【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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89話「決着!! 堕ちた修道女は何を思う」

 人類と魔族の、怨恨の歴史は深い。その軋轢は、両種族がこの世に生まれた時から存在した。

 

 捕食者と、餌の関係。

 

 両者の生物としての格は、魔族の方が上だった。食物連鎖において、人は魔族に食べられる位置にいた。

 

 より長寿で、より強大で、より数の少ない魔族が人間を食べる。

 

 それは何処にでも見られる、普通の自然界の食物連鎖だった。

 

 

 なので昔から、人は魔族を恐れ生活をしていた。

 

 蛙が蛇を恐れるように。蛇が鷹を恐れるように。人間は魔族を恐れて生きた。

 

 それが本来、あるべき姿だったのかもしれない。

 

 

 

 しかし、人間は知恵をつけた。

 

 言語を操り、知識の共有を行い、人は恐ろしく狡猾になった。

 

 やがて知恵の力は、魔族と人間の力関係を引っくり返してしまった。

 

 

 人類はその知恵を以て武器を作り、魔法を操り、戦術を練った。

 

 敵を研究し、その弱点を調べ、反撃を行った。

 

 その結果、魔族は一転して人間に襲われる側になった。

 

 

 

 

 魔族は人間を食べないと、生きていけない。

 

 人間は魔族を食べずとも、生きていけるのに。

 

 

 ならば、人はおとなしく食されるべきなのだ。

 

 それが、自然な世界の理ではないのか。

 

 

 そんな魔族達の恨み節を尻目に、人類は発展していった。

 

 

 無論魔族だって黙ってはいない。何度も何度も魔族は立ち上がり、人類に対し反撃を試みた。

 

 しかしその度々に、魔族は打ち破られてしまった。

 

 

 やがて魔族は悟った。

 

 人類は特別なのだ。外敵もおらず、地上の全てを支配することの出来る種族だったのだ。

 

 人類の天敵である魔族は、人類に蹂躙される運命だったのだ。

 

 

 

 

「……じゃあ。私は、どうやって皆を守れば良いんですか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────吐き気が、する。

 

 身体中の臓器という臓器が、ゾワゾワとうねっている。

 

 ただ声を出すだけで、口から真水を吐き出しているかの如し。立っているのもやっとだ。

 

 俺は両膝をついて座り込みながら、その唄を歌い上げ続けた。

 

 

 

「────む、いかん。魔力が尽くぞイリーネ、あまり無茶をするな」

「……ですがここで、歌わなければ……っ」

「……ああ、そうだな。すまん、後は私に任せろ」

 

 ああ、何て魔法だよこれは。

 

 流石は、古代の勇者。流石は、魔族を統べる王。なんでこんな魔法を使って、平然としていられるんだ。

 

 声の届く範囲の味方全員を勇者にする支援(バフ)。俺程度の魔術師が、そんな馬鹿げた魔法を使って何ともなく済む筈がなかった。

 

 支援魔法1つ詠唱しただけで、人類最高峰の魔術師であるはずの俺の魔力が空っぽだ。

 

 

「姉様! 姉様に魔力の欠乏症状が……っ!! このままでは!」

「イリア、私は……大丈夫ですわ」

 

 イリアも俺が魔力切れを起こした事に気付き、焦った声を出した。

 

 ────内心、俺だって焦っている。

 

 魔法使いにとって、魔力切れは割と洒落にならない事態なのだ。

 

 何がどうヤバイかというと。魔力が尽きてなお魔法を使い続けたら、精神(たましい)を消費してしまうのがヤバい。

 

 まぁ、つまり……このまま暫くこの魔法を続けたら、俺は廃人になっちゃうって話である。

 

 

 

 デメリットはそれだけじゃない。

 

 

 一度失われた魂は、二度と戻らないのだ。

 

 

 

 魔力とは、魂に宿るもの。

 

 つまり魔力切れを起こしたまま魔法を使えば、最大魔力もごっそり減る。

 

 最悪、二度と魔法が使えなくなるかもしれない。

 

 なので、魔法使いにとって魔力切れは洒落にならないくらいヤバイのである。

 

 

 

 

 

 

 尤も。俺は筋肉があれば生きていけるので、魔法が使えなくなろうが関係ないがな!!

