【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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86話「決戦間際、イリーネの憂慮」

 ────尻魔王。

 

 ────すっとこ美尻。

 

 ────プリケツおばさん。

 

 

 深夜の街中に、そんな怒号が溢れかえっていた。

 

 魔王による衝撃的すぎる宣戦布告を受け、一時は皆が黙って夜空を見上げていたものの、ちゃんと街中はパニックになってはいた。

 

 真面目に「いや、やばくね」と慌てている者、悪戯だろうとタカを括っている者、魔王親衛隊を名乗りプリケツを旗印に掲げ崇拝し始める者。

 

 民衆はどう混乱すればよいのか分からず、混乱している様子だった。

 

「……で、だ。実際の所、魔王の脅威はどれほどなのだ。リチュワート侯爵?」

「……あうう。ちょ、ちょっと計り知れないです」

 

 当然、懇親会は中止。

 

 王命により即座に緊急会議が開かれ、俺達はそのまま流れで参加する形になった。

 

「では、恐れながらこの私、イリーネ・ヴェルムンドが申し上げますわ」

 

 実際に魔族と戦った、俺達だから分かることもある。俺は王の問いに答えるべく、立ち上がった。

 

 本来はカールが報告する方が適切な気がするが、変なポカやらかされても困るし。

 

 

「王よ。少なくとも私の精霊砲で、山をああも無惨に斬り飛ばすことは不可能です」

「ふむ」

「それ程の火力を、彼女は初級魔法として発動しています。中級魔法などに乗せると更に広範囲に影響を及ぼせると思われ……、現状ユリィは『歩く戦略兵器』と称すべき化け物と考えて問題ないかと思いますわ」

「そうか、それ程か」

 

 そう。

 

 イリューの放送はグダグダに終わって危機感が薄れてしまったが、開示された情報は無茶苦茶にヤバい。

 

 例えば、遠距離狙撃系の魔法……ヨウィンを襲った光線系の魔法に絶対切断を乗せられるとする。それだけでも結構ヤバい。

 

 撃たれる前に相手の砲撃の軌道が分かってないと、俺の筋肉天国では守り切れないからだ。

 

「イリーネ・ヴェルムンド。貴殿がヨウィンで習得したという『禁呪』で、その対処は可能か」

「……不可能ではありませんが、厳しいかと存じますわ」

 

 国王は、俺の筋肉天国を少しぼかして言い方で聞いてきた。

 

 筋肉天国は、一応『国家機密』なのでおおっぴらに発言できないのだ。

 

「『禁呪』? 国王、その『禁呪』とやらは我々には開示できない情報でしょうか」

「うむ。無論、国軍3将には伝える予定であるが……この場の全員に知られる訳にはいかぬ」

 

 ざわざわ、と貴族達に同様が広がる。一介の辺境貴族の小娘である俺が『国家機密』を知っていることに動揺しているらしい。

 

 ヴェルムンド家はそれほど信用されているのか、と言う驚きだろう。

 

 知りたければ、精霊が見えるようになって来い。現在進行形でこの会議場には筋肉天国が発動しているぞ。

 

 ユリィの盗聴魔法対策で。

 

「イリーネ嬢、どう厳しいか述べて見よ。それは、我々のバックアップで解決が可能か」

「『禁呪』には当然有効範囲……、つまり射程がありますわ。その射程はおそらく、敵の射出系魔法には届かない」

「成程」

 

 筋肉天国は、敵を結界内で封じ込める事で真価を発揮する。ヨウィンの時みたいに防御魔法代わりに使えない事もないが、流石に首都全体を覆えるほどの結界は維持できないのだ。

 

 そしてぶっちゃけ、筋肉天国の射程は短い。恐らく中級魔法と同等の射程。

 

 調べた事ないが、感覚的に発動できる範囲は100mも無いと思う。一度発動さえすれば、その場を離れても保持できるっぽいけど。

 

 魔王の攻撃魔法の射程が分からんが、山を消し飛ばせる時点で100mは有るだろう。

 

 なので俺の筋肉天国の範囲外から魔法を連打されたら、打つ手がないのだ。

 

「────つまり、イリーネ嬢を『禁呪』の射程内まで護衛出来れば何とかなる訳ですな」

「む、それは。魔族の群れの中を、イリーネに先行させるというのか」

「不可能ではありますまい。敵の魔法の雨の中を潜って魔王を仕留めるよりは、勝算がある」

「イリーネは魔術師ですよ、乱戦の中で戦えるはずがない。最後方に設置して守られるのが筋でしょう、それで死んだら無駄死にだ!!」

 

