【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く 作:まさきたま(サンキューカッス)
「……君の名前を教えてほしい」
「ああ、私か?」
その日。幼き少年と少女は出会った。
「私はアル。火を操る魔術師だ」
「……魔術師。ということは、アルは貴族だったの?」
「はっはっは! 残念ながら、私の身分は平民なんだ。親に娘と認めてもらえなくてね」
その少女は、紅の髪を輝かせて爛々と、少年の手を取った。
「じゃあ、遊ぼう。名を交わしたからには、もう友達さ」
「え、あ。僕と、友達で良いの?」
「何を遠慮する事がある。この身一つで家を出たからな、知り合いが一人もいない。だから────」
少年は頬を染め。
少女は快活に笑う。
「私と、友になってくれ」
その日。
二人は、生涯の友となった。
俺の目の前で、全てが終わった。
イリューが、魔王ユリィが、人類の英雄アルデバランを食い殺してしまった。
どれだけ目を擦っても、頬をつねっても、目は覚めない。
これは、夢ではない。
勇者の力抜きに、目前で息を吹き返し始めた魔族の群れに対処する手段はない。
「ごきゅ、こきゅ、はぁ。流石は勇者、良い魔力です」
「ア、アル……」
「……恨まないでくださいね。これも、戦争なんです」
イリューは妖艶な笑みを浮かべ、頬に勇者の返り血を滴らせた。
やがてポトリと、満足したようにアルデバランの生首を地面に落とし。
「私達の、魔族の勝利です」
そう宣言した。
二の句も告げない。
何も、言葉を発する事が出来ない。
「では皆さん。私達はこれから、勝利の祝宴を開こうと思うのです」
「イ、リュー」
「幸いにも、目の前にはたくさんのご馳走が転がっています。『逃げてください』と警告した上で残った方々なので、食われても本望でしょう」
「あ、あ、あ────」
勇者アルデバランが死んだ。カールは力を失った。
これで、人類の擁した勇者はすべて居なくなった。
「さて、素敵な宴を始めましょうか」
魔王が生き残り、勇者は死に。
絶望が、人類を包み込んだ。
「……負け戦ですか。やれやれ」
「おや、まだ戦意を失っていないのですね」
しかし、なお覇気を失っていない者も居て。
「ええ、これでも貴族でして。ここで私が奮戦し、皆さんの逃げる時間を稼ぐ、なんてのは如何です?」
「あら、素敵。私、そういうのは好きですよ?」
「ノブレスオブリージュ、なんて言いましてね。……生き残った仲間の為、せいぜい足掻かせていただきますよ」
……。
そうだ、俺も貴族だ。
あの男の言う通り、ただ呆けているわけにはいかない。
この場にいる人間を一人でも多く生き残らせるため、この身が朽ちるまで戦わねば。
「私、も、戦いますわ────」
「……ダメです! 姉様、落ち着いてください」
「イリーネ嬢、無茶をなさらないで。貴女はもう、動ける身体ではありません」
俺も立ち上がろうとして見たが、凄まじい倦怠感と眩暈に襲われ、その場に崩れ落ちた。
ぐ、魔力切れってこんなにキツイのか。
「ああ、イリーネは退け」
「カール……」
「俺も時間を稼ぐ。みんな、なるべく遠くに逃げろ」
そんな俺の前を塞ぐように。
カールや、レイ、レヴちゃんなど前衛職の皆が集まって剣をとった。
「後は任せた、イリーネ」
「そんな、ですが……」
「良いから行け!」
直後。俺は問答無用にマスターに背負われ、カール達と引き離された。
隣で一緒に逃げているのはサクラにイリア、
「じきに気絶してる魔族が目を覚ます! それまでに、少しでも遠くに────」
「くす、くす。どこまで逃げれますかね、人間の足で」
くそ。
俺はもう満足に走ることも出来ない。
多分、二度と魔法なんて使えない。
こんな状況で逃げ出したって、何になる!
