【朗報】修羅場系パーティーに入った俺♀だったが、勇者とフラグの立たない男友達ポジションに落ち着く   作:まさきたま(サンキューカッス)

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92話「人魔会談」

(中略)

 

 こうして、第六次魔族決戦は最終局面を迎えた。

 

 その決戦の日、勇者カールは魔王軍の前に一人座り込んで、黒色の布を掲げたという。

 

「すわ、何事か」

「敵の策略か」

 

 魔族どもはその勇者の行動をいぶかしんだが、魔王ユリィだけはカールに敵意がないことを悟り全軍を停止させた。

 

 その黒い布は、どうやら魔王と勇者の友情の証であったらしい。それを見て、魔王は勇者が和睦の使者として一人訪れたと気付いたのだ。

 

「魔王よ、酒を持ってきた」

「ようし、一杯付き合おう」

 

 勇者カールの呼びかけを魔王ユリィは快諾し、二人は席に着いた。

 

 最終決戦の間際、魔族の王と人族の勇者が酒を酌み交わしたのは実に史上初の事であった。

 

 この故事より、黒い布を掲げた使者を送ることが『和平のサイン』として各国に周知されていくことになる。

 

 因みに現在なお、一部の研究者が「勇者が掲げたのは黒い布ではなく、黒パンツだったのでは無いか」という過激な主張を続けているが、その主張に何の根拠も存在しないことを明記しておく。

 

 

 ────アイク・ヴェルムンド著『魔族と人類の歴史』より抜粋。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で。何の話ですかカールさん」

「まぁまぁ、まずは座れよイリュー。久しぶりだな」

 

 その小さな酒宴は、草原に小さな敷布を敷いただけの簡単な席で行われた。

 

 その酒宴会場の周囲には、殺気を撒き散らす魔族達がひしめいていた。

 

「とりあえず、返してもらいますよパンツ。……本当に、何なんですか貴方」

「ああ悪かった、返す返す。……ところで、どうやって脱げたんだそれ」

「それは、私が砲台に魔力詰めすぎて爆発した際に……。いや、そんなのどうでもいいです」

「はっはっは! あの時のって、イリューの自滅だったのかよ。本当にお前らしいな」

 

 しかし、凶悪な魔族に囲まれようとカールは物怖じする様子は無かった。

 

 気軽に、十年来の友人に会いに来たかのような雰囲気で、カールはイリューの足元にパンツを置いて酒を注いだ。

 

「ほら」

「……どうも」

 

 イリューは杯を受け取り、カールに酒を注ぎ返した。

 

 そしてここに、史上初の『決戦前の宴席』が開催された。

 

「……では、いただきます」

「待て待て、まずは乾杯だろう」

「……ま、そうですね」

 

 イリューは、急いで酒を飲み干そうとした。

 

 彼女は、本当に『付き合う』だけのつもりの様子だ。

 

「では、さっさと乾杯しましょう」

「……ああ。魔族と人類の戦いで、少しでも犠牲が少なくなることを祈って」

「そうですね」

 

 カールは、早く茶番を終わらせたいイリューを前にしてそう言うと。

 

「「乾杯」」

 

 静かに杯を酌み交わし、チビリと酒を飲んだ。

 

 

 

 

 

「では私は飲み干しました、これにて」

「おいおい、俺はまだ途中だろう。一杯は付き合うといったじゃないか」

「カールさんの一杯に付き合うなんて言ってません、私の一杯です」

 

 やはりイリューは、早々に席を立とうとした。

 

 彼女は、今から殺し合いをする相手と仲良くすればするほど、辛くなることに気付いていた。

 

「……頼む、話を聞いてくれ」

「嫌です。人類には、もう何度も何度も騙されました」

「俺はお前を騙す気なんてない。嘘を吐くつもりもない」

 

 イリューも一度は信用しかけた男、カール。

 

 彼は、確かに嘘をつかない男であった。それは、イリュー自身も良く知っていた。

 

 だから。イリューはもう少しだけ、カールの話に付き合うことにした。

 

「……手短に、どうぞ」

「和平を結ぼう。お互いに停戦して、戦いをやめよう」

「その提案に、魔族はどんな利益があるのですか」

「誰も死なずに済む。これ以上の、利益があるか」

 

 カールは、真っ直ぐな目でそう言った。

 

 その目に、イリューを嵌めようなどと言う淀んだ気配は欠片もなかった。

 

「俺達が譲歩する、領土を分けよう。その中にいる限り、絶対に人間が手出ししない魔族だけの領土だ」

「……」

「魔族は魔族で、人間は人間で。しっかり住み分けて、互いに干渉しない。俺達は、不可侵条約を結ぶのさ」

 

 カールが口に出したこの提案は、決してカールだけが言っている話ではない。

 

 それは国王に『許諾』されていた話だ。

 

