【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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9話「小動物を愛でるのと幼女を愛でるのは同じ感覚」

「え、レヴさんとお出かけですか?」

 

 久しぶりに妹と二人の夜を明かした、次の日。

 

 俺は、カールに頼まれて買い物に行くことになった。

 

「今後は商人の護衛に依頼を絞る、つまり長旅する機会が増える事になる」

「となると、下準備が必要だわ。依頼を受ける前に、保存食や消耗品を買い込んできて欲しいのよ」

「ふむ、了解しましたわ」

 

 その理由はイリアからの情報で、旅支度が必要になったから。

 

 基本的に冒険者は自給自足だ。依頼人から食料を保証される事なんて、期待しない方がいい。

 

「……それは良いけど。……こいつ、と?」

「ああ。レヴ、そろそろイリーネと打ち解けろ。人見知りなのは知ってるけど、イリーネみたいな良い奴まで遠ざけてたら一生治らないぞ」

「……私はカールが居れば、それでいい」

「ワガママ言わないの。俺はな、レヴに健全に成長してほしいんだ」

 

 カールの言葉を聞いて、レヴはぷぅと頬を膨らませて俺を睨む。

 

 この男、完全に目線が父親だな。

 

 ワガママで人を選り好みしていては成長しない。そこを直せと言っているんだろう。

 

「そうですわね。私もそろそろ、レヴさんと仲良くしたく思っていましたわ」

「……カールが、そう言うなら」

 

 こうして、俺とレヴのデートが確定した。これを一つの機会に、好かれずともせめて普通に話が出来るくらいにはなりたいものだ。

 

 そもそも何でこんなに敵視されてるのか、そこも聞いておきたいところ。よし、頑張るぞ。

 

「昼までには戻ってきますわ」

「ああ、よろしく。俺達は良さげな依頼を見繕っておくよ」

 

 俺は未だにベッドで爆睡している妹を置いて、レヴと共に商業区画へと出掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お父はいってた。貴族は信用するなって」

「あれま」

 

 レヴに俺を嫌っている理由を聞くと、亡くなったご両親から『貴族はろくでもない』と教わっていたらしい。

 

 曰く、平民をモノとしか考えていないだとか、優遇されて当たり前、搾取して当然と思っているのだとか。

 

 まぁ、そういう貴族は多いし否定しきれないのが辛い。

 

「……イリーネも、打算ありきで動いている。違う?」

「いえ、私は打算なんて……」

「……本当に、イリーネは魔王を倒す為だけに行動している? 自分の欲望を、どこかに隠し持っていないと言い切れる?」

「どういう意味ですか」

「英雄になりたいだとか、実家の名誉の為だとか、そんな邪な感情は一切なく着いてきたのかと聞いている」

 

 ……。

 

 英雄になりたいというつもりはないが、名誉の事はちょっと気にしてるかも。

 

 まぁ、そう言われたら打算ありきで行動していた事になるのかなぁ? カールに着いて行った目的の1つは、少年漫画みたいな展開への幼稚な憧れもあったと思うし。

 

「そういう意味ならば、打算はありますわ。何せ貴族に取って、名誉は無視できない大切なモノですもの」

「ほら、やっぱり……」

「その大切な名誉に誓って、申し上げましょう。私は、本気で魔王を倒すためにカールに協力するつもりですわ」

 

 でもまぁ、それが悪い事かと言われたら違うと思う。名誉の為だったら命が惜しくない連中だって少なくないし。

 

「貴族に生まれた者の矜持、ノブレス・オブリージュ。それが私の信条であり、座右の銘ですわ」

「……何それ」

「貴族は平民より優遇されている、だからこそ有事の際にはどの平民よりも先頭に立って戦わねばならない。そうでなければ、貴族の名折れですもの」

「……」

「こんな考えですから、名誉の為の打算と言われても仕方ありませんわ。何せ私は貴族の名折れと謗られぬ様に、自らの誇りのためにカールさんに着いてきたのですから」

 

 まぁ、ぶっちゃけこれはウチの家訓でもある。貴族に生まれたからには、誇りをもって生きろと。

 

 自分の身を惜しんで、平民を見捨てることなどあってはならない。それがヴェルムンド家の矜持だ、そうパパンには教え込まれたのだ。

 

 だからこそ、パパンも俺が旅立つのを止めれなかったのだろう。

 

「……もう、いい。分かった」

「貴族にもいろいろな人種が居ます。貴方が知らないだけで、素敵な人もたくさんいますのよ? あまり偏見を持たないでくださいな」

「……むー」

 

 とはいえ、冒険者みたいな底辺の職業の人からすれば、貴族はうざったいし憎たらしいとは思うけどね。偉そうだし、基本搾取される側だし。

 

 俺もあんまり偉そうにならないように気を付けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オキョキョキョキョー!!」

「な、何奴!?」

 

 レヴと談笑していると突然、不気味なカイゼル髭のシルクハット貴族が現れた!!

