-side 士道
「なぁ、皆」
俺は千歳にデートの約束を取り付けた後、フラクシナスに戻っていた。
俺の言葉に、クルー達がこちらを向く。
「何よ、士道。改まって」
「作ってほしいものがあるんだ。できれば明日までに」
言って、俺は皆に提案をした。
「ふぅん、それを明日までに・・・ねぇ」
「無茶言ってるのは俺でも分かってる。でも、千歳のためなんだ。なんとか・・・」
「はぁ、いいわよ。おにいちゃんの頼みだもの。皆、張り切るわよ!」
「「はい!!」」
-side 千歳
ふぅむ、そういえば人生で一度もデートをしたことがない。告白されたことは何度かあるが、全員下衆な目をしていたので断ってきた。一人は襲い掛かってきたが・・・まぁ、天使の前では人間はただの肉袋にすぎない。
さて、デートにはどんな服装がいいだろうか。今日は寒いとニュースでやっていた。
・・・まぁ、制服でいいだろう。だが、最小のサイズを頼んだのに袖が余るのは何故だ?不服だ。長身が得をして小柄な者は淘汰されるのか。
いやいや、ほ乳類の祖先も辿れば小さき者だ。そうして生き延びたのだから、それでは祖先に失礼だ。
私は最後に姿見の前でしっかりと身だしなみを整えて、アパートを出る。
さて、と駅前の噴水広場に着いたはいいが、士道はいるだろうか?いなかったら来た時ぶん殴ってやろう。
・・・と、いたいた。どうやらこちらには気づいていないようだ。なんだ?背が低いからか?
私は気配を消して士道に近づき、ちょんちょんと小突く。
「ん? おぉ、来てくれたか」
待たせた、と書いてやろうとして肩から下げていたバッグからペンとノートを取り出そうとする。
・・・あれ?
待て、待てよ私。落ち着くんだ。まずはバッグを逆さにして・・・いや、それでは周りに迷惑がかかる。であれば・・・
「どうしたんだ?」
・・・しまった。ペンとノートを忘れてきた。確かにバッグに入れたはずなんだが・・・記憶違いか。
「もしかして、忘れてきたのか?」
私は申し訳なさそうにこくんと頷く。その様子に、士道はほっと息をついた。
「丁度よかった。これ、試してみてくれ」
士道は言うとポケットからスマートフォンを取り出して渡してきた。
「その中にアプリが一つ入ってるんだ。それ押して・・・」
と、説明をしてくれた。要約すると、このアプリは入力した言葉を機械音声で再生してくれるというものだ。通常と違うのが、その声に抑揚を自動で付けてくれる。システムはよくわからないが、どうやら一晩で作ったようだ。
早速為にし使ってみよう。
『こんな感じですか?』
スマートフォンからは動画配信サイトなどでよく聞く可愛らしい少女の声が流れた。まるで人間が喋っているかのように調整されており、まるで新しい声を得たかのようだ。
「そうそう!それじゃぁ、行こうか。あ、電車乗るから手つなぐか?」
そうだな。そうしなければ必ずと言っていいほど私は人混みに押しつぶされてしまう。今日は平日の昼間なので大丈夫だが、通勤ラッシュなんかに乗る時は足がつかないなんてこともあった。
私は胸近くにある士道の手をぎゅっと握り、久方ぶりの電車に乗り込んだ。
電車内は予想通り空いており、座席に座ることもできた。揺られること七、八分。降りてすぐバスに乗り換え、また五分。
到着したのは水族館だった。
『ナイスチョイスです』
「そうか。好きだと思ってな」
まさかここまで私の胸を掴んでくれるとは思わなかった。
しかし、しかしだ。私はただの水族館では満足しないぞ。何せ私は魚が好きだからな。水族館など何度も行っている。それに、ここは小学校と中学校で計五回は行っている。どうやって私の魚好きを知ったかは知らないが、これでは浅はかと言わざるを得ない。
なぜか自慢げな心を維持したまま、入口で会計を済ませようとする。
「いいよ。俺に払わせてくれ」
私が財布を取り出すのを押さえ、士道はポケットから財布を取り出す。
「あの、ツアーの予約をしていた五河です」
「五河様ですね。これを付けて、あちらにお並びください」
士道は受付から渡されたバッチを胸につけて、もう一つを私に渡す。
『ツアー?』
「そう。バックヤードツアー。月一回しかやってなくてな。今日がたまたまその日だったんだ」
なるほど、それは知らなんだ。
私もバッチを付けて、高鳴る胸を抑えながら列に並ぶ。
-side 琴里
士道と千歳がデートしている間、私たちフラクシナスのクルーは彼女の身辺調査に当たった。
父母共に事故により死亡。両祖父母は既に他界しており、独り身の彼女は天宮市の古いアパートの一室に住んでいるようだ。
これと言って特徴はない。だが、気がかりなことが一つある。
彼女の過去・・・というより、前世だ。
別に私は熱心的な仏教徒ではないが、生き返りを思わせるような記載がされている。
花咲千歳。同姓同名が十六年前にいた。容姿も似通っている。あの特徴的な髪色も一緒だ。
だが、その女性は二十歳の時に死んだ。貧しい家庭で生まれた女性は、十六歳でDEM社にその身を売られた。その後、それは・・・言葉にしたくない。そして、脱走を試みた際、凶弾に伏した。
その女性が死んだ翌週に、今の花咲千歳が生まれた。期しくも、全く同じ家庭にである。
「まさか・・・ね」