 マッキューン父が俺を先行させる作戦を提案し、パパンが怒り気味に食って掛かった。

 

 あのオッサン、禁呪を物凄い攻撃魔法と勘違いしてるな? そんな強引に近付いて発動しても意味ないぞ。

 

「無論、貴重な戦力を無駄死にさせるつもりはありません。イリーネ殿をきっちりと我々が守り通せば」

「我々魔術師は繊細でね。少しの集中の乱れが、魔法の暴発に繋がるのです。……護衛されてる状況とは言え、周囲を敵に囲まれている状況下でイリーネが戦えるものか!!」

「それこそ、集中して貰うしかないでしょう。我々は戦場に立つのですよ」

「娘はまだ、15を過ぎたばかりの少女だ!」

 

 

 ……。

 

 守られるどころか、毎回1番に突っ込んでいってるのをパパンが知ったら卒倒するかな。

 

「お父様、落ち着いてください。もしその作戦を取るのでしたら、イリーネは十全にこなして見せますわ」

「イリーネ……っ!」

「ただ、私も父と同じ意見でその作戦には反対です。……魔族は恐ろしく強い、国軍の皆様の協力があろうと私を護衛し続けたまま敵中へ切り込むのは困難であると愚考します」

 

 そもそも。本当にそれをやったとしら、国軍が蹴散らされて終わりだよね。

 

 イノン・カール・レイが俺の周りに張り付いてくれて、ワンチャンあるくらい? でもその場合、アルデバランの護衛戦力が居なくなってしまう。

 

 しかも、せっかく発動したとしてユリィが筋肉天国の範囲外まで歩いたらそれで終わり。あれは、ただ魔法を無力化する結界を張るだけなのだから。

 

 つまり、危険を冒してまでソレをやる価値は薄い。カールやレイが魔王を仕留めて無力化した後、トドメとして筋肉天国で封殺するやり方のが良い。

 

「ああ、私も厳しいと思いますよ父上。以前トロールと言う魔族と手合わせしましたが……、アレはまさしく化け物でした」

「ほう、詳しく申せ」

「身体能力に差がありすぎたのです。何気ないこん棒のひと薙ぎが、早すぎて回避不能の一撃必殺。負けじと電撃剣の神髄を以て首に斬りかかりましたが……戦果は数センチの小さな傷がついただけでした」

「……何、我が家の奥義を以て首を落とせなかったのですか」

「結局、アルの魔法か落とし穴で窒息させるくらいしかトロールは仕留められていません。生物としての出来が違い過ぎる、あんな悪夢みたいな闘いは初めてです」

 

 トロール? その魔族とはまだ戦ったことが無いが……、ゴブリンの上位種だっけ。アルデバランはそんなのとやり合ったのか。

 

 早すぎて回避不能の1撃必殺とか、反射神経の鈍い俺と相性悪すぎる。怖いなぁ、近寄らないようにしよ。

 

「では、どうするべきだ。無策で挑んでも、勝ち目は薄いぞ」

「暗殺者を放って、昏倒させるのはどうだ」

「いやいや、防衛戦は奇策に頼らず堅実に守った方が────」

「今から土魔術師を動員して、城外に堀をだな」

 

 わーわー、と。

 

 その場の貴族たちが喧々囂々と議論する中、俺は黙って考え込んでいた。

 

 実際、どうすればよい? どうすれば、イリューからこの街を守り抜くことが出来る?

 

 アルデバランに全て任せて、俺は彼女の護衛に専念するべきか?

 

「王よ、ここは私にお任せくださいませんか」

「む、マッキューン伯爵」

 

 そんな中、1人。金髪の髭が立ち上がって、王に一礼した。

 

 また、マッキューン父だ。

 

「先の様子や魔王ユリィの報告を聞くに、一番有効と思われる戦略は『騙し討ち』かと思われます」

「ほう?」

「和平を申し出ましょう。わざわざ避難勧告をするほどの魔王です、戦闘を避けられるなら避けようとするでしょう。国内の一等地を魔族の領地として差し出すと言えば、乗ってくる可能性が高い」

 

 ……彼は、自信満々にそんな卑怯な手を奏上した。

 

「どんな魔獣でも昏倒する秘薬を一服盛って、魔王ユリィを仕留めます。そして頭を失った魔族を、討伐すれば良いでしょう」

「ふむ」

「この任には、元勇者のカールを当たらせると良いかと存じます。彼は先程の放送でも名前があった程、ユリィから高い信頼を得ていると思われます。彼が上手くやれば、魔王は封殺できる」