 

「キエェェェイ!! 見つけましたよ、このド腐れ平民んんんヌ!!」

「……うわぁ」

 

 おい馬鹿、何でお前が出てくるんだ。

 

 今、レヴちゃんに上手く『貴族にも良い人は居るんだよ』アピールしている最中だったのに。おまえは腐れ貴族の代表格だろうが。

 

「怒り心頭、なのでーすよオヒョヒョヒョヒョ!! 見てください私のこの手!! わなわなわなわな、震えているでショー……」

「……あの。どうかされましたか、私達が何かいたしましたかソミー様」

「うるさい!! 底辺貴族如きが、この私に話しかけーるななななな!!」

 

 ……かちーん。

 

 お前今、ヴェルムンド家を底辺貴族扱いしやがったか?

 

 お? 喧嘩なら買うぞ? 名誉のためなら命かける覚悟で貴族やってんだぞ俺は。

 

「……」

「そこのチビ女!! お前は、私の依頼を失敗して逃げ出した卑怯者の娘ではあーりませんヌ!?」

「……うるさい」

 

 ソミーとかいう駄貴族は俺に目もくれず、小動物(レヴ)に脅しだした。

 

 ちょっと待て、お前子供相手になにやってんだ。レヴちゃんビビってんだろうが。

 

 もう、ぶっ殺しても良いですかねコイツ。

 

 俺は咄嗟に彼女を背に庇い、唾を撒き散らして怒鳴っているソミーに穏やかに話しかけた。

 

「私の仲間が、どうか致しましたか? 彼女は人見知りなので、いきなり話しかけないでいただけると────」

「お前は引っ込んでいろ!! このチビには、大損をさせられたのだダダ!!」

「大損?」

「コイツの親が凄腕の冒険者だというから、高い金を払って護衛に雇ったのに……。輸送していた私の金は、まるごと敵に奪われてしまったンだ!」

 

 ……む。それって。

 

「あの冒険者、全員野垂れ死んだと聞いていたが……。お前が生き残っているという事は、親の冒険者も生きていますネ!? 何処にいる、案内しろ!!」

「……死んだ。生き残ったのは、私だけ」

「はい、嘘ぉぉぉぉぉぉオ!! そんなアホしか騙せないような嘘はやめて、正直に話をしなサイ! どれだけの額が奪われたか分かっているのデスカ!? 弁償、弁償弁償弁償弁償弁償ォォォオ!!」

 

 この馬鹿貴族が、レヴの親の最期の依頼者かよ。こんなんに会ってたなら、そりゃあ貴族に偏見持っても仕方ないか。

 

 これは一等ヤバい奴だからな。

 

「囲めお前たち!! このゴミを逃がすな!! ヒョヒョヒョヒョ!!」

 

 とかアホな事を考えている間に、俺達はサミー家の取り巻きに囲まれてしまった。

 

 んー、数が多いな。数十人といったところか。

 

 レヴちゃんを守りながら全滅させるのは厳しいか? 俺、筋トレは重ねてるけど実戦経験は乏しいんだよな。

 

 正直、勝てるかも分からん。チンピラ数人程度なら絶対勝てるけど、こんなにズラリ囲まれると微妙だ。

 

「ソミー様。彼女は嘘を言っていません、それはこのヴェルムンド家の誇りにかけて誓えますわ」

「ぺっ! そんな木っ端貧乏貴族が何を言おうと大した保証になりはせん!!」

「……。それ以上、当家への侮辱を続けるならばこちらにも考えがありますが」

「考えぇ? 自分の立場が分かっていませんナ、ヴェルムンド嬢! ちょうどいい、お前も損害の穴埋めにつかいまショー。貴族令嬢は、高く売れるのデス!」

 

 お。やるかコイツ、今はっきり喧嘩売ったよな俺に。

 

 この可憐でクールで美しい貴族令嬢イリーネ・フォン・ヴェルムンドを捕まえて、奴隷商人に売り飛ばす的な発言が出たよな。

 

 なら、ボッコボコに叩きのめしても文句は言われないよな!