「……さあ皆。そろそろ目を覚ましてください」
「来るぞ!」
「人類に、鬱憤を晴らしましょう。屈辱を注ぎましょう」
しかし、どんなに嘆いても俺は何も出来ない。
動けぬ体を運ばれて、遠くへ遠くへと逃げるのみ。
「誰一人、この場から逃がすな! 人類を駆逐してください!!」
「させねーよ!!」
────俺はこんなにも、無力だった。
間もなく、魔族たちは進撃を再開した。
窒息して重症な魔族もいた様子だが、半分以上はピンピンとして俺たちに襲いかかってきた。
俺の支援魔法も打ち切られてしまった今、人類はひたすらに蹂躙されるだけであった。
「ヴェルムンド伯爵が……討ち取られたそうです!」
「……父様!!」
一人でも多くの、民を逃がす。
その為に国軍は勇敢に立ち向かい、そして散っていった。
「……ここまでくれば、流石に安全でしょう」
「う、うん」
俺達は、そんな彼らの奮戦を尻目に何処までも逃げていた。
戦場を後に、延々と走り続けていた。
「……魔王の捨て身の特攻に、してやられましたね」
「まさか、腕から再生するなんて。……僕が少しでもアルの方を見ていれば」
「最後列のアルデバランさんの護衛役は、私でしたわ。私がしっかりしていれば……」
「イリーネは、詠唱してたでしょ。貴女の責任じゃないわ」
何が、魔王を救うだ。
何が、和平を諦めないだ。
それ以前の話だ────魔族は、人間なんかより圧倒的に強いんじゃないか。
「ふ、く、ぐ……」
涙が溢れでる。
悔しい。情けない。
ユウリ自身が当てにならないと宣言していた予知魔法を信じ、何の対策も取っていなかった自分が恥ずかしい。
何の根拠もなく、人類が勝つに決まっていると思い込んでいた自分が憎い────
「そうですね。油断しすぎましたね、人類」
「……っ!!」
声にならぬ慟哭を上げていると、聞き覚えのある声が聞こえてきて。
「逃がさない、と言ったでしょう? 勇者パーティーたる貴女達を放置するのは、禍根の種にしかなりません」
「い、イリュー!」
「……貴女を殺しに来ましたよ、イリーネさん。精霊術師を、放置するつもりは有りませんので」
……転移魔法。
いつのまにか、敵の親玉である修道女が俺達の目前に立っていたのであった。
「……姉様は殺させません! この、イリアが相手になりますよ!」
「あら、可愛らしい妹さん。大丈夫です、貴女もちゃんとあの世に送って差し上げますので」
イリューは、一人転移してきた様子だった。
俺達程度、護衛も要らないという事なのだろうか。それとも、転移は一人しかできないという制限でもあるのか。
「……おや。やっぱりイリーネさん、相当無茶をしたみたいですね。もう、魔力無いじゃないですか」
「そうですわね。少し、無茶が過ぎた様ですわ」
「これは、放置しても2度と魔法を使えなさそうです。わざわざ殺しに来ることは無かったかもしれません」
「そう思うなら、見逃していただきたいものですわ」
「……それは出来ませんよ。これも、戦争ですので」
ああ、濃密な死の気配。
魔王イリューが俺に手を向けた瞬間に、全身の身の毛がよだった。
これは……本当に、殺されるな。
「何か遺言は有りますか、イリーネさん」
「……和解は、もう無理なんですのね」
「ええ。人類と魔族の遺恨は深すぎるのです」
イリューの目が、暗く潤う。
かつて共に旅をして笑い合った仲間が……、俺に明確な殺意を向けている。
それは、ひどく非現実的で。
「さようなら、イリーネさん」
俺を庇い前に立っている
「ねぇ、イリュー」
「何ですかサクラさん。邪魔しないでください」
「……貴女、泣いてるじゃない」
その親友の言葉に、俺は顔を上げた。
見上げれば、俺を殺そうとしているイリューは大粒の涙を溢していた。
「悲願だったんでしょ、魔族の勝利。喜びなさいよ」
「……うるさいですね」
「本当にバカね、貴女。結局、どっちに転んでも幸せになんかなれないんじゃない」
ポロポロと、イリューは俺を殺すべく泣いていた。
優しい優しいその修道女は、元仲間である俺を殺そうとして泣いていた。
「魔族が勝っても、人類が勝っても、貴女はそうやって悲しむのでしょ?」
「……違う。私はただ、魔族の勝利だけを願って」
「それで、仲良くなった人を殺して傷付いちゃう。……やはり貴女、魔王の器じゃないわ」
そのサクラの言葉に、魔王は唾を飲んだ。
イリューは、何か野望があって魔王を名乗った訳じゃない。
魔族達に慕われて、魔王の座についただけの『責任感』だけに動かされてきた存在。
「結局、どうやっても貴女は幸せになれないのよ」