 

 騙し討ちによる、ユリィの討伐。

 

 それは、それは────。きっと、成功する公算は高い。

 

 カールは、割とユリィから好かれていたように思う。それは、何となく感じていた。

 

「この策は、どうでしょうか」

「きちんとやれば、成功するでしょうね。共に旅をしてきた私が宣言します、その戦略ならユリィを騙せる」

 

 マイカも同じ意見の様だ。

 

 卑怯な手ではあるが、有効な手でもある。イリューはお人好しで、馬鹿で、騙されやすい。

 

 

 それで騙され続けた結果、彼女は魔王を名乗るまで追い詰められたのだから。

 

 

「ふむ。カール君、君はそれをやり遂げる自信があるか」

「……俺は」

 

 まぁ、その大前提として。

 

「断固として拒否します。そんな手段を取るつもりはない」

「……む」

「どうしてもやるというなら、俺以外の人間が勝手にやってください」

 

 『カールがそんな事をする人間ではない』という、彼の誠実さがあってこその信用なのだけれども。

 

「おい、君……。今は人類の存亡の時だぞ」

「ごめんなさい、俺にはできません」

「ふぅむ」

 

 にべもない。

 

 カールは迷う様子すらなく、大貴族からの命令をあっさり断った。

 

「誰ぞ、カールを説得できる者はおらんか。今は、つまらない子供の意地に踊らされている場合ではない」

「金か? 金ならば巨万の成功報酬を約束するぞ」

「おい、少年。君が上手くやれさえすれば、死なずに済む人間が何人いるか」

「相手は人類を滅ぼす魔王だぞ。何を、躊躇う必要がある」

 

 周囲の貴族がこぞって窘めるも、カールはツンとそっぽを向いてしまう。

 

 まぁ、予想通り。この男が、そんな姑息な手に乗る筈も無かろう。

 

「私も、カールには無理かと思いますわ。この男は誠実で、嘘をつかず、真っすぐ生きてきた男。……彼に嘘なんて吐かせても失敗するでしょう」

「確かに魔王ユリィは、カールの言葉を信じると思います。……それは、この男が『こういう奴』だからって意味でもあります。ま、説得は無理でしょうね」

「うーむ」

 

 まぁ、俺からしたら美徳なんだが。

 

 周りの貴族の苦虫をかみつぶしたような顔を見るに、カールは結構ヘイト買っちゃったんじゃないか?

 

「では、どうするんだ。正面からやり合うのか」

「馬鹿、あんな化け物と正面切って戦っても消し飛ばされるだけだ」

「カール以外の者……別の者を使者に立て、やはり騙し討ちを」

 

 唯一良さそうだった作戦もカール自身に却下され、再び会議は混沌となる。

 

 これ以上粘っても、良い意見は出てこなさそうだ。

 

「……もう、夜も遅い。各自、明日の朝までにそれぞれ戦略を練って来い」

「……御意」

 

 やがて、行き詰まったのを察した王がそう命令を出し。

 

 今から3日後の夜明けに向けての戦略を、それぞれ練ってくるように言い渡された。

 

 

「朝に再び、会議を始める」

 

 

 こうして、激動過ぎる首都での一日は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お部屋を用意致しました。各自ごゆるりとお寛ぎください」

 

 その日俺達アルデバランパーティは、王宮に宿泊する事を許された。

 

 俺達の全員がお付きのメイドを与えられ、個室を用意された。

 

「明日の朝一番からの会議だ。平民エリアからのんびり来られる方が迷惑なのだろう」

「……凄い。豪華な部屋」

 

 どうやら案内された部屋は、国賓を宿泊させる用らしい。

 

 窓から首都が一望できる、我が国の工芸品で統一された良い部屋だった。

 

「まぁ、各自ゆっくり休んでおけ。難しい事を考えるのは貴族共の仕事よ」

「はーい」

「私達は、いつもどおり魔族を倒す事のみを考える」

 

 勇者アルデバランはそう言うと、さっさと自分の部屋に入ってイビキをかき始めた。

 

 実に豪胆というか、彼女らしい。

 

「まったく。カールは本当にカールね」

「これ以上、イリューを騙すような真似が出来るか」

「どうどう。……ま、それが貴方の信念ですものね」

「ああ、気分悪い。俺はもう寝る」

 

 カールは、貴族の怨みを買ったにも関わらずビビること無く、むしろプリプリ怒りながら部屋に入った。

 

 その辺の豪胆さは、勇者の必須スキルなのかもしれない。

 