 

 

「……レヴ。戦闘は、どの程度できます? 逃げられるなら、カール達を呼んでいただきたいですわ」

「……この人数はきつい。イリーネ守りながらとなると、多分負ける」

「私は守らなくて結構です。貴女一人だけ戦うならば、どうです?」

「逃げるくらいなら、何とか……」

 

 お、レヴちゃんってば自力で逃げる事出来そうなのね。なら、逃げて貰って────

 

 

 

 

 

「あら。今日も下品な声で鳴いていますのね、フォン・ソミー」

 

 どいつからぶっ飛ばしてやろうかと手の指をコキコキ鳴らしていたら、脇から見覚えのある女が歩いて来た。

 

 それはくすんだ茶髪で、高慢な口調。バーのマスター曰く『たまたまギャングの家に生まれた普通の貴族令嬢』。

 

 すなわち、サクラ・フォン・テンドーその人である。

 

「テンドー……。何の用デス」

「私の宿の客に、イチャモンつけて脅している無作法な方が居ましたのでね。流石に見過ごせなかったのですわ」

「これはそこの冒険者と、私の問題ダ! 横入りされる筋合いはありませンーヌ!」

「ありますわ。彼女が、私の宿に泊まっている限りは」

「……」

 

 見れば、サクラの背後にはズラズラとならず者達が追従している。

 

 オイオイオイ、ここで一戦やらかすつもりか? 助けに来てくたのは有り難いが……、凄い被害が出るぞ。

 

「テンドー家の長たるもの、客を蔑ろにするわけにはいきません。それ以上続けるのであれば、我が家は全力を以て貴方を迎え撃ちますが」

「そこの冒険者は、以前私と契約していたデス。そいつが何処に泊まろうと、お前に介入される謂れはナッシング」

「この年の冒険者相手に凄んで、脅している貴方に何の正義も感じませんわ。彼女が正規の手段で私の宿に滞在している以上、私が肩入れするのは彼女に他なりません」

 

 ギロリ、とカイゼル髭は顔を赤らめてサクラを睨み付けている。一方、そのサクラは涼しい顔で自らの顔を扇子で扇いでいる。

 

 緊迫した空気が、両者を包み込む。

 

「……。興が削がれたデス。夜道には気を付けておけ、平民ーヌ」

「貴方こそ。ウチの客に手を出しておいて、タダで済むとは思わないことですわ」

 

 バチバチ、と貴族同士で火花を散らし。やがて、ソミー家のバカタレは忌々しそうに背を向けて立ち去った。

 

 ふむ、助かったか。ソミーの貴族は引いてくれたらしい。

 

「ご無事かしら、イリーネ・フォン・ヴェルムンド」

「お力添えに感謝しますわ、サクラ・フォン・テンドー」

「この私の客であったことを幸運に思うのですね。別の宿に泊まっていたら無視していましたわ」

「……それは、どうも。今後も、貴女の息のかかった店でお世話になるとします」

 

 俺が客だったから助けてくれたのね。サービス行き届いてんな、テンドー家。

 

「……一触即発だった」

「いえ、案外そうではありませんのよ? 私が介入すれば、ソミーは手を引かざるを得ませんし」

「そうなのですか?」

「今、このレーウィンの街は三つ巴の抗争中ですもの。私とソミーが潰し合ったら、勝者になるのは傍観しているプーンコ家。そんな愚かな選択を、ソミーが取れる訳がないのです」

 

 ……成る程? 漁夫の利を狙ってるやつがいる以上、気軽に争う訳にはいかんのか。

 

「ウチの家は宿泊客を通じて、外様の旅人を抱き込めるのが強みですからね。客である以上は絶対に庇いますわ」

「まぁ」

「ソミーも、私の客に手を出したら本当に介入してくると分かっていますので。ここは、彼には撤退の一手しかないのです」

 

 まるで狂犬だな、テンドー家。三つ巴で気軽に喧嘩出来ないのを良いことに、ガンガン噛み付いてるのかよ。

 

 サクラって、思ったより好戦的な性格なのか?