「何を、何を偉そうに! 戦争に負けて、殺されようとしている癖に!」
「そうね、負けは認めるわ。でも、どうせ負けるなら勝者には笑っていてほしいじゃない」
サクラは、魔王イリューに殺気を叩きつけられてなお、毅然とした態度を崩さなかった。
「勝った貴女が苦しんで泣いてるなんて、これ以上ない敗者への侮辱ではないかしらぁ?」
「……っ」
それは、自棄になったのか。
それとも、心の底から怒っているのか。
サクラは、イリューを正面から見据えてそう言い放った。
「……もう良いです。やっぱり、貴女から殺します」
「どうぞ。ただし、大人しく殺されるつもりなんて無いんだから」
サクラの言葉に、かなりカチンときたらしい。
イリューは目を吊り上げて、サクラに向かい手を掲げた。
「駄目です、サクラさ……」
「やめろ、お嬢!」
「一足先に行ってるわ。じゃあね、イリーネ」
やめろ。殺さないでくれ。
その人は、俺にとって大事な親友で。
「やめて、やめてぇっ!」
「……滅せよ魂魄」
イリューの詠唱に逆らうようにサクラは杖を振り上げ殴りかかるが、それでも間に合う筈なんか無く。
「その魂を、浄化せよ────」
その魔法は、サクラを庇ったマスターごと、二人の体躯を引き裂いた。
「……」
どこで、俺は間違えたのだろう。
目の前に、大事な人の死体が転がっている。
どうしてこんな事になったのだろう。
目の前でイリューが、目を腫らして泣いている。
「次は、貴女です……っ」
そして、魔王は。
ゆっくりと俺に向けて、その手を開いて。
「────を刻む者の、道標よ」
俺自身も死を覚悟した、その瞬間。
聞いたことのない詠唱が、背から聞こえてきた。
「ふん、回復魔法のつもりですか? どんな魔法でも、死者を甦らせることは出来ませんよ」
「─────過ぎ行く季節、黄昏の永眠、流れを受けてなお進め」
「……キチョウ、さん?」
それはアルデバランパーティーの、回復役の男の子だ。
彼は何かを決した顔になり、ゆっくりと詠唱を続けていた。
「ねぇ、魔王イリューとやら。最期にひとつ、聞いてもよろしいですか」
「……何です、人類」
「私達は……勇者パーティーは、強かったですか?」
その詠唱にあっけを取られていると、
「何ですか、その質問」
「ふ、もう少しで魔族全滅って所まで魔族を追い詰めましたからね。結構、強かったんじゃないですか私達」
「……随分と自惚れてますね」
何のつもりなのか。
イリアは何かを企んでいる顔で、イリューに会話を促す。
「ごめんなさい、貴女達は弱かったと思います。はっきり言いましょう、魔王が私みたいなヘッポコじゃなければ瞬殺だった」
「それは、負け惜しみではなく?」
「は? 負けてませんが? そうですね、魔法による窒息には足を掬われかけましたが……それだけです」
イリューはそう言うと、少し考え込んだ。
弱い。魔王は俺達を、はっきりそう評した。
それは、とても……とても悔しい言葉だった。
「勇者アルデバランは、はっきり言って弱かった。火魔法には欠点が多く、対策もとりやすい。その一芸しか持っていない時点で、勇者としては過去最低の実力でしょう」
「……なっ」
「パーティーのメンバーも、かなり残念です。単独で支援を受けたゴブリンにすら勝てない戦士────私達の時代ならせいぜい一兵卒程度の腕の方が、平気で勇者の護衛として抜擢されている始末」
それは、最も激しい戦争の時代を経験した彼女が言うと説得力があった。
きっと、彼女の時代に魔王と戦った者は、もっともっと強かったのだ。
「唯一まともな戦力と言える
「……世界最高峰の魔術師と、これでも称されたのですが」
「あらま。ちょっと幽閉されている間に、随分と魔術は衰退したみたいですね。嘆かわしい」
そこまで言うと、イリューは小さく肩を竦めた。
……魔力が少ない、なんて人生で初めて言われたな。みんな、俺のことを天才だ天才だと持て囃してくれたから。
「なかなか厳しいご意見の様で。私達、結構イケてるつもりだったんですがね」
「何処からそんな自信が……。私みたいに、宣戦布告して攻撃する日時まで指定する魔王に負けておいて」
「そんなことしなきゃ良かったじゃないですか」
「しないと、逃げたい人が逃げられないでしょう」
そうか。やはりイリューは、戦略や策謀ではなく本気で避難勧告したかっただけか、アレ。
「────因みに。まだ私達は負けてませんよ、って言ったら怒ります?」
「……いえ、呆れます」
そこまでイリアが言い終えると。
「……?」
地面から沸き上がった優しく暖かな光が、俺達を包み込んだ。