 

 魔王との戦いが終わった後、魔法を使わざるを得ないケースとかそんなにないだろうし。今こそ、俺の無駄な魔法の才能の使い際でしょ。

 

 

 もう二度と魔法が使えなくなっても良いと言う覚悟。

 

 俺の全てを使って支援してやるから、頑張れ人類ィ!

 

 

「イリーネが気張っておる内に、決着をつける!! 各員、私を守れ!!」

「アルデバラン!? あんた、まだ何が手があるのね?」

「無論、詠唱の時間が必要だから退いたまでの事。敵の突撃が緩んだ今こそ好機」

 

 俺が歌っている後ろで、アルデバランは自信満々にその杖を天に掲げた。

 

 ……彼女の火魔法はさっき打ち破られた筈だが、まだ何か手がある様子だ。さすが勇者だぜ。

 

 

「火山都市での修行が無駄にならずに済んで良かった」

 

 

 すぅ、と紅髪の勇者(アルデバラン)は目を細めた。

 

 

 照りつける日を浴びて颯爽、ゆっくりと風に髪を靡かせながら、

 

 

 

「炎獄を、見せてやろう」

 

 

 

 全てを終わらせるその宣言を、魔族に突き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イリーネさんの魔力では、いつまでもあの魔法を続けられるとは思いません。少し時間をおいて、再突撃しましょう」

「ぎぃー」

 

 魔王ユリィは、自分の支援魔法が完璧に真似られ苦笑していた。

 

 ユリィは、精霊術師の恐ろしさはよく知っていた。過去の自らが勇者側で参戦した『二次魔族決戦』において、最強の勇者は精霊術師ヴェルムンドであったのだから。

 

 たった一人で魔王を打ち破った最強の勇者の末裔、イリーネ・ヴェルムンド。彼女なら何かしらやってくるという予感はあった。

 

 

「……ふふ、数百年ぶりに友人に再会した気分ですよ」

 

 今代勇者のカールパーティには、彼女に縁のある人物が多かった。

 

 ユリィは少しの間とはいえ、彼らと旅をするのはとても楽しかった。

 

 それは、まるで。

 

 彼女が絶望に染まる前、無垢で純粋で人類を守るために戦っていた『勇者ユリィ時代』の時の様で。

 

 

「───皆との約束、破っちゃったな」

 

 

 その子孫の行く末を任された不死の勇者ユリィ。

 

 彼女は今、人類を滅ぼすべく最終決戦に身を投じている。

 

 

「でも。……もう、覚悟は決めましたから」

 

 

 彼女はそう言って、再び高らかに歌を吟じ始めた。

 

 ユリィを信じ、魔族の将来のため、命をとして戦う仲間たちの援護となるように。

 

 

 

 ───しかし。

 

 その、『少し後退してイリーネの魔力切れを待つ』という選択が魔族にとって致命傷になる事に、ユリィは気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨウィンの時のアルと思ってもらっては困りますよ。今の彼女は、あの時より一回りも二回りも強い」

 

 なぜか自分の事の様に、ドヤ顔でアルデバランの自慢をする金髪(イノン)

 

 彼はゴブリンに折られた足をサクラに治してもらい、もう戦線に復帰していた。

 

「予想出来たもんね。火魔法を徹底的に対策される可能性」

「ああ、むしろその方が自然よな。太古の支援魔術師のトップが、耐火魔法を知らぬ訳もない」

 

 実はアルデバランも、自身が火魔法しか使えないことに危惧を抱いていた。

 

 火魔法は他のどんな属性より攻撃力に優れているが、対策が多く弱点も多いピーキーな属性なのである。

 

 水魔法にはめっぽう弱いし、火耐性を付与されたらダメージは激減する。

 

 なので、彼女は修行の為に火山地帯を経て、首都に来たのだ。

 

 

「魔族とて、生物なのだ」

 

 

 アルデバランは火属性の魔法使いだ。

 

 それ以外の魔法の適性はなく、火の他に攻撃手段は持たない。

 

 

 ならば、火を以て───

 

 

 

「炎獄の檻、終焉の世界」

 

 

 勇者は、残酷に無慈悲に魔族達を焼き付くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはユリィからすれば、青天の霹靂だろう。

 

 突然に世界が暗くなり、ボウボウとそこかしこで燃え始めたのだ。

 

「へ? これって火の殲滅魔法?」

「ぎぎー?」

 

 ユリィは、ぱちくりと目を瞬かせた。

 

