-side 琴里
想定しうる最悪の事態というのは最悪の事態ではない。
誰かの言葉を引用したまでだが、その通りだった。私が想定していた最悪の事態をあの精霊、否、魔王は軽々と凌駕した。
「霊波急増。反転体です!」
「見りゃわかるわよそんなの!それよりも早く士道を回収、それから精霊たちも!」
モニタに映るのは、背中から生えた細く異常に長い八本の腕でその場に佇む千歳だった。その姿はイエユウレイグモを彷彿とさせる。ただ、そのサイズが異常だ。本体がいるのは小さな山の山頂に到達しうる程高い。それほどまでに腕が長いのだ。ただし、その反面異常に細い。
回収された士道と精霊たちが艦首に集まる。
「だーりん、その怪我大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、もう塞がったよ」
「・・・許せない」
「そ、それよりもなんですか?あの腕は・・・」
次々に疑問が飛ぶ。
「あれは千歳の反転体・・・何もかもが未知数なの」
「・・・でも、助けるしかないのだろう?」
耶倶矢がニヤリと笑う。
そう。精霊たちを呼んだのは、あの反転体を封印する手助けをしてもらうためだ。その為に呼んだ、呼んだはいいが・・・
「驚愕。あれはマスター折紙の天使です」
攻撃方法を見て、私たちは絶望を味わうことになる。
その腕一本一本が着実に歩を進めていき、邪魔となるものを、各々の腕に設定された天使によって破壊する。確認できたのは折紙の
「あ、あんなのに勝てんの・・・?」
「七罪・・・でも、やるしかないんだ」
「うむ、そうだな。シドーはそういう男だ」
「いいねいいねー、よしのんたちの本気見せちゃうー?」
七罪の言葉に皆共感しつつも、しかし、助けてみせるという気持ちが強かったようだ。
「うー!分かったわよ!でも士道、死んだら許さないんだからね!」
そう怒鳴った七罪を皮切りに、各々が、勿論私も霊装を開放する。士道の熱い思いからだろうか、それは限定ではなく完全なる霊装であった。これなら天使の力も十二分に発揮できるだろう。
「おやおや、皆様集まって、わたくしも混ぜてくださいませ」
途端、士道の影から見覚えのあるツインテールの少女が顔を出す。
「狂三!?何でこんな時に・・・悪いけど、あんたと戦う余力はないの」
「あらあら、悲しいですわ。せっかく手を貸してあげようと思いましたのに」
およよ、と悲しいです、と体を動かす。
「狂三、千歳を助けるのを手伝ってくれるのか?」
「ちょ、士道!そいつは・・・」
「狂三、今は千歳を助けたいんだ。そのためなら、何だってくれてやる」
私の声は届いていないようだ。それほどまで・・・あぁ、やっぱり私のおにいちゃんだ。
「今回は特別に無料にして差し上げますわ。千歳さんは私の旧友でもありますもの」
狂三はにこやかに笑ってみせた。そこに敵意はなかった。私たちと同じ、助けたいという意思が目に見えた。
-side 千歳
あー、あツい、アつい。
いヤ、さむイン、じゃ内カ?
私の頭の中で無数の声が反響している。それは今まで流産や死産、幼くして亡くなった赤子の声だ。五月蠅い五月蠅い・・・
でも、嗚呼、嗚呼、何でだろう心地いい。何でだろう、ずっと・・・
全てを教えてくれる。私の問いに、誰かが答えをくれる。
人とは何?――――――貴方を狙う卑しい淫魔
世界とは何?―――――あなたを狙う卑しい存在で出来上がったディストピア。
・・・うん、そうだ。そうだね。そうだそうだ。
では、私を狙うなら、私も反撃をしてもいいよね――――もちろん。
じゃぁ、行こうよ。
人を、世界を、亜那他を、巣ベテを・・・でも、小魔ったな。