「……さっきの、男の子の詠唱ですか。これが何だって言うんです」
「何だと思います?」
「私を封印するつもりですか? 今さら私を封じたところで、何も状況は変わりませんし」
イリューはとっさに、その光から飛び退いた。
身の危険を予感し、距離をとったらしい。
「そう簡単に封じられるつもりも有りませんので」
「……まさか、そんな無粋な真似はしませんよ」
……やがて、その光は。
眩い独特の光の波をなし、俺達全員を閉じ込めるように固まった。
「何です、それ。私も、こんな魔法見たこと無いです」
「……アルは、弱くない」
「これは、かなり特異な属性? むむ、新たに発見された魔法形態でしょうか」
「お前に何が分かる。アルは、勇者アルデバランは弱くなんかない!!」
詠唱を終えて。
今まで黙って話を聞いていた
「……え。これ、は」
「アルは、アルデバランは────っ!!!」
そして、イリューは気付く。
ノーマークだったその男の子の詠唱した、魔法の特異性に。
「これは、まさか────」
それは、二人の幼き日の話。
「……どうか、私の話を聞いてください」
「……え」
家出した貴族の少女は、少年と仲良くなった。
牧歌的な田舎町で、二人は姉弟のように親密に遊び回った。
やがて二人が成長し、一人立ちする年齢になった頃。
「貴方に、勇者となって貰いたい」
女神を名乗る存在が、二人の前に現れた。
「間もなく、人類にとって乗り越えがたい苦難がやってきます」
「……それは、本当か!?」
「本当ですとも。このまま手をこまねいていれば、地上は魔族の支配する事になるでしょう」
その女神は、マクロと名乗り。
これから魔王が復活し、その魔王により人類は滅ぼされる可能性を語った。
「どうか、力を貸してください。貴方なら、きっと世界を救える」
「で、でも」
「大丈夫。私も、貴方を導きましょう」
そして、女神は二人の説得に成功し。
「では、手を出してください」
「スゴいなキチョウ! まさか、お前が勇者に選ばれるとは!」
「ぼ、僕なんかが無理だよ! やっぱり今からでも、断って別の人に」
「アホを抜かせ! 女神様が吟味に吟味を重ねて、お前に行き着いたのだぞ」
貴族の少女アルは、幼馴染みが勇者に選ばれた事に歓喜して。
その背中を支えようと、共に旅に出ることを宣言した。
「キチョウ、お前の能力は凄まじい。だが、お前そのものは大した戦力にならん」
「うぐぅ」
「だからこそ女神様は、私と一緒に居る時に姿を見せたのだろう。私が、お前を守れるようにな」
そう。
「安心せよ。勇者の影武者は、私がやる」
「……そんな、危険な!」
「まあまあ、私も勇者とか名乗ってみたいのだ」
だから、彼女は勇者を名乗った。
「私は今日から、名前を変えよう」
「え、どうして?」
「なに、勇者たるものカッコ良い名前を持っていないとな。それだけである」
その女の子は、少しばかり派手好きで。
「アルデバラン。今日から私は、勇者アルデバランだ」
「……あ、何か格好良い。それに、その名前なら今まで通りアルって呼べるもんね」
「ああ。これからは、私を勇者と思って接しろよキチョウ」
世界の危機を知り、自ら危険な立場になることも恐れない勇敢さと、火魔法の才能を持っていただけの、
「今日から私は、お前の
────何処にでも居る、普通の女の子だった。
「妙だと思ったんです! あの娘は勇者にしては弱かった、いや弱すぎた!」
「アルは弱くなんかない! アルは何の加護も受けていないのに、お前達を全滅させかけたんだ!」
「ではやはり、勇者は……」
イリューも、その致命的な事実に気付いた。
勇者はまだ死んでいない。人類と魔族の戦争に、決着は付いていない。
その、事実に。
「お前達の戦略は見たぞ、魔王」
「ぐ、この! 滅せよ魂魄────」
「もう、遅い。今さら何をしても、詠唱は終わっている」
アルデバランは、勇者では無かった。
彼女は幼馴染みに代わり、勇者としての危険も重責も全てを背負っていただけの、ただの少女だったのだ。
いつだったか、女神セファはこう言った。
勇者とは、チートでずるっこ。普通に考えて負ける筈のない力を渡された者であると。
それは、カールの絶対切断のように。
それは、ユリィの最強の支援魔法のように。
たった一人で、戦況を覆してしまえるだけの圧倒的な「能力」。
「────また、会おう。魔王」
「……この、人類、人類ぃぃぃっ!!!」
勇者キチョウが、女神から授けられたその能力とは、
「
1度だけ、時を巻き戻せる魔法であった。