 もし獄炎魔法が失敗し、人類が負けそうになった時。カールは、その条件で魔族に和睦交渉する事を会議で許可されていた。

 

 反対意見も多かったが、それを押し切って王は『旧魔族領』と呼ばれる地区の一部を魔族に返還する約束をした。

 

 ────もしそこで、魔族の反乱がおきたとして。この首都前で決戦するより、よほど被害が少ないだろうという政治的な理由もあった。

 

「そんなの、絵空事ですね」

「絵空事なんかじゃない。そして、それが実現すればイリュー、お前は泣かずに済むだろ」

 

 カールは、本気でイリューを説得しにかかった。

 

 ここでイリューが(はい)と言えば、本当に和平は実現するのだ。

 

「お前が望んでいるのは、殺戮なんかじゃない。魔族の安全と平和だろう? イリュー」

「……その通りです」

「じゃあ。この話、受けてくれないか」

 

 カールは、『人類が負けそうな』現状を千載一遇の好機と考えていた。

 

 今は、まさしく獄炎魔法を使う前から失敗し、人類が負けそうになっているタイミングだ。

 

 それは国王が魔族の領土を認めるという、対等な条件での和平が成立する唯一無二の機会でもあった。

 

「そして、改めて友達になろう、イリュー」

「……カールさん」

「和平が成立すれば殺し合う必要もない。戦う理由もない。だったら、俺達はまたこうやって酒を酌み交わせる筈だ」

 

 ごくり、とイリューの喉が揺れた。

 

 彼女とて、それが実現したらどれだけ素晴らしいかと夢想した和平。それが、現実のものになりつつある。

 

「俺だけじゃない。俺達の仲間みんなを誘ってさ。また、楽しい宴会をしようぜ」

「……」

「またお前の、嘘っぱちだらけの歌を吟じてくれよ。あれ、結構好きだったんだ」

 

 その光景を、イリューは頭に思い描いた。

 

 一度は敵対し、殺し合うはずだったカール達。

 

 そんな彼らと、再び楽しく話が出来たらどれだけ幸せか。

 

「なあ、お願いだイリュー」

 

 カールは、静かに魔王に手を差し伸べた。

 

「俺の手を、取ってくれ」

 

 ……もしイリューが、覚悟を決めて。

 

 その勇者の手を握れば、きっとその光景は実現するだろう。

 

 そう、きっと素晴らしい未来が待っている筈だ。

 

 イリューが魔王としてではなく、カール達の友人として笑い合う未来が────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめんなさい」

「……」

 

 

 パシン、と。

 

 その手は、魔王に振り払われた。

 

「本当に、そうなればどれだけ素晴らしいでしょうか」

「……そうなるよ。俺が絶対、そうして見せる」

「カールさんは、嘘をついていません。そんなの、よくわかってます」

 

 ポツリ、ポツリと声を振り絞り。

 

「でも、やっぱり人類を信用できません」

 

 イリューは、魔王は、きっぱりとカールを拒絶した。

 

「イリュー……」

「そんな話を飲まなくても、このまま押しきれば魔族は勝てるんです」

「でも、戦わなくても済む道があるなら」

「魔族は、もう勝つ寸前なんですよ? 騙されるリスクを負ってまで、勝利を捨てる意味は何ですか?」

 

 彼女自身に刻みつけられた『人類へのトラウマ』がそう決断させた。

 

 イリューは、もう嫌という程『騙された』を繰り返したのだ。

 

 こんな大一番で、魔族全員の命運を肩に乗せた状況で、人類を信用する事なんてできなかった。

 

「カールさんに騙すつもりがなくても、貴方も騙されている可能性だってある」

「そんなことはない! 今の国王は信用できる、きっと嘘なんか吐かない」

「信じられませんよ。私はもう、裏切られるのは嫌なんです」

 

 ここに、交渉は決裂した。

 

 もとより、説得なんて不可能な話だったのだ。

 

 イリューは心優しい人間だった。

 

 そんな彼女が『戦う』と決めるまでに、どれだけの苦難と覚悟を乗り越えてきたか。

 

 イリューはたった一度の話し合いでその矛が収まるような、半端な覚悟で決戦を選択したわけではない。

 

「……俺は、まだお前のことを仲間と思っている」

「私は、貴方を敵と思っています」

「そうか……。それが、お前の答えなのか。どうあっても変わらないのか」

「ええ、変わりませんとも」

 

 ────仲間だった少女からの拒絶。

 

 それは、底抜けのお人好しであるカールにとってはこれ以上なく辛い事で。

 

「そうか。じゃあ……」

「じゃあ、何です」

「お前は、俺の敵だ。イリュー」

 

 カールは、顔を真っ青にしながらその言葉をイリューに呟いた。

 

「お前はもう、仲間じゃない」

「最初から、私はカールさんの仲間なんかじゃなかった」

 

 それは彼自身が決めていた事。

 

 イリューが説得に応じなかった時。どうやっても、イリューを止められないと悟った時。

 