 

「では、ご機嫌よう。もう絡まれちゃいけませんわよ」

「ありがとうございました、テンドーさん」

 

 だが助かったのは事実。何かお礼をしないとな。

 

「……ね、良いお方もいらっしゃるでしょう?」

「アイツ、この前は凄い威張り散らしてた。あんまり好きになれない……」

「ですが、今は助けて貰ったんですから」

「むぅ」

 

 レヴちゃんは、あまり納得がいっているようには見えなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなもので良いでしょうか」

「……十分」

 

 アホ貴族から解放された後、俺達は予定通りに物資を買い込んだ。

 

 レヴは、凄腕冒険者だった両親から基本的な旅支度の知識を教わっていた。燻製肉の保存法はどうだとか、武器の手入れ具はこうだとか、色々と知らないことを教えて貰った。

 

 貴族という生き物は甘えている。旅支度をしろと命令すれば、後は従者が全てやってくれていた。こうやって一つ一つ準備するのは、物凄く手間がかかる事なのだ。

 

 やっぱり、平民は凄い。貴族なんぞより、ずっと偉い。

 

「……イリーネ。貴女は何故、そんなに簡単に立場を捨てられたの?」

「レヴさん、突然どうかしましたか?」

「……別に、カールに付いてこなくてもイリーネの立場なら一生平穏に暮らせたはず。死ぬ可能性もある過酷な旅に、こんな苦労までしてどうして付いてきたの?」

 

 それは、心底不思議そうな顔だった。

 

 小動物少女レヴは、俺の顔を覗き込んで心の底から疑問符を浮かべ、問うてきた。

 

「行きがけに話したではありませんか。私には貴族としての誇りが────」

「嘘。……だってそれだけで捨てられる幸せじゃないよ、貴族の立場は。私はずっと羨ましかったもの、貴族の人(あなた)たちが」

 

 レヴは、皮肉でもなんでもなくそう言った。貴族が羨ましくて仕方がなかったと。

 

 それは、きっとまっとうな感情だろう。

 

「何もしなくても、食べるものに困らない。定期的に豪華なパーティを開催して、歌や絵画や彫刻を楽しむ」

「確かに、そのような事もしていましたわ」

「私は、一度でいいからそんな豪勢な暮らしがしてみたいとお父に言った事がある。そしたら『じゃあお金をたっぷり貯めて、いつか貴族みたいな贅沢しような』と答えてくれた」

 

 彼女は何かを懐かしむ様に、ほんのりと瞳に涙を浮かべて話を続ける。

 

「お父は、凄かった。冒険者としては、名前を知らない人間なんていない。そんなお父ですら、貴族みたいな贅沢をするお金はないんだ」

「……ええ。冒険者である時点で、あまり収入は期待できませんから」

「……でもイリーネは、何も努力せずにずっとその贅沢を続けていたんでしょ? 狡い」

 

 そうか。それが、レヴの心にある俺への嫌悪の正体か。

 

 自慢である両親ですら叶わぬ贅沢をあっさり享受していた、貴族と言う立場への嫉妬。当り前だ、誰だって仲良くする気にはならない。

 

「だから聞きたいんだ。どうして、その立場をあっさり捨てられたの? イリーネには、貴族の立場の価値が分からなかったの?」

 

 おそらくレヴは、俺の行動が理解できないのだ。

 

 貴族の立場に夢を見て、何の苦労もなく幸せな生活であると信じ込んでいた彼女からしたら。俺が、あっさり貴族の立場を捨てて、カールに協力していることに疑念すら抱いているのだ。

 

 ……腹黒い、下心でも有るんじゃないかと。

 

「分かりました。私も、腹を割ってお答えしましょう」

「……うん」

 

 実は貴族と言うのも気苦労が多い。レヴが夢見ている社交パーティなんてものは、煩わしいだけだ。

 

 腹の探り合い、権力の摺り寄せ合い、言葉の裏を読んでの言質の取り合い。貴族だって、それなりの苦労は存在するのである。

 

 だが、そんなことをレヴに伝えても嫌味にしか聞こえないだろう。

 

 豪華な食事をした人間が『あの食事にも不味い部分はあるんだよね』なんて言っても、感情を逆撫でするだけだ。

 

 

「これを、見ていただけますか」

 

 

 だったら。これ以上無く分かりやすい理由を提示してやればいい。

 

 俺は、先程買ったばかりの料理用の鉄の串をケースから出した。これで、説得をしてみよう。

 

「串……?」

「はい」

 

 そして、そのまま。

 

 俺は、ゆっくりとその串を自らの掌に突き立てた。

 

 

「────っ!! な、何をしている」

「ナイスキャッチです、レヴさん」

 

