-side 千歳
私の天使は非常に弱い。自分で言うのもなんだが、最弱の天使だろう。無限に手足を出せるが、その一本ずつはぶつけるだけで折れてしまう。それを支えて支えてようやっと強固な壁になりうるのだ。実際、今の右腕はミサイルなんかではビクともしない。それに、私の天使は霊装と同化している。なので袖やスカートの中、自分の体からしか出現させられないのだ。某漫画のように関節をキメることも、首を折ることもできない。
「撃てぇ!」
嗚呼、五月蠅い五月蠅い。発砲音も爆発音も私の耳は気に入らない。
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私は右腕をのしりと持ち上げ、ランチャーから放たれたミサイルを受け止める。軽い衝撃が本来の私の右腕に走るが、これ以上重くしては持ち上がらない。
「千歳!」
途端、私の名を呼ぶ男の声が聞こえた。
そちらを向くと、来禅高校の制服を着た男がいた。名前は確か・・・士道・・・だったか? その士道とやらが瓦礫の影からこちらへ手おをばしていた。こっちに来いというメッセージだろう。
・・・だが、何故私が彼の下へ行かなければならないのだ?私は今の力で充分に敵の猛攻から防げている。
「何やってんだ! ここから逃げよう!」
彼こそ何をやっているんだろうか。一般市民は空間震警報が鳴ったら避難する、というのは赤子だって知っている。それを知らない程の馬鹿ではなかろう。
彼は爆風襲い来る中、負けじと手をの差し伸べている。何をしているんだ?私がその手を掴むとでも思っているんだろうか。だとしたら本物の馬鹿だ。
しかし、気になる。
ハァ、呆れた呆れた。
「おい!聞こえてるんだろ!反応してくれよ!」
銃声もそうだが、さっきから士道が五月蠅い。これででは文字通り五月の蠅だ。
カッ、カッと足とを立てて彼に近づく。
「あ、あぁ、やっと反応してくれ・・・」
彼の言葉を聞く意味など何処にある。
私は肥大化した右腕を振り上げ、士道へと叩きつける。だが、後ろに飛び退いてしまった。
チッ、素早い小蠅だ。そういうのは嫌いなんだが。
「・・・そんなに人間が嫌いか?」
・・・なんだコイツは。私を見透かしたように言いやがって。
お前に何がわかる、と叫んでやりたいが、嗚呼、残念なことに私に声は無い。それに今はペンもノートも持ち合わせていない。
「そうか。喋れないんだもんな。持ってきたぜ」
彼はそう言うとポケットからペンと手帳を取り出した。
私はそれを一瞥すると、すぐさま手を伸ばした。その手はペンと手帳を無視して、士道の背後に伸びる。
その手は士道の背後にいた武装した女性の腕に絡まり、そのまま関節を逆へと曲げる。
「うぐぅぁっ!!」
「あ、ありがとな」
この程度では動じない・・・どんな波乱万丈な人生を送って来たんだろうか。
私は精霊として生を受けて人間として生きてきたが、未だに人が苦痛に歪む表情に慣れてはいない。あまり戦闘に向いている天使でないのも関係しているかもしれんが。
「なぁ、話してくれないか?」
嫌だね。こんな怪物と心から話したいと思っている奴なんざいない。私の右腕が語るんだ。人間などではないと。
彼は私を利用したいに決まっている。何にだろうか。軍事利用か?もしくは・・・なんだ?思い出せない。というより、思い出したくない何かがあるようだ。
「・・・悪い思いはさせないからさ」
そこまで言うなら仕方ない。
彼の手にあるペンと手帳を取って、文字を書く。
『何してるんです?こんなところで』
「あぁ、一つだけ頼みを聞いて欲しくてな」
頼み?こんなとこまできて、嫁に貰ってとかだろうか?まぁ、仕方ない。この容姿だけは両親に感謝すべきだからな。
「明日、デート・・・してくれないか?」
・・・はぁ?
いやいや、冷静に考えてみろ。ここまで危険を冒した結果頼むことがその程度でいいのか?そんなの、学校の廊下でもできる。ある程度経験してる男子ならクラスでも平然と誘うだろう。そんな日常会話のワンシーンを、こんな人の命が軽々と飛ぶ戦場でやるものだろうか?
『バカなんですか?』
「あはは、まぁ、ちょっとな」
まぁ、何かしら思惑があるんだろう。小児性愛者か何かに私を売り飛ばす予定があるのかもしれない。だとしたら絞め殺せばいいだけだ。
『私を楽しませられるなら、構いませんよ』
「あぁ、それは任せてくれ。じゃぁ、待ち合わせは駅前でいいよな」
なんだ?これでも百戦錬磨です、とでも言いたいのか?余程の自信があるようだ。
私はこくりと頷くと、背中に手で作った巨大な羽を生やし、空へと舞う。
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