 カールは仲間の為、イリューを『殺す』と決めていた。

 

「俺は今から、お前を殺す」

「私は最初から、貴方を殺すつもりで近づきました」

「……残念だ」

 

 互いに真正面に向かい合って、勇者と魔王は言葉を交わした。

 

 その眼に、確かな敵意を宿らせながら。

 

 

「……じゃあ、俺は戻る。お前らは、半刻ほど経ってから攻撃を再開してくれ」

「へぇ? カールさんが戻るまでの間、私達に攻撃を待てと?」

「そりゃあ、卑怯だろうからな」

 

 カールはそう言うと目線を外し、膝を立て立ち上がった。

 

 自ら持ってきたリンゴ酒の空瓶と杯を拾い、シッシと魔族に道を開けるよう手を振った。

 

「次に会う時は、お前を殺す時だ」

「……随分と、慢心していますね」

 

 イリューは、嗤った。

 

 カールは、敵の中で最高戦力の一人だ。

 

 イリーネを護衛していた戦士の中では、頭一つ抜けて強力な存在。

 

()を、生かして返す理由があるのですか?」

「おいおい。……それは流石に卑怯だと思ったが」

「実は私、カールさんの腕をとても高く評価しているんです。……ここで、仕留めておきたいと思うくらいには」

 

 そもそもイリューは、カールの言葉通り『酒に一杯付き合って、講和の話まで聞いた』。

 

 彼女としてはこれ以上なくカールに譲歩したし、付き合ったつもりなのだ。

 

 そして、彼が引き返すのを待ってやる約束なんてしていない。

 

「私としては、たった一人で敵陣に乗り込んでおいて『こんな事態』を想定していない貴方が悪いと思うんですけど」

「違う、そうじゃない」

 

 イリューは、ここでカールを殺すつもりだった。

 

 先程、互いにはっきりと敵対宣言をしたことで、カールを殺す『心の負担』が随分と減った。

 

 今のタイミングならば、比較的心穏やかにカールを殺せるだろう。

 

「ごめんなさいカールさん、せめて貴方は美味しくいただきますので。じゃあ皆、ここで彼を────」

()()()()()()()()、イリュー」

 

 

 

 直後。

 

 大剣が、イリューの首を両断した。

 

 

「……っ!?」

「流石に卑怯だと思ったんだよ、俺は」

 

 

 速い、あまりにも速い。

 

 彼の動きは、魔族を狩ることだけに特化している。

 

 魔族にどれだけ囲まれようが、その間を縫って芸術的に斬擊は振るわれた。

 

 ゴブリンに囲まれ、トロールに突進され、その全てを蹴散らして。

 

 カールは、イリューの首を斬り飛ばした。

 

 

「『講和』を建前に魔王(イリュー)の目の前に来させてもらって、そこから斬りかかるなんて卑怯だろ」

 

 

 カールは、何故魔族の群れの中で豪胆にリラックスしていたのか。

 

 それは、自信があっただけに他ならない。

 

 

「……げほっ! み、皆さん、カールを殺して下さ────」

「でも、お前達が此処で始めたいっていうなら仕方ねぇ」

 

 

 そう。

 

 カールは魔族に囲まれようと、自分ならば悠々立ち回れると言う自信があっただけ。

 

 

「ここでおっぱじめようぜ、魔族ども!!」

「……!」

 

 

 その言葉に、周囲の魔族は圧倒された。

 

 自分より遥かに弱いはずの『人間』の放つその凄みに、恐怖で委縮させられた。

 

 

 

 その男は、自分の背丈ほどの大剣を構え。

 

 少しずつ再生していく魔王イリューを、射殺すような目で睨み。

 

 腰には空いた酒瓶を、肩には2つの杯を垂らして。

 

 全身に魔族の返り血を浴び、漆黒の布切れを肘に巻き付け。

 

 

「あれっ……?」

「遅い」

 

 

 首が再生したイリューが支援魔法(うた)を吟じる暇もなく、切り飛ばした。

 

 

「お前の支援魔法さえなければ、人類でも魔族といい勝負できるらしくてな。俺の仲間が到着するまで、ここでお前を封じさせてもらうぜイリュー!!」

「ぐ、カールさん、貴様……っ!!」

 

 誰もカールを止められない。

 

 イリューを救おうと割って入った魔族は、そのままカールの剣の餌食になるだけ。

 

 これは、確かに卑怯だ。だから、カールは帰ろうとしたのだ。

 

 しかし魔族(イリュー)は『カールを安全な場所まで逃がさない』という最悪の愚策をとってしまった────

 

 

 

「何でちゃっかり、私のパンツを腕に巻き付けてるんですか!?」

「……さあ、かかってこい!」

 

 

 そしていつの間にか、返して貰った筈のパンツがカールの腕に巻き付いている事に気付き、思わずイリューは絶叫した。

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