 想像を絶するほど広範囲に火魔法が発動し、流石に困惑したらしい。

 

「……でも、これじゃ私の支援(バフ)で耐えられますよね?」

「ぎぃぎぃ」

 

 自分の修道服が燃えないよう、ユリィは水を頭から被る。

 

 流石は魔炎の勇者、その火魔法の範囲は絶大の一言であった。魔王軍のほぼ全軍が、一瞬でその火魔法の範囲に飲まれてしまった。

 

 それもその筈、アルデバランは『収束して』ではなく『限界まで引き伸ばして』火魔法を撃ったのだから。

 

「……まぁ、無駄に魔力を消費してもらえる分には構いませんけど」

 

 ユリィの歌により、魔族全体には耐火のバフが掛けられていた。

 

 こんな薄まった火魔法では、火傷すら負う筈がない。

 

 ……ならば、何故アルデバランはこんな魔法を発動した?

 

 

「……ぐぇ」

「え、知恵ゴブさん!?」

 

 

 その疑問は、間も無く周囲の魔族がバタバタ倒れ始めてからやっと解けた。

 

 やがてユリィ自身も、言い様のない圧迫感に襲われて立っていられなくなった。

 

 周囲を見渡しても、皆が口や喉を押さえてもがき苦しんでおり。

 

 ここでやっと、ユリィは勇者アルデバランの狙いを悟った。

 

 

「────いけない! 窒息……っ」

 

 

 そう。

 

 勇者アルデバランはあり得ない広範囲を永続的に焼き尽くすことにより、火の中の魔族を窒息させる作戦に出たのだ。

 

 いくら火に耐性があろうと、息が出来ねば死んでしまう。そして燃え盛る炎の中では、十分な酸素が得られる筈もない。

 

 そのアルデバランの『酸素を奪いつくす』奥義は、瞬く間に魔族の大半を行動不能に追い込んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルデバランを守れ! 彼女を守り抜けば、この戦は人類の勝利だ!」

 

 魔族の大半が、火の海に沈んで。

 

 アルデバランの目論み通り、魔族はバタバタと地面に倒れ付した。

 

「ぎ、ぎぎぎっ!!」

「うぎぃぃぃ!!」

 

 その事態の深刻さを悟った前衛のゴブリン達は、死に物狂いで俺達に突っ込んできた。

 

 火の中で比較的外側に居た魔族は、慌てて脱出して俺達の元へ突っ込んできた。

 

「……斬る!!」

 

 しかしゴブリンは、俺の支援を受けたカール達や国軍を前に、なす術なく撃退されていった。

 

 魂を削ってまで、詠唱を続けた甲斐がある。

 

「だいぶ弱らせておるぞ! 確実に息の根を止めるのであれば……もう10分ほど稼いでくれ!」

「おうよ、大将!」

「……イリーネ、まだ持つかしらぁ?」

「ふふふ、持たせて見せますとも……っ」

 

 あと10分か。長いな、畜生。

 

 さっきから完全に魔力切れてて、結構魂を消費してそうなんだよな。

 

 この感じだと10分はギリギリ持つけど……、多分二度と魔法は使えなくなってそう。

 

 あと、若干後遺症とか残るかもしれん。くそぉ。

 

「……イリーネ、これ飲みなさい」

「はむ、む……?」

「気休めだけど、後々のダメージはマシになる筈よぉ。……ごめんなさい、これくらいしか出来なくて」

「十分ですわ、サクラさん」

 

 ちょっと後の事が心配になっていたら、サクラが何か薬を渡してくれた。

 

 苦い、けどちょっと楽になった気がする。流石、親友だぜ。

 

「……長きに渡る、人類と魔族の因縁に決着をつける。ここで人類が勝って、2度と魔族なんてモノが襲ってこないように徹底的に!」

「ええ、リーダー」

「各自、気張れ! 最終決戦ぞ!」

 

 アルデバランのその宣言により、俺達人類は咆哮した。

 

 勝つんだ。魔族全てを滅ぼし、平和な未来を掴み取るんだ。

 

 それが、魔族達により殺された人類への手向け。

 

 それが、全てを賭して攻めてきたユリィへの礼儀。

 

 

 

「魔族を、全員焼き尽くせ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 その、アルデバランの絶叫に応えるように。

 