 だが、俺の掌が鉄の串に貫かれる直前。目を見開いたレヴが、慌てて串を握っている俺の腕を押さえた。

 

 ピタリ、と串の切っ先が手甲の真上で停止。うむ、間一髪。

 

「分かりましたか?」

「……いや、何が? 何でいきなりこんな危ない事をしたの?」

「レヴさん。貴女は今、私の腕を止める時に何か考えましたか?」

 

 ふいー。怖かった。

 

 ちゃんと、レヴが俺の掌を見捨てないで止めてくれて助かったぜ。まぁ、寸止めするつもりではいたんだけどね。

 

「私は人が嘘を言っているかどうか分かります。私の家に来た時のカールは、一切嘘をついていませんでしたわ」

「……何が、言いたい?」

「魔族が攻めて来るなんて、危ないでしょう。このままでは、誰かが傷つくことになる。そう考えたら、居ても立ってもいられず家を飛び出しちゃってましたの」

 

 そう。まぁ貴族の誇りだの何だのとゴタゴタ理由を並べたけど、カールに付いてきた一番の理由はこれだ。

 

 俺の力で誰かが救えるなら、俺に戦わない理由など無い!

 

「私が手を伸ばすことで、傷つかずに済む人がいるかもしれない。なら、手を伸ばすのは人として当然ではありませんか、レヴさん?」

「……。それが、イリーネの答え?」

「そうですわね。まぁ他にも、旅というものに憧れていたとか世俗的な理由もありますけどね」

 

 俺のなんちゃって上級魔法でも、人間の出せる最大火力の部類だ。きっといつか、俺の超火力は必要となる時が来るだろう。

 

 それに俺は、身体強化も使える。

 

 だから前衛に立ってもいいし、負傷しても後ろに回れば超火力連発できる。そんな俺の存在は、結構有用なはず。

 

 俺が戦うことで、助かる命があるかもしれない。なら、躊躇う理由は何もない。

 

 

「……。イリーネに感じていた違和感、やっと消えた」

「おや? 今までは、何か妙な印象でもお持ちだったのですか?」

「今までは、イリーネは変人貴族だと思ってた。でも、今日ちょっと納得した……」

 

 俺の答えを聞いて満足したのか。レヴちゃんは、とうとう初めて俺に笑顔を向けてくれた。

 

 それは、カールが散々『笑顔が可愛い』と誉めていた理由の分かる、花が咲いたような明るい笑顔だった。

 

「イリーネは、アホ貴族だ……」

「だ、誰がアホですか!」

「うん、良いアホだ。……うん」

 

 ただし、その笑顔は罵倒とセットだった。何でや。

 

「……イリーネは貴族の中でも指折りのアホだった。だから、信用する事にする」

「あの。私はこう見えて、様々な学問を修得しております。一応、名家の令嬢なのです。決してアホでは有りません」

 

 修得した学問は基本一夜漬けなので、もう全部忘れているけど。

 

「お父が言ってた。深く物事を考えず、直情的に行動して損をする人はアホ……」

「む……」

「でも、信用できるのはそう言う人。だから、私はイリーネを信用する……」

 

 そう言うと。レヴは警戒を解いた子リスの様に、スリスリと頬を俺の体に擦り合わせてきた。

 

 ……おお、可愛いなコイツ。

 

「少し複雑な気持ちですが、信用していただけたならまぁ」

「……ん。これから、よろしく」

 

 なかなか懐かなかった小動物が、懐いてくれた。それは何とも、不思議な達成感だった。

 

 これでようやく、俺はパーティーの全員から仲間と認めてもらえたことになる。

 

「……♪」

 

 人懐っこくもたれ掛かってきたレヴの体温を感じながら、俺は彼女と談笑しつつ帰路へついた。

 

 彼女の信頼を裏切らぬ様に、これからも頑張ろう。その為に、今日も筋トレだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ。

 

「う~ん……。なんかヤバい事態が進行している気がしなくもないです」

「どうしたのですかイリアお嬢様」

 

 姉に付き合わされてあまり寝られなかったイリアは、寝ぼけ眼でメイドの用意した食事をモチャモチャ食べていた。

 

「なんか私の妹ポジションが脅かされている様な気が……。変ですね、姉様の妹は私だけの筈ですのに」

「そうですね、イリーネ様の妹はイリア様だけですよ」

「うん……。あ、パンおいしいです」

 

 ちなみに。この日を契機にイリーネとレヴは姉妹のように仲良くなるのだが、それは別のお話。

 


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