「じゃあおやすみなさい、イリーネ」

「ええ、サクラさん」

 

 そしてサクラと別れ、俺は一人になり。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 部屋に戻らず、静かに廊下に設置された椅子から、月を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直なところ、まだ俺はユリィ……、いや仲間のイリューと戦うことにまだ悩んでいた。

 

 イリューは、何故わざわざ宣戦布告してきたのか。

 

 きっと、戦略的な意味なんて無いだろう。彼女は本当に、戦いたくない人に逃げて欲しかっただけに違いない。

 

 つまり。

 

 

「……俺達が、首都に来てしまったからなんだろうな」

 

 

 イリューは夜空から、カールに向けて話をした。

 

 つまり、彼女は俺達が逃げることを選ばず、徹底抗戦を決めた事を知っていたわけで。

 

 

 ────そして彼女は、わざわざ俺達が首都入りしたその日に演説を行ったのだ。

 

 

 もしかしたら、あの放送は……。民衆に向けたのみならず、『俺達』にも向けたものだったのかもしれない。

 

 

 ……どうか逃げてくれ。私に貴方達を殺させないでくれ。

 

 

 そう言いたかったのかもしれない。

 

 

 

「……勝てるのでしょうか」

 

 人類は、魔族に勝てるのか。

 

 かつて何人も居た勇者は減り、今回は1人しか参戦していない。

 

 そして魔王はかつての勇者で、カールの力をも吸収してしまっている。

 

 恐らくかつてない程、人類側の戦力に乏しい戦いとなるだろう。

 

 

「……勝って、良いのでしょうか」

 

 

 しかし、カールは負けない。

 

 あの男は仲間の命が懸かった戦いで、負けるとは思えない。

 

 きっと窮地であろうと奮起して、イリューを倒してしまう可能性が高い。

 

 

 

 

 きっと、イリューは降伏しないだろう。彼女もまた、魔族全体の命を背負っているのだから。

 

 俺達人間と、人間を餌にする魔族。この両者に、和解はあり得ない。

 

 俺達は魔族を殺し、虐げすぎた。魔族は俺達を、殺しすぎた。

 

 決着をつけるにはもう、どちらかが滅ぶまでやりあうしかないのだ。

 

 

 つまりそれは、この戦いの決着は俺達がイリューを再び封印し、無限の苦痛を与えることを意味する。

 

 

「迷う必要などない……のです。ガリウス様も仰っていた通り、イリューは私たち人類を攻め滅ぼす道を選んだ」

 

 

 ……同情は不要。これは生き残るための戦いだ。

 

 イリューだってその覚悟で攻めてくるんだし、俺にだって家族……『父』や『イリア』を殺される訳にはいかない。

 

 なのに、なぜ俺は……。

 

 

 

 

 

 

「ふむ、難しい顔をしているね。イリーネ」

 

 

 

 

 

 

 そんな、いつまでも廊下で佇む俺に声をかけてくる奴がいた。

 

 見られていたのか、恥ずかしい。考え事なら、部屋に入ってからするべきだったか。

 

 

「君は存外にバカなんだから、一人で悩まず誰かに話したまえよ」

「……バカ? 今、私のことをバカって言いましたか?」

「ああ、言ったとも」

 

 

 そのあまりに不遜な言い回しに、思わず振り向いた。

 

 この、超絶美少女である俺に向かってバカとはいい度胸だ。どこの誰だ、この文武両道パーフェクトお嬢様である俺にそんな口を利く奴は……。

 

 

 

 

「……あ」

「やあ、久しぶり」

 

 

 

 振り向いた先には、小柄な少女が居た。

 

 寝ぼけた瞳に、短い白髪。王宮という高貴な場だというのに、寝癖が直っていない。

 

 それを誤魔化すためか頭にすっぽり占い師のようなフードを被り、ソイツは悪戯っぽい目で微笑みをこぼしている。

 

 

「貴女、は」

「ボクは『時代の観測者』改め『歴史を調和する者』」

 

 それは、数週間ぶりの再会。少し会っていなかっただけなのだが、随分久し振りに感じてしまう。

 

「……」

「非才な身なれど、ガリウス様に要請され国の危機に助力すべく参上した」

 

 彼女は別れた時と変わらぬ服装、表情でそこに立っていた。

 

 そうか、前にアルデバランが言っていたな。彼女も首都に向かっていると。

 

「さぁ、悩みがあるなら話したまえ。それを解決するのが、ボクの仕事さ」

 

 

 

 ヨウィンに生まれた天才、頼れる占魔術師。

 

 俺は、ユウリと再会した。

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