 彼女の作り上げた『炎の檻』から、何かが投げ出されて俺達の前へと落ちてきた。

 

「……む!?」

 

 ぐしゃり、と嫌な音を立てつつ血塗れで立ち上がったソレは、やがてヨロヨロと立ち上がった。

 

 ……その女は、俺達のよく見知った顔だった。

 

 

 

「……やめ、ろ」

「貴様、魔王……」

 

 

 

 イリューだ。

 

 何かに放り投げられた様に、イリューは焼けてボロ切れになった修道服を身に纏い、転がるようにして俺達の前へと現れたのだった。

 

 

「出たぞ、敵の親玉だ! 潰せ!」

「やめろ、勇者……」

 

 

 これは、イリュー渾身の機転であった。

 

 近くにいた大型魔物に頼み、彼女は自分だけ勇者の元へと投げ飛ばしてもらったのだ。

 

 墜落死しても、生き残れる彼女だからこそ出来る移動法。

 

 無事に再生したイリューは、そのあられない姿を隠しもせず、呪詛の如く叫んでアルデバランに突撃してきた。

 

 

「その魔法をやめろぉぉぉぉぉ!!!」

「マッキューン魔法剣……っ!!」

「リーダーには近付けさせませんよ! ウサギ二百連爪!!」

 

 

 アルデバランの号令に従って、すぐさまイリューに攻撃が向けられた。

 

 そのどれもが、当代一流の戦士たる勇者パーティーによる一撃。

 

「兄ぃ……っ!」

「俺達は、護衛に集中だレヴ」

 

 運動能力の無いイリューでは、それを避けようもなく。

 

 あっという間に、イリューを肉片へと姿を変えてしまった。

 

「やめろ、勇者ぁ……」

「ソイツは不死である! 油断するな、魔族を滅ぼすまで永遠に仕留め続けろ!」

「了解です、アル」

 

 しかし、イリューは再生する。

 

 どんなに重傷を負おうと、どんなにボロボロにされようと、イリューの傷は癒えて立ち上がる。

 

 

 

「……もう、これ以上! 私の家族を殺さないでください!!」

「あの女に、初級魔法を詠唱させるな! 再生したらすぐさま潰せ!!」

「魔王を殺せぇぇ!!!」

 

 

 

 ……もう、炎の檻の中で動いている魔族は殆んどいない。

 

 魔族の皆が酸欠で、失神してしまっている。

 

 このままでは、イリュー以外の全ての魔族が死に絶えるだろう。

 

 

 ああ、黒焦げの死体だらけのあの光景。

 

 結局、あの未来は変わってなかったらしい。

 

 

 

「私達は存在しちゃ駄目なんですか!」

 

 それでも、イリューは立ち上がる。

 

「お前ら人類は今までずっと、ずっと、好き勝手してきたでしょう!」 

 

 その背に、大切な家族を背負っているから。

 

 その肩に、大事な子孫を乗せているから。

 

「だったら1度くらい、私達に譲れ人類ぃ……!!」

「譲る道理などない!!」

 

 しかし。

 

 ユリィは初級魔法を詠唱する暇すら無いまま、人間の戦士に殺され続けた。

 

 何度立ち上がろうと、呪文を詠唱しようとしても、即座に顔面を叩き潰された。

 

 

 ここに、魔族は。

 

 再び、人類に敗北しようとしていた。

 

 

 

「痛い……」

 

 

 決して、ユリィには痛みがない訳ではない。

 

 どんなに痛くても、耐えて耐えて立ち上がっていただけだ。

 

 

「怖い……」

 

 

 自分より大きな男から、顔面に向かって凶器をぶちまけられる。

 

 それが、怖くない訳がない。恐ろしくない筈がない。

 

 

「辛い……っ!!」

 

 

 イリューは、もはや服すら着ていない。再生を繰り返すうち、ボロボロに脱げてしまった。

 

 血反吐が全身にこびりついて、泥にまみれて、それでなおイリューは立っていた。

 

 

 ここで立ち上がらないと、後ろの魔族全員が死に絶えてしまうから────

 

 

 

 

 

 

「辛いなら、疾く楽になれ」

 

 

 

 半ば狂乱し、勇者に右腕を突きつけて詠唱を始める魔王。

 

 その直後、静剣により彼女の首が飛ばされて前のめりに崩れ落ちる。

 

 

