が映し出された。

 

 ユリィの尻がドアップで。

 

「え」

『ほら、映像が止まっているうちに着替えるので早く持って来てください。まだ、避難勧告が済んでません』

 

 どうやら、撮影担当のゴブリンが押したのはズーム切り替えボタンだった様だ。

 

 首都の夜空に、修道女の尻がプリプリ映し出されている様は圧巻だった。

 

『きゃ!! もー、今はエッチな事しちゃだめですよ!!』

『ぎぃ♪』

 

 あ、ゴブリンの悪戯でパンツがズレて半ケツ見えた。

 

『うーわー、服ガッツリ切れちゃってますね。また縫い直さないと……』

「ぎー?」

『魔法で直せますけど、再生は繊維が痛むんですよ。時間がある時は、手縫いの方が良いんです』

 

 イリューの半尻がドアップで放送され続ける。

 

 いつしか、街中で聞こえていたパニック怒号も聞こえなくなり、首都の皆がその尻を夜空に見上げていた。

 

『はい、着替えました。では放送再開しましょう』

『……ぎ』

『えっ』

 

 やがて、2着目の修道服に着替えたイリューが元の位置へと立った後。

 

『ちょっとぉぉぉ!? 放送切れてなかったってどういうことですか!?』

『ぎぎぃい』

『いやあああ!?』

 

 彼女は、自らの生尻が放送されていた事を知って大絶叫し────

 

 

 

『今から3日後!! 私たち魔王軍の侵略が始まりますよ!! 怖い人は逃げてくださいね!!』

『ぎっぎぎー!』

『はいではこれで言うべきこと終わり!! 終了です、解散!!!』

 

 

 涙目のユリィが絶叫し、やがて夜空から影が霧散して。

 

 その魔王による直々の放送は、唐突に終わった。

 

 

 

「……王よ、何故笑っているのです」

「ふむ、大変良い尻であった」

 

 

 

 そして王は、満足そうに寝言を言った。

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