 ユリィはすぐさま首から顔が生え、再生の最中から呪文を口ずさんだ。

 

 その瞬間に、マイカの放った矢が喉笛を串刺しにする。

 

 

 それでも諦めず、ユリィは矢を引き抜いて詠唱を続けようとして。

 

 突き出したその右腕を、足を、体幹を、全てイノンに細切れにされる。

 

 

 

 何度、激痛で身をよじっただろう。

 

 どれだけ、辛く痛く苦しい思いをしただろう。

 

 

 魔王ユリィの声はかすれ。

 

 細切れになった体は、ボトボトと土に塗れて赤黒く蠢く。

 

 

 

「今です、再生すらできないように────」

「……了解よぉ」

 

 

 

 細切れになった肉の塊を、サクラは土魔法で分断して覆った。

 

 それにどれだけの効果があるかはわからない。しかし、やらぬよりは良いだろう。

 

 

 

「……哀れな女よ」

 

 

 アルデバランは、目の前に投げ出されたユリィの右腕を悲し気に見た。

 

 魔王は、必死だ。家族を守るため、仲間を守るため、命がけでこんな突撃をかましていた。

 

「おい、見ろよ! やっぱり、肉体を分断したら再生しないぞ、魔王!」

「本当です! 蠢くだけで、体がくっつきません!」

 

 その挙句、この様な無様を晒している。

 

 アルデバランとて同情の念が、湧かない訳はなかった。

 

 

 だが、それはそれ。

 

 勇者として、人類として、アルデバランは手を抜くわけにはいかない。

 

 

 魔族を皆殺しにして、人類の平和を守り。ユリィの説得は、カールに任せる。

 

 そこまでが、彼女の仕事なのだ。

 

 

 

 

「……ねぇ、勇者さん」

 

 

 

 アルデバランは気を引き締めて、その炎獄を維持し続けた。

 

 流石の魔族と言えど、窒息したら死ぬ。あともう少し頑張れば、魔族を全滅させられる。

 

 そうすれば、彼女の勇者としての仕事は終わりで────

 

 

 

 

「私が龍の呪いを受けた所って……右腕なんですよ」

 

 

 

 その、最後の一仕事。

 

 アルデバランが、その使命を終える最後の瞬間に。

 

 

 ────魔王の牙が、勇者へと届いた。

 

 

 

 

 

 魔王の右腕を切り飛ばしたのが、マズかった。

 

 その斬り飛ばした右腕を放置して、魔王の体幹をがんじがらめに封印したのがマズかった。

 

 

 彼女が400年前、龍に傷を受けた部位は右腕なのだ。

 

 彼女の肉体の再生は、ありとあらゆる状況下で、()()()()()に行われていたのだ。

 

 その秘密を、アルデバランは知らなかった。

 

 だから、斬り飛ばされた右腕からイリューが再生した事に気付くのが遅れてしまった。

 

 

「……へ?」

「イタダキマス」

 

 

 勇者の目前に、打ち捨てられた右腕が。

 

 勇者を殺す、魔王へと変貌を遂げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ、魔法が?」

「あ、アル? どうした、の」

 

 首都前の平原を燃やし尽くしていたその魔法は、こと切れた様に消え去った。

 

 その場の全員が、イリューの肉塊を押さえつけるのに必死で、状況を理解するのが数秒遅れた。

 

 

「……やった」

 

 

 歓喜の声が、静かに響き。

 

 ボタボタと、虚ろな水音が戦場に伝い。

 

 

「やりましたよ、やりました私……」

 

 

 

 俺達は、ソレを見た。

 

 

 

 

 頭部を失った赤いローブの死体は、細切れに刻まれており。

 

 虚ろな目をした紅髪の勇者の生首が、魔王にすすられているその光景を。

 

 

 

 

 

 

「見ましたか、人類!! どうだ、これで────!!」

 

 

 

 

 狂喜乱舞し、勇者の脳を齧るイリューの姿は非現実的で。

 

 無垢な子供のように楽しげに、子を抱く母のように優しげに、彼女は笑っていた。

 

「……」

 

 誰しもが、絶句する。

 

 その場にいた全員が、呆ける事しか出来ず。

 

 俺は唄うのをやめ、全身の力が抜けその場にへたり込んだ。

 

 

 

 

「魔族の────勝利です!!」

 

 

 

 

 その日。

 

 人類は、魔族